【インプレッション・リポート】
メルセデス・ベンツ「Cクラス」

Text by 岡本幸一郎


 

 「メルセデス史上、最高傑作のC。」――文字にすると、最新モデルであれば当たり前のようにも感じるところだが、このタイミングで、あえて「史上」「最高傑作」というフレーズをアピールしてきた意図はいかに……?

成功作をさらに改善
 2007年に登場した現行のW204型「Cクラス」は、世界的に評価が高く、2010年にはすでに世界累計販売100万台を達成。その完成度は誰しも認めるところで、メルセデスの中でも、すでに“成功作”として認識されているという。

 日本でもこれまで26万台あまりが販売され、メルセデス・ベンツ日本の販売の全体の約3割を占める、中核モデルとなっている。BMW「3シリーズ」やアウディ「A4」といった強敵の居並ぶ輸入車プレミアムDセグメント市場で、現行Cクラスは2008年、2009年、2010年と3年連続でセグメントシェアナンバー1の販売を誇っており、実際、街を走っていてもよく見かけるのは事実だ。

 こうしたCクラスの躍進は、「吹っ切れた」からではないかと感じている。先代W203やその前のW202もそうだったが、あまり立派すぎるとEクラスを食ってしまい、メルセデスの中でのヒエラルキーが崩れることを意識しすぎたためか、BMW 3シリーズやアウディ A4等に対してどうかといった目線がやや欠落していたたように思える。

 そんな両者のジレンマを、W204は打破し、とにかくセグメントでナンバーワンになってやろうという心意気で開発し、それが支持されているように感じられるのだ。型落ちのSクラスに乗る筆者も、W202やW203は見かけてもあまりうらやましいと思わなかったのだが、正直な話、W204はけっこううらやましかったりするのだから……。

 さっそく具体的な変更点をお伝えしていくのだが、従来型のオーナーが知れば知るほど悔しがりそうなことばかり。「W204」という型式こそ変わっていないものの、なにせ2000個所以上もの変更を加えたというから、かなり大がかりなビッグマイナーチェンジだ。要するに冒頭のキャッチコピーは、もともとよいクルマのところ、さらにもっとよくなったということを、より強調したいという思いの表れだろう。

車格が上がったように見える内外装
 それでいて、これまでの「C300」に代わって設定された、新設計の3.5リッターV型6気筒エンジンを搭載する「C350」を除き、その他の全モデルで価格に変更がなかった点にも注目だ。金額でいうと19万円~25万円相当の装備追加があったにもかかわらず、価格据置きというのは、もちろんありがたい話である。

 またW204になってからというもの、販売の主力は、もともとこうした仕様を好む日本だけでなく、世界的にもアバンギャルドの占める割合が大きくなっているという。日本市場はやはり、よりその傾向が強く、それを受けて今回ラインアップが見直されよりアバンギャルドがメインというカラーが濃いグレード体系となった。「AMGスポーツパッケージ」など、選択肢はより拡大され、内容が充実しながらも、価格は安くなっている。

 一方のエレガンスは、カタログモデルではなくパッケージオプション扱いとされた。

 そのエクステリアデザイン自体も、ひと目見てわかるほど変わった。新鮮味が増したというにとどまらず、車格が少し上がったようにすら見えるほど、パッと見の印象が違う。

 全体的に微妙に造型が変わった部分が多々ある中で、前後ランプ類の変更が一目瞭然の識別点。ヘッドライトは、「C」をモチーフにしたポジションライトや、バンパー下部の両脇にLEDのドライビングライトが配され、リアコンビランプも印象的なルックスのフルLEDとされた。

 それらがかもし出す、クオリティ感、そしてダイナミックさにより、実際にはボディサイズが変わったわけではない(全長はほんのわずかに長くなった)のだが、まるで大きくなったように見えるほどだ。

 なお、アルミボンネットの採用により約10kgも軽量化されたことや、Cd値0.26を誇る高いエアロダイナミクス性能を得たことも、お伝えしておこう。

 エクステリアに次いでインテリアに目を移すと、さらに驚かされる。マイナーチェンジでここまでやるかというほど、かなり大がかりに変わっているからだ。表面素材も、レイアウトや細かなデザインも、まさにフルモデルチェンジなみの「一新」ぶりである。普通、ダッシュまわりなどインテリアの大物部品は、モデルサイクルの間は変更されることはないものだが、そこに大幅に手を加えたことに驚かずにいられない。

 逆に言うと、従来のインテリアは、たしかにあまりよろしくなかった。シボの目が粗く質感がいまひとつのダッシュや、安っぽいデザインなど、デビュー当初から不満の声が聞かれたのは事実。それを受けてか、新型では意地でもセグメントナンバーワンになってやるとばかりに、一連のあらゆるものが飛躍的に向上している。

 見た目にも、ウッドパネルの使用面積が拡大されて助手席側まで伸びたほか、従来のクロームに替えてシャドゥシルバーがあしらわれているし、メーターパネルも一新され、COMANDディスプレイがポップアップ式からダッシュ内蔵タイプとなったおかげで、スッキリとしたことも大きな違い。

 ステアリングホイールは、少し前にモデルチェンジした「CLS」に用いられたものと同じ、上質なナッパレザーを使用。また、少し前まで高価格車の専用装備だったアンビエントライトを採用するなど、あらゆる箇所において、ひとクラス上のクオリティを手に入れている。

 

ハイテク装備も満載
 見た目だけでなく、新しいCクラスは機能の面でも大きな進化をはたしている。COMANDシステムは新世代となり、携帯電話を使用してインターネット接続できるようになった点は大きな進化。カーナビの目的地は、あらかじめパソコンで設定した位置情報をダウンロードして設定できるようになったし、50音検索も、これまで正式名称でしか受け付けなかったところ、通称を用いた、いわゆる「あいまい検索」も可能となった。また、助手席の乗員であれば少々の操作は安全上問題ないとの判断から、走行中の操作規制が一部緩和されたこともありがたい。

 エンターテイメント系についても、オーディオにも改良が施され、音質が非常に良好となった点をはじめ、再生中の曲のCDのジャケットを表示する機能が付いたり、iPod等の最新のデバイスへの対応も万全。また、これまでグローブボックス内にあったメディアインターフェイスがコンソールボックスに移動されて使いやすくなったことも歓迎だ。

 正直、年配の人には上手く使いこなせないかもしれない機能も多々あるわけだが、Cクラスは40代のユーザー比率もそれなりに高いこともあり、競合車と迷っている人などでは、これを理由に背中を押されて決断にいたるケースもあるのではないかと思う。

 安全装備についても、さらなる充実が図られた。居眠り運転を検知する「アテンションアシスト」や、ハイビームとロービームを自動的に切り替える「アダプティブハイビームアシスト」など、メルセデスの最新の安全システムが標準装備とされたことも大きなポイントだ。

 また、パッケージオプションで用意された、駐車をサポートする機能を備えた「パークトロニック」にも要注目。これは、車速30km/h以下での走行時に自動的に超音波センサーが駐車可能なスペースを検知し、ガイドのとおりに運転することで的確に駐車スペースに収めることができるというものだ。

 こうした装備は、日本の専売特許だと思っていたところ、最近では欧州車に採用例がいくつも見られるようになってきたところで、メルセデスもついに、である。試してみたところ、最初はよくわからず、上手く使いこなせなかったのだが、コツをつかむと、驚くほどギリギリまで寄せて収まり、だんだん面白くなってきた。もっといろいろなシチュエーションでも試してみたいところだ。

ライバルを引き離す完成度
 走行性能については、今回あまり多くはアナウンスされていない。変更点というと、7速AT「7Gトロニック プラス」が全車に搭載されたことと、前述のとおり新設定のC350に新開発エンジンが搭載されていることは今回のハイライトだが、その他では、強いて言うと、アルミボンネットの採用と、空力の進化ぐらい。

 ところが、広報資料等では記述されていない改良も加えられていることも、乗れば分かる。ちょっと走ってみても、静粛性も乗り心地も明らかによくなっていることに気づかされる。従来は、4気筒の直噴エンジン特有の、やや耳障りな音と振動が少なからずキャビンに侵入していたのだが、新型は上級モデルと比べても遜色ないほどの静粛性が提供されている。

 乗り心地については、これまでも大きな不満などなかったわけだが、しいていうとアバンギャルド系では若干の固さが感じられたところ、それがなくなり、ストロークの初期からよりスムーズに動くようになった印象だ。かといって一気にストロークが始まるわけではなく、荷重変化がマイルドで、クルマの挙動がとても把握しやすい。

 設定を「SPORT」に変えても、その味が大きく変わることはなく、良好な乗り心地を保ったまま、全体的に引き締まった、より姿勢変化を抑えた乗り味となる。もはや電子制御等ではなく、コンベンショナルなオイルを用いたダンパーで、これ以上はないのではと思えるほどの絶品の仕上がりである。

 「C200」のパワートレーンは、2009年にそれまでの1.8リッター直列4気筒コンプレッサー(メカニカル・スーパーチャージャー)に替えて、同じく1.8リッターの排気量を持つ直列4気筒直噴ターボに変更されており、今回はエンジン自体の変更はないが、これまで使われていた「CGI」の呼称が廃された。

 また、ずっと5速だったATが、ようやく待望の7速化を迎えたわけだが、これにより高効率化されたことは言うまでもなし。ドライバビリティ面では、これまでもそれほど大きな不満があったわけではないが、より変速時のエンジン回転数の変動が抑えられ、スムーズな加速感となるなど、上質なドライブフィールを手に入れている。

 というわけで、今までも十分に魅力的だったCクラスが、さらに魅力度を増した次第。C250やC350にも早く乗ってみたいところだが、C200でもこんな感じなのだから、推して知るべし。冒頭で挙げた競合車や、その他のライバルもがんばっているのはいうまでもないが、「このセグメントの競合車を引き離す完成度」と、プレゼンテーションの場でもアナウンスされていたとおりの実力を魅せつけてくれた。

 「メルセデス史上、最高傑作のC。」であることに異論をはさむ余地などなく、そこは予想どおりだったのだが、一連の目を見張るほどの変更内容と、それによりもたらされた実力の高さは、あえて今、この言葉を謳うに十分に値するものであった。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 1月 13日