【インプレッション・リポート】 フォード「エクスプローラー」 |
SUV大国のアメリカで、20年前の誕生以来長年にわたりベストセラーとして君臨しているエクスプローラーが、全面的に刷新された。
フォードはもともとSUVに先進的なものを採り入れることに積極的。他社に先駆けてステアリングをボール&ナット式からラック&ピニオン式に変更したり、独立懸架を採用したりと、新しいものをいちはやく投入してきた経緯がある。
そして4代目エクスプローラーでは、すでに採用済みの4輪独立懸架はもとより、伝統のフレームシャシーをやめてユニボディー(=モノコックボディー)とするとともに、V6エンジンを横置きとして、トルクオンデマンド式のフルタイム4WDを採用するなどした。これまでとクルマとしての基本的な部分が、あまりに大きくガラリと変わったことに驚かされているところだが、フォードではこれを「SUVを再定義する」と表現しており、これも将来を見据えた大改造ということのようだ……。
エンジンも、将来的にはより上のスペックを有するものも出てくるのかもしれないが、ひとまずメインは新開発のV型6気筒3.5リッター直噴ユニットとなった。さらに近い将来には、これだけ大きなクルマに「エコブースト」と呼ぶ直列4気筒2リッターターボを追加予定というのも驚きなのだが、逆にV型8気筒の設定がなくなったのが印象的で、これも時代を反映してのことに違いない。
価格はベーシックな「XLT」が440万円、「エディバウアー」に換えて設定された上級の「リミテッド」が530万円と、従来のほぼ据置きとされたことには、ひとまず安堵である。
■洗練され現代的な雰囲気に
時代を反映しているのは、エクステリアデザインもそうだ。
これまた従来モデルとガラリと変わったのは見てのとおりで、しかしながら無骨さは薄れたものの、これが新しいエクスプローラーだといわれれば、妙に納得させられるような気もする。
ボディーサイズは全長が5mを超え、全幅が2mに達したということで、かなり大柄であることに違いないのだが、日本ではちょっともてあましそうな車体も、一方ではこのクルマの魅力の1つ。
そのおかげで室内の広々感は相当のものとなっており、3列目にいたっては横幅が160mmも拡大された。また、インテリアの雰囲気も、某欧州プレミアムブランドを参考にしたということもあってか、無骨さは影を潜め、洗練され現代的な雰囲気となった。もはや「CUV」(クロスオーバー)といってもいいほどで、往年のアメリカンSUVっぽさはなりを潜めた。
1列目 | 2列目 | 3列目 |
オーディオ、エアコン、車輌情報、電話を集中制御する「MyFord Touch」 |
装備面では、リンカーン「MKX」で採用された「My Lincoln Touch」と同様の、各種機能の表示や設定を視覚的に楽しみながら操作できる先進のドライバーコネクトテクノロジー「MyFord Touch」が特徴。同じく英語によるボイスコマンド「SYNC」も備わる。
ただし、やはりこの画面の雰囲気からして、当然カーナビも付いているように見えるところながら、日本仕様では未導入となっているのが残念。しかし、近い将来にプログラムの書き換えで対応するものが用意されるようなので、カーナビを理由に、今、購入を躊躇する必要はなさそうだ。
リミテッドでは、レザーシートとなるほか、前席にシートヒーターだけでなくシートクーラーも付き、後席の空調コントロールや110Vの交流電源が設定される。また、サンルーフが付き、サンシェードも電動で開け閉めできる。
というわけで、旧型と比べてどうだということを述べてもあまり意味はないと思うので、新型自体がどうかという部分をお伝えしたいのだが、使い勝手の面でとにかくありがたいのは、3列目の広さとアレンジ性だ。3列目シートは成人男性が乗っても頭上や横幅の広さにあまり不満を感じないであろう、常用にも耐えうる居住空間が確保されている。ドア側にはカップホルダーや小物入れも用意されている。
また、3列目シートは左右跳ね上げ式ではなく、50:50分割で床下に畳むことができるのがポイント。しかも上級のリミテッドであれば、それを電動で簡単に操作することができる。
リミテッドの3列目シートは電動で操作できる |
また、このクラスでも採用が拡大されつつあるパワーリフトゲートも、リミテッドには標準で備わる。さらに、ラゲッジスペースの広さも特筆モノで、3列フル乗車の状態でも595Lの容量が確保され、2~3列目シートを倒すと最大で2285Lもの巨大なスペースを出現させることもできる。
この広さと、後述する悪路走破性があれば、場所を問わず大きな道具を使ったレジャーを楽しむことができるわけで、頼もしい限りである。
■モノコックで快適性向上
走るとボディーサイズの大きさはそれなりに感じられ、とくに2mある横幅の大きさを実感するわけだが、ステアリングの切れ角が大きいので、意外なほど小回りが効く。加えてステアリング操作に対する応答遅れもないので、走行感覚の面では、あまりネガティブに車体の大きさや重さを意識させられることはない印象だ。
従来よりも大きくなったにもかかわらず、モノコック化の恩恵で車両重量はだいぶ軽くなっているのだが、そのおかげというよりも、味付けの進化による部分が大きいと思う。
ちなみに、プラットフォーム自体は乗用車のトーラスで使っているものをベースとしており、少し前に発売されたリンカーンMKXとの共通性はなく、MKXは日本未導入の「エッジ」と姉妹関係となる。ただし、4WDシステムは似たようなものを使っており、通常走行時はFF状態が主体になると考えていい。
モノコック化による大きなメリットは、乗り心地の向上にあるわけだが、期待どおり快適そのもの。サスペンションの動きもとてもスムーズで、もともとエクスプローラーは、フレームシャシーの先代でも4輪独立懸架をいち早く採用していたこともあり、オフローダーのわりに快適性はわるくないほうだったのだが、新型はやはり別物になっていた。前述のSYNCの認識率をより高めるという目標もあったとのことで、走行時の車内の静粛性についても、高級乗用車なみに保たれている。
この一連の快適性こそ、モノコックホディーを採用した理由だろう。
さらに感心したのは、ワインディングを攻められるほどのポテンシャルがあることだ。見てのとおりのクルマだが、重心が高く不安定な感覚もあまりなく、また4輪がしなやかにストロークして路面を捉えるおかげで、この車体ながらけっこうなペースで飛ばせてしまう。
また、安全装備についても、ロール・スタビリティ・コントロール付きアドバンストラック(横滑り防止装置)に加えて、オーバースピードによるコースアウトを防ぎ、自動的に減速して安全走行をアシストする「カーブコントロール」という装備が新たに加わった点も特徴だ。
動力性能については、エンジンスペック上は、最高出力が従来のV8と同等で、最大トルクは、従来のV6と同等ということになっているが、ドライブすると中間加速がやや控えめ。ごく普通に運転するぶんには、大きな不満はないものの、いざというときにはもう少しパンチが効いていてもいいような気もしなくない。
ただし、それとのトレードオフなのか、厳密に計測したわけではないが、従来に比べて燃費がだいぶよくなっている印象だった。最近ではアメリカでも燃費がかなり気にされるようになったらしく、その表れなのかもしれない。新しいエンジンとインテリジェント4WDシステムは、燃費の面では明らかに従来のものよりも有利である。
■実は「キープコンセプト」
そして、エクスプローラーを名乗る以上、悪路走破性において期待を裏切ることはあってはいけないと思うところ。クルマの基本構成が大きく変わったことで、実のところオンロード以上にオフロードでどうなのかが気になっていたのだが、今回オフロード走行も試して、悪路走破性も十分に優れていることを確認できた。途中、かなりラフな路面を越える際も、たっぷりストロークの確保された足まわりが悪路でもよく伸びて地面を掴み、着実に走破していく。
そして、副変速機もデフロック機構も備えていなくとも、路面状況に合わせて4つのモードから選び、適切な駆動力を確保する新兵器「テレインレスポンス」が強い味方になってくれる。
この状況であれば、推奨は全4段階中の2番目の「マッド&ラット(轍)」(さらに上に「サンド」、「スノー」がある)とのことで、それに設定してコースインしたところ、たしかになんらストレスを感じることなく走ることができた。
テレインレスポンスのコントローラー |
急勾配の悪路を上り下りするコースでも、クルマまかせでまったく問題なし。上り坂の途中で完全停止してから再スタートするという難しい状況も試してみたのだが、ものともせず駆け上がっていった。これはトラクション性能に優れることの証といえるだろう。
また、フレームシャシーであれば路面からの入力は、まずフレームが受け止めるところ、モノコックボディーの場合は、それがボディー全体に伝わるため、少なからずキャビンの快適性が損なわれがちになるのものだが、今回走った限りでは、それらしきものも感じられなかった。中身は大きく変わっても、やはり本質はエクスプローラーに違いないと痛感させられた次第である。
時代に合わせて変わった部分と、変わらない価値、さらには高い質感や充実装備など、数々の付加価値を身に着け、よりオールマイティなSUVに進化したというのが、4代目エクスプローラーの姿である。つまりこのクルマは、名前こそ踏襲しながら中身はぜんぜん違うというものの、エクスプローラーとしての「キープコンセプト」の産物であるということなんじゃないかと思う。
アメリカンSUVのベストセラーとして築き上げてきたものを、今後に受け継いでいくための進むべき道が、より多くの要素を満たすための現状で考えうる最適解が、このクルマにはあった。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 8月 5日