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お帰り「ADVAN」!! 横浜ゴムが日本のトップフォーミュラに復帰
鈴鹿テストで1分37秒台を記録。開発本部 本部長 秋山一郎氏が会見
(2015/11/27 08:00)
- 2015年11月25日~26日開催
全日本選手権スーパーフォーミュラ(来シーズンからは全日本スーパーフォーミュラ選手権)を運営する日本レースプロモーションは11月25日~26日の2日間、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットにおいて"エンジンメーカー・ルーキードライバーテスト"を開催している。
横浜ゴムは、来期よりスーパーフォーミュラに対してレース用タイヤのワンメイク供給を行うことが決定しており、トップフォーミュラにタイヤ競争があった1996年(スーパーフォーミュラの前身となるフォーミュラ・ニッポンの初年度)にタイヤを供給して以来(翌97年~はブリヂストンのワンメイクに移行)のトップフォーミュラへのタイヤ供給となる。
これにより、横浜ゴムは、スーパーフォーミュラ、SUPER GT、全日本F3選手権、全日本ラリー選手権、スーパー耐久、各種ダートラなどにタイヤを供給することになり、ダンロップのワンメイク供給となっている全日本F4、FIA-F4を除く、ほぼすべての日本のレースにタイヤを供給するという、日本のモータースポーツを文字通り足下から支える存在となる。
今回横浜ゴムは、スーパーフォーミュラのテストが行われた鈴鹿サーキットにおいてヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル 開発本部長 秋山一郎氏による記者説明会を行ったので、その時の模様とスーパーフォーミュラテストの現場で分かった横浜ゴムの取り組みについてお伝えしていきたい。
スーパーフォーミュラに力を入れる横浜ゴム。機材なども新調し来季に備える
今回のテストでは、横浜ゴムは鈴鹿サーキットのパドックで一番最終コーナー寄りに陣取り、タイヤを組み上げる作業やユーザーチームのサポートを行っている。横浜ゴムが作ってきたスーパーフォーミュラ用のタイヤは、特に問題がなければ来シーズン、そのままチームに供給されるタイヤとなる。
横浜ゴムはスリック1種類、ウェット1種類を作成し、スリックの新品タイヤとして5セットを各チームに供給することになっている。サイドウォールには横浜ゴムの"YOKOHAMA"というロゴが入っているほか、1980-1990年代に日本のトップフォーミュラレースでのお馴染みのロゴだった"ADVAN"も入っており、その頃を知るファンであれば懐かしさを感じるだろう。
実は横浜ゴムがスーパーフォーミュラにタイヤを供給することが本格的に決まったのは、正式に発表される直前だったという。テストそのものは、今年5回行われたエンジンメーカーテストに参加することで行えていたが、それとて他のサプライヤーが撤退を検討しているという事態を受けて、供給可能かどうかを探るテスト的な意味合いが強かったという。
秋山氏のコメントによると開発期間はわずか半年とのことで、もっと準備をしたかったというのが正直なところだろう。このため「来年のタイヤに関してはともかく信頼性重視で開発した」(秋山氏)というのも無理がない話だ。
開発の当初は、1996年までフォーミュラ・ニッポン/全日本F3000選手権で利用していた金型(タイヤの外形を決定するゴムを流し込む型のこと)を利用してタイヤを作り上げ、それを元にスーパーフォーミュラのテストに参加することで、徐々に発展させていったという。秋山氏によれば、3回目のテストとしてスポーツランドSUGOで行われたテストから外形は現在の本番用と同じタイヤになっていったのだという。
繰り返しになるが、スーパーフォーミュラのようなトップフォーミュラ向けのタイヤを開発するというのは並大抵のことではない。しかし、SUPER GTでの競争による技術開発などの経験、WTCC向けのワンメイクタイヤの供給といった経験が、スーパーフォーミュラ開発にも生かされているという。
実際に今回横浜ゴムは、スーパーフォーミュラの全チームに対してタイヤを供給するため、実にトレーラー5台という大所帯を組んで鈴鹿入りしている。また、今回のスーパーフォーミュラへの供給に合わせて機材なども新調しており、F1やスーパーフォーミュラなどのトップフォーミュラだけで利用されているマグネシウム製のホイール(基本的に今シーズンまでと同じホイール外形になる)にタイヤを組み込む装置やパーティションなどを新調するなど、コストもかけて取り組んでいる。
その成果だが、初日のテストでは午前中がドライ、午後がウェットになるという路面になり、特に午前中のドライ路面では、トップタイムをマークしたジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手のタイムは1分37秒831と1分37秒台となっている。もちろん、天候や路面温度などが異なるため直接比較することはできないが、2週間前に鈴鹿サーキットで行われた第14回 JAFグランプリの予選Q3でのトップタイムを叩き出した山本尚貴選手のタイムが1分37秒963だったことを考えれば、それとほぼ同等のタイムであり、秋山氏が「ドライは合格点」と表現するのも妥当だと言ってよいだろう。
秋山氏によれば、今回のドライタイヤとウェットタイヤが、翌11月26日にも大きな問題がなければそのまま開幕戦のレースタイヤになるという。少なくとも初年度に関しては、今年までのブリヂストンがそうだったように、1年間を通じて様々なサーキットで利用されることを考慮してマージンがあるタイヤを作り、確実に供給することを目指すと秋山氏は述べた。将来に関しては、例えばサーキットごとにコンパウンドを変えてみたり、と味付けを変えてみる可能性は否定しなかった。
秋山氏は「この競技が少しでも面白いものになるように協力していきたい」と述べ、横浜ゴムとしてもやれることがあれば積極的に協力していくと強調した。
この競技が面白くなるための協力は少しでも惜しまないと秋山氏
以下、初日テスト終了後に行われた秋山氏の記者説明会の模様となる。なお、記者説明会には秋山氏だけでなく、日本レースプロモーション 代表取締役社長の白井裕氏も同席しており、両者のタイヤ供給に関するビジョンなどが説明された。
Q:初日のテストを終えた感想は?
秋山氏:まずはほっとしている。午前中はドライの評価ができ、想定内の評価だった。午後に関してはウェットとなったことでウェットタイヤの評価を行い、(前半のあまり濡れていない時にタイムを出した車両もあるので)タイム的には判断が難しいところだが、正直に言えばドライバーからは課題があるというコメントも頂いている。ただ、全体的にはうまくいったと思っている。
Q:今回のテストで最も重視したのはどの部分か? また、タイムが37秒台に入ったのを見てどう感じたか?
秋山氏:最重視してきたのは、高速耐久性と加重耐久性。非常に短期間での開発だったので、その2つを実現するのは簡単ではないと考えていた。我々にとってはおよそ20年ぶりのトップフォーミュラで、その(20年前の)時点に比べると約20秒近く速くなっており、まず自社の中でのベンチマークのクライテリアを決めるところからやってきた。
今回は本当に時間がなかったので、ゆっくり考えてやるというよりも、今やれることを試してきた。我々がSUPER GTをやっている中でも課題みたいなものはあったので、そうした経験を生かしつつ、予測設計の技術などを利用しながら速やかにやることができた。タイムはコンディションなどに影響されるので一概に言えないが、37秒台に入ったのは正直嬉しかったし、ほっとした。
Q:現在のタイヤが来期のタイヤになるのか?
秋山氏:明日(11月26日)の結果を踏まえてからということになるが、チームの方には今のタイヤが来年の開幕戦で使うタイヤですよと通知している。
Q:横浜ゴムとしてはもう少し時間をもらってからやりかったのではという噂も出ているが、今回は急な話だったのか?
秋山氏:急は急だったので、設備投資も含めてやらないといけないことは多かった。最初に富士のテスト向けに用意したプロトタイプは、なぜかうちの工場に残っていた当時のF3000用タイヤの金型をベースにして起こしている。古いものを利用しなければならなかったということではなく、それぐらい時間がなかったということだ。
ただ、我々もF3やF2といった最新のフォーミュラ向けのタイヤをやっているし、SUPER GTの経験が評価基準として生きている。型に関しては、今年のテストの3回目になるスポーツランドSUGOでのテストから、現在の型に近いものを投入してテストしてきた。
Q:現在のスーパーフォーミュラのタイヤは、新品が3セット、ユーズドが3セットという持ち込み制限がある。それは来年も同様か?
白井氏:今シーズン、持ち込みタイヤのセット数は増やした。来シーズンに向けてはそれを敢えて減らすということではなく、規則的にはそのままにしたいと考えている。もちろん明日のテストもまだあるので、それを踏まえてから横浜さんとお話をしていきたい。チームからはイベントの週末の金曜日も走行したいというリクエストも頂いており、そうしたことも含めて検討していきたい。
秋山氏:JRPさんとお話をして決めていきたいと考えている。
Q:コンパウンドに関してはどうなるのか? 今まで通りドライ、ウェットで1つずつということになるのか? それとも以前のように、サーキットに合わせて変えてくるなどは考えられるのか?
秋山氏:そこは今後の課題だと考えている。現状ではドライ、ウェットそれぞれ1種類を作るのが時間的な制約から精一杯だった。このため、今までのサプライヤーさんができているように、まずは1セットを通年利用できることを目指した。今後はもう少し色々できればと考えている。
白井氏:将来はあり得ると考えている。JRPからのリクエストは速いタイヤはもちろんだが、レースが楽しく、ドライバーやエンジニアが相談して色々な作戦が考えられるようなタイヤにしてほしいということ。ただ、1年目はメーカーさんとしては信頼性が大事だろうし、まずはそこを固めてから次の段階だと考えている。
秋山氏:横浜ゴムとしては、この競技が少しでも面白くなるといいなと考えており、それに対しての協力は惜しまない。
Q:ドライバーの反応はどうだったか?
秋山氏:今回チームに対して我々のタイヤを供給したのは初めてなので、まずは持ち込みセットで走ってもらった。このため、ドライバーによってコメントが違うところはあるが、チーム側でセッティングを煮詰めていけば収束すると考えている。全般的にはドライは好意的に受け止められたが、ウェットに関してはウインドウが狭いという指摘があった。我々としてもまだ(温度の)レンジが合わせきれていないのではないかと考えている。
Q:シーズン中に5回行われたテストで進化したポイントは?
秋山氏:先ほども言ったように、耐久性、高速性に最初は不安があったので、一番最初の富士のテストではスピードリミッターをつけてもらってテストをしていた。その結果を見て、スピードリミッターはなくても大丈夫だと判断して、その後は使っていない。最終的には鈴鹿での耐久性をターゲットに、構造開発をメインに開発を続けてきた。ゴムは比較的早いタイミングで決まったので、主にコンストラクションのチューニングが中心となった。
Q:奨励内圧についてチーム側は独自のチャレンジをするところが多いが、F1でもそれが問題になった経緯があるが、今回はどうだったのか?
秋山氏:そういう話になるかと覚悟してやってきたが、我々の提示した条件に対してチームからは異論はなかった。ただ、おそらくそうは言いながらもある程度探りながらやっているのだとは思うが、(データ上からは)異常な空気圧や異常なキャンバーでということはなかった。チーム側はとても好意的にタイヤテストを行ってくれた。感謝している。
Q:横浜ゴムがトップフォーミュラに復帰するのはほぼ20年ぶりとなる。その感慨は?
秋山氏:私がモータースポーツの担当になったのは、1997年。フォーミュラ・ニッポンがワンメイクタイヤになった翌年で、復帰もあり得るぞという話もあって、ADVANカラーのローラでテストだけはしていたことを今でも覚えている。今回チャンスを頂いて、スーパーフォーミュラにサプライヤーとして参加出来ることは、感慨もひとしおで、スタッフもモチベーションを高めて仕事ができている。