【インプレッション・リポート】
三菱自動車「ギャラン フォルティス スポーツバック」

Text by 日下部保雄


 三菱自動車と言えば、電気自動車(EV)の「i-MiEV」「MINICAB-MiEV」により先進メーカーのイメージが定着しつつあるが、「ランサーエボリューション」に搭載されていた4WDシステムやエンジン技術には定評がある。評価は分かれるものの、直噴ガソリンエンジンをいち早く導入したのも三菱だった。

満を持して登場した「4J10」エンジン
 その三菱がEVの柱とは別に、これからも自動車の動力源として中心的な役割を担う、ガソリンエンジンの改革に長年取り組んでいた成果が表れてきた。三菱ではメーカーとしてのCO2削減量を、2005年度比で2015年に25%、さらに2020年に50%削減するとしているが、これを達成するためにはEVやこれから登場するプラグインハイブリッド(PHV)だけでも不可能で、メジャーな存在であるベーシックなガソリンエンジンの改良がなければ成立しない。その目標を達成するべく、満を持して登場したのが新しいガソリンエンジン「4J10」だ。このエンジンは「RVR」から搭載され、その後「ギャラン・フォルティス」「デリカD:5」にも拡大している。

新型の4J10エンジンは最高出力102kW(139PS)/6000rpm、最大トルク172Nm(17.5kgm)/4200rpmを発生

 4J10型は86.0×77.4㎜のショートストロークの1.8リッターエンジンで、三菱では可変バルブリフト機構を待つMIVECと呼称されるエンジンになる。同エンジンはSOHCの16バルブで吸気側のバルブリフト量、バルブの開閉時間、そしてバルブタイミングを連続的に可変させることができる、MIVEC技術の上に立つエンジンだ。これを単一にメカニズムで行い、理想に近いバルブ制御を行うことができる。また、吸入空気量をスロットルバルブだけではなく吸気バルブでも制御でき、低負荷時には吸気バルブを早く閉じることでポンピングロスを低減できるとしている。

 さらに低負荷時はオーバーラップを少なくし、また高負荷時にはオーバーラップを大きくして、エンジン自体のEGR効果を上げたという優れものだ。このため、4J10型エンジンはEGRを省くことができた。ロッカーアーム式のSOHCとして構造をシンプルにし、2弁同時制御によってコントロールが正確になるのが大きなポイントで、合わせて軽量化できることもメリットだ。これまで可変バルブタイミング&リフトを行おうとするとDOHC化しなければならなかったが、三菱はこれをSOHCで成立させたところが新しい。

 実は三菱はMIVECを1992年に実用化し、ミラージュのハッチバックのスポーツモデルに搭載してデビューさせたが、こちらはホンダのV-TECに対抗してパワーを追及したものだった。この後MIVECはさまざまに応用され、環境エンジンにも適合していったのはV-TECも同様だ。

 このエンジンの特徴は、燃費を向上させながらも出力は従来型1.8リッターエンジン「4B10」と変わらないことだ。最高出力102kW(139PS)/6000rpm、最大トルク172Nm(17.5kgm)/4200rpmと、排気量に対してそん色のない出力を出している。事実、加速感などはトルクの厚みを感じるもので、低燃費エンジンに時折感じるトルク感の薄いイメージは殆どない。低速回転からのスタートも極めて自然に行え、結構トルクフルだ。

ギャラン フォルティス スポーツバックのボディーサイズは4,585×1,760×1,515mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2,635mm。撮影車両のグレードは「SPORT」だが、ターボバージョンの「RALLIART」もラインアップする

4J10エンジンとアイドルストップ機構「AS&G」により、JC08モード燃費は15.8㎞/L。「アイドルストップはごく自然なフィーリング」と日下部氏

アイドルストップ機構「AS&G」の仕上がり
 燃費はJC08の場合、スポーツバックの2WD(FF)車で15.8㎞/Lと優れた値になる。これにはもう1つ重要なポイントがあり、アイドルストップが標準装備になっていることだ。三菱では「オートストップ&ゴー(AS&G)」と呼ばれる機構で、従来はMT車との組み合わせで搭載されていたものが、CVT車にも搭載が可能となった。

 このアイドルストップはごく自然なフィーリングで仕上がっており、信号待ちなどでブレーキを踏んで停車すると、ダイハツ「ミラ イース」のように停車直前にアイドルストップをするような芸当はないが、クルマが停車すると比較的早い段階でエンジンを止めてしまう。また、ブレーキペダルから足を離すと直ちにエンジンスタートする。このタイミングも素早く、例えば右折待ちで停車してアイドルストップが働いても、ブレーキから足を緩めるだけでたちどころに再スタートするので戸惑うことはない。AG&Sはなかなか完成度が高く、エンジンが止まることが普通に思える。逆にエンジンが止まらないと燃料を消費している強迫観念にちょっととらわれる。

 低速回転時のトルク感は十分だが、高回転域の伸びはそれほどでもない。ただし追い越し加速の場合でもそれほど不自由には感じなかった。スポーティなエンジン特性ではないが、日常性は十分に高く、エンジン性能に関しては実用車として優れたポテンシャルを見せ、同時に車載燃費計によって都内でも燃費の優れていることが分かった。

 音に関しては、加速時に低燃費エンジンにありがちな、やや軽い音を伴ったものだ。またリアのカーゴルームからのロードノイズの侵入ももう少し抑えたい所で、このクラスとしては妥当とはいうものの、遮音材がもう少し配置されていれば質感がさらに上がる。

スポーティなエンジン特性ではないが、日常性は十分に高いと言う

 CVTは扱いやすく、スタート時から滑らかな加速を見せる。他の例に漏れずコンパクトなトルコンを使っているが、効果的に動作して違和感はまったくない。また、CVTはエンジンの出力特性との協調制御がポイントになるが、これも実用性に振ったところにセッテイングされており、大変使いやすいパワートレーンになっている。

 試乗車はパドルシフトを装着しており、エンジンは6,000rpmで頭打ちとなる。パドルシフトを優先するとエンジン回転はそのままキープしてしまうので、オートシフトにはならない。サイドパドルを長めに引くと解除されるが、慣れないとシフトに追われてちょっと焦る。結構正直に反応するので、ワインディングロードや坂道などで中速回転域をキープして積極的に使うと効果的だろう。

 居住性は前後とも硬めのシートで、ヘッドクリアランス、ニールームともに十分だ。ただし、後席は後半のルーフが下がっているので、背の高い人は多少圧迫感があるかもしれない。乗心地はダンピングが効いており、誰でも納得できる快適性を維持しており、メーターの視認性もよい。

 ギャラン フォルティス スポーツバック、地味だがなかなか良心的に作られている。

室内は2,005×1,470×1,190mm(室内長×室内幅×室内高)というサイズ。ヘッドクリアランス、ニールームともに十分なスペースを確保している

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 2月 9日