特別企画

【特別企画】2014年のSUPER GTへ向け取り組み始めたタイヤメーカー(ミシュラン編)

2013年シーズンを振り返り、2014年の展望について聞く

 SUPER GTタイヤメーカーインタビューの2回目はミシュラン編。フランスのタイヤメーカーであるミシュランのSUPER GT活動について振り返っていきたい。ミシュランは、日本のブリヂストンとグローバルな市場において常にシェアのトップを争う大手タイヤメーカーで、2001年~2006年にはF1においてブリヂストンと激しいタイヤ戦争を繰り広げたことを記憶しているファンも少なくないだろう。そうしたミシュラン vs. ブリヂストンという構図が、世界のレースシーンで唯一続いているのがSUPER GTなのだ。そんなミシュランのSUPER GTの2013年シーズンについて、日本ミシュランタイヤ 小田島広明氏にお話をうかがってきた。

ミシュランの日本におけるモータースポーツ活動を統括する 日本ミシュランタイヤ 小田島広明氏

ガチンコバトルにこだわるからこそ、SUPER GTに参戦し続けるミシュラン

 ミシュランの歴史は、モータースポーツの歴史と言い換えてもよいほど、古くからモータースポーツに積極的に参戦し続けてきたタイヤメーカーだ。そして、現在も幅広いカテゴリーのモータースポーツに参戦を続けており、グローバルレベルのモータースポーツに限ってみても、ル・マン24時間を含むWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)といったFIA世界選手権にタイヤを供給している。そして、もう1つのカテゴリーとしてミシュランが力を入れているのが日本のSUPER GTだ。

 これらの参戦カテゴリーを見て1つ気がつくことがあると思うのだが、実はWEC、WRC、SUPER GTのいずれも、コントロールタイヤと呼ばれるワンメイクではなく、複数のメーカーが参入できる状態にあり、“コンペティション(競争)”が行われている。ミシュランの小田島氏は「なぜ我々ミシュランがSUPER GTに参戦しているのかと言えば、もちろんブランドアピールもありますが、何よりそこに競争があり開発があるからです。SUPER GTでは高いレベルで競争が行われており、その中で効率よく開発をしてくことが我々にとってのチャレンジになります」と述べ、ミシュランが何よりも競争を重視するタイヤメーカーであることを強調する。

 ミシュランは、2009年にSUPER GTのトップカテゴリーであるGT500に復帰。徐々に力をつけてきて、GT500にステップアップしたばかりのMOLAチームのNISSAN GT-Rで、2011年シーズンにチャンピオンを見事獲得した。ちなみに、GT500はシリーズ開始の1994年から一貫してブリヂストンがチャンピオンを獲得しており、ブリヂストン以外のメーカーがGT500のチャンピオンとなったことは、非常にエポックメイキングな出来事だったのだ。このミシュランの快進撃は2012年も続き、同じMOLAチームの日産GT-Rが、同じドライバーペア(柳田真孝選手/ロニー・クインタレッリ選手)で2年連続GT500のチャンピオンを獲得するという、これも初となる快挙を成し遂げて見せた。つまり、2011年~2012年の2年間、明白にSUPER GTのGT500クラスをパフォーマンスでリードしたのはミシュランだったと言えるだろう。

 そして、2013年のSUPER GTで陣容を拡大した。2012年までは日産1台、レクサス1台という組み合わせだったのに対して、2013年は日産が2台になり日産のエース車両であるニスモの23号車MOTUL AUTECH GT-Rに2年連続チャンピオンペアが移籍し、2012年までのチャンピオンカーである1号車REITO MOLA GT-Rにニスモから移籍した本山哲選手と、新進気鋭の若手ドライバー関口雄飛選手が組むという強力なラインアップを敷くことになった。レクサスとの契約は終了したものの、ホンダのエースチームである童夢と新たに契約し、18号車ウイダー モデューロ HSV-010が加わった。1台増えた3台体制になったのだ。

 また、2010年以降、参戦を見送っていたGT300に再度供給を開始したのも2013年の特徴と言える。契約したチームはスバルのワークスチームと言ってよいR&Dスポーツの61号車SUBARU BRZ R&D SPORT。ミシュランのGT300への取り組みは長く、過去には2005年、2007年、2008年にGT300でチャンピオンを獲得しており、実績も充分にある。しかし、久々に取り組むことになるGT300でどれだけの結果が残せるのか、それがシーズンが始まる前の焦点となっていた。

●2013年GT500クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
18ウイダー モデューロ 童夢 レーシングウイダー モデューロ HSV-010山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ4位
23NISMOMOTUL AUTECH GT-R柳田真孝/ロニー・クインタレッリ6位
1MOLAREITO MOLA GT-R本山哲/関口雄飛12位

●2013年GT300クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
61R&D SPORTSUBARU BRZ R&D SPORT山野哲也/佐々木孝太4位

ブリヂストンとの競争が激化したGT500

 上位クラスとなるGT500の結果だが、結論から言えばミシュラン装着車が3連覇とはならなかった。しかし、詳細にその内容を見ていくと、決してミシュランがブリヂストンに負けていたという訳ではないことが分かる。小田島氏は常に「チャンピオンを獲ることだけがコンペティションに勝つことではありません。同じ車種に装着されているほかのタイヤメーカーと比較して、上位に来るということが重要です」と筆者に語ってくれている。要するに、ミシュランのユーザーチームがない車種(今年で言えばレクサス SC430)がチャンピオンになった場合、それが車の性能に由来するモノなのか、タイヤの性能に由来するモノなのかを直接比較することが不可能だからだ。

 このため、小田島氏は常に同じ車種で比較して、他社との差を言及する。2013年で言えば日産(4台のうち2台がミシュランで、ブリヂストンとヨコハマが1台ずつ)とホンダ(5台のうち1台がミシュラン、ブリヂストン3台、ダンロップ1台)がそれに該当すると言えるだろう。「ホンダHSVではブリヂストン>ミシュラン、日産GT-Rではミシュラン>ブリヂストン、ポイント差は4点。よって勝っていたとは言えませんが負けていたとも言えないのではないかという見解です」と小田島氏は分析している。

 この見方は十分にフェアだと言えるだろう。確かにホンダではシリーズ2位となった17号車KEIHIN HSV-010を、ミシュランユーザーである18号車ウイダー モデューロ HSV-010が11点下回っているが、18号車ウイダー モデューロ HSV-010は2013年からミシュランユーザーになったばかりでその分は差し引いて考える必要はあるし、日産の4点差というのは実質的にほぼ同等だったと言ってよいだろう。

 シリーズチャンピオンを結果的に獲れなかったことに対しての分析もしており「ニスモ23号車は日産のエース車であり、チャンピオン獲得を義務づけられているクルマでもあります。シーズンを振り返ると、我々が課題にしてきた寒い時期の安定性は、第1戦岡山の寒い環境の中でポールポジション、3位表彰台を獲得できたことからも、上々のスタートは切れたと考えています。しかし、その後の勝てるレースを落としてしまったことでシリーズ全体の展開が苦しくなっていきました」と、課題であった寒い時期の克服はできたものの、本来ミシュランが強いはずの暖かい時期の勝てるレースでペナルティを受け、順位が後退してしまうことが何度かあり、それが痛かったとしている。

 なお、2013年後半のレースで話題になったピックアップ現象だが、小田島氏の分析によれば「タイヤは常に溶けながら路面に食いついていますが、そのタイヤと路面の間に不純物が入り込むことをピックアップと呼んでいます。その不純物は自車から出て路面に残していくべき物質、そして路面に落ちている物質、その両方が混ざり合って構成されていると考えられますが、現時点ではどのようなメカニズムで発生するかは完全には解析しきれていません。ただ、タイヤの性能が上がっていく中で、ちょっと限界を超えると、いきなり機能しなくなるという傾向は確認できています。それは我々だけでなく競合他社でも発生しており、タイヤの開発競争がそこまで行き着いたとも言うことができるでしょう」とのことで、ミシュランとブリヂストンの競争の激化も1つの要因であるとした。ミシュランにせよ、ブリヂストンにせよ、毎レース新しいタイヤを投入している状況で、何らかの限界を超えることで性能低下が急激に起きることになるのだという。

 小田島氏によれば「ピックアップが発生すると、急激な性能低下が発生します。このため、ピックアップが発生しないようにすることも2014年以降の技術課題になると考えています。それはコンパウンドかもしれないし、クルマのセットアップかもしれませんが、ピックアップがなぜ発生するのかという原因追及も含めてやっていく必要があります」とのことで、技術的な課題の1つとして取り組んでいくとした。

復帰したGT300では、初年度に鈴鹿1000kmで優勝するなど結果を残す

 復帰初年度となったGT300だが、ミシュランにとってはアップダウンの激しいシーズンだったと言ってよいだろう。というのも、速さという点ではミシュランのユーザーチームであるR&Dスポーツの61号車SUBARU BRZ R&D SPORTは、8戦中5戦でポール・ポジションを獲得するなど、間違いなく速いGT300車両の1つだったことに疑いの余地はない。ただ、それが決勝レースの結果につながったのかと言えば、最終的なランキングは4位にとどまったことを考えると、そうではなかっただろう。特に2013年のGT300は、クルマのパフォーマンスのバランスの取り方が課題となった1年だったことも考えると、さらに評価が難しくなる。

 小田島氏にとっても、「GT300では車両のバラエティが非常に多く、キャラクターの異なるクルマが混在しています。FIA-GT3とJAF-GT300があり、さらにJAF-GT300の中にもハイブリッドとハイブリッドではないクルマがあります。弊社のユーザーチームであるSUBARU BRZ R&D SPORTは、4台しかないJAF-GT300の中で唯一ハイブリッドではないクルマで、そのことも合わせて評価は難しいのです」と、どの程度タイヤが貢献できたのかは効果を計りかねているようだ。ただ、小田島氏にとってのハイライトは、やはり優勝した第5戦鈴鹿1000kmであり「そこにミシュランとしても貢献できたことは嬉しく思っています」と、2012年までの同チームの戦績と比較して上向きになっていることは評価しているようだ。

 なお、GT300を継続するのかなどを含めてインタビュー時点では未定とのことだったが、継続するのであれば課題として見つかったところを解決し、開発を進めて行きたいとした。ただ、GT300がGT500と同じように激しい競争になってしまっては、GT300が持つプライベーターの為のクラスという意味が薄れてしまうので、うまい落としどころをほかのタイヤメーカーも含めて探していく必要があるだろうとのことだ。

レギュレーションが大きく変わる2014年シーズン

 既報のとおり、2014年にはSUPER GTのレギュレーションが大きく変わり、GT500にはドイツのDTMと同一の車両規則が導入され、エンジンも2.0リッター直噴ターボエンジンが導入される。タイヤサイズも変更され、フロントが現在のよりも小さな外径になるなど、ほとんどすべての規定が変わることになる。

 そうした2014年規定への対応だが、ミシュランも新規定に合わせた新しいタイヤの開発を続けている。ミシュランの場合、リアタイヤに関しては2014年規定と同じ18インチになっているので、影響を受けるのはフロントのサイズが小さくなるということになるが、「タイヤサイズが変わればフロントとリアの役割が変わってきます。また、車重も軽くなり、ダウンフォースも増えるので、実際にはリアタイヤも変えていく必要がありゼロからの開発となります」(小田島氏)と、前後輪とも新しいタイヤにならざるを得ないようだ。

 すでにミシュランも他メーカーと同様、複数のサーキットで新規定でのタイヤテストを行っている。「今後12月、1月のセパンテストで2014年シーズンの基本仕様を詰め、岡山のテストで低温向けのタイヤを作りシーズンに備える予定です」(小田島氏)と、SUPER GTの公式テストスケジュールに沿って開発を続けていくとのことだ。なお、「ミシュランとしては2013年の開発のテーマとしては低温時の動作を改善するということがありました。ただ、その課題が2014年規定でも同じように発生するかどうかはまだ見えてきていないので、まずはタイヤが小さくなることで発生すると考えられる高負荷の対策を講じていきます」(小田島氏)と、フロントタイヤが小さくなることで発生する負荷の増大への対応が最重要課題だとした。

 ミシュランの2014年体制だが、小田島氏によれば現時点(2013年11月)では未定とのこと。しかし、2014年型規定のテストが日産車を中心にして、ホンダのNSXでも行われていることを考えれば、日産とホンダという体制は維持される可能性が高いと考えられるだろう。小田島氏によれば、2014年の目標は「それぞれサポートする車両の中で、トップを取ることが第1目標。そしてその車両が(他の種類の車両と比べて)一番強ければチャンピオンを獲る。この目標は変わりません。2014年は、再びチャレンジャーとしての取り組みになります」とのことで、この点でも“ぶれない”のがミシュランの強さとも言える。果たして2014年の勢力図がどのようになっているのか、その答えが出るのは2014年4月4日~5日に岡山サーキットで開催される開幕戦ということになる。

笠原一輝

Photo:安田 剛