特別企画

【特別企画】2014年のSUPER GTへ向け取り組み始めたタイヤメーカー(ダンロップ編)

2013年シーズンを振り返り、2014年の展望について聞く

 SUPER GTタイヤメーカーインタビューの第4回はダンロップ(住友ゴム工業)。ダンロップはSUPER GTのGT500クラス、GT300クラスに参戦している。そのダンロップのSUPER GTでの活動について、住友ゴム工業 モータースポーツ部長 植田氏、同 モータースポーツ課長 中田氏のお2人に、2013年の振り返りと、2014年の取り組みについてお話しをうかがってきた。

住友ゴム工業 モータースポーツ部長 植田氏(右)、同 モータースポーツ課長 中田氏(左)

古くからモータースポーツ活動に力を入れている住友ゴム工業

 住友ゴム工業は、タイヤやスポーツ用品などの製品を製造する日本のメーカーで、タイヤではダンロップ、ファルケン、グッドイヤーという3つのブランドで製品を展開している。

 モータースポーツに積極的に取り組んでいる企業でもあり、1995年以前は現在のスーパーフォーミュラの前身となる全日本F3000選手権にもタイヤを供給していた。1989年と1994年には同社のタイヤを履いたドライバー(小河等、マルコ・アッピチェラ)がチャンピオンに輝くなどの成果を挙げている。

 SUPER GTにも古くからタイヤを供給していて、ここ10年は一貫して日本人初のフルタイムF1ドライバーである中嶋悟氏が率いるナカジマレーシングに供給しており、ダンロップとナカジマレーシングのコンビネーションはファンならおなじみの体制だろう。2013年もGT500クラスは32号車 EPSON HSV-010にタイヤを供給しており、例年どおりの体制となっていた。

 また、GT300にも積極的に取り組んでいる。毎年のようにチャンピオン争いに絡んでいるゲイナーチームとのコンビネーションは有名だ。2012年までは1台体制での参戦になっていたが、2013年は2台に拡大し、10号車GAINER Rn-SPORTS DIXCEL SLS、11号車GAINER DIXCEL SLSの2台のメルセデス・ベンツ SLS AMG GT3にタイヤを供給した。特に11号車は平中克幸選手、ビヨン・ビルドハイム選手というGT500を戦っていても不思議ではない2人の組み合わせになっており、2013年こそ念願のチャンピオンが期待されたシーズンだった。

●2013年GT500クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
32NAKAJIMA RACINGEpson HSV-010道上龍/中嶋大祐12位

●2013年GT300クラスの主な戦績

カーナンバーエントラント車両名ドライバーシリーズ順位
11GAINERGAINER DIXCEL SLS平中克幸/ビヨン・ビルドハイム2位
10GAINERGAINER Rn-SPORTS DIXCEL SLS田中哲也/植田正幸11位

“恵みの雨”は来ず、結果的には厳しいシーズンとなったGT500

 ナカジマレーシングとの長期パートナーシップを続けているGT500だが、2013年シーズンはダンロップにとって厳しいシーズンだった。入賞できたのは、第4戦菅生の8位、第7戦オートポリスの10位という結果で、シーズン当初に掲げていた“少なくとも1勝”という目標を達成することは残念ながらできなかった。

植田氏

 その要因はいくつかあるが、ダンロップの植田氏によれば「初戦では入賞こそできなかったものの前との差は小さかった。だが、その差はその後は徐々に縮まってきたが、大きく縮まることはないまま終わってしまった。特に2013年はGT500が2009年規定車最終年ということもあり、タイヤメーカーの競争の段階が1段階上がってしまった」とのことで、ダンロップとしても開発を進めることでタイヤそのものの性能は上がっているものの、15台が1秒の中にひしめく非常に高いレベルの競争の中で浮上できなかったと振り返る。

 また、2013年はダンロップが“速い”とされているウェットタイヤの出番がなかったことも、浮上できなかった理由の1つになるだろう。特に2012年シーズンは、ウェットでのダンロップタイヤの“驚速”さは際立っており、雨が降ると32号車が上位に来るというシーンが何度もあった。だが、2013年はシーズンを通じてレース中にウェットタイヤを利用するような雨は降らず、結果としてダンロップ自慢のウェットタイヤが登場するシーンはなかった。

 こうしたシーズンだったこともあり、植田氏の自己採点は「20点、いや40点かな」と非常に辛いものだった。植田氏としては、「ほめていただいているウェットタイヤにしても、他メーカーが追い上げてきていることは認識しており、開発をさらに前に進めつつ2014年はドライタイヤの開発を急ピッチで進めて、ドライタイヤで表彰台獲得を目指したい」と2014年シーズンに目が向いているようだ。

“FIA-GT3クラスのチャンピオン”になったGT300の活動

 ダンロップのGT300の活動に関しては、残念ながら当初の目標として掲げていたチャンピオン獲得こそならなかったものの、11号車GAINER DIXCEL SLSがランキング2位となり、かつ重量ハンデがどの車にも課されない開幕戦と最終戦で優勝を勝ち取るという成果を挙げた。言うまでもないことだが、ハンデがない開幕戦と最終戦は、そのクルマ、そのチームが持つ本当の力が反映されるレース。そのレースを2つとも獲ったのだから、11号車GAINER DIXCEL SLSは最速のクルマだった。

 しかし、最速のドライバーやクルマ&タイヤでもシリーズチャンピオンになれないのが、SUPER GTの面白いところ。特に2013年のGT300に関しては、FIA-GT3とJAF-GT300の性能調整が非常に難しいシーズンだったと言ってよい(ここ数年毎年そうだとも言えるが……)。この2年間は、FIA-GT3がJAF-GT300を性能で上回っているシーズンが続いていたが、2013年はそれが逆になり、特にモーターを搭載しそれをエクストラパワーとして利用することができたJAF-GT300のハイブリッド車と、その他の車両との釣り合いをSUPER GTを統括するGTAも悩んだ1年になってしまったからだ。ダンロップが供給しているゲイナーチームが走らせる2台はいずれもFIA-GT3のマシンであり、ランキング2位という結果はFIA-GT3車両の中では最上位。仮にGT300の中にFIA-GT3クラスがあれば、11号車GAINER DIXCEL SLSがチャンピオンだったと言ってよい。

中田氏

 こうした好成績を収めた背景には、最終戦においてもタイヤの構造を変えているなど、常にタイヤを進化させていることが挙げられる。中田氏は、「構造を変えたタイヤを最終戦のもてぎ戦に投入しました。このタイヤでは構造を調整し、接地性を上げています」と説明する。その結果が最終戦の優勝、そしてランキング2位という座を獲得することにつながったと言ってよいだろう。

 ただ、植田氏はチャンピオンを逃した反省点としては「最終戦であれだけの差がつけられるなら、もっと前からできていればチャンピオンを獲得することができた。これは2014年以降の反省点としていきたい」と述べ、チャンピオンを獲得できなかったことを除けば概ねシーズンに満足しており、GT300の自己採点は80~90点とのことだった。FIA-GT3勢の中で最上位だったということを考えれば、十分にうなずける自己評価だろう。

2014年規定に向けて開発を進める、ナカジマレーシングとのパートナーシップは継続へ

 一定の成功を収めたGT300、そしてやや消化不良感が残ってしまったGT500というのがダンロップの2013年のSUPER GT活動と総括することができるが、すでに2014年シーズンに向けた動きは始まっている。

 既報のとおり、SUPER GTはGT500の車両規定をドイツのDTMと統合し、エンジンに関してもJREと呼ばれる直噴直列4気筒ターボエンジンという新規定を導入する。それに合わせてフロントタイヤの外径が変更され、現状に比べて若干径の小さなタイヤが導入される。つまり、シャシーも、エンジンも、タイヤもすべてが新しくなるシーズンになる。こうしたシーズンでは従来の勢力図がガラッと変わることはよくあることで、思い返してみれば、F1の車両規定が大きく変わった2009年シーズン以降、F1のパフォーマンスリーダーが一貫してレッドブルになったのはよい例だろう。

 その2014年シーズンに向けてだが、すでにダンロップもタイヤ開発を始めているという。2013年シーズン中にダンロップに割り当てられた2014年用のタイヤテスト時間は8時間で、菅生、富士で1回ずつテストを行っている。植田氏によれば「車両は軽量になるが、ダウンフォースは増えており、タイヤにかかる荷重は増えている。タイヤは荷重が増えると壊れてしまうので、まず耐久性を確認した上で、性能をチェックすることになる。このイニシャルのテストでは耐久性に関しては確認できたので、これから性能のチェックをしていくことになる」とのこと。取材時点(2013年11月)では最初の状況を確認した状態だという。今後はそこに徐々にチューニングを加えていき、性能を向上させていく。この増える荷重に対してどのように対処するのかは、全タイヤメーカーの担当者が指摘しており、荷重に対しての耐久性を確保しつつ、性能を上げていくという課題にどのメーカーもチャレンジしていくことになる。

 オフシーズンのテストも行う予定で、温暖な気候で冬場のテストに適しているマレーシアのセパンで12月に行われた合同テストにホンダ勢としては唯一参加し、タイヤ開発テストを行った。ただ、この時点では、ホンダの新車がデリバリーされておらず、2013年車(HSV-010 GT)でのテストとなっている。取材時点での植田氏の評価としては「2014年規定の導入でシャッフルされるのは事実だが、基本的には現在の差を急速に縮めるのは簡単ではない。ただし、2014年のNSX-GTの性格はミッドシップとなるので、HSV以前に利用していたNSXの性格に近づいていくのではと考えている。その時の経験を生かして早く上位に追いついていきたい」とのことだった。

 2014年シーズンの目標だが、植田氏は「GT500に関しては、ドライ性能を引き上げて、ドライで表彰台を目指したい。ウェットも他メーカーが追い上げてきているので、引き続き開発に力を入れて引き離してきたい。GT300に関してはシンプルにシリーズチャンピオンを目指したい」とした。正式発表前であるため2014年の体制などに関して植田氏は語らなかったが、ナカジマレーシングと共同でGT500の2014年シーズン用タイヤのテストをしていることなどを考えれば、GT500に関してはナカジマレーシングと組むのではないだろうか。GT300に関しても、GAINERと組む可能性が高いと言え、こちらは惜しくも逃したチャンピオン獲得を目指すことになる。

笠原一輝

Photo:安田 剛