特別企画

【特別企画】2014年のSUPER GTへ向け取り組み始めたタイヤメーカー(ヨコハマタイヤ編)

2013年シーズンを振り返り、2014年の展望について聞く

 SUPER GTタイヤメーカーインタビューの第3回はヨコハマタイヤ(横浜ゴム)編として、“ADVAN(アドバン)”や“YOKOHAMA(ヨコハマ)”のブランドで各種モータースポーツにタイヤを供給しているヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル 開発部部長 秋山一郎氏および開発部 開発第一グループ グループリーダー 藤代秀一氏のお2人にお話をうかがってきた。

ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル 開発部部長 秋山一郎氏(左)、同 開発部 開発第一グループ グループリーダー 藤代秀一氏(右)

 なお、ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルは、市販タイヤを製造・販売する横浜ゴムの100%子会社で、横浜ゴムのモータスポーツ部門が分離・独立したものだ。モータースポーツタイヤ供給・開発における、意思決定の速度向上や、採算の明確化などを目指して設立された。

横浜ゴムなくして日本のモータースポーツは成立し得ないほどの活動範囲

 横浜ゴムなくして、日本のモータースポーツなし……ちょっと大げさな言い方かもしれないが、決して誇張ではない。というのも、おそらく、どのモータースポーツ観戦に行ったとしても、横浜ゴムのブランドである“アドバン”や“ヨコハマ”のロゴを見ないイベントは、ほぼないと言ってよいからだ。横浜ゴムはSUPER GTのようなビックイベントはもちろんのこと、育成カテゴリーである全日本F3選手権、スーパー耐久、ラリー、ダートトライアルなど多数のカテゴリーにタイヤを供給している。F1やWEC、スーパーフォーミュラのような、ほかのタイヤメーカーによるワンメイクレースを除けば、ほぼどのイベントでもそのロゴをファンは目にしているだろう。

 逆に言えば、それらのイベントに横浜ゴムがタイヤを供給しなければ、そもそもイベントは成り立たないかもしれない。ビッグイベントのSUPER GTだけでなく、草の根のイベントまで含めてサポートしていることで、日本のモータースポーツに多大な貢献をしていることは明らかだろう。そうした横浜ゴムが、2013年にモータースポーツ部門を子会社として独立させた。それがヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルで、その経緯については別記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131113_623089.html)に詳しいのでそちらを参照していただきたい。

 本記事では、モータースポーツ活動に関する会社組織について、ヨコハマ・モータースポーツと表記していく。

 別会社となったヨコハマ・モータースポーツの2013年のSUPER GTの体制だが、基本的には2012年までの体制とほぼ同じになっていた。GT500に関しては、長年横浜ゴムとのパートナーシップで知られる近藤真彦監督率いるKONDO Racingの24号車D'station ADVAN GT-Rと、こちらもGT300時代からの長いつきあいになるLEXUS TEAM WedsSport BANDOHの19号車WedsSport ADVAN SC430の2台となる。

秋山氏

 GT300に関しては、正確に台数を数えるのが不可能(すべてのレースに参加していない車両も多いため)なぐらいだが、20台を超えるユーザーチームにタイヤを供給している。この点が、ヨコハマ・モータースポーツのSUPER GT活動を特色づけている部分で、他メーカーがGT300では1台ないしは2台までの供給に留まっているのに対して、ヨコハマ・モータースポーツはGT300の2/3以上のチームにタイヤを供給しているのだ。仮に、ヨコハマ・モータースポーツがほかのタイヤメーカーのように、1、2台にしかタイヤを供給しないと言えば、GT300はカテゴリーとして成立し得ないだろう。

 こうした、幅広いユーザーチームにタイヤを供給することについては、「横浜ゴムの哲学。アドバンはプライベーターを応援しますという方針を持っており、裾野が広いところでやっていきたい」(秋山氏)と語り、SUPER GTを足下から支えるという強い意志が込められている。

シーズン後半に追い上げたが、上位との厳然とした差があったGT500

 ヨコハマ・モータースポーツのSUPER GT活動だが、2013年は、シーズン当初思い描いていたようにはならなかった。結果から言えば、上位クラスのGT500では24号車D'station ADVAN GT-Rがシリーズ13位、19号車WedsSport ADVAN SC430がシリーズ14位で、「シーズン中に1勝」という目標は達成することができなかった。

●2013年GT500クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
19LEXUS TEAM WedsSport BANDOHWedsSport ADVAN SC430荒聖治/アンドレ・クート14位
24KONDO RACINGD'station ADVAN GT-R安田裕信/ミハエル・クルム13位

●2013年GT300クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
4GSR&Studie with TeamUKYOGSR 初音ミク BMW谷口信輝/片岡龍也3位
52OKINAWA-IMP RACING with SHIFTOKINAWA-IMP SLS竹内浩典/土屋武士5位
62LEON RACINGLEON SLS黒澤治樹/黒澤翼6位

 藤代氏によれば、2012年シーズンの後半に尻上がりに調子が上がってきており、2013年はその勢いでいけると踏んでいたようだが、「実際にはシーズンが始まってみると、上位2社に置いていかれている状況だった。シーズンの途中で課題が見つかり、それに対する答えを投入した第4戦菅生以降上位との差を縮めることができたが、追いつくことはできなかった」と言うとおりで、ヨコハマ・モータースポーツのユーザーチームがポイントを獲得したのは第4戦以降。改良版のタイヤを投入できたことで、ようやく勝負ができるようになってきたのだ。

 「サーキットには高速コーナーが連続する区間、低速コーナーが連続する区間とさまざまなキャラクターがあるが、そうした中で弊社のタイヤがあまり得意としていない区間があった。そこを改善することに集中して開発していった」(藤代氏)とのことで、具体的にどの区間かについての言及は避けたものの、特定区間の課題の改善に力を入れ、その効果が第4戦以降の結果につながった。

 なお、菅生に向けては、まさに会社一丸となって取り組んだのだという。「第4戦菅生の直前に鈴鹿でテストがあり、そこである程度の成果があった。しかし、通常であればレースの1週間前というタイミングでは新しいタイヤを作ることはできないのだが、鈴鹿から私が工場に連絡を入れたところ、工場の担当者が休日出勤してくれて急遽新しいデータを反映したタイヤを製造し、それを菅生に持ち込むことができた」と、モータースポーツ部門だけでなく、工場も含めてモータースポーツに優先して取り組んでいる、これが横浜ゴムの文化だとも言える。

ヨコハマ・モータースポーツは多くのチームにタイヤを供給しており、レースウィーク中の作業量は非常に多い

 そうしたGT500の結果についての自己採点だが、「0点と言いたいところだが、後半に改善が実現できたので10点」(藤代氏)とやや厳しめ。しかし、藤代氏自身が述べているように、後半の改善傾向は明るい材料といえ、車両が完全に一新される2014年には上位2社との差を詰めたいところだ。

シーズン最多の3勝を挙げるも、勝ち星は分散し、チャンピオンを逃したGT300

 これに対して、4年連続(2009年~2012年)でシリーズチャンピオンを獲得したGT300クラスだが、シリーズ3位となった4号車GSR 初音ミク BMWが最上位。残念ながらシリーズチャンピオンを獲得することができなかった。

 2013年のGT300クラスは、ハイブリッドシステムを武器にレースごとに速くなるJAF-GT300と、BOP(Balance Of Performance)と呼ばれる性能調整により車両間の性能差が固定されるFIA-GT3の間で、どのようにバランスを取れば公平になるか、SUPER GTを統括するGTAが悩み続けた1年だったといってよい。特にヨコハマ・モータースポーツのユーザーチームは、JAF-GT300のPrius GTを除けば、いずれもFIA-GT3車両を採用しており、性能調整に悩まされ続けた1年だった。

藤代氏

 ヨコハマ・モータースポーツ以外のタイヤメーカーでは、GT300へのタイヤ供給は、いずれも1車種(ブリヂストンならCR-Z、ミシュランならBRZ、ダンロップならメルセデス・ベンツSLS)であるのに対して、ヨコハマ・モータースポーツはFIA-GT3の非常に多種多様な車種に対してタイヤを供給する必要があり、他社では可能な、特定の車種に特性を合わせたタイヤを供給する戦略は事実上採れなかった。藤代氏によれば「弊社の方針としては、この車種にこのスペックという方法は採用していない。すべてのユーザーチームにメリットがある形で全体(の性能)を底上げする開発を行ってきた」とのこと。4年連続チャンピオンは、タイヤ自体の性能を底上げすることで、“スペシャルタイヤ”に対抗しつつ成し遂げた、非常に困難な道を歩んできたのだ。

 しかしながら2013年は、タイヤという要素だけでなく、車両の性能調整も含めたさまざまな要因もあり、非常に厳しい戦いになったと言ってよい。実際ヨコハマ・モータースポーツ勢の最上位となる4号車GSR 初音ミク BMWは、性能調整がややFIA-GT3よりになったと考えられるシーズン後半の第6戦、第7戦では、2連勝という結果となった。また、シーズン中にも「タイヤ的には大きな変更を入れ、それまでとはガラッと変えた」(藤代氏)とのことで、仮に車両の性能調整がもっと早い時期に行われていれば、その改良版のタイヤと相まって別の展開があり得たと考えることができる。

 ただ、そういう要素も含めてのSUPER GTの戦いということになる。藤代氏も「2013年までは車種ごとに異なるスペックを採用するというやり方はしてこなかったが、2014年以降はそうしたことも考慮に入れないといけないかもしれない」と述べ、2014年以降に関して、他社の車種スペシャルタイヤに何らかの方法で対抗しなければならないとの考えを示唆した。

 なお、GT300に関しても、「チャンピオンを獲れなかったということで50点」と藤代氏の自己採点はかなり厳しいものだった。それでも、シーズンを見れば8戦中3勝をあげており、GT300では最多勝のタイヤに輝いている。確かにユーザーチームが多いだけに勝ち星が分散してしまう可能性はあり、それがヨコハマ・モータースポーツに不利に働くのも事実だ。その不利を承知で、20台近いユーザーにタイヤを供給する活動が、どれだけSUPER GTの興隆に大きく貢献しているのか、筆者が繰り返すまでもないだろう。

すべてがひっくり返るかもしれない2014年に向けて準備を進める

 2014年に向けても、ヨコハマ・モータースポーツは継続してSUPER GTに取り組んでいく予定だ。2014年から導入されるGT500の新車両規定に向けてのタイヤ開発が続けられている。「現時点(2013年11月のJAF GP時点)では、富士でレクサス、もてぎでレクサスと日産の新型車につけて少し走っただけの段階。新サイズになったことがどのように影響するのかを見極めている」(藤代氏)と、まだまだ手探りの状況にあるようだ。「2014年のタイヤはフロントが小さくなるのに荷重は増える。リアに関しては大きな問題はないと考えるので、小さくなるフロントタイヤをどのように開発していくか、またエンジンがターボに変わるのでその辺りへの対応が課題」(藤代氏)と、各メーカー共通の課題になっているフロントタイヤの開発を重点に開発を進めて行く意向だ。

 今後の開発としては、1月に行われるセパンテストにも参加する予定だが、2014年のユーザーチームにいつ新型車がデリバリーされるのかという部分もあるので、その辺りのスケジューリングを詰めている段階とのことだった。

 2014年の目標について藤代氏は、「GT300に関してはシリーズチャンピオンの奪回を目指したい。GT500に関しては少なくとも表彰台で、できれば1度は真ん中を獲ることを目標にしていきたい。GT500では、我々の課題となる部分は見えてきているので、それを2014年シーズン中に解決することができれば決して非現実的な目標ではない」とする。ある意味で、どちらのクラスもヨコハマ・モータースポーツの課題は明白で、それに対する答えが見ているのであれば、あとはそれを実行していくだけだ。

 最後に秋山氏は「SUPER GTは我々にとってつま先立ちのように限界ギリギリのところでやっており、その中で学べることは沢山ある。2013年のGT500の結果だけを見れば、『成績がよくない』という人もいるかもしれないが、このコンペティションの中にいることは大きな意味がある。競争の中で技術を磨き、それをワンメイクレースに拡大し、引いてはそれを量産車用のタイヤにつなげてレベルを上げていく、そういう意味づけが弊社にはある」と述べ、ヨコハマ・モータースポーツにとってコンペティションの中に身を置くことの大切さを語った。

 筆者もまったく同感である、2014年シーズンはエンジンやタイヤ、車体が変更され、ゼロリセットになる年であり、そこには誰に対してもチャンスがある。ジョーカー1枚ですべてのカードが完全にひっくり返る、そんなことがあっても不思議ではないのだから、ぜひとも2014年のヨコハマ・モータースポーツの活動に注目したい。

笠原一輝

Photo:安田 剛