【インプレッション・リポート】 フォード「エクスプローラー エコブースト」 |
2011年にフォード・ジャパンから発売された新型「エクスプローラー」は、テストドライブでハンドリングやボディー剛性に大いに感銘を受けた。これに続いて、直列4気筒DOHC2リッターターボの「エコブースト」エンジンを搭載した2WD(FF)モデルが日本でも発表された。
■ダウンサイジングエンジンでも重量級SUVとの相性はよい
エコブーストエンジンは、同社がグローバルで展開する「グリーン・エンジン・プロジェクト」の一貫として開発されたガソリンエンジンで、出力と燃費の両立を狙って直噴、吸排気独立可変バルブタイミング機構、小型ターボチャージャーの3つを基幹技術としている。フォードのクリーン化技術はこのダウンサイジングエンジンに留まらず、クリーン・ディーゼルやフレキシブル・フューエルなど多様だが、北米市場を考えるとガソリンエンジンのダウンサイジング化が最も直近の技術になる。まさに中核をなす技術だ。
コンセプトはディーゼルのトルクをガソリンエンジンで出す、というもの。このエンジンは実際に旧エクスプローラーに搭載されていた4リッターのV型6気筒エンジンと比較すると、30PSの出力アップと25%の燃費改善に成功している。確かに4リッターV6エンジンはアメリカンらしい味はあったものの、それほどパワーもなく燃費もわるかったが、新型はこれらを払しょくしている。
ちなみにこのエンジンは、フォードとのアライアンスがあったメーカーにも供給されており、このエンジンをベースとしたものがレンジローバーやボルボにも搭載されている。それだけポテンシャルがあるエンジンであるということだ。
ちょっとメカニズムにも触れておくと、高圧直噴はコモンレール方式で215psiから2150psiまで連続可変でコントロールが可能。7つの噴射口を持ったインジェクターは、噴射タイミングを300回/秒でコントロール可能だ。シリンダー内に直接高圧噴射することでシリンダー内の温度を下げ、排ガスをクリーン化すると同時に、ノッキングも低減している。つまりパワーが出せることにもつながる。
吸排気独立可変バルブタイミング(Ti-VCT)は、部分負荷では吸気をスムースに行うことでパフォーマンスを向上し、排気時には掃気効果を高めて中速域のトルクアップにつなげている。吸排気がスムースに行えることで効率アップにつながり、燃費も改善される。
ターボは直噴化と可変バルブタイミングによって燃焼制御が細かくできるようになったうえ、ターボ本体の改良もあってターボラグが小さくなり、それ以前の大排気量ターボでは考えられなかったほどシャープなレスポンスが得られた。さらに小排気量エンジンで難点だったブーストがかけられなかったことも改善され、ドライバビリティも大幅に改善されている。圧縮比は9.3:1と、高めに設定されている。
また低フリクション化や排気マニホールドの統合化などで、効率の改善にはかなり注意が払われていることが分かる。
87.5×83.1㎜のボア×ストロークから最高出力243PS/5500rpm、最大トルク37.3kgm/3000rpmの性能を出している。比較的低回転でトルクを出しており、新世代のエンジンであることを感じさせる。
車両重量は2020㎏で、パワー・ウェイトレシオは約8.3㎏/PSと優れた値を示している。この数字以上に、トルクが低回転域から出ていることが、重量級SUVとの相性のよさを物語っている。乗用車用として使った場合にはアクセル開度が小さくてよいことから、燃費の改善につながるだろう。
ちなみにエコブーストの10・15モード燃費は8.1㎞/L。旧4リッターエンジンが6.1㎞/Lだったことからすれば、画期的によい数字だ。
■ビッグサイズでも運転はしやすい
シャシーは基本的には2011年に日本に導入された新型エクスプローラーモデルと変わらないが、もっとも大きな差は前輪駆動になっていることだ。エクスプローラーと言えば4WDを連想するが、実はFFもけっこうな数が出ている。エコブーストモデルには、本国でも4WDはなく、燃費を強く意識してFFに絞っている。旧型のラダーフレームから完全なモノコックボディーとなって軽量化が図られているのも、燃費向上と共に、モノコックでもタフなSUVとして通用する技術を手に入れたからにほかならないだろう。
サスペンションはフロントがストラット、リアがマルチリンクで4WDと変わらないが、FF化に伴い、デフがなくなったのでストロークなどが若干変わっている。
サイズは相変らず大きい。5020×2000×1805㎜(全長×全幅×全高)と、威風堂々としたLクラスSUVだ。もはや兄貴分のナビゲーターに匹敵するサイズを持っている。装着タイヤはミシュランのSUV用タイヤ、Lattiude Tour HPでサイズは245/60 R18だ。ハイトの高いタイヤで、オンロード性能を重視したパターンだ。
ハンドル位置は左のみ。ビッグサイズのSUVだけに心配したが、実際にドライブすると考えていたほど不便ではなかった。もちろんサイズは厳然としてデカいので、コンパクトカーのようなわけにはいかないが、ボクシーなボディーデザインによってフロントの車幅感覚がつかみやすく、意外とドライブしやすい。
さらにAピラーにつけられたサイドモニターのため、幅寄せをやりやすい。ETCのおかげで高速の料金所でも戸惑わなくなったが、駐車場の発券で右ハンドル用しかない場所はちょっと慌てる。
■大きな重量を活かした乗り心地
さてパフォーマンスだが、まるで大排気量エンジンのようなトルクの出方で、低速回転から大きなトルクを出している。旧4リッターV6の発進時のトルク感よりもはるかに粘りのある加速ができ、しかも中速回転域までのエンジンのトルク感と比較的高回転になったときの回転の伸びがスムースで、連続性のある回転フィールを持っている。ナチュラルで不連続感がないのが好ましい。エンジンスペックが公約どおりであることを裏付けている。
さすがに2tもの重量は大きい。高速域でのフル加速では3.5リッターV型6気筒の新型エクスプローラーに比べるとやや物足りなさを感じるのが正直なところだが、冷静に立ち返ってみると全く不足はない。事実、高速道路の追い越しもそれほど躊躇しないで可能だったし、2000rpmも回っていれば容易にゆったりとした加速ができる。このエンジンは間違いなく現代的なパワーユニットだ。
トランスミッションは6速ATで、ターボの特性を生かして比較的ワイドレシオに設定され、ステップ比も好ましい。ちなみに100㎞/h、6速では1700rpmをキープしてエンジンはユルユルと回っているに過ぎない。
発進時に乱暴にアクセルを踏むと、4WDモデルに比べて若干のトルクステアを感じるが、これもよく抑えられている。日常的にも神経質になるレベルのものではなく、リラックスしてステアリングを握っていられる。
直進性はどっしりしており、4WDとの差は感じない。発進時と同様にステアリングに軽く手を添えていれば、盤石な安定性を見せる。試乗日はひどい強風で、しかも海沿いの高速を走ったが、背の高いSUVにもかかわらず、直進性は時折、修正する程度で揺るぎのないものだった。
ステアリングフィールはセンターが締まっているが、過度に締め上げていないのがフォードらしい。ステアリングにわずかに力を入れればスーと向きを変えていくような、自然なフィーリングを持っている。ステアリング系の剛性が高いのは個人的にはとっても好ましく、それだけで安心できる。ステアリング系の剛性だけでなく、サスペンション、ボディーを含めた剛性が高く、全体にうまく剛性バランスのとれたシャシーだ。
ステアリングのロック・ツウ・ロックは2回転3/4で、LクラスSUVとしては意外なほど少ない。それでも最小回転半径は5.8mに留まっている。
高速でも、ランプウェイのようなちょっとタイトなコーナーを旋回しても、エクスプローラーはロールがよく抑えられており、前後のロールバランスもきわめて適切だ。安心してコーナーに入っていける。これはハンドルを左右に切り返した場合でも同様で、最初に感じたハンドルの追従性は高く、安心感、安定感のあるステア特性だ。
乗り心地は、リアからの突き上げ感が4WDに比べるとやや強めで、ゴツゴツとしたところがあった。リアに重いデフがない分、上下収束に強くなったのかもしれない。これも日常的には乗り心地がわるいと感じるようなものではなく、大きな重量を活かしたフラットな乗り心地として感じられるほうが強いだろう。
ブレーキはさすがに重さを感じるところで、制動力は日常的には全く問題ないが、物理的に重量のあるものは止まりにくいことは意識していた方がよい。試乗中も意識的に半呼吸前でブレーキをかけて心理的にはちょうどよかった。
■ミニバンでは物足りない層に
さて落ち着いたところでキャビンに目を移す。オーディオなどのスイッチのクリック感はしっかりしており、各部はてらいなく、きちんと仕上げられている。高級ではないが清潔で気持ちよいキャビンだ。
オーディオや空調、車両設定を操作する「My Ford Touch」を堪能できるまでの時間はなかったが、ステアリングスイッチで、メーター脇のディスプレイが次々と変えられ、必要な情報や、自分の好みとする表示を出すのに慣れてしまえば簡単だ。高輝度ディスプレイは見やすく、非常にクリアで新エクスプローラーにマッチしている。
現状、カーナビを付けるとすると、ダッシュボード上に自立式の製品を取り付けるか、2DINモデルになる。後者だとMy Ford Touchのモニターが隠れてしまう欠点があり、前者が一般的になるだろう。純正ナビも鋭意開発中ということだった。
さらにルーフに、有効なスポットライトが各前後のシートに配置されているのは便利だ。
そのリアシート、2列めはアップライトに座るようになっていて、硬さもちょうどよく、つま先がフロントシート下に入るので、ゆったりと座れる。
3列めはさすがに2列めほどのゆとりはないが、レッグルームは適度に確保されており、つま先もギリギリ2列めシートに入るので、案外ゆとりが生まれている。
その3列めは完全に倒せて、ただでさえ広いラッゲージルームはさらに広くなるが、操作にはアメリカン・プロダクトらしく、ちょっと力が必要だ。思い切りよくやるとチャチャと収納できる。
エクスプローラー エコブーストは7人乗りのメリットを生かしてミニバンとしても需要があるということだ。確かにミニバンでは物足りない層には、検討する価値のあるクルマに違いない。
サードシート | サードシート、セカンドシートともにフラットになる |
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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 3月 12日