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スズキ、惰行法ではない独自の走行抵抗値を国交省に提出していた問題に関して記者会見
「販売はこれからも続ける。自信を持って売っていただきたい」と鈴木修会長
(2016/5/18 22:41)
- 2016年5月18日 開催
スズキは5月18日、国土交通省からの指示を受けて実施した排出ガス・燃費試験における実態調査で、国交省が定める規定と一部異なる取り扱いがあったと発表。同日に国土交通省内で記者会見を行なった。
会見ではまず、スズキ 代表取締役会長(CEO)の鈴木修氏が「公表のとおり、国土交通省からの指示を受けまして調査を行なってまいりました。先ほど、調査結果について報告をいたしました。内容については後ほど詳しくご説明させていただきますが、走行抵抗値の申請値については、タイヤ等の転がり抵抗の実測値や風洞試験装置での空気抵抗の実測値を積み上げた走行抵抗値を使用しております。結果として定められた測定方法を用いていなかったことについて深くお詫びを申し上げたいと思います」。
「『お客さまにご迷惑を掛けていないか』という思いから、認証時のデータと惰行法による実測値の関係を改めて検証いたしました。その結果、『当社の燃費表示には問題がない』ということを確認できましたので、このことも国交省に報告いたしました。いずれにせよ、定められた測定方法を用いていなかったということについて、重ねてお詫びを申し上げます」と語り、登壇したスズキ 代表取締役社長(COO)鈴木俊宏氏、スズキ 代表取締役副社長 本田治氏、スズキ 常務役員 四輪技術本部長 笠井公人氏とともに陳謝した。
これに続き、鈴木俊宏社長からCar Watchでもすでに誌面で紹介している国交省に対して行なった報告内容についての説明が行なわれ、加えて今後の対応として、「惰行法により測定した走行抵抗を申請値として使用していなかったことが判明したことを重く受け止め、直ちに相良テストコースへの防風壁の設置、走行路面の整備、データ取得のための試験装置の台数追加などを行ない、惰行法による測定が効率的に行なえる環境を整え、走行抵抗の実測が必要な全仕様について惰行法によるデータ取得、および申請値としての使用の徹底を行なっていきます。また、試験法に不明な点がある場合については、必ず国交省に事前に相談するよう社内に徹底いたします」と解説している。なお、国交省に対する報告内容についての詳細は関連記事を参照していただきたい。
「見かけ上の燃費をよくしようという意図はない」と本田治副社長
概要報告に続いて行なわれた記者との質疑応答では、問題となった惰行法とは異なる走行抵抗値の算出がおよそ2010年から続けられてきたと把握していること、測定現場では惰行法での測定も合わせて行ない数値は残しているということから「深刻な違反を行なっている」とは認識していなかったと考えていること、対象となる16車種がこれまでに累計で210万台以上を販売していることなどが明らかにされた。
この説明のなかで本田治副社長は、独自の走行抵抗値の算出がおよそ2010年から行なわれてきたと考える理由について「タイヤ(の転がり抵抗)や車体の空気抵抗といった1つ1つの要素を実測するためには装置が必要です。その装置を弊社が導入したのが、今分かっている範囲では空気抵抗を調べる風洞は2006年、タイヤやトランスミッションなどの単品での測定を行なえる装置は2009年から2010年にかけて導入しています。したがって、これらの装置がそろった2010年ごろから行なわれてきたと考えています。もちろん惰行法についても続けていますが、それと参照しながら算出しているというのが調査結果です」と語った。
独自の走行抵抗値の算出を行なった動機については「結論から言えば、いろいろと調査してデータを検証しても、『燃費をよくしよう』という意図が働いた形跡はありませんでした。不安定な作業のなかで、より効率を高めて的確なデータを得ていきたいということが動機だったと判断しています。燃費を上げようという意図は決してなかったと私どもは考えており、先ほど会長、社長が説明しておりますとおり、『燃費については疑念がない』と国交省様にも報告させていただいた次第です。また、16車種すべてで認証を受けるときの申請値として提出した走行抵抗値と、実際に惰行法で計測した過去の数値、最近になって改めて計測した数値によって検証した結果でも、走行抵抗値は同等の範囲にあると判断しています」と本田治副社長は述べている。
また、回答のなかでキーワードになった2010年というタイミングについて、本田治副社長は「日本のみならず世界中で、燃費基準が2005年、2010年、2015年と要求が非常に高まっていきました。それまでは測定した数値がばらついていてもそれを使ってなんとかやっていける時期だったと思います。しかし、2010年、2015年と、例えば欧州のCO2基準が厳しくなる、日本においても燃費基準が高まる、それのみならず、早く達成するといろいろとインセンティブがある。こういったなかで私どもは2つの方法をとってまいりました。その2つというのは、それまで私どものなかで無頓着だった走行抵抗。これを各社さんのいろいろな研究発表などを見ると、『エンジンだけを頑張るのではなく、走行抵抗をもっと一生懸命にやらないとだめだ』ということがしきりに論文などで出ていました。これに対して弊社も対応すべきであるということから、先ほど出た装置は、最初は研究開発のため、より走行抵抗を精密に知って開発に生かそうということで導入したものです。これが1点と、2つめは技術開発で、軽自動車で言えばエンジンを刷新して、CVTも古いタイプから新しいタイプにしたこと。そのほかにも軽量化や他社さんに先駆けて電気装置を入れて燃費を上げるような技術開発を同時に進めました」。
「私自身が信じているのは、そこにけっして見かけ上の燃費をよくしようと走行抵抗値を操作するという意図はありません。なぜならいろいろな環境を整えて『燃費を正味で出す』ということに取り組んでくれているからです。その大きな境目が、社会的な要請として2010年ごろにあったと振り返って感じます。ただし、大変申し訳なくお詫びしているのは、みなさんがそのような状況のなかでちゃんと守っていた走行抵抗の測定方法に、我々は研究開発で導入した機械を使ってしまっていたということです」と説明した。
このほか、そもそもの惰行法による走行抵抗の測定自体についての妥当性についても質問されたが、本田治副社長は「惰行法による測定が難しいとも言われますが、各メーカーさんでもこれでやられているわけです。惰行法のルールについて法規を見直してみると、一例としては風の影響を非常に受けるようになっており、風に関しては『断続する壁状のものがないこと』という規定があります。その面で弊社の相良テストコースを見てみると、どこのメーカーさんでも同様かと思いますが、さまざまな実験棟などが建っています。これが1つの壁だとすると、建物がコースに対して平行なのか直角なのか、自分たち自身の環境が測定条件を乱しているのかもしれないということを鑑みると、惰行法に対して難しいといったことを主張するよりも前に、我々自身が各社さんのやっていることを見なければいけないのではないかと考えています」とコメントしている。
このほか、質疑応答で鈴木修会長は「まず反省するべきところは、実走行での計測で、無風の状態であるとか、温度は20℃でだとか、現場は苦労してやっていた。それでばらつきが大きいということで、つい装置ごとの実測値に走ってしまった。先ほど今後の対応として申し上げたことで、直ちに防風壁を造りますとか言っていますが、そういった設備投資に至らなかった点についてです。しかし、この状況で分かりましたので、風通しをよくしなければ意味がないと思っております」。
「海外については、例えばインドでは現地の法律に従い、立ち会いのもとで計測しているので問題ありません。ヨーロッパについてもルールに従ってやっているので、海外については一切問題がないと、その点についてははっきりさせておきたいと思っております」。
「燃費については再確認をして、カタログ値の発表内容と比較してまず間違いがないということですから、お客さまに対してはご迷惑をおかけするということはありません。従いまして、私どもは(販売を)続けさせていただくという考え方でおります。今回は燃費の問題が重点ですので(販売店には)自信を持って売っていただきたい。経営責任の問題では、一般的にいって、まずは改善することが第一であります。それをやった上での考え方をどうするかについてはコメントを差し控えさせていただきたい」などのコメントを残している。