【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIトレンドライン



 

最新トレンドをリードする「TSIトレンドライン」
 ターボチャージャーやスーパーチャージャーによる排気量のダウンサイジングは、燃費とCO2削減の双方で効力を発揮することから、エコロジーが最優先される現代の自動車業界では、大きな潮流となりつつある。

 その動きの牽引者となっているのが、フォルクスワーゲン・グループ。主力モデルたるゴルフでは、これまでも以前の2リッタークラスに相当する1.4リッターTSIをシングルチャージャー&ツインチャージャーの双方で採用しているほか、以前は最上級モデルに設定された3.2リッターV6モデル「R32」も、その後継車として2.0リッター直列4気筒ターボの「R」を指定するなど、ともすれば格下げ感を生じさせてしまいそうな排気量ダウンに、果敢に挑戦している。

 そしてこのたび、ダウンサイジング化を進めるゴルフの“真打ち”とも言うべきモデルが、日本上陸を果たした。昨年、妹分のポロがフルモデルチェンジされた際にデビューした1.2 TSIエンジンを搭載するベーシックグレードである。その名も「TSIトレンドライン」。まさにフォルクスワーゲン自身がリードしているトレンドを、地で行く存在と言えるだろう。

 そして今回のテストドライブによって、最新のゴルフは、同時にゴルフの伝統を最も濃密に引き継いでいる車であることが判明したのである。

意外にもスポーティな乗り味
 TSIトレンドラインを見てまず感じるのが、そのシンプルなたたずまい。エクステリアでは、「TSIコンフォートライン」(1.4リッターシングルチャージャー)の16インチ、あるいは「TSIハイライン」(1.4リッターツインチャージャー)の17インチ・アルミホイールに対して、15インチ・スチールホイール+キャップや、フォグランプの有無程度の差しかないはずなのだが、なぜか格段にシンプルに見える。

 この質素な雰囲気が逆に“快感”となってしまうのは、いかにもドイツ製実用車らしいところ。ステアリングやデュアルクラッチAT「DSG」のセレクターも上級車種の革巻きに対して樹脂製となるが、この感触もかつてのゴルフIIやメルセデス・ベンツW123などを連想させて、なんとも好ましく感じてしまうのだ。

上級モデルとの外観上の違いは、ホイールがスチール+キャップになり、フォグランプがなく、テールパイプが1本になること
そして「TSI」のエンブレム。ツインチャージャーのハイライン(右)はSとIが、シングルチャージャーのコンフォートラインはIだけが赤文字になるが、トレンドラインは銀文字のみエコカー減税の対象になる
ステアリングとシフトノブがウレタンになる標準装備のオーディオは「RCD 310」(CDプレーヤー、MP3/WMA再生、AM/FMラジオ)。ライン装着のHDDカーナビ「RNS510」は装着できないが、ディーラーオプションのカーナビやバックカメラは装着可能
さまざまな装備が省略される一方、ESPなどの安全装備は標準で着く燃費などを表示するマルチファンクションインジケーターも備わるRCD 310はAUX端子を備える

 

エンジンカバーもなく素っ気ない印象のエンジンルームに1.2TSIエンジンが横置きされる

 とはいえ、このクルマにとって最大の関心事となるのは、やはりターボ付きの直噴1.2リッターSOHCユニットだろう。このエンジンは、1.4TSIのDOHC 16バルブを単純に縮小したのではなく、まったく新設計のSOHC 8バルブヘッドを与えられるが、パフォーマンスは実用車としては充分なもので、1500rpmで175Nmの最大トルクを発揮。公表スペックでは0-100km/hの加速タイムは10.3秒と言う。

 たしかに高速道路の料金所から本流に進入するときなどにも、充分以上の加速を示してくれる。1.2リッターという小排気量に、0.9barという比較的ハイプレッシャーの過給圧を組み合わせているにもかかわらず、ターボラグはまったく感じさせない。まるでよくできた自然吸気のような回転フィールを持っている。

 また軽快なエキゾーストノートも魅力的で、7速DSGを活用して、ついついシフトアップ&ダウンを繰り返してしまう。国産ハイブリッドの燃費や未来的なフィールにも惹かれるけれど、内燃機関の燃焼を五感で感じられるこのエンジンには、ちょっとアナクロ的と言われてしまうかもしれないが、自動車という乗り物が持つ普遍的な喜びのようなものが感じられるのだ。

高速巡航でも痛痒を感じない

 ところで、今回のゴルフ・トレンドラインに乗る前から密かに興味をそそられていたことがある。それはエンジン重量の軽さ。スペックによると、エンジン単体の重量は90kg足らずで、TSIコンフォートラインのシングルチャージャー版に対して24kg以上も軽いと言う。

 実際にステアリングを早めに操舵してみると、ノーズの軽さは明確に分かる。195/65 R15という細めのタイアゆえに、絶対的なグリップやステアリングゲインこそ高くはないが、ハンドリングは実にナチュラルで軽快なのだ。リアにマルチリンクが奢られたサスペンションのできのよさも、好印象にさらに輪を掛けた。

 ただし、スプリングがソフトにセットされているせいかロールは大き目で、スピードレンジこそ高くはないのだが、それでもこの車には独特のインテレクチュアルなドライビングの楽しみがあるのだ。これは、まさに予想外の椿事とも言えるだろう。

 今も昔も小型車の“メートル原器”であるゴルフのベーシックモデルということで、筆者はあくまで実直なクルマであることを予想していたのだが、考えてみればゴルフは初代ゴルフIの時代から、たとえ1.1リッターの廉価版であっても優れたハンドリングを持つ、とてもスポーティ&ファンな車であった。その意味では今回のTSIトレンドラインも、実に「ゴルフらしい」走りを持っていると言えるのである。

最も“ゴルフ濃度”の高いベーシックモデル
 TSIトレンドラインは、先代ゴルフVの前期型まで存在した1.6リッター自然吸気版の後継モデルという設定がなされており、現行ゴルフVIでは最廉価版なのだが、同時に“ゴルフ濃度”、あるいは“ジャーマン濃度”が最も濃密なゴルフと言ってよいと思われる。

 燃費性能はもちろん、257万円というリーズナブルな価格やエコカー減税&補助金を目当てに選択するという「消費者として賢いチョイス」もアリだが、その一方でジャーマン実用車の極み、ゴルフの魅力をとことんまで堪能するという、ゴルフ・エンスー的な楽しみも、この車にはあると感じられたのである。

(武田公実)
2010年 4月 23日