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住友ゴム工業、「しなやか成分」と「ADVANCED 4D NANO DESIGN」採用タイヤを2016年に量産化へ

タイヤの硬化を半減させ、耐摩耗性能200%を達成する新技術に関するセミナー

2015年11月12日実施

住友ゴム工業、大幅な性能向上を果たす次世代タイヤを2016年に量産化へ

 住友ゴム工業は11月12日、ナノレベルからミクロンレベルの連続的な材料・構造解析によるタイヤ素材開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN」と、タイヤの硬化を抑制する新たな軟化剤「しなやか成分」について、詳細に解説するプレスセミナーを開催した。合わせて、これらの技術を応用した新型タイヤの量産を2016年を目標に進めていることを明らかにした。

まずは耐摩耗性能20%アップ、30%アップなどの製品が登場か

住友ゴム工業 執行役員 材料開発本部長 村岡清繁氏

「新市場への挑戦」「飽くなき技術の革新」「新分野の創出」という3つの挑戦を柱にした「VISION 2020」を掲げ、自動車用タイヤの素材開発においてコンピューターシミュレーションを積極的に取り入れている住友ゴム工業。同社は4年前の2011年にスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いてスケールごとにゴムの構造・運動を解析した「4D NANO DESIGN」技術をベースに、「エナセーブ PREMIUM」「エナセーブ NEXT」「WINTER MAXX」をすでに市販化しており、それに続く新材料開発技術として「ADVANCED 4D NANO DESIGN」のプロジェクトを進めてきた。

世界のタイヤ需要は2020年には20億本。エコが求められる
新たな3つの挑戦を柱にした「VISION 2020」を推進
新材料開発技術とバイオマス技術への取り組みにより、新たな製品の開発を進めている
現行世代の「4D NANO DESIGN」は2011年に完成
4D NANO DESIGN採用タイヤも続々登場してきている

 ADVANCED 4D NANO DESIGNは、ゴムの構造解析を大型放射光施設「SPring-8」で、ゴムの運動解析を大強度陽子加速器施設「J-PARC」で行い、それらのデータからタイヤ素材の詳細なモデルを作成。スーパーコンピュータ「京」によってシミュレーションすることで、タイヤゴム内部のナノレベルからミクロンレベルの構造、運動の様子を観察し、製品開発に役立てられるようにした技術だ。

4D NANO DESIGNの次、ナノからミクロンのスケールで構造・運動を解析する技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を検討
SPring-8、J-PARC、京を連携させ、タイヤ内部の現象を解き明かすADVANCED 4D NANO DESIGNを確立

 これまでほとんど見えていなかったタイヤ内部で起こっている事象を細部まで知ることができ、発熱や摩耗を生じさせる「ストレス」のメカニズムをさまざまなスケールにおいて特定。低燃費性能、グリップ性能、耐摩耗性能という、相反関係にあるタイヤの3大性能に、その「ストレス」が大きく関与していることを突き止め、「ストレスコントロールテクノロジー」を確立した。今後のタイヤ開発における新材料や構造設計に応用することにより、大幅な性能向上が図れるようになる。

技術の詳細を解説した住友ゴム工業 材料開発本部の若林昇氏
若林氏によるタイヤ構造の解説
タイヤではグリップ、低燃費、耐摩耗の3つの性能が重要となるが、それぞれは相反関係にある
4D NANO DESIGNでは、ナノレベルとミクロンレベルで個別に分析していた
普及し始めているEVなどのモーターはトルクが大きく、低燃費で耐摩耗性能の高いタイヤ開発が必要に
スケールごとの解析では性能向上は困難。より大きな全体として捉えて分析する必要がある
言ってみれば水と同じ。分子レベルでは固体なのか液体なのか気体なのか分からないが、全体としてみればどういう状態なのか明らかになる
ADVANCED 4D NANO DESIGNでは、ナノからミクロンまでの領域を1度に解析
タイヤの3大性能に影響する現象を全てカバーする
SPring-8、J-SPARC、京の利用によりADVANCED 4D NANO DESIGNを実現
ナノ、ミクロンレベルの構造のイメージ
界面ポリマーの構造と動きを知るための方法
架橋長さを知る方法
シリカネットワーク構造の解析方法
大規模分子シミュレーションモデルを作成
タイヤ内部で発生している破壊現象の詳細
ストレスによりボイド(隙間)が生まれている
ストレスが発生している個所
このストレスを解消する「ストレスコントロールテクノロジー」を確立した
摩耗のメカニズムも解明
これらの解析結果を製品開発に活かし、「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」として発表した
ADVANCED 4D NANO DESIGNで性能、経済性などに優れたタイヤを開発可能になった

 先頃開催された第44回東京モーターショー2015において、同社はこのADVANCED 4D NANO DESIGNを採用したコンセプトタイヤ「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」を発表し、2011年時点の一般的なタイヤと比較して、低燃費性能とウェットグリップ性能を維持しながらも耐摩耗性能200%という驚異的な性能を達成したことを明らかにしている。

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住友ゴム工業、耐摩耗性200%の「耐摩耗マックストレッドゴム」搭載タイヤを発表(http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/2015tokyo/20151030_728322.html

 ただし、量産化の際には必ずしもそのままの性能であるとは限らないという。コンセプトとして開発したタイヤでは、通常の市販タイヤには用いられない高価なゴムなどを採用しているためで、住友ゴム工業 材料開発本部長の村岡氏は「(耐摩耗性能)20%アップや30%アップなど、コストとニーズの合ったところに順番に適用していく」と述べた。製造プロセスや材料を工夫しながらストレスコントロールテクノロジーを実現させるのが今後の主な活動であるとし、2016年には量産を開始したいと語った。

「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」

 また、材料や構造からタイヤの性能を予測可能にする次世代技術「NEXT 4D NANO DESIGN」のプロジェクトもすでにスタートしており、2020年に技術の確立を目指すとしている。「タイヤは新品の時だけじゃなく、使っていくとゴムが摩耗し、パターンも変われば剛性も変わってくる。よりリアルに(現実に即した形で)性能を予測することが必要になってくる」として、慎重にプロジェクトを進めている。

ロングライフを実現する「しなやか成分」配合タイヤも2016年に

 解析技術とは別に、「高機能バイオマス材料開発への取組」と題して、環境負荷低減を目指した石油外天然資源を素材にしたタイヤ開発についても説明があった。そのなかで、タイヤの劣化を抑制する新たな軟化剤「しなやか成分」の詳細についても明らかにし、本技術の採用タイヤも2016年に量産化を目指すとした。

 タイヤのグリップ能力にはゴムの柔らかさが大きく関わっているが、そのために添加される軟化剤として一般的には石油由来のオイルが使われている。しかしながら、タイヤは経年変化によってオイルが抜けてしまい、徐々に硬化して本来のグリップ性能を発揮できなくなるのが常識とされていた。

 一方で、自動車の増加によるタイヤニーズの向上や、近年の環境保護意識の高まりにより、石油外天然資源を利用したタイヤ開発が求められてきた。同社は、2013年に100%石油外天然資源であるバイオマスを利用したタイヤ「エナセーブ100」を発売し、バイオマス技術を確立。これをさらに発展させ、バイオマスを高機能材料へと進化させる取り組みを行ってきた。

自動車の増加によりタイヤニーズが増し、これに合わせて環境保護意識が高まってきている
住友ゴム工業も環境負荷を低減する製品作りを行ってきた
100%石油外天然資源を利用した「エナセーブ100」を発売
そこで培ったバイオマス技術を発展させ、新たにバイオマスの軟化剤を開発

 その第1世代として、グリップ力維持を目的とした高機能バイオマス技術による新材料「しなやか成分」を開発。従来の石油由来の軟化剤にあったようなオイル抜けによる硬化を抑制し、時間が経ってもタイヤの柔らかさを維持できるようにした。従来品と比較して劣化を2分の1程度に抑えることができ、グリップ性能とタイヤ寿命の大幅な延長を実現するという。

新たな軟化剤「しなやか成分」配合タイヤは、しなやかさをより長く維持する
バイオマス技術はさらなる進化を続けていく

 村岡氏は最後に、「シミュレーションやバイオマスについては、我々だけでなく国内各社も取り組んでいて、海外のタイヤメーカーも追いかけてきている。自動車産業やタイヤ産業では、それが1つの核となる技術になってきているので、この成果をものにしていきたい」と語り、ADVANCED 4D NANO DESIGNとしなやか成分を採用したタイヤの量産化、そして次世代技術の確立に向け、決意を新たにしていた。

数年経過時点での、「しなやか成分」配合ゴムと通常ゴムを比較。触れると明らかに柔らかさが異なる。新品の通常ゴムと数年経過した「しなやか成分」のゴムと比べても、後者の方が柔らかい
実際に用いられている試験機類
ゴムの滑り抵抗を調べる機械
手前の機械から、奥のタイヤを模したゴムを引っ張る
試験のデモ中
滑り抵抗の平均値が大きいほど、グリップ力があることを示す

(日沼諭史)