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ADVANレーシングタイヤをSFに投入した横浜ゴム 執行役員 野呂政樹氏が会見
「安全を確保した上で、全チームに同じ品質のタイヤを供給」
(2016/4/25 14:56)
- 2016年4月24日 実施
タイヤメーカーの横浜ゴムは、2016年シーズンより全日本スーパーフォーミュラ選手権にレーシングタイヤのワンメイク供給を開始した。古くは1996年のフォーミュラ・ニッポンの初年度までタイヤを供給していた横浜ゴムだが、日本のトップフォーミュラへ復帰するのは20年ぶりとなり、スーパーフォーミュラ用に新設計したADVANレーシングタイヤをもって、日本のトップフォーミュラを支えていくことになる。
その横浜ゴムがスーパーフォーミュラに復帰するにあたり、キーマンの1人になったのが、横浜ゴム 執行役員 タイヤ消費財開発本部長 兼 タイヤ研究開発部長の野呂政樹氏だ。
野呂氏はスーパーフォーミュラ復帰決定時は、横浜ゴムのモータースポーツ活動を担うヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルのトップであり、今回の横浜ゴムのスーパーフォーミュラへのタイヤ供給において主導的な役割を果たした。今回開幕戦に合わせて鈴鹿サーキットを訪れた野呂氏が、報道関係者との囲み会見を行なった。その模様を交えながら横浜ゴムがスーパーフォーミュラへの復帰を果たした、鈴鹿での様子をレポートしていきたい。
横浜ゴムがスーパーフォーミュラに復帰したのは、JRPからの要請があったから
野呂氏は、「JRP(日本レースプロモーション)さんから前のサプライヤーさんが終了されるとのことで、次をお願いできないかという打診があった」と述べ、スーパーフォーミュラへ復帰を検討した最大の要因はJRPからの打診だったと明らかにした。
2015年までスーパーフォーミュラにタイヤをワンメイク供給していたのはブリヂストンで、1997年にワンメイクになってから18年にわたり供給を続けていたため、そのメーカーが契約満了をもって供給を終了するのはJRPとして相当困った事態になっていたことは想像に難くない。
実際、2015年時点でJRPの代表取締役社長(現在は技術顧問)だった白井裕氏は、4月23日に鈴鹿サーキットで行なった記者会見の中で「昨年、前のタイヤサプライヤーさんが契約を終了すると聞いたときにはシリーズが消滅してしまうかという危機感を持った。その中で横浜ゴムさんにご協力いただけることになり本当に感謝している」と述べており、強い危機感を持っていたことをうかがわせている。
そうした状況の中で、日本で最もモータースポーツに熱心に取り組んでいるタイヤメーカーと言える、横浜ゴムに供給を打診するのは当然の成り行きだろう。横浜ゴムはヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルという専門の子会社を設立し、各種のモータースポーツにタイヤを供給している。
スーパーフォーミュラと並ぶトップカテゴリーのSUPER GTのGT500クラスに2チーム、そしてGT300の大多数に供給しているほか、全日本F3選手権、86/BRZレース、スーパー耐久といったメジャーなレースや育成カテゴリー、草の根レースまで“YOKOHAMA”のロゴがないレースはないと言ってよい状況だ。昨年までその唯一の例外が、スーパーフォーミュラだった訳で、JRPが横浜ゴムに打診するというのは自然な話だ。
社長からはほかのカテゴリーに影響がでないようにやるという条件
だが、企業の側からすれば、それが当然かどうかは別の話だ。言うまでもなく企業活動はボランティア活動ではなく経済活動である以上、横浜ゴムがモータースポーツに参戦するのであれば、予算をかけて活動することになる。この活動が企業イメージに向上につながるという効果は必要だろう。
また、現実的な問題として、すでに横浜ゴムは十分過ぎるほど多くのカテゴリーに参戦している。SUPER GTなどトップクラスのカテゴリーだけでなく、ラリーやジムカーナといった草の根で行なわれているカテゴリーも多く、従来の活動への影響を考慮しなければならない。
野呂氏は「当初弊社の社長(筆者注:野地彦旬氏)に話をしにいったら反対と言われてしまった。それを説得して、ほかの活動に影響のないようにやれるならという条件付きでGOをもらった」と、社内でスーパーフォーミュラへのタイヤ供給が危惧されていたと説明する。
企業イメージの向上という点では、参戦して得る技術的な知見を市販タイヤにフィードバックしていくという。野呂氏は「スーパーフォーミュラに参戦することは、あらゆる環境に対応できるタイヤを開発するということ。その知見は市販タイヤ開発につながる。今年発売したADVAN FLEVA V701に(モータースポーツタイヤの開発技術は)フィードバックされており、今後もどんどんフィードバックしていきたい」と述べ、できるだけ早くスーパーフォーミュラで得た知見を市販タイヤの性能向上などにもつなげていきたいとした。野呂氏によれば、レースの素材を開発しているチームと市販タイヤを開発しているチームは交流も盛んに行なっているとのことで、今後もそうしたやりとりを増やしていきたいと説明した。
まずは安定して走れるタイヤを作るという目標を開幕戦で達成
野呂氏はSUPER GTとスーパーフォーミュラの違いについて「SUPER GTではマシンに対して強力なダウンフォースがかかっておりタイヤにかかる加重が大きく、それに耐えるタイヤを作ることが重要になる。これに対してスーパーフォーミュラのマシンではタイヤに対して加重がかかったり、抜けたりする。その状態でコーナリングしなければいけないのでより難しい」と述べ、スーパーフォーミュラのタイヤ開発は容易なものではないと説明した。
こうした状況に対応するため、横浜ゴムでは、オールスターでスーパーフォーミュラ用タイヤの開発を行なってきたという。タイヤ開発担当のエンジニアには、以前はWTCCタイヤ開発を担当していたエンジニアなどが当たっており、そこにSUPER GTのチームやF3のチームなどがバックアップする体制で臨んでいる。
横浜ゴムがそうした体制を組んでいるのは、1つにはワンメイク供給の難しさがある。というのも、ワンメイクの供給というのは、何も起きないのが当たり前で、一度トラブルが起きるとタイヤメーカーへの非難の声一色になるというのは世の常だ。数年前にF1でタイヤバーストや限界を超える摩耗が連発した時期があったが、それとてタイヤメーカーに対して摩耗しやすいタイヤをつくってほしいというリクエストがきて、それに応えた結果だったと言われている。野呂氏は「大事なことは、まずは壊れないタイヤを供給すること。我々はスーパーフォーミュラのデータを持っていなかったので、まずは安全を確保した上で、全チームに同じ品質のタイヤを供給するということを目指す」と述べ、確実に壊れないタイヤを供給するという横浜ゴムの方針を強調した。
実際、土曜日の予選の後の記者会見では、ドライバーから不満の声とも取れる、厳しい意見も飛び出した。土曜日の予選が荒れた結果になったのは、昨年までのタイヤと特性が違うことに戸惑った結果だというのがドライバー側の意見であったようだ。しかし、日曜日のレースを終えると、その評価は180度変わった。横浜ゴムが供給したタイヤは決勝レースでは安定した性能を発揮し、ロングランでも性能の低下が少なく、結局上位車両の多くがタイヤ無交換で走りきることができたのだ。このため、同じドライバーの口から、横浜ゴムのタイヤを賞賛する声が聞こえてくるなど、決勝レースを終えた後のドライバーの評価はよかったと言っていいだろう。
もちろん課題はまだある。チーム関係者が指摘していたのは、今後より路面温度があがる真夏のレースでの耐久性などで、それらについては今後証明していく必要がある。しかし、今回が復帰初戦だったことを考えれば、レースに関して耐久性にも問題なく、信頼性に関しても何も問題がないことを証明できたという意味で、まずまず成功と言ってよいのではないだろうか。