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SUPER GTシーズンプレビュー 成熟した14年規定車の激しい争いとなるGT500

GT300はマザーシャシーでバリエーション増

2015年4月5日 決勝開催

 日本最大のレースシリーズSUPER GTは、4月4日~5日の日程で開催される岡山国際サーキットにおける"OKAYAMA GT 300KM RACE"において、15年シーズンが開幕した。SUPER GTは、トヨタ、ニッサン、ホンダの3メーカーが激しく競い合うGT500、FIA-GT3など市販のレーシングカーや日本のメーカーなどが作るJAF-GT300などが混走するGT300という2つのクラスから構成されており、上位入賞した車両に対して次レースではウェイトハンデを搭載するなどのユニークな仕組みを採用することで、あるメーカーの車両が独走するなどを防ぐ仕組みなどにより、毎戦激しいレースが繰り広げられており、毎シーズンチャンピオン争いは最終戦までもつれ込む熱戦が繰り広げられている。

SUPER GTのGT500に参戦するドライバー
SUPER GT GT300に参戦するドライバー

 2015年のシリーズは、上位カテゴリーとなるGT500に関しては14年に導入された新規定車両の2年目となり、各メーカーとも熟成が進み、より競争が激しくなると考えられている。GT300に関しては、マザーシャシーと呼ばれるSUPER GTを運営するGTAが童夢と共に開発した基本シャシーを元に作られた車両が導入されるなど、新型車両が追加されており、こちらも激しい競争があると予想されている。

ウェイトハンデ、タイヤ、混走など様々なパラメータがあることがSUPER GTの面白さを演出している

 SUPER GTは、1994年に始まった全日本GT選手権を起源するGTカーのレーシングシリーズだ。当初は、市販車を改造して参戦するレースとして始まったが、上位カテゴリーとなるGT500に関しては、純レーシングカーによるレースへと進化し、下位カテゴリーのGT300に関しては市販車を改造する、ないしは市販のレーシングカーを利用して参戦するという要素が残されているシリーズとなっている。いずれも、街中を走るいわゆる"箱車"の形をしており、それを利用して激しいレースが繰り広げられるシリーズとして、観客動員数では日本で1番のシリーズとなっている。

 SUPER GTの特徴は、その独特のレギュレーションにある。例えば、有名なウェイトハンデ制度(前のレースで入賞した車にはそれに応じてハンデウェイト=要するに重りが乗せられる)は、ある特定のチーム、車が勝たないようにするという目的もそうなのだが、逆にそれがあることでチームは1年を通して作戦をたて、あるレースはそこそこ、あるレースでは勝ちに行くとか、頭を使ってシーズンを戦わないといけない。なお、ウェイトハンデはもちろん開幕戦では0で、8戦あるうちの最終戦には0になるというのも特徴的な制度だ。

 もう1つは速い車と遅い車が意図的に混走していることだ。上位カテゴリーとなるGT500は、トヨタ、ニッサン、ホンダというメーカーが車両を作成して、参加のレーシングチームに渡して走らせる形になっている。ドイツのDTMと共通化されたシャシーを利用するが、NREと呼ばれる2L直噴ターボエンジンはレース仕様向けに作られており、ボディもメーカーが独自に開発している純レーシングカー。このため、コーナリングスピードも直線スピードもGT300より圧倒的に速い。

 これに対してGT300は、市販されている車などをベースにするクラスで、現在の大勢を占めているのがFIA-GT3と呼ばれる、GTカーをベースにメーカーが純正チューニングしたレーシングカーだ。FIA-GT3には、ニッサン GT-R ニスモ GT3、メルセデスベンツSLS。BMW Z4、アウディ R8-LMS、フェラーリ 458 GT3、マクラーレンMP4-12C GT3、ランボルギーニガヤルドGT3など実に多種多彩な車が用意されており、レーシングチームはこれを購入してレースをすることが可能になっている。ただし、GT300車両のスピードは純レーシングカーのGT500に比べると速くは無いので、コース上で混走する場合には、遅い車と速い車が一緒に走るので、GT300にすればGT500にロスなくどう抜かせるか、逆にGT500の方はロスなくGT300をどう抜いていくかが大事になる。

 また、近年のレースシリーズでは、タイヤはワンメイクになる傾向が強いが、SUPER GTではタイヤの競争を許可しており、GT500にはブリヂストン、ダンロップ、ミシュラン、ヨコハマの4ブランドがタイヤを供給しており、激しいタイヤ戦争が繰り広げられている。

 このように様々なパラメータがあることがSUPER GTを面白く演出している、勝つためには、車の性能も、ドライバーの技能も、チームの戦略も、タイヤの性能も、そしてウェイトハンデへの対応もすべてがそろっていなければ勝てないレースそれがSUPER GTであり、それが人気の最大の要因となっている。

GT500は2年目の熟成された車両でのガチンコバトル、引き続き4メーカーのタイヤ戦争が続行

 上位カテゴリーとなるGT500では、昨年導入されたドイツのレーシングカーシリーズであるDTMとシャシーの面で規定が統合され、DTMで導入されていた標準シャシーの規定が導入された。その上に各メーカー独自のボディワークやエンジン(2L直噴ターボエンジン)などが搭載されて戦うという14年規定の2年目が今年となる。
 参戦しているのは、トヨタ、ニッサン、ホンダという日本の一流メーカーで、トヨタはプレミアムブランドであるレクサスのレクサスRC Fを、ニッサンは同社のフラッグシップカーとなるGT-Rを、そしてホンダは今年発表する予定の次期NSXをイメージしたホンダ NSX CONCEPT GTで参戦しており、基本的に3メーカーとも昨年導入された14年型シャシーを15年仕様にアップグレードして参戦する。今年は14年規定車の2年目となるので、より熟成が進み、競争はより激しくなると予想されている。
 チャンピオン候補の筆頭は、昨年チャンピオンを獲得したニッサンのGT-R陣営だろう。23号車改め1号車となるMOTUL AUTECH GT-Rと46号車 S Road MOLA GT-Rはミシュランを装着、12号車 カルソニック IMPUL GT-Rはブリヂストンを装着、24号車 D'station ADVAN GT-Rはヨコハマを装着とタイヤメーカー的にもばらけており、タイヤメーカーの競争が激しくなりミシュランが優位になっても、ブリヂストンが優位になっても大丈夫なようにしてあるというのも去年同様で、なかなか強力な布陣だ。4台すべてに可能性があると言っても過言ではないほどだ。
 これに対抗するのがトヨタ陣営だと考えられている。トヨタのレクサスRC Fは、6チームが走らせており、ウインターテストでも好タイムをマークしており、GT-R陣営との激しい争いには注目が集まっている。トヨタ陣営は、エースドライバーと言える中嶋一貴選手が、WEC(世界耐久選手権)に専念することを決めたため、ドライバーラインナップは大きくシャッフルされ、新しい組み合わせになったチームが多い。中でも注目は39号車 DENSO KOBELCO SARD RC Fで、中堅の平手晃平選手に、元F1ドライバーのヘイキ・コバライネン選手が組む形となる。コバライネン選手は、フィンランド出身のドライバーで、F1ではルノー、マクラーレン、ケータハムに在籍しており、マクラーレン時代の2008年、ハンガリーGPで1勝を記録している。F1GPのウィナー級がSUPER GTに参戦するのはコバライネン選手が初めてで、どのような活躍するかは要注目だ。
 昨年苦戦したホンダは、NSX CONCEPT GTの熟成ができるかが鍵となる。NSXのコンセプト通りにパワーユニットをミッドシップに搭載し、かつハイブリッドにするという特例を他の2メーカーに認めたもらったホンダだが、パワーユニットでの熱害やシャシーの熟成などに時間かかってしまった。それもあって昨年の前半戦は大苦戦したが、後半戦の第5戦「FUJI GT300km RACE」で優勝を記録するなど、徐々に追い上げている状況。今年もそうした車自体の戦闘力がどこまで上がってくるかが重要になる。なお、昨年までホンダのエースチームだった、童夢が撤退を決めたため、替わりに道上龍監督率いるドラゴレーシングが新たに15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTとして参戦を開始しており、ドライバーの小暮卓史選手(かつて童夢チームで道上監督とペアを組んでいた)とどのような走りを見せるのかも要注目だ。
 なお、昨年の童夢はミシュランタイヤを利用していたが、このドラゴレーシングはブリヂストンタイヤをチョイスしており、4メーカーのそれぞれの台数は以下のようになっており、今年もタイヤ戦争に関して引き続き熱い戦いが繰り広げられそうだ。

ブリヂストン トヨタ5台、ニッサン1台、ホンダ4台
ダンロップ ホンダ1台
ミシュラン ニッサン2台
ヨコハマ トヨタ1台、ニッサン1台

チャンピオン候補の筆頭は昨年のチャンピオンとなる1号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田 次生/ロニー・クインタレッリ組)
1号車と同じ車、タイヤとなる46号車S Road MOLA GT-R(本山哲/柳田真孝組)はその対抗馬となる
12号車 カルソニック IMPUL GT-R(安田裕信/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組)はブリヂストンのエース車両となるか?
シーズン前のテストでは好調が伝えられたヨコハマタイヤを装着するD'station ADVAN GT-R(佐々木大樹/ルーカス・オルドネス組)はダークホース的な存在。
トヨタ陣営はエースドライバー中嶋一貴選手がWECへ専念するため、多くの組み合わせがリシャッフル。この36号車 PETRONAS TOM'S RC Fは伊藤 大輔/ジェームス・ロシター組に。
39号車 DENSO KOBELCO SARD RC Fは平手晃平/ヘイキ・コバライネン組に。F1ウイナーのコバライネンがどんな走りをするのか要注目
童夢撤退をうけ、道上龍監督のとも結成された新チームドラゴレーシングのドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ組)。新しい形での道上、小暮のコンビ復活と、マクラーレンのテストドライバーでもあったターベイの組み合わせも要注目
ダンロップタイヤは引き続き64号車 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)をサポート。カーナンバーは昨年までの32から2倍されて64となった。

新型車が続々と登場するGT300、マザーシャシーベースのトヨタ 86や新型車になるGT-Rに注目

 GT300に関しては、新車種が増えることが大きな動きとなる。その増えた車種の中で最も注目されているのが、通称マザーシャシーと呼ばれる、GTA(SUPER GTを統括するプロモーター)と童夢が共同開発したシャシーだ。これは、JAF-GT300のバリエーションを増やすべく導入された規格で、GTAからシャシーとエンジンがセットで提供され、それを元にチームがカスタマイズして参戦できるという車両になる。車は独自に開発したいというチーム側のニーズを満たしつつ、低コストに参戦できるという選択肢を用意するというのがGTAの狙いだ。

 標準では、トヨタ 86のカウルが添付されているが、チームが独自にカウルを作成して、市販車のイメージで参戦したりということが可能になる。土屋エンジニアリングの25号車 VivaC 86 MCなどは、この86のボディをそのままに利用した例で、他にも何台か86でマザーシャシーを走らせる。
 これに対して、これまでマクラーレンや紫電などユニークな車を走らせてきたカーズ東海レーシングは、チームオーナーがロータスの代理店もやっているという縁もあり、元々フロントに置かれていたエンジンをミッドシップにするなど大改造を施してロータスエボーラを作り参戦してきた。2号車 シンティアム・アップル・ロータスも要注目だ。

 さらに、FIA-GT3にも新規車両が増えている。その代表例はレクサス RC F。GT500のRC Fとは関係なく、市販車のRC FをベースにFIA-GT3に仕上げられたレーシングカーで、60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3として参戦する。また、77号車 KSF Direction Ferrari 458は昨年は走っていなかった、フェラーリ 458 GT3を走らせる、こちらも要注目だ。

 2015年に向けたアップグレードが投入された新型車が投入されたのがニッサン GT-R ニスモ GT3。10号車 GAINER TANAX GT-Rに乗る千代勝正選手によれば「ブレーキとリアのトラクションが改善され、安定性が向上した」とのことで、戦闘力アップがシーズン開幕前から言われていた。開幕戦でのポール獲得はそれを裏付けているということができるだろう。ニッサンワークスチームともいえるNDDP RACINGが走らせる3号車 B-MAX NDDP GT-Rもチャンピオン候補の一角だ。

 もう1つ大きなトピックとしては、昨年のチャンピオンを獲得したGOODSMILE RACING & TeamUKYOの二人(谷口信輝/片岡龍也)が車をBMW Z4からメルセデスベンツSLSに乗り換えたことも大きな話題だろう。昨年からBMWのワークス権は7号車 Studie BMW Z4に移っており、そのあたりも勘案した結果より戦闘力が高い車に乗り換えたということだろう。これにより元々SLSを走らせていた11号車 GAINER TANAX SLS(GAINERは昨年のチームチャンピオン)との激しいチャンピオン争いが今年も繰り広げられる可能性は高い。
 この他、JAF GT300勢では、昨年同様ホンダ CR-Z GT、トヨタ PRIUS GTというハイブリッド勢と、スバル BRZが参戦する。CR-Z GTは2台から1台減って1台での参戦になるのが違いなのと、トヨタのPRIUS GTはタイヤがヨコハマからブリヂストンへと変更され、さらにスバル BRZもタイヤがミシュランからダンロップへと変更されている。このあたり昨年のチャンピオンカーに装着されていたヨコハマとの熱い戦いが繰り広げられそうで、引き続きGT300クラスでもタイヤ戦争は熱く続きそうだ。

昨年のチャンピオンチームGOODSMILE RACING & TeamUKYOはBMW Z4からメルセデスベンツSLSへと車両を変更、チャンピオン候補の一角だ。
11号車 GAINER TANAX SLSはダンロップタイヤ、ドライバー陣(平中克幸/ビヨン・ビルドハイム組)も不変で、やはり今年のチャンピオン候補
マザーシャシーをベースに作られたトヨタ 86。土屋エンジニアリングの25号車 VivaC 86 MC(土屋武士/松井孝允組)もウインターテストで好タイムをマーク
FRのマザーシャシーをミッドシップにして、カウルも作成した2号車 シンティアム・アップル・ロータスもユニークな存在
Studie BMW Z4(ヨルグ・ミューラー/荒聖治組)はBMWワークスチームとして強力な布陣
21号車 Audi R8 LMS ultra(リチャード・ライアン/藤井誠暢組)もアウディワークスのアウディスポーツとの連携を深めている
60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3(飯田章/吉本大樹組)は、新規車両レクサス RC F GT3の性能に注目
31号車 TOYOTA PRIUS apr GT(嵯峨宏紀/中山雄一組)はタイヤをヨコハマからブリヂストンへ変更
無限のCR-Z GTが参戦を取りやめたため、ホンダのハイブリッドGT300は55号車 ARTA CR-Z GT(高木真一/小林崇志組)一台に
61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTは井口卓人/山内英輝組というフレッシュなコンビになり、タイヤもミシュランからダンロップへと変更された

(笠原一輝/Photo:奥川浩彦)