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ブリヂストン、ニュルブルクリンク24時間レースへの取り組みを説明

「かなり難しい目標だが、シングルの順位を狙いたい」とトークショーで大嶋選手

2016年5月11日 開催

左から株式会社ブリヂストン 日本直需タイヤ販売第2本部長 井出慶太氏、大嶋和也選手、株式会社ブリヂストン グローバルブランド戦略・モータースポーツ推進本部長 久米伸吾氏、株式会社ブリヂストン タイヤ開発第2本部長 坂野真人氏

 ブリヂストンは5月11日、東京都内で記者会見を開催し、同社がトヨタ自動車のTOYOTA Gazoo Racingと共同で参戦するニュルブルクリンク24時間レースへの取り組みに関しての説明を行なった。

 ニュルブルクリンク24時間レースは、ドイツにある歴史的なサーキット「ニュルブルクリンクサーキット」の北コース(ドイツ語でノルドシュライフェと呼ばれる)で、FIA GT3や市販車を改造したレーシングカーなどが走る、日本で言えばスーパー耐久シリーズに似たレースとなる。

 ブリヂストンは、2007年からGazoo Racingと共に参戦を開始し、今年はその10年目という節目の年となる。それに合わせてニュルブルクリンクの会場内にコミュニケーションブースを出店して、20万人と言われる観客にブリヂストンの取り組みをアピールするほか、同社のスポーツブランドとなるPOTENZAブランドのタイヤをアピールする場として活用する。

ニュルブルクリンク24時間レースに参加することで欧州市場にアピール

株式会社ブリヂストン グローバルブランド戦略・モータースポーツ推進本部長 久米伸吾氏

 ブリヂストン グローバルブランド戦略・モータースポーツ推進本部長 久米伸吾氏は「ブリヂストンのブランドコアは“1人ひとりを支える”で、さまざまな設定で支えていく。スポーツへの貢献は重視しており、なかでもモータースポーツは本業に直結する大事な活動。そうしたモータースポーツ活動は、SUPER GT、鈴鹿8耐、全日本ロードレースのようなほかのタイヤメーカーと切磋琢磨しながら貢献していく競技を通じたものと、86/BRZレースやN1レースのようなワンメイクへの供給などを含む参加型モータースポーツの2つに分けられる。ニュルブルクリンク24時間レースは後者の頂点に位置づけている」と説明した。

ブリヂストン・モータースポーツ活動の位置づけと狙い
モータースポーツ活動の5つのポイント
他社との競争と参加型の2つに分けて活動を実施

 ニュルブルクリンク24時間レースは1970年からドイツのニュルブルクリンクサーキットで行なわれている耐久レースで、フランスのル・マンで行なわれているル・マン24時間レース、アメリカのデイトナで行なわれているデイトナ24時間レースと並んで「世界三大24時間レース」の1つとされている。ル・マン24時間レースがプロトタイプカーがメインであるのに対して、ニュルブルクリンク24時間レースは一貫して市販車ベースのレースとなっており、偉大なる草レースとも呼ばれている。

 参戦車両は、日本で言えばSUPER GTのGT300クラスやスーパー耐久シリーズに出ているようなFIA GT3車両、さらにはスーパー耐久シリーズのFIA GT3車両以外の車両といった市販車ベースのレーシングカーで、実に200台の車両がエントリー。メーカーのワークスチームから地元ドイツのチューニングショップまで、プロとアマが混走するレースとなっている。そうした意味では参加型レースではあるのだが、ドイツメーカーを中心にワークスチームが参戦していることもあり、見るレースとしても20万人近い観客を集めるビッグイベントに成長している。

 久米氏は「ブリヂストンは2007年からTOYOTA Gazoo Racingの一員として参加してきて、今年で10年目。今年からはファンに向けたコミュニケーションブースを設けて、欧州市場でのマーケティングの起点として、来場される20万人のクルマ好きの方にアピールしていきたい」と述べ、今年からはタイヤメーカーとしてタイヤを供給する活動だけでなく、マーケティング面での活用にも力を入れていくと説明した。久米氏によれば、欧州で展開している「POTENZA S007」「POTENZA S001」といったタイヤのアピールや、ニュルブルクリンクをテーマとした広告の展開などが予定されているという。また、同時に日本からモータースポーツ部隊や技術部隊などが派遣され、現地ドイツのサービスと協力してサービス体制も強化していくと説明した。

ニュルブルクリンク24時間レースの概要
ブリヂストンとTOYOTA GAZOO Racingのニュルブルクリンク24時間レースへの取り組みの歴史
2016年の取り組み。マーケティング面での活用にも力を入れていく
オペレーション体制の強化
コミュニケーション施策の強化

レースタイヤの技術を市販タイヤにフィードバック

株式会社ブリヂストン タイヤ開発第2本部長 坂野真人氏

 続いて登壇したブリヂストン タイヤ開発第2本部長 坂野真人氏は、ニュルブルクリンク24時間レースで供給するタイヤについて説明した。坂野氏によれば、参戦するTOYOTA Gazoo Racingに供給するタイヤには、これまでも純レースマシン用タイヤと量産車ベース車両向けタイヤの2種類を作ってきたが、今年も同じように2種類を供給していくという。

 坂野氏は「レース用には305や330などの幅広タイヤを作ってきたが、今年もレクサス RC Fを走らせる『TOYOTA Gazoo Racing with TOM'S』にはフロント300、リア330を、レクサス RCとC-HRには、245ないしは215サイズのタイヤを供給する」と述べ、純レースマシンのレクサス RC F用タイヤはSUPER GTのものをベースに開発し、レクサス RCとC-HR用には量産車向けタイヤとなる「POTENZA RE-11S」をベースに開発していると説明した。

 坂野氏によれば、ニュルブルクリンク24時間レースで求められるタイヤは、日本国内のレースなどで使われているタイヤとは大きく異なっているのだという。ニュルブルクリンク24時間レースが行なわれるニュルブルクリンクサーキットは、GPコースと呼ばれるF1などで利用されるショートコースと北コースと呼ばれる外周コースを合わせた1周25kmのロングコースで行なわれる。GPコースの方はきちんと再設計された近代的なコースだが、北コースは20世紀の初頭に作られたクラシックなコースで、路面のうねりが大きくコース幅も狭かったりするチャレンジングなコースとされている。「ニュルブルクリンクは高低差が大きくギャップも多く、タイヤへの入力が高くなる。これに対応する高いケース耐久性が求められる」と坂野氏は述べ、ニュルブルクリンク24時間レース用のタイヤはグリップ力だけでなく、そうしたケース耐久性が重要になると説明した。

これまでの供給タイヤサイズ
2016年の参戦車両とタイヤサイズ
ニュルブルクリンク24時間レースに求められるタイヤの性能
ドライ用POTENZA RS
ウェット用POTENZA RW
レースタイヤの開発目的

 坂野氏はそうしたニュルブルクリンク24時間レースの特性に合わせたタイヤとして、ドライ用の「POTENZA RS」、ウェット用の「POTENZA RW」を紹介し、「ドライ用は高低差とギャップに耐える耐久性を持ち、昼と夜で異なる路面温度に対応できるレンジの広いタイヤになっている。ウェット用はスーパーフォーミュラに使用していたパターンをベースに開発した」と述べ、いずれのタイヤもブリヂストンのレース用タイヤの知見を反映しながら、ニュルブルクリンク24時間レースの特性に合わせたものになっていると説明した。

C-HR用のPOTENZA RW(ウェット用・写真左)とPOTENZA RS(ドライ用・写真右)

 また、坂野氏は「レースタイヤの開発はコンパウンド、構造などのほか、計測・分析技術も重要になっている。現在発売している『POTENZA RE-05D』や『REGNO GR-XI』にはそうした知見も応用しており、今後もレースを通じて培われた技術を市販用のタイヤに展開していきたい」と述べ、こうしたレースでの活動が市販タイヤの開発にもつながっているのだとアピールした。

C-HR向けウェット用タイヤのPOTENZA RW。サイズは215/40 R17で、トレッド面の溝はスーパーフォーミュラ用のパターンを発展させて使っている
C-HR向けドライ用タイヤのPOTENZA RS、サイズは同じく215/40 R17

「かなり難しい目標だが、シングルの順位を狙いたい」と大嶋選手

ピストン西沢氏の司会で座談会型式のトークショーが行なわれた
ピストン西沢氏

 プレゼンテーションの終了後には、DJのピストン西沢氏が司会を務め、ドライバーとブリヂストン関係者によるトークショーも行なわれた。参加したのは、TOYOTA Gazoo Racing with TOM'Sでレクサス RC Fをドライブする大嶋和也選手と、ブリヂストン 日本直需タイヤ販売第2本部長 井出慶太氏。井出氏は2007年にブリヂストンがトヨタとニュルブルクリンク24時間レースに参戦を開始した当時のメンバーだったという。

大嶋和也選手

――TOYOTA GAZOO Racingってどんなチームで、ニュルブルクリンクってどんなコース?

大嶋選手:ニュルブルクリンクって厳しいコースで、すごいコース。ドライバーにもクルマにも厳しい。ギャップも厳しくて本当にいいクルマでないと恐くて走れない。ドライバーを鍛え、人を鍛えるコース。チームのメカニックも鍛えられる。メカニックはトヨタの社員で毎年新しい人たちが入ってくる。実験開発の人などが身をもって体験する。日本でレースをやってると想定した問題しか出てこないけど、ニュルブルクリンク24時間レースだと想定外の課題が出てくる。200km/hオーバーで飛んで着地したりするといろいろおこる。

――ブリヂストンが目指しているところは?

井出氏:ブリヂストンにとってタイヤ開発の聖地というところもあるけど、トヨタさんが人を鍛える、クルマを鍛えるということに共感して一緒にやることになった。現在においてはプロのドライバーに乗って頂いたりしているが、挑戦当初はドライバーもメカニックもトヨタの社員という状況で参戦していた。参加型の24時間レースに参戦するというところにトリガーがあった。

――最初のうちは知名度はどうだったか?

井出氏:日本では知名度はなかった。2007年にアルテッツアで始めたけど、ほとんど注目されていなかった。最初はトヨタの冠はついているけど、素人集団がレースをやっているという形からスタートした。

――ブリヂストンのタイヤを売ってくれないかという依頼はあったりするのか?

井出氏:当時から欧州のタイヤメーカーは現場でタイヤを売ったり、ブースを出したりしていた。一部弊社をご存じの方は、自分たちにもチャンスをもらえないかという声は頂いたこともある。そうしたなかでトヨタさんだけでなく、日産さん、スバルさん、マツダさんなども挑戦を始められた。そうした日本メーカーが出ていくことは大きな意味がある。

――(大嶋選手に)プレッシャーは?

大嶋選手:感じている。僕たちが間違ったコメントをスタッフに言うと成績が下がってしまう。今年は天気が不安定で、路面温度が5℃にも満たないときがあったり、その逆に20℃を超えるときがあったりする。そうしたなかで、今年のタイヤはレンジが広くてどんな状況でもグリップしてくれる。国内のレースならタイヤのレンジが外れても身の危険は感じない。でも、ニュルならとても恐い、1周回ってくるのが恐い。安定して走れるという信頼性が大事。他メーカーのタイヤを履いているところではそこら中でタイヤバーストが起きているが、僕たちのタイヤはそうしたことがない。

――ブリヂストンにとっては?

井出氏:ニュルの24時間は天候、温度、条件の変化が非常に激しい。弊社としてはドライバーを支えることを主眼にして供給している。ドライバーの要求は高まっていて、毎年毎年同じポテンシャルで戦っていけるかが大事だ。

――この(会場に置かれた)タイヤはCR-H用だけど、新しいクルマ用としての苦労は?

井出氏:RC F、RCはベース車両が毎年出ている。それに対してCR-Hは今年からの新しいクルマで、マッチングをまだ見ていない部分もあったようだ。

――(大嶋選手は)今年はTOM'Sからの参戦となるが?

大嶋選手:メカニックとしてSUPER GTに関わっているメンバーが参戦する。ニュルは特殊で、今一生懸命勉強しているところ。足まわりなどが日本とは大きくことなっている。日本である程度作っていったのだけど、実際に走らせるとだいぶフィーリングが違っていたので。

――やはり夜は恐いのか?

大嶋選手:夜は恐いが、夜だけじゃなくて昼も恐い。最初走ったとき、こんなところでレースできるのかと、ストレートでアクセル全開にできなかった。ストレートは全然休めない。

――そもそも1周25kmのコースっておかしい?

井出氏:まさに欧州の自動車文化の象徴的なところ。コースの長さやタフネスさもそうだが、観客の人もコースの周りでキャンプしながら楽しんでいる。そういう1つの文化で、そこも楽しいところ。例えば、予選が始まる前の水曜日とか、木曜日とかから家族で来て、コースサイドで見ながら本戦を迎える。本戦のときでも小さい女の子が楽しんで見てくれる。そうした子が大人になって今度は家族を連れてきてくれる。そうしたモータースポーツの楽しみ方の裾野を広げることをトヨタさんと一緒にやっていきたい。

大嶋選手:そうした欧州の自動車文化には憧れみたいのがある。レクサスやトヨタにもそうなってほしいと思っている。

――(豊田)章男さんがステアリング握ったときはどうだったのですか?

大嶋選手:最初ははらはらしたけど、今はそんなことはないと思う。本人も「自分はプロじゃない」と言うけど、今年のクルマは微妙だなと思って乗ってみると、もう乗ってくれなくなるなる(笑)。そういうセンサーがすごい人。

井出氏:豊田社長も1年目に運転されているのだけど、2007年にぽっと乗って運転した訳ではなく、そこまでにいたる努力がすごかった。日本各地のサーキットで、亡くなられた成瀬さんが手取り足取り教えて、努力されてあのレベルになったんです。

――御本人は乗りたいと思ってらっしゃるんですよね?

大嶋選手:細かいことは僕の口からは言えないが、本人が乗りたいと思っていることは間違いない。

――現場での調整なども多いのか?

株式会社ブリヂストン 日本直需タイヤ販売第2本部長 井出慶太氏

井出氏:多くのスタッフが初めての体験。終わったあとのほっとした部分を見ていると、ドラマ以外のなにものでもない。1台につき、温度領域を考えて3種類。明け方が一番下がり、日中用、夕方から夜中までのタイヤ。そこに降雨があると昼間でも温度が下がるので、ウェット1種類、セミウェット1種類を持って行く。

大嶋選手:雨が降ると悩む。ピット前はドライなのに、裏では土砂降りになったりする。そういうときはドライで我慢して走っていたほうがいいけど、クラッシュしたら意味がないので、変えた方がいい。温度領域にあったタイヤならドライで走れる場合がある。幅があるタイヤだとちょっと濡れてても走れる。

――コースは全部覚えている?

大嶋選手:まず「グランツーリスモ」で覚えて、コースを走ったあとにもう1度グランツーリスモで復習するということで覚えた。未だに全部はつかみ切れていないので、コースを走っていて新しい発見がある。ただ、あまり突き詰めると危険な領域になるので、押さえながら走っている。

――実際に走って驚いたことは?

大嶋選手:全部。普通に1周走ったけど、戻ってこれてよかったということがあった。今年は2スティント(1スティント10周)連続で走るので、集中力を保つのが難しい。

――このクルマで優勝を目指す? また、同僚ドライバーのタイムは気になるのか?

大嶋選手:あまりそういうのは気にしないようにしている。15秒遅くても、日本のコースのコンマ数秒差ぐらいだと考えた方がいい。24kmのコースで200台が走るので、クリアラップはとれない。24時間になれば、ほとんどどこかでイエロー(フラッグ)が出ている。割と楽しくやっている。リスクを冒さないレベルで頑張って走る。今年のクルマはちょっと重いので、当初はあまり期待していなかったけど、わりと速かったので、頑張ればGT3の数台を食えると思っている。最後まで走りきってデータを取るのが僕たちの仕事で、絶対に完走することを目指して走る。

――抱負を。

大嶋選手:TOM'Sのメンバーと、ある程度結果を意識しながら走りたい。少しだけ総合の上位に行きたいという意識もあるので、総合でシングルでゴールしたい。TOP10はそうとう遠いけど、いずれは総合優勝も狙いたい。

井出氏:10年目という1つの節目。24時間のドラマをみなさんに伝えたい。ブリヂストンとしてはドライバー、メカニックが安心してレースにチャレンジできるタイヤを作ることで貢献したい。

(笠原一輝)