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2輪車用ETC車載器をヤマハ「マジェスティC」にETCを取り付けてみた
2輪車は4輪車より利便性向上! ETC車載器の取り付け
(2015/8/26 00:00)
季節は真夏、海に山にと行楽に出かけるドライバーの中でも、爽快そうに駆け抜ける2輪車のライダーたちを羨ましく思った経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。その思いは「以前オートバイに乗っていた方」であれば、さらに強いはず。
でも、長距離の移動時に高速道路でネックになるのが料金所での通行券受け取りや料金支払い。4輪車であれば事前に財布から小銭を出しておくことも可能だが、2輪車は料金所で停止してからグローブを外し、財布をポケットから取り出して支払いを行う必要がある。ライダーにとってストレスであることはもちろん、料金所の通過にかかる時間(サービスタイム)が4輪車に比べると長いので、他の車両にとっても迷惑なものである。
そんなことを解消するのが2輪車用ETC車載器。4輪車に遅れて2006年11月から全国の高速道路での利用が可能となったことからすでに装着しているライダーも増えているが、料金所での支払いに掛かるストレス解消以外にも各種割引の恩恵に預かれるだけでなく、増え続けているスマートIC(インターチェンジ)が利用できるなど、そのメリットは多い。
しかしながら4輪車用ETCに比べて情報が少ないようなので、あらためて実際の2輪車への装着について紹介する。
ETC車載器タイプの選択
まず最初に車載器のタイプについて決める。価格の安さであればアンテナ一体型でハンドルバーに装着するタイプとなるが、高速道路のPA(パーキングエリア)やSA(サービスエリア)でトイレに立ち寄る際に盗難防止のため毎回ETCカードを抜き差しする必要もあるので、リアカウルやトランクなど施錠できるスペースのある車両であればアンテナ別体型のほうが便利だ。
今回ETC車載器を装着するのは、2003年式のヤマハ「マジェスティC」(SG03J)。少々古い車両ではあるが、シート下にフルフェイスヘルメットが2つ入るスペースがあったり、レッグシールド部の左右に収納スペース(ヤマハでは「フロントトランク」と呼んでいた)もあることから、上記を考慮してアンテナ別体型とした。
2輪車用ETC車載器の機種は多くないので、装着する機器タイプを決めてしまえば迷うことは少ない。Webで検索するとMITSUBA(ミツバサンコーワ)の「MSC-BE51」が価格的にも手軽だったので何も考えることなく決定したが、車種によってはアンテナやインジケーターのLED装着場所なども重要なポイントとなる。装着しようとしている車種に適しているかどうかは車載器の取り付けに慣れている販売店に確認したほうがよいだろう。
なお現在、2輪車用では「ITSスポット対応車載器」(DSRC)は用意されていないことも念のため付け加えておく。
販売店を選択して購入
案外、4輪車用ETC車載器を2輪車に装着することは認められていないことを知らない方が多い。筆者も自分のオートバイにETC車載器を装着しようと思うまで認識していなかったのだが、通販サイトなどで格安の4輪車用車載器を購入してセットアップだけを行うことや、4輪車に使ってた車載器を転載することはできない。これは、2輪車ならではの使用環境に沿うための防水・防塵規格「IP55」対応などもあり、メーカー・機種ともに限られてはいるが、2輪車でのETC利用においては現在の決まりごととなっている。
また、不正利用防止のため、新規での購入時は装着やセットアップも販売店側で行うこととなっているのが、4輪車用ETCとは相違する点である。
以前は、2輪車の場合は店舗での購入と申し込みを行った後に、おおよそ2週間後に再度店舗に行って車載器の取り付けを行わなければいけなかったが、現在はオンラインで車載器セットアップ情報の設定が行えるので即日装着が可能となっている。
筆者が自分で4輪車へETC車載器取り付けをした記事もCar Watchにあるが、2輪車の場合、取り付け作業に4輪車以上に神経を使う必要や装着する車種別に作業手順も異なることから、できれば多くの車種への装着実績を持っている販売店に依頼するのが好ましい。今回は日頃から筆者が利用しているバイク用品専門店「ナップス」に取材の申し入れをしたところ、通常は行えないサービスピットへの立ち入りと撮影も快諾していただけたので、横浜市のナップス本社であるベイサイド幸浦店にお邪魔させていただいた。
ナップス(2007年に日京から社名変更)は古くから続くオートバイ関連用品の販売店であり、オークションや個人売買で購入した車両の消耗品などの無料点検なども行っており車種を問わず頼れる店舗。ETC車載器取り付け台数も「業界トップクラス」とのこと。店長の星氏も「4輪車より2輪車のほうがETCは有効。料金所での通行料支払いの煩わしさから解放されるのを知ってしまうと、2度とETC非装着のオートバイで高速に乗りたくなくなる」と推奨している。
作業依頼や購入申し込みなどの書類は店舗毎に異なるが、基本的に記入が必要となるのは「2輪車 ETC車載器セットアップ申込書」である。購入者側で記入する必要がある項目は氏名・住所・装着する車両のナンバー程度の情報のみ。もちろん、申し込み手続き時には車検証(250cc以下なら軽自動車届出済証)は必要だが、車両の運行時には必携する書類なのだから、車載器の取り付けに行く際に気にすることはない。購入手続きをご担当いただいた吉原副主任も「以前はお申し込みをいただいてからセットアップできるまで2週間かかるなどご不便をおかけしていましたが、現在は2輪車もWeb経由でのセットアップ情報設定により即日対応が可能になるなど手続きは簡素になりましたね」と言っていた。
実際の装着作業
購入店舗での申し込み手続きを済ませてから、実際の装着作業のための車両入庫となる。Car Watchをご覧いただいている方々には、ここからが気になる部分なのではないだろうか。
ナップス ベイサイド幸浦店では、ETC車載器装着時には先ず入庫時に車両の電装品が全て問題なく動作していることの確認を行う。今回、担当していただいたのは、アドバイザー・メカニックの前川氏。前川氏もマニアックな2ストロークスポーツバイクを所有しており、移動手段としての2輪車に関するさまざまなノウハウはもちろん、趣味性の強い車両に対しての理解や知識も深い。
作業が開始され、まずはETC車載器の電源ラインの確保を行う。マジェスティCは、フロントカウルパネル裏にグリップヒーターなどのオプション品装着用のイグニッション連動サービスコネクターがあるので、そこからの分岐を行っていただいたが、「この車種はここから簡単に電源が取れる」ということを知っていなければ電源接続先の確認にも時間がかかってしまうのだから、やはり多くの車両に触れてきたメカニックが居る店舗のほうが確実で安心だ。前川氏は迷うことなくマジェスティCのカウルパネルとフロントスクリーン、メーターパネルを外し、純正オプション品用のサービスコネクターからの電源分配の作業に取り掛かった。
部品の取り外し時にも「この年式のマジェスティの場合、カウルパネルの上側の金属フックが錆び付いていたり、経年劣化でプラスチック部品が折れてしまうことなども多いのでけっこう気を使います」とのコメントをいただいたが、それは今までの経験から車両について知っているから言えることである。
ETC車載器用電源ラインについては、ヤマハ純正オプション品を追加装着することも考慮し、サービスコネクターを切除せずにケーブル中間での分岐を行っていただいた。あらかじめ車載器の電源ケーブルにもヒューズはあるが、ヒューズ切れの際に交換しやすいようにフロントカウルトップパネル裏の目立つ部分にヒューズユニットを追加。万が一のときにもユーザーが全てを分解するなど迷ったり困ったりしないような配慮がされた。その作業も繊細な処理が施され、あらためて「プロの仕事」であることを認識せざるを得ない。
手際よく電源の分岐を確保すると、続けて車載器本体の設置に取り掛かる。今回はレッグシールド部左の施錠できる収納スペースに車載器を設置。登録証や小物を入れても邪魔にならないようスペースの上側に脱着可能なマジックテープで固定するなど、ユーザーの利便性も考えられていた。
また、メーターナセル上部の視認性のよい場所にアンテナ一体のLEDインジケーターを取り付けるのだが、アンテナケーブルが可能な限り目立たないよう、メーターナセルカバーにある純正品の切り欠き部分を若干だけ拡大加工してケーブルを通すなど配慮された。アンテナケーブルの断線を引き起こさないようなケーブルの巻き方、カウルなどのプラスチックパーツの間を通す部分にケーブル保護を施すなど、安全性確保を最優先しているのは購入者側にとっては最も納得でき、安心できる部分。しかも車種毎に手際よく作業を進めて行く様は「正にプロ」、脱帽である。
ETC車載器の取り付けが済むと、次いで購入申し込み時に提示した申込書に基づいた車両情報などが書き込まれた「セットアップ情報カード」を使用して車載器の設定を行う。さらにITS-TEA(ITSサービス高度化機構、旧:ORSE)の「車載器検査カード」で機器の動作確認をするのだが、作業自体はエンジンを始動し、カードを挿入してLEDの点灯を確認するだけなので、問題がなければ各々1分程度である。
その後に、ETC車載器が動作している状態で他の電装品を操作し、全ての電装品の動作に問題がないことを確認した後、実際の高速道路の料金所に設置されている機材と同じ信号を発するテスターを使用して通信状態を確認。問題がなければ車載器の取り付け作業は完了である。
装着作業後は、2輪車用ETC車載器利用に関する機種毎の操作方法や2輪車ならではの注意事項などの説明がある。今回装着をお願いした「MSC-BE51」はレッグシールドの施錠可能なスペースの上部に取り付けられたのでカード挿入時は裏返しでカードを入れる。また、ETCカードが挿入されて機器が動作している時には緑色のLEDインジケーターが点灯する仕様であり、非点灯時はカードが挿入されていない状態なのでETCゲートの通過は不可能。この部分は装着機種毎に異なるので、自身で使用する機種や購入を検討している機種に関する情報は念のため確認しておいたほうがよいだろう。
4輪車用ETC車載器であれば、LEDなどの視覚に加えて音声(ピープ音だけのものやボイスガイダンス機能を有するものもある)でのワーニングも可能だが、2輪車の場合は視覚効果のみしか利用できないのも4輪車とは異なる点。このため、前述のようにLEDインジケーターは視認しやすい位置に取り付けなければならない。
また、4輪車では何かしらの不具合によりETCゲートの開閉バーが上がらなかった場合は停止せざるを得ないのだが、2輪車の場合は開閉バーとの接触が転倒に繋がる可能性が高く、後続車の追突など二次被害を避けるために、あえて開閉バーが閉じた状態でも退避通行可能な間隔が設けられており、通過した後にエラーが生じたことを利用高速道路管理会社に連絡する決まりごとになっている。4輪車との相違点なども含め、購入機器のマニュアルはもちろん、実際の利用の前に「2輪車ETC登録規約」、2輪車ETC車載器セットアップ申込書裏面の「ETCシステム利用規定」に必ず目を通すべきである。
車種別の注意点としては、今回のようにフロントカウルスクリーン内側にアンテナを装着した場合、スクリーンをミラータイプのものに交換したり、スクリーン自体をFRP製のスポイラーなどに変更するのはNG。大型スクーターはファッション性を重視するカスタマイズを行う方も多いが、ETC車載器のアンテナと高速道路のゲートが通信できなくなるような変更は行わないでほしいと作業をご担当いただいた前川氏も言っていた。