【インプレッション・リポート】
メルセデス・ベンツ「SLK」

Text by 日下部保雄


 

 一時は忘れ去られていた「ライトウェイトスポーツ」というジャンルを、マツダの「ユーノス・ロードスター」が熱く強い気持ちで復活させたのは1989年だった。その後、多くのメーカーが待っていたかのように同ジャンルの車を発表し、ライトウェイトスポーツが花盛りとの時代を迎えた。

 そんな中、1996年に登場したのが「190 SL」の流れを汲むメルセデス・ベンツ「SLK」。それまでのライトウェイトスポーツとは違って、開閉可能なメタルトップ「バリオルーフ」を持つのが特徴で、女性ユーザーに人気が高く、世界的なヒットで息の長いモデルになった。

 2004年にフルチェンジした2代目は、「SLRマクラーレン」のモチーフを借りた“F1ノーズ”を採用して、男性的な外観になった。基本的なプラットフォームは初代と共通だが、居住性は一層改善されて、オープンでも首の周りを温風で温める「エアスカーフ」を装備するなどで進化した。もちろんトレードマークのバリオルーフは継承されている。

 ちなみに2代にわたるSLKは、50万台もが市場で愛されて使われた。

 そして2011年に登場する3代目は、プラットフォームを一新したフルモデルチェンジである。デザインコンセプトは2代目から大きく変わって男性、女性に囚われず、受け入れやすいものになった。

3代目SLK

3代目はプラットフォーム一新

 デザインは、最近のメルセデス・トレンドに則ると同時に、「SLS AMG」のモチーフを取り入れて、最近のメルセデススポーツカーとの一貫性を伺わせる。

 ロングノーズ&ショートデッキのトラディショナルなプロポーションは、必然的に長いボンネットとなっているが、ボンネットに続くフロントマスクはCクラスセダン同様の横に広がりがあるもので、センターに大きなスリーポインテッドスターが輝いている。釣り目のキセノンヘッドライトはさらにボディをワイドに見せており、その下に配置されたデイタイムラインニングライトのLEDが印象的だ。

 リアエンドは現行モデルのイメージを残しているが、バリオルーフの収納を工夫して、今まで盛り上がっていたサイドライン後半がフラットになり、すっきりとした形状になっている。

 サイズはこれまでの全長4110㎜、全幅1810㎜から僅かに大きくなって全長で24㎜、全幅で7㎜大きい4134㎜と1817㎜となっている。実際には、視覚的なサイズアップほど大きくなっていないことがわかる。これは競合となるBMW「Z4」よりも小さいことを意味している。

 インテリアも大幅な変更がある。2シーターは狭いというのが定番。SLKも例外ではないが、現行モデルよりも広くなってセンターコンソールに2本の500mLのペットボトルが置けるほどだ。レイアウトの工夫で室内が広くなり、余裕ができた。

 メーターは大型のダイアルメーターで、左に速度、右に回転計を配置し、その間にオンボードコンピュターが配置されて情報を一元管理できる。

 そしてもっともメルセデスのデザインチームが意を注いだのは質感で、従来のどのSLKよりも高級志向になっており、かつユーザーにスポーティな印象を抱かせるのはさすがだ。

 もう1点、バリオルーフにオプション設定された「マジックスカイ・コントロール」にフォーカスが当たる。基本的には透明なガラスルーフだが、スイッチをONにするとたちまち濃いブルーのパネルに変わるのだ。これにより直射光が大幅に減少し、OFFの時よりも室温が10度も下がるというから、十分に遮熱効果は高い。日本のように夏の暑い時にはきっと快適に過ごせるだろう。

マジックスカイ・コントロール

軽快と重厚
 さてエンジンラインアップは基本的にCクラスと共通している。今回試乗に供されたのは「SLK 250」と「SLK 350」。日本に導入されるのもこの2車種だと思われる。

 SLK 250の1.8リッター直列4気筒直噴ターボエンジンは、最高出力150kW/最大トルク310Nmで、メルセデスのエンジンらしく低回転から粘り強く加速する。従来の5速ATは新型になってCクラスと同様の7速AT「7G-TORONIC」になった。レシオのワイド化で発進時のドライバビリティも向上して、スムースかつ力強い加速を期待してよい。

SLK 250の1.8リッター直列4気筒直噴ターボエンジンと7G-TORONICSLK 350の3.5リッターV型6気筒エンジン

 ところで、ボディは実は大幅な軽量化が図られている。高張力鋼板の採用は当然として、さらに軽量で強度の高い鋼材を拡大採用するとともに、ボンネットとフロントフェンダー、インパネ裏のクロスメンバー、リアのクロスメンバーがアルミニウムとなり、さらにアルミだったリアパネルはFRPに、またバリオルーフの骨組みにはマグネシウムを採用して、細かく重量軽減を図っている。装備の充実などで重量は通常の上積みだと100㎏ほど増えるが、新型ではこれらの涙ぐましい努力で、SLK 350の場合は40㎏増の1540㎏に留まっている。

 SLK 250のケースでは馬力荷重は7.35㎏/PS、3.5リッターV型6気筒(306PS/370Nm)のSLK 350の場合は約5㎏/PSの値を示す。250はターボ過給のおかげでトルクが大きく、体感的に両モデルで馬力荷重ほど違いは感じない。

 4気筒エンジンはこれまでよりかなり静粛性が高くなり、音質も向上している。ちょっと安っぽくメルセデスらしからぬ音からは決別した。特にスポーツカーノートを演出するためにサウンド・ジェネレーターを装備し、心地よく力強い音、加速時などはかなり刺激のある音がキャビンに響く。それでも音質がうまくチューニングされているので、煩わしさは全くない。

 また4気筒のターボエンジンはアクセルレスポンスがかなりシャープで、いわゆるターボラグは殆ど感じない。直噴システムと可変バルブタイミングの絶妙な組み合わせが、この自然吸気並みの低速回転でのレスポンスを得ている。

 一方のV6エンジンはすべてを一新して可変バルブタイミング、直噴、希薄燃焼を組み合わせ、燃費の大幅な改善と、レスポンスの大幅な改善を図っている。エンジンフィールは低回転から豊かなトルクを出しており、また回転フィールも非常に滑らかで気持ちよい。メルセデスのV6はこのエンジンから新しくなったが、まさに新世代と呼ぶに相応しいだろう。

 両車のテイストの違いは、4気筒ターボの250はノーズの軽さでライトウェイトスポーツらしい軽快なフットワークを持ち、V6の350は250よりも重厚で上質なメルセデスのスポーツカーらしい味になっている。

いつでもオープンエア
 試乗した250、350の両方とも、「ダイナミックスポーツパッケージ」を装着していた。これは通常のサスペンションよりもダンパー(連続可変制御付き)、バネ、スタビライザーなどが強化され、車高も10cmほど低くされている。装着タイヤは通常の17インチから、前225/40 R18、後245/35 R18のコンチネンタル・スポーツコンタクト5にインチアップされている。

 メルセデスのハンドリングは安定志向だが、特にステアリングに忠実な安定感が魅力だ。SLKの場合は加えて、レスポンスのシャープなところが好ましい。大きな横力が発生するような旋回では、ESPの機能を使って1輪のみブレーキをかけて旋回力を増すトルク・ベクトル・ブレーキを備えている。

 試乗コースはかなり狭く、ハンドルを左右に忙しく切る場面が嫌になるほどあったが、SLKでは車速感応式可変バリアレシオのダイレクトステア・システムが、ドライビングをイージーにしてくれる。

 SLKが得意なワインディングロードは、中高速コーナーだ。ステアリングワークは操舵一発で決まる気持ちよさだ。さらに優れたライントレース性で次々と現れるコーナーをクリアできる。試乗コースではどこまでも続く狭くタイトなカーブに、いささかゲンナリしたが、快適なハンドリングには変わりがない。またダイナミックハンドリングパッケージにはサスペンションにスポーツとノーマルの2つのモードが備わるが、こちらの違いも結構メリハリが付いている。

 スポーツモードでは上下のダンピングが引き締められロールな少なく、車輌のダイアゴナル方向へのピッチングはほぼ完全に取り除かれている。コーナーリング中に大きなギャップを通過するとややリアが突上げられるが、スポーツモードで得られる車輌安定性に較べれば大した問題ではない。

 ノーマルモードを選ぶと、このようなギャップでのショックは少ない。ただし路面によってはSLKはややピッチング傾向を示し、シャキとしなくなる。さらにコーナーリングでは若干ピッチングの影響を受けて、姿勢を決めるのにスポーツモードよりもタイムラグもあり、車体のロールも当然大きい。したがって多少の突上げ感があろうと、スポーツモードにSLKのスポーツカーらしさを強く感じる。

 ダイナミックハンドリングパッケージの目玉の1つであるトルク・ベクトルブレーキをトライするのは公道では憚られるので効果のほどは判らなかったが、サーキットのようなハイスピードランでは効果があると思われる。

 このように記するとSLKは電子デバイスに頼っているようなイメージを持たせてしまったかも知れないが、基本的な車体はガッチリしているからこそ、プラスαの電子デバイスがSLKの走りの質を上げることができるのだ。

 高速道路では、ホイールベースが短くキビキビしたスポーツカーのハンドリングが時として邪魔になるが、SLKは心配無用。やはりメルセデスらしい伝統で、リラックスしてハンドルを握れる。セダンほどではないが、十分にそれに近い。ハンドルは中立付近の微小舵角では反応は鈍く、切り増していくとシットリと反応するのは、車速感応型のステアリングギアレシオが活きている。

風の巻き込みを防ぐデフレクター

 キャビンはマジックスカイ・コントロールのON/OFFで雰囲気が変わり、ちょっと得したような感じを受けて嬉しくなる。もちろんルーフを収納してオープンエアドライビングを楽しむ時もリアのデフレクターが効果的で、サイドウィンドウを上げると風の巻き込みは最小限になる。速度を上げても風切り音は一定で、風の巻き込みにも変化はない。つまり高速でのクルージングでも快適。ほとんどのシュチュエーションでオープンエアモータリングを堪能できるということだ。

 ちなみにトランクも容量が拡大しており、ルーフを収納してもその下には225Lの容量がある。奥行きもあるし、トランクの床面を段差を設けるなどで荷物の収まりにも工夫されているので小旅行ならスーツケースも収められる。居住性も快適なのだ。

 そう、四季にかかわらずオープンエアライフとドライビングを楽しめるのが新型SLKだ。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 5月 13日