【インプレッション・リポート】
シトロエン「C4」

Text by 日下部保雄


 

 シトロエンといえばハイドロニューマチックを連想するのは、古い世代に属するのだろうか。初っ端から恐縮だが、ちょっと時間を前に戻してもらう。

 私がまだ駆け出しモータージャーナリストでバリバリの現役ラリードライバーだった頃、ある編集者が「この車のインプレをしてください」と持ってきたのがシトロエン「GS」だった。それまで自動車と言えばラリーに使えるクルマ=国産車で、その基準もすべて競技用として有効かという目で見ていたものだ。それはそれでスタンスをハッキリさせたうえでの視点だったので面白かったが、競技、特にラリーの世界とは全く対極にあった輸入車は、全く埒外であった。

 そんな時に出会ったシトロエンGSは、自分には衝撃的だった。たった1.3リッターのSOHCエンジンのFFだが、キャビンは広く、外観も国産車とはかけ離れたスタイルをしている。そしてふわふわのシート、ボビン式のメーター、どれをとっても宇宙船かと思えるようなゴージャスな内容だった。スターレットと同じ排気量のクルマではなかったのだ。

 そして、走らせてまたひっくり返った。ハイドロニューマチックの醸し出す、ゆったりしてストロークをいっぱいに使い、それでいて姿勢変化の少ない乗り心地に、これがハイドロか! これがフランス車か! とショックは連続して襲ってきた。それ以来、ハイドロのシトロエンは私にとって一目置く特殊な存在になった。

洗練されたシトロエンらしさ
 と、ここまで語ったところで肩透かしを食わせるようだが、今回紹介するシトロエンC4のサスペンションはこのハイドロではない。しかしハイドロを彷彿とさせる乗り心地を持っているのがC4なのだ。

 言うまでもなくシトロエンはプジョー・シトロエングループの一員で、プラットフォームなど主要コンポーネンツを共用して、グループとしてのコストなどの総合力を上げている。しかしデザインが違うように味付けも全く異なっており、同じプラットフォームからなぜこれだけ違うテイストが出せるのかと思うほどだ。

 プジョーはシトロエンに比べると、単純に言ってしまえばダンパーを締めた感じにしていることが多い。それでいてプジョーの言うしなやかな猫足が実現され、快適な乗り心地を持っているが、シトロエンの味付けとは異なっている。ストローク感とかサスペンションの初期の動きは、シトロエン独特のものがある。

 C4の初代が登場したのは2004年のパリ。それまでの「クサラ」の後継として、さすがシトロエンと言われるスタイリッシュな5ドアハッチバックとして登場し、欧州を中心にこれまで100万台以上を販売するシトロエンの重要な柱に成長した。

 そして今年、日本でも登場したのは2代目C4。従来のC4を洗練させたボディーを持ち、シトロエンのタグラインであるクリエイティブ・テクノロジーに基づいてリデザインされている。C4が属するCセグメントは、言うまでもなくフォルクスワーゲン「ゴルフ」が存在する激戦区。シトロエンらしさを目指したC4は、個性的なデザインを特徴として、居住性、デザインの洗練度、走りの質を上げた。

 基本的なC4のデザインは少しも鮮度を失っていないので、新型ではそれを踏襲する形になった。エクステリアではタイヤを四隅に張り出させて、踏ん張り感と流れるようなサイドラインを特徴とする。ボディーサイズはひと回り大きくなり、全長で35㎜(4330㎜)、全幅で15㎜(1790㎜)、全高で10㎜(1490㎜)大きくなっている。ただしホイールベースは2610㎜で変わりはない。

 インテリアも最初にひっくり返ったほどの衝撃はないが、随所にシトロエンらしさが表れているメーターやステアリングホイールのデザインなど、ユニークさが表れている。

 このC4らしいデザインはなかなかスタイリッシュで、ドイツ車とは一味違うが、言うまでもなくサイズ的にも使いやすいところに収まっている。

 

自然吸気でも十分なパワー、絶品の乗り心地
 グレードは現在は2種類揃っており、1つはベースの「セダクション」、もう1つはよりスポーティな「エクスクルーシブ」だ。エンジンはいずれも1.6リッターだが、性格は大きく異なる。

 セダクションは88kW(120PS)/6000rpm、160Nm(16.3kgm)/4250rpmの直列4気筒DOHC自然吸気エンジンで、4速トルコンATとの組み合わせになる。こちらは基本的に従来型C4のエンジンと変わりはないが、トランスミッションのマネージメントとエンジンのリファインで燃費を6%改善した。

 エクスクルーシブはがらりと変わって直列4気筒DOHC直噴ツインスクロールターボで、115kW(156PS)/6000rpm、240Nm(24.5kgm)/1400-3500rpmのパワーを出し、シングルクラッチの6速AMTとの組み合わせになる。こちらも燃費は25%と大幅に改善されている。シトロエンによるJC08モード燃費のテストでは、エクスクルーシブの方がセダクションより燃費が優れている。

 まずセダクションから試乗するが、装着タイヤは205/55 R16のミシュランとなる。ちなみにシトロエンとミシュランは歴史的に深いつながりがあり、すべてミシュランタイヤ装着となる。

 例によって欧州車は、最初のドライビングポジションがスッキリと決まるまでちょっと時間がかかる。大きなシートに右ハンドル化で配置にちょっと違和感があるABペダルのためだが、ステアリングは調整幅があるので、比較的合わせやすい。

 自分の居所を見つけてからやっとまわりを見渡すと、オフホワイトの内装やブラックのダッシュボードのシボのつけ方など、これまでのC4からは一段上のレベルに来ていることが分かる。メーターの照明色を、白色系からブルー系まで5色に変えられるなど、遊び心も忘れていない。ちなみにウィンカーの音も5種類から選択できるので、飽きたら変えてみるのも面白い。

 1.6リッターの自然吸気エンジンと4速ATの組み合わせは、動力性能にはそれほど期待していなかった。しかし日常的に遭遇する場面では、それほど出力不足は感じなかった。低中回転域のトルクも妥当で、発進加速でもかったるさはない。エンジンの回転フィールも滑らかで気持ちがよい。

 4速ATはさすがに段数不足を感じる。プジョー・シトロエングループがずっと使い続けている「AL4」の発展型だが、いわゆるインテリジェントATで変速タイミングを自分で考えるタイプだ。ドライバーの運転に合わせて変速パターンを変えてくれるものだが、初期型は余計なお世話的なところがあって、意に沿わない変速も少なからずあった。改良を重ねるに従ってフツウになってきたが、新C4に搭載されているものはドライバーの意図どおりの変速をするようになってきた。ハマるとなかなか快適だ。

 しかしこのクラスの世の趨勢は多段化にある中、やはり4速は物足りない。同じグループ、同じプラットフォームのプジョー308には優秀なアイシン製6速ATがあるのに不思議な気がする(もっとも308も自然吸気エンジンは4速ATなのでそれに合わせているとも言えるが)。登坂がきつくなるとちと苦しいのは仕方がない。特に2速→3速→2速の一番使う変速が、タイミングになじむまで違和感が残り、2速→1速はショックも大きく入りにくい。

 しかし乗り心地は絶品だ。しなやかでまるでハイドロニューマチックと同じような感触なのだ。初代のGSを思い起こさせるに十分だ。サスペンションの最初の動きがスムーズで、凹凸路でも足がよく動いて、パッセンジャーはC4の中でフラットな姿勢でいられる。

 感心するのはこのショックの吸収が速度によらないことで、低速から高速まで一貫して同じ乗り心地を保っている。リアサスは通常のトーションビームだが、長年使い慣れたこの形式のサスのよいところを知りつくして活かしている感じだ。

 もちろんサスペンションだけでこの乗り心地が達成できるものでもなく、シートの大きさやクッションストロークも大きな影響を持っている。C4のシート、特に前席はサイズがかなり大きく、しかもソフト。低速でのショックは、このやわらかくてクッションストロークのたっぷりしているシートがよく吸収している印象だ。この心地よさはプジョーとも違うもので、単純に言ってしまえばもっとソフトな味だ。中速以上ではシートのダンピングのよさがサスペンションとの相乗効果を活かしきっている。

 リアシートの素材も決してケチられてはいない。前席ほどではないがこちらもたっぷりしており、前席寄りの高めに配置されているので、開放感も持っている。レッグルームはそれほどでもないが、シートが高く、バックレストも適度な傾斜できちんと座れ、しかもつま先が前席の下に入るので、たいていのパッセンジャーからは苦情はこないだろう。ただ斜め上方の空間はデザインの影響で絞られているのでそれほど余裕はない。

実はできるやつ
 一方のよりパワフルで225/45 R17を履く「エクスクルーシブ」は、コンパクトでレスポンスのよいターボとの組み合わせで、低速から使いやすい。ターボの強力なトルクを享受しながら、回転フィールは自然吸気エンジンのようだ。2輪駆動なので、滑りやすいところで無闇とアクセルを踏み込むと、トラクションコントロールやEPSが介入するほど元気のよいエンジンだ。

 こちらはシングルクラッチのATで、AUTOにまかせるか、パドルシフトによる積極的な変速をすることになる。AUTOでは変速時にちょっと間を外された感が残るが、アクセル開度の小さいところではそれほど違和感はない。大きく踏み込む場面ではそれが顔を出すが、この出力のエンジンとの組み合わせでは十分にこなれているといえるだろう。

 パドルで積極シフトをすると、C4の面白さを引き出せる。かなり登坂がきつい山道から高速まで走らせたが、慣れてしまうと自然とパドルを使って自分で変速していることが多いことに気付く。ちょっと楽したいときはAUTOを使ういったように分けると、C4の魅力を存分に出せるだろう。

 ハンドリングは、コーナリングの初期ロールは大き目だが、基本的にロールチェックはよく抑えられており、前後のロールバランスも非常によく考えられている。ステアリングインフォメーションもしっかりあって、かつステアリングの応答性やコーナリンググリップそのもののレベルも高い。つまり面白い! 乗り心地がよいからC4はハンドリングがたいしたことないのでは? と思ってはいけない。こいつはできるやつなのだ。

 最後に情報を、この秋には「DS4」も登場する。こちらはさらに遊び心が盛り込まれている。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 7月 22日