インプレッション

フォード「エクスプローラー(直列4気筒2.3リッター直噴ターボ)」

直列4気筒エンジンは2.3リッターターボに

 初代モデルの誕生は1990年と、まだ“SUV”なる名称が一般化する以前からのロングセラー。かつ、本国アメリカではその誕生から14年もの長きに渡って、このカテゴリーでのナンバー1セールスを記録したというトップセラー・モデルでもあるのが、フォード発のフルサイズSUV「エクスプローラー」だ。

 かつてはフレーム式骨格を備えたトラックベースの乗用車、というノリで作られるのが当たり前だったアメリカンSUV。だが、エクスプローラーは2010年に登場の現行モデルを機に大変身を遂げている。以前のトラックベースの開発とは決別して、フルモノコック方式の完全なる“乗用車構造”を採用。さらには、そのパワーパックも「乗用車では当たり前」の横置きレイアウトが用いられるという徹底ぶり(?)なのである。

 ここに紹介するのは、そんな現行の4代目に、モデルライフ半ばと思われるタイミングでの大幅改良が施され、日本では2015年10月末に発売された最新モデル。一部内外装のコスメティックを新たにし、従来は2.0リッターにまでダウンサイズを徹底していた4気筒のターボ付きエンジンを2.3リッターへと変更して、出力/トルクを大幅向上。さらに、装備品の充実や質感の向上、安全デバイスの進化などが主なリファインのメニューとして報告されている。

10月31日に発売された、大幅改良を受けたフルサイズSUV「エクスプローラー」。撮影車は直列4気筒DOHC 2.3リッター直噴ターボエンジンを搭載する「XLT Eco Boost」。ボディサイズは5050×2000×1820mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm。価格は489万円
今回の大幅改良では「Rugged」(たくましい、頑丈)をキーワードにエクステリアデザインを刷新し、フロントまわりではヘッドライト、ボンネット、フロントグリル、フロントバンパー、フロントフェンダーの形状を変更。また、フロントバンパーの両サイドにエアインテークを設け、ボディ側面に強い気流を生み出す「エアロカーテン」、新形状のリアスポイラー、整流効果をもたらすDピラー部の形状を採用するなど、空力特性の向上も図られている

 同じ現行型同士でも、エクスプローラーの場合はそれが従来型なのか新型なのか、ひと目で容易に識別が可能。フェンダー部分の造形にまで手が加えられ、サイドへの回り込みまでを含めたフロントマスクの表情が、両者でまったく異なっているからだ。

 それでは新旧モデルの「どちらの顔が好みか?」と問われると、これは人によって答えが異なりそう。確かによりSUVらしい押し出しの強さや力強さが演じられているのは新型の方。けれども、より個性的でむしろモダンな雰囲気が強かったのは、従来型の方という印象でもあるのだ。

 今回テストドライブしたのは「XLT Eco Boost」グレード。その名のとおり、搭載するのは前述の直列4気筒DOHC 2.3リッター直噴ターボエンジンで、組み合わされるトランスミッションは6速AT。ちなみに、これまでフロアから生えるシフトセレクター横に設けられたスイッチで行なっていたシーケンシャル変速の操作は、今度はすべてのエクスプローラーに新設されたシフトパドルによって行なうことが可能になった。もちろん操作性では新型が圧倒的に優れることは言うまでもないだろう。

ベージュを基調にした明るいインテリアを採用する「XLT Eco Boost」。3列シートレイアウトで7人乗車が可能
新型エクスプローラーではエンジンのサブフレームに防振性能の高いマウントを設定する「エンハンスド・サウンド・パッケージ」を採用するとともに、新開発のドアシールなどにより快適性・静粛性を向上させている
新型エクスプローラーのシートアレンジ。2列目、3列目を倒すことで広大なラゲッジスペースを生み出すことができる

街乗りシーンでは「上質な乗用車」

 エンジンに火を入れ、Dレンジを選択してアクセルペダルに軽く力を加えると、全長5m超、全幅2mという文字どおりの“巨体”は、しかし思いがけないほどの軽やかさで速度を増して行く。ATは滑り感が少なく、エンジントルクのタイトな伝達感が印象的。それもあって、意外にもスポーティな印象すら感じられるものだ。

「エンジンは4気筒」という先入観もあってか、静粛性も予想以上に優れて感じられた。もちろん、その気になってアクセルを踏み続け、エンジン回転が高まると4気筒ユニットならではの少々雑なノイズが耳に届く。しかし、ロードノイズが小さいこともあって常用シーンでの静粛性はなかなか高い。さらに、大きなシューズを履く割にはバネ下の動きも軽快で、その乗り味は思いのほかマイルド。かくして、街乗りシーンではあくまでも「上質な乗用車」としての振る舞いを崩すことがないのが特筆ものだ。

直列4気筒DOHC 2.3リッター直噴ターボエンジンは最高出力192kW(261PS)/5500rpm、最大トルク420Nm(42.8kgm)/3000rpmを発生。従来モデルで搭載していた直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンから最高出力と最大トルクを高めつつ、燃費性能は8.2km/Lから8.6km/Lへと向上した

 一方、いかにも逞しいそのルックスから、SUVならではというタフな走りのポテンシャルを期待すると、そこではちょっと肩透かし……と、そんな印象が皆無ではなかったことも付け加えておく必要があるだろう。例えば、スタートの瞬間にラフなアクセル操作を行なってしまうと、ステアリングホイールには一瞬、右方向へと持って行こうという回転力が感じられる。さらにそこが砂利の上だったりすると、前輪がズルッと空転する感触も顕著だ。

 そう、このモデルは実は2WD(FF)方式の持ち主。それゆえ、トラクション能力は格別に高いわけではないし、急発進時には通常4WDモデルでは実感することのないトルクステアが認められてしまうのもやむを得ないのだ。

 こうした事柄は、相変わらず左ハンドル仕様しか用意されないという点とともに、実際に購入する場面では慎重に吟味する必要があるだろう。例えば、毎シーズン必ずスキーへと出掛けるといったユーザーにしてみれば、せっかくSUVに乗ってきたのに上り坂で発進をしようとしたらトラクションが足りずに立ち往生……と、そんな場面に万が一でも遭遇したくないだろう。

 ちなみに、新型エクスプローラーには、そうした揺れる気持ちを抱く人が現れることを見透かしたように、今回テストしたFWD仕様とまったくの同価格で、自然吸気のV型6気筒DOHC 3.5リッターエンジンをやはり6速ATと組み合わせた4WD仕様が用意されている。

 4WDシステムの持ち主でないと実現が不可能な踏破性の高さを選ぶのか、あるいはエクスプローラーのスタリングやパッケージングにこそ価値を抱いて、むしろこうしたカテゴリーにあっては例外的とも言える乗用車然とした軽快な走りのテイストを尊重するのか? 新型エクスプローラーは、他車ではなかなかあり得ないそんな稀有なクルマ選びが可能な1台でもあるということだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

http://blog.livedoor.jp/karmin2/

Photo:中野英幸