特別企画

【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2013(ミシュラン編)

 日本ミシュランタイヤは、フランスのタイヤメーカーであるミシュランの日本法人で、日本でのタイヤ販売、マーケティングのみならず、世界に3つある研究施設の内1つを日本国内に持ち、製品の研究開発においても重要な役割を持つ。ミシュランは、日本のブリヂストン、米国のグッドイヤーとグローバル市場で激しいシェア争いを展開する巨大なタイヤメーカーで、特にヨーロッパでの存在感が非常に大きいメーカーだ。

 モータースポーツ発祥の地と言えるヨーロッパが本拠地のメーカーということもあり、ミシュランのモータースポーツ活動には長い歴史がある。F1には1970年代後半~1984年、2001年~2006年と参戦しており、特に2001年~2006年には日本のブリヂストンとの間で激しいタイヤ戦争が繰り広げられたことは、モータースポーツファンにとっても記憶に新しいところだろう。F1以外にもWRCやWECなど世界規模のモータースポーツにも盛んにかかわっているなど、グローバルな規模でモータースポーツに熱心な企業の代表格だ。

 そのミシュランがSUPER GT(当時は全日本GT選手権)に登場したのは開催初年度の1994年で、その後1999年~2003年にはGT500に、2004年からはGT300へと舞台を移して参戦を継続し、2008年にGT500に再参入するなどSUPER GTに積極的にかかわってきた。そのミシュランの活動が大きく花開いたのが、昨年と一昨年。モーラチームのニッサンGT-Rとともに2年連続のGT500チャンピオンを獲得したのだ。

 GT500のチャンピオンをブリヂストン装着車以外が獲得するのは、SUPER GTの歴史上初めてのことで大きな話題となった。そのミシュランだが、2010年をもって活動を停止していたGT300にも再参入を果たしたほか、2013年はGT500にタイヤ供給するチームが3チームに増えるなどSUPER GTの活動を活発化しており、3年連続GT500のチャンピオンを狙っている。

日本ミシュランタイヤでSUPER GTなどの活動を統括する、モータースポーツマネージャー 小田島広明氏

 そうしたミシュランのSUPER GT活動を統括する日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャー 小田島広明氏にお話しをうかがってきた。

 なお、このインタビューは第2戦富士の際に行ったものだ。SUPER GT500クラスは第6戦富士まで消化し、残るは第7戦オートポリス、最終戦もてぎと2戦を残すのみ。GT500は6ポイント差に6チームが収まる状況で、チャンピオンの行方はまだまだ分からない。GT300も混戦となっている。GT500に参戦するタイヤメーカー4社(ブリヂストン、ミシュラン、横浜ゴム、ダンロップ[住友ゴム工業])のインタビュー記事を順にお届けするので、一連の記事とあわせて、SUPER GTの終盤戦を楽しんでいただきたい。

●GT500クラスの順位(第6戦富士終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位18号車 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)46MI
2位12号車 カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)46BS
3位23号車 MOTUL AUTECH GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)44MI
4位38号車 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)43BS
5位17号車 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大)41BS
6位37号車 KeePer TOM'S SC430(伊藤大輔/アンドレア・カルダレッリ)40BS

※:MI=ミシュラン、BS=ブリヂストン

●GT300の順位(アジアン ル・マン終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位16号車 MUGEN CR-Z GT(武藤英紀/中山友貴)68BS
2位11号車 GAINER DIXCEL SLS(平中克幸/ビヨン・ビルドハイム)52DL
3位61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(山野哲也/佐々木孝太)51MI
4位52号車 OKINAWA-IMP SLS(竹内浩典/土屋武士)45YH
5位4号車 GSR 初音ミク BMW(谷口信輝/片岡龍也)42YH

※:BS=ブリヂストン、DL=ダンロップ、MI=ミシュラン、YH=ヨコハマ


開幕戦の岡山では4位以上を狙っていたので、3位表彰台は満足いく結果

──開幕戦を終えた感想をお願いします。GT500では23号車MOTUL AUTECH GT-Rがポール・ポジションを獲得し、決勝では3位表彰台を獲得しました。
小田島氏:ポールをとれたことはもちろんなんですが、私自身は3位という結果を喜んでいます。岡山を戦うにあたり、我々には性能向上課題があって、それをきちんと進歩できていれば、4位以内にはなれるだろうと思っていました。具体的に言えば、去年の岡山では確認できなかった低温域での開発の進捗の確認です。それが岡山という低温が予想される場でどうなるかを確認できたことが大きな収穫で、その結果として3位になれたことは大きいと考えていました。我々の戦前の予想では、岡山では4位以内になれれば、選手権を考えれば良いスタートになるだろうと考えていましたので、3位は非常によい結果だと考えています。

 もちろん、競争ごとですので、ずっとトップを走っていて抜かれての3位なので落胆しているみたいに思われているかもしれませんが、闇雲に1位でなければダメと思ってしまうと、きちんとした軸足がなくなってしまってそれも良くない。自分達の設定している課題と走るサーキットという条件であれば、自分達は何位以上にならなければいけないということを客観的に定める必要があると考えていますので、自分達の設定した目標を上回った3位には満足しています。

──今年から再参入を果たしたGT300の方はどうでしょうか?再参入した最初のレースで、61号車SUBARU BRZ R&D SPORTがいきなりポール・ポジションとは、なかなか幸先のよい展開だと思うのですが。

小田島氏:スバルさんはBRZでポールを獲得するのが初めてで、非常に喜んでおられました。GT500のQ2が中止になってしまうほどの難しいコンディションでしたので、ポール獲得を手助けできたことは嬉しく思っています。実は、GT300に関してはテストがほとんど出来ていない状況でした。雨のタイヤも、履くのは初めてに近かったですので、自分達の位置がどこにあるのかをチェックしながらの予選でした。ほとんど手探りの中での予選で、タイヤテストをしながらの予選という状況でしたね。

──予選では雨の状況にタイヤがマッチしたということなのでしょうか? 一方決勝の方は5位という結果になりましたが、評価はいかがですか?
小田島氏:雨の状況の中では我々が想定したとおりのタイヤの性能が発揮できたと思っています。もっともこればっかりは相対的なモノですので、想定が間違っていれば、予想通り機能しても遅いこともありますから……。決勝に関しては、正直予想どおりの結果でした。すでに述べたように、我々は十分なテストができていませんので、その中で事前に予想していた順位程度に行けたというのが率直な評価です。

今シーズンの体制は、昨シーズンの結果をチームが評価してくれたから

──2013年シーズンの体制ですが、ニッサンが2年連続チャンピオンカーである1号車REITO MOLA GT-Rに加えて、エースである23号車も加わりました。そしてそれに加えてホンダのエースカーである18号車ウイダー モデューロ HSV-010も加わる体制になっています。どういう経緯でこうした体制になったのですか?
小田島氏:ニッサン様、ホンダ様に限らず、その年の体制というのは前年度の評価であると我々は考えており、今年新たに加わって頂いたユーザーチーム様は、昨年の我々の開発進歩を評価して頂けたのだと思います。ニッサン様に関してはチャンピオンチームに加えて、23号車という主軸の車も加わっていただき、非常にありがたいことです。ホンダ様に関しても、HSVに関してはプライマリのタイヤがブリヂストン様だったのが、ミシュランも使ってみようかということで踏み込んでいただいていますので、大きな一歩だと感じています。

ミシュランユーザーが2台体制となった、ニッサン GT-R

──逆にトヨタ勢が1台もいなくなってしまいました、それはなぜなんでしょうか?
小田島氏:そこはそれぞれの評価があると思いますので、私からのコメントは差し控えさせていただきます。それぞれの陣営の中で、どこに主軸を置くかも違いますし、戦略上の理由もあるでしょう。我々としては要望にはできるだけ応えたいとは思っておりまして、要望されればそこに向けて全力を尽くしていきます。

──今年から新しくパートナーを組む童夢ですが、開幕戦で5位という結果を残しています。
小田島氏:第1スティントを担当した山本選手は全車の中で飛び抜けて速く、ピットインのタイミングまでに3位まで順位を上げることに成功しました。第2スティントを担当したマコヴィッキィ選手は、GT500初めてどころかSUPER GTも岡山サーキットも初めてという状況の中で、GT300の処理を上手にやっていたのが印象的でした。18号車はオフシーズンのセパンテストにも行っておらず、テストも十分にできていない状況でした。その中で、チームとしてもポイント獲得を目標にしていましたが、目標を達成したなかなかの出足だと思います。ただ、これから夏場に向けて温度が高いところでのデータが不足していますので、これからその点の解消に取り組んでいきたいと思っています。

──新しくドライバーとして加わったフレデリック・マコヴィッキィ選手は初めてのSUPER GTでいきなりGT500ですが、安定して速く、評価が高まっています。ミシュランに馴染みがあるドライバーということですか?
小田島氏:彼はフランス人のドライバーですが、本国で実際に試作タイヤなどに乗ってもらいコメントを聞くドライバーの1人です。どのメーカーでもそうだと思いますが、どのカテゴリーのタイヤであっても「これがミシュランだ」という特性みたいなモノがあるのです。彼はいろいろなカテゴリーでミシュランを履いてきており、実際昨年のFIA-GTで2位という実績もありますし、童夢様のテストで乗ったときにも、最初のテストから結構やるなという評価を受けていました。

──GT300に関しては2010年以来の復帰となります。GT300への供給を再開したのはなぜですか?
小田島氏:今までもGT300に関しても興味がなかった訳ではなく、参入したいという意向は持っていました。しかし、チーム様との条件、その他で折り合いがつかず、ここ数年は参入を見送ってきました。しかし、今回はスバル/STI様から、我々のタイヤの技術面に大いに興味があるというお話しを頂きまして、技術面や会社双方の取り組みとしていい接点を見いだすことができましたので、参入するということになりました。

ミシュランのフィロソフィーはスタートからゴールまで安定して安全に走れるタイヤ

──GT500は09年規定最後の年を迎えて、シャシー側がかなり煮詰まってきて、3メーカーの差も小さくなっています。フォーミュラと箱車の中間という表現をするドライバーもいるぐらいで、速さは上がっていると思います。

小田島氏:そうですね。09年規定が採用されてからそうした傾向があることは否定できません。また、確かにシャシーの性能差も煮詰まってきて無くなってきていますが、車両側の最適化が進み、空力パーツがどんどん改良されていくことで速さというのは毎年上がり続けています。タイヤに対する負荷は増え続けているのです。実際、鈴鹿サーキットで行われたテストでは、1分49秒台のタイムがでています。もちろんフォーミュラカーに比べればまだまだですが、これは重量が1100kgの車が走ったタイムなのです。フォーミュラカーとの重量差を考えれば全然負けていないと思います。

 従って、タイヤメーカーとしてはそうした環境の中で、安全にスタートからゴールまで行け、不要なリスクを冒さずに競争力を維持するタイヤを作る、これがミシュランのフィロソフィーです。ではそれをどのように実現するかは具体的にはお話しはできませんが、大まかにいえば、性能を出すためにリスクをとれば行けるかもしれないというシーンがあると思うのですが、そうした時に我々の中できっちり自制して想定される距離を、性能を発揮して、かつ安全に使える範囲に収めていく、そうしたことが大事だと考えています。

──逆に言えば、多少をリスクをとれば、尖ってるけど速いタイヤというのが作れるのですね。
小田島氏:言うまでもなくレーシングの世界では、どのパーツでも尖ったモノを作るのは正常な姿です。ただ、その中で安全に対して自分達の中で線引きをしておかないとどこまでもいってしまいます。ミシュランにとっての一番速いタイヤというのは、スタートした誰よりも早くゴールにたどりつくタイヤなのです。たとえ、レース中の最速ラップを出せるタイヤであっても、それが途中で問題が発生してゴールまでたどりつくことができなければ、それは“速い”タイヤではないのです。

2014年以降もSUPER GTには参戦する予定で、新規定のタイヤを開発中

──2014年にはGT500でDTMと共通化した新車両規定が導入されます。その14年への準備はどれくらい進んでいますか?

小田島氏:ようやく2014年の規定が確定し、サイズが決まったので、その基礎デザインを行っている段階です。ご存じの通り、現時点ではまだ車両がなく、タイヤへの入力がどの位になるのかなどは、カーメーカーからデータをもらわないとできませんので、実際の形というのはこれから作ることになるでしょう。

──タイヤ戦争は2014年は2013年より年より激しくなるでしょうか? また、ミシュランの来年以降の計画については?
小田島氏:競争はこれまでどおり続いていくと思いますし、さらに厳しくなるでしょう。ただ、2014年に関しては車の規定が完全に変わりますので、勢力図がどうなっていくかは現時点では見えていません。全メーカー同じスタートラインには立っているので、開発効率が問われることにはなるでしょう。

 また、2014年の活動に関しては、それこそミシュランがなくなるような大きな変化がない限りは継続する予定です。2013年に参加しているということは、2014年の準備ということも含まれますので。

──最後に今年の目標を教えてください。
小田島氏:GT500ですが、ニッサン様に関してはGT-R最強のタイヤであるミシュランのポジションを維持しながら、さらなる最良の結果を出していくことです。ホンダ様に関しては、いち早くHSV-010の特性を理解して、最適なタイヤを提供していきたいということです。最終的にはどちらの車でもベストのタイヤになるということを目指していきたい。他メーカー+レクサスの組み合わせが上位を独占した場合には、それがタイヤ由来なのか、車両由来なのかは分かりませんので、まずはGT-R、HSVそれぞれでNo.1になることが目標です。それがタイヤメーカーにとってのNo.1ですから。

 GT300に関しては、今はBRZという車両の特性を勉強中ですので、それを早くつかんで先方のニーズに合うようなタイヤを供給していきたいです。


 こうしたミシュランだが、開幕戦では小田島氏のいう目標(4位)を上回る3位という結果を23号車MOTUL AUTECH GT-Rが獲得し、ミシュランとの組み合わせでは初レースとなる18号車ウイダー モデューロ HSV-010が5位に入るなどの大活躍を見せた。確かに、例年開幕戦の岡山では、ミシュラン勢が表彰台に来るような活躍を見せた記憶は無く、そうした意味では上々の滑り出しだったと言えるだろう。だが、一転して第2戦は厳しいレースとなってしまった。エースカーとなる23号車がトラブルでリタイヤし、1号車REITO MOLA GT-Rは9位、18号車は10位がやっとという結果で、惨敗と言ってよい結果だった。ただ、上位をブリヂストン+レクサス SC430勢が独占したのも事実で、今回はタイヤというよりは、レクサスSC430のレースだったということはできるだろう。

 第6戦富士を終わってのミシュランのGT500クラスの成績は、18号車ウイダー モデューロ HSV-010が1位、23号車MOTUL AUTECH GT-Rが3位。HSVユーザーでは1位となっているミシュランだが、GT-Rユーザーでは2番目のポジションとなっている。残り2戦で、小田島氏の目標としている各ユーザーで1位というのが実現するかどうかが興味深い。この実現は、SUPER GT500クラスにおいて、1-2をミシュランが占めることになるからだ。

 一方、GT300クラスは、予選の速さが結果に結びついてきたBRZがランキング3位。GT300クラスも激しい戦いとなっているだけに、残り2戦で大きく順位が変動しそうだ。

 注目の「2013 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 SUPER GT in KYUSHU 300km」は、10月5日~6日にオートポリスで開催される。

笠原一輝

Photo:安田 剛