【インプレッション・リポート】
BMW「3シリーズ」

Text by 日下部保雄



 

 BMWにとって最も重要なモデルで、世界の自動車メーカーも注目する「3シリーズ」が、フルモデルチェンジされて第6世代に入った。個人的にも、よきライバルであるメルセデスの「Cクラス」が2011年の春にビッグマイナーを行って完成度を増しているだけに、BMWがどんなカウンターを打ってくるか興味深々だった。

直感的に3シリーズと分かるデザイン
 まずデザインだが、これまでの3シリーズのラインを踏襲しながら、5シリーズにも通じる伸びやかなスタイルを取り入れている。つまりエレガントでスポーティに仕上がっており、BMWらしいプレミアム感を十分に振りまいている。

 フロントエンドは上下方向に絞りこまれ、ウェッジシェイプを取り入れており、空力の改善と同時にエンジンとフードの間を開けて歩行者保護の空間を確保している。そしてお馴染のキドニーグリルは横長になり、シャープなヘッドライトとつながっている。このデザインは新3シリーズのワイド感を強調しており、実際にもトレッドが拡大されているので、フロントタイヤもフェンダーいっぱいにがっちりとした踏ん張りを見せて頼もしい。

 サイドは後部にかけて駆けあがっている上下2本のプレスラインが効き、ボリューム感のあるリアフェンダーに連続する。リアのトレッドもかなり拡大されており(後述)、4隅に置かれたタイヤは3シリーズにさらに安定感のあるフォルムを与えている。

 リアエンドは7シリーズから始まったL字型のテールライトが特徴的で、絞り込まれており、まとまり感を持って完結している。直感的に3シリーズと分かるよいデザインだ。

大きくなっても重量は増えず
 ボディーサイズはホイールベースが50㎜長い2,810㎜となり、それに伴い全長も93㎜延長され4,624㎜となっている。ひと回り大きくなったボディだが、全幅は欧州仕様では1,811㎜だが、日本仕様に限ってはドアハンドルの変更で従来と同じ1,800㎜に留める。全高は1,429㎜と4㎜高くなっているが、ほぼ変わっていないために、踏ん張り感が強調されている。さらにトレッドはフロント37㎜、リア47㎜拡大されているのでこれまで以上に4隅にタイヤが配されて塊感が強調されている。

 3シリーズはメイン車種だけに多くのグレードが存在するが、テストドライブに供されたのは328iスポーツだ。バリエーションは「スポーツ」と「モダン」「ラグジュアリー」、それにベースグレードの4つ。スポーツにはさらに後日、展開されるMスポーツパッケージのサスペンションも用意されるものの、すべてのグレードとも基本スペックは共通である。

 

 328iの心臓部は「X1」の「28i」で導入された「N20」エンジン。軽量コンパクトな直列4気筒2リッターターボで、最近のBMWのダウンサイジング路線に沿ったもの。ターボはツインスクロールタイプで、さらに吸排気可変バルブタイミングの「ダブルVANOS」、可変バルブリフトの「バルブトロニック」を組み合わせ、しかも直噴という凝った設計だ。最高出力は245PS/5000-6500rpmを発生し、最大トルクは350Nm/1250-4800rpmという太いトルクを出している。例によってエンジンの搭載位置はフロントアクスルを中心に可能な限り後方にマウントされている。

 これに組み合わされるトランスミッションは8速ATか6速MTになるので、トランスミッションケースがキャビンに張り出した恰好になり、前席の足下は相変わらず広いとは言えない。

 また新3シリーズはサイズアップされているが、重量は現行325iが1540㎏なのに対して、新型は328iで1530㎏(ただしこちらはDIN/EUによる空重量なので直接比較にはならないが)で、従来の3シリーズとほぼ変わらない重量に留まっている。サスペンションやボディーにアルミなどの軽量部材を使っている効果が明白だ。

ボディーサイズを感じさせない一体感
 試乗会はスペインのバルセロナで行われた。バルセロナ空港で我々を待ち構えるズラリと並んだ3シリーズの群れは壮観だった。

 試乗コースはここをベースとして、山岳コースのワインディングから、市街地、それにF1レーシングコースで有名なカタルニアサーキットでのテストドライブまで用意されている。

 3シリーズのバリエーションは前述の様に4種類あり、エンジンもディーゼルを含めると現在のところ4機種揃っているが、我々の試乗に供されたのは、さわやかな赤の328iスポーツ。さっそく公道に繰り出した。

 インテリアは従来の3よりも少し大きく感じるが、新しいデザインはスポーティでエクステリア同様に好感が持てる。例によってメータークラスターには260km/hまでの速度計と7000rpmからレッドが始まるタコメーター、それに水温計と燃料系、そして最新のクルマらしいエコメーターが装備されている。

 センターコンソールはFRのBMWらしく大きく、そこにはiDriveや走行モードのセレクトモード、そしてダッシュボード上には据え置き型のナビゲーションが備わる。インテリアに配置された外板色に合わせたレッドのアルミパネルはスポーツシートに廃されたステッチと共に強いアクセントになっており、印象的だ。

 フロントシート自体はBMWらしい体にフィットするサイズで、後席もホイールベースが伸びただけレッグルームが拡大され、余裕を感じることができる。4人の大人が余裕持って座れる。

 装着タイヤはオプションの19インチ。フロントが225/40 R19、リアが255/35 R19、ブリヂストンの「ポテンザ S001 RFT」を履く。ホイールはフェンダーいっぱいでかなり大きく、スタイリッシュだ。

 ワインディングロードに乗り入れて感じるのはボディー剛性だ。BMWは特に旋回方向のボディー剛性に定評があるが、新型も磨きがかかり、ひと回り大きくなったサイズを感じさせないドライバーとの一体感が魅力だ。ハンドルを切った方向に素直にノーズを向ける。ただ、ファットなリアタイヤの影響もあって、ややアンダーステア気味のライントレース性を見せる。

 ちなみにドライブモードをコンフォートからスポーツに切り替えると、それまでややピッチングを見せていた動きがすんなりと収まり、少し固めだがスッキリとした乗り心地を保ったまま、高い挙動安定性を見せる。ハンドルから伝わる路面インフォメーションも確かで、路面をグリップする感触を楽しめる。スポーツモードではステアリングのダイレクト感は高くなり、アクセルのレスポンスもシャープに、そして変速タイミングも引っ張る方向にシフトされる。19インチタイヤではスポーツモードでオールマイティな感触を持った。

 

サーキットで“水を得た魚”に
 一方、コンフォートモードでは、荒れた路面では石畳のあるような街中で効果が高い。緩やかな乗り心地で、アクセルのレスポンスも穏やかになるので余分なピッチングが抑えられリラックスしたものになる。

 さらに1シリーズから設定された燃費志向の「ECO-PRO」モードでは、アクセルの反応が明確に鈍くなり、空調も制限される。そのかわり、燃費が最大で20%まで改善されると言う。テストドライブ当日は湿気が多く、フロントウインドーに曇りが発生したためにこのモードを試すチャンスはそう多くなかったが、確かに燃費には効果がありそうだ。

 そしてどのモードでもアイドルストップが働き、停車するとこの日はエンジンはたちどころに止まった。ブレーキペダルから足を離すとエンジンは直ちに再始動する。このあたりは割り切りが早いようで、再始動時の振動などはそれほど気をつかっていない。

 エンジンは広い回転域にわたって分厚いトルクを出しており、どの回転からでもアクセルにすぐに反応して加速していく。ちなみにターボラグなどは全く感じない。自然吸気エンジンのようなキレのよさは感じられないが、どの回転からでも加速してくれる気安さはある。またBMW特有の硬質なエンジン回転フィールよりもややバサバサとした味を持っており、BMW6気筒自然吸気エンジンとは異なっている。エンジン回転はその気になると6500rpm以上は回ってくれる。

 350Nmのトルクがあるために、8速に多段化したATのありがたみはそれほど大きくなかったが、8速で100km/h巡航をした場合の回転数は1700rpmにすぎず、確かにターボと相まってクルージング燃費はよさそうだ。

 

 328iスポーツが本領を発揮したのは、カタルニアのサーキットである。もちろんドライブモードは「スポーツ+」。スタビリティコントロール「DSC」もカットしての走行だ。

 幸い路面はドライ。最初はハイペースの先導走行に引っ張られて、コーナリングラインを確認し、シフトもマニュアルモードで思う存分に飛ばす。相対的にリアが踏ん張るややアンダーステア気味の特性は変わらないが、まるでZ軸を中心としたような旋回性能はBMWの真骨頂だ。

 強力なブレーキは連続走行でもペダルストロークは変わらず、ストッピングパワーについても文句はない。

 コーナーに無理に突っ込むとフロントから滑ってしまうが、コーナーの後半であり余るトルクに任せて後輪に駆動力をかけ、リアをスライドさせても、ファットなタイヤはゆったりとしたスライドしか許容しない。ちなみに他グレードで18インチタイヤに乗ることができたが、こちらはアクセルの動きに素直に反応して、姿勢を作りやすくタイムはともかく走りやすい。

 一般道ではそれほどメリットを感じなかった8速ATも、サーキットだとクロスレシオによるトルクバンドに適切に乗せやすく、有効性が高い。広いパワーバンドだが、微妙なトルクの山を積極的に感じることができた。

 さすがBMWはサーキットが似合う。328iは“水を得た魚”状態で、いつまでも気持ちよく快適にサーキットドライブができた。

 新しい3シリーズはデトロイトでお披露目となるはずだが、日本への導入も春までに開始される。先ずは328iから導入されるが、この後エンジンバリエーションを増やし、さらにボディー形状も徐々に増やしていく。「アクティブハイブリット3」も秋には日本にも顔を見せる可能性もあり、しばらくは新3シリーズからは目を離せない。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 12月 20日