【インプレッション・リポート】
マツダ「CX-5」(20S/XD)

Text by 河村康彦


 

 エンジンやトランスミッション、ボディーにシャシーと、自動車の機能を構成するすべてのランニング・コンポーネンツを新世代ユニットへと刷新させるマツダの「スカイアクティブ」テクノロジー。マイナーチェンジ扱いで既存のボディを用いたゆえ、そうした新アイテムがエンジン単体、もしくはエンジンとトランスミッションのみへの限定搭載に留まった「デミオ」や「アクセラ」に対し、それらすべてを“フル搭載”となったのが、ブランューモデルとして2月に発売された「CX-5」だ。

 さまざまな部位に改良の手を加えたガソリン・エンジンや、日本では市場を失っていったディーゼル・エンジンの復活など、まずはどうしてもそのパワーユニットにスポットライトが当てられがち。しかし、より注目すべきはそんなエンジンも、同様にスカイアクティブ技術を用いて開発されたボディやトランスミッションと組み合わされてこそ、本来狙った真価を発揮できるということだ。

 そう、スカイアクティブというのはエンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーと、冒頭掲げた4つのパートがお互いにリンクをしてこそ、初めて所期のポテンシャルを生み出せるテクノロジーであるという事。となれば、個々の技術はもとより、そんな開発を同時進行で一挙に行うことを許したマツダ上層部の英断と社内の動きの早さこそが、まずは特筆されるべきトピックであると紹介してよいだろう。

 すでに本サイト内でも様々な機会に、スカイアクティブ・テクノロジーの詳細が紹介されている。今回は九州・鹿児島をベースにややまとまった距離をドライブできたので、ここではその印象をメインにお伝えしたい。

機能的なインテリア
 テストドライブを行ったのは「スカイアクティブ-G」と称される2リッターの自然吸気ガソリン・エンジンを搭載した「20S」グレードの4WD仕様と、「スカイアクティブ-D」と呼ばれる2.2リッターのシーケンシャルターボ付ディーゼル・エンジン搭載の「XD Lパッケージ」のFWD仕様がメイン。これに、前出「20S」のFWD仕様を加えた3台でチェック走行を行った。

 まずは最初に乗ることとなった「20S」で、CX-5というモデルのパッケージングや各部の質感にチェックを入れる。4540×1840mmという全長×全幅に5.5mという最小回転半径の組み合わせは、「日本の多くの場所で、駐車やその際の取り回しに特別な気は遣わずにすむサイズ感」というのが第一印象だ。

 最低地上高が210mmと大きく採られたSUVらしく、その分フロア位置やシートのポジションも高めの設定。が、いざドライバーズシートへと乗り込もうとすればそれらは「高過ぎず、低過ぎず」の絶妙なポジションで、乗降性はなかなか優れている。

 そんなシートから外界を見渡すと、すっきりと視界が開けている点にまず好感が持てる。やや高めのポジションゆえ多少の“見下ろし”感が得られるのはもちろんだが、Aピラーやドアミラーまわりに気になる死角が少なく、右左折やコーナリングの際に大きく首を振ってそんな死角をカバーする必要性が少ないことに気が付いた。最近の例で言えば、このあたりはドアミラーそのものが背後に大きな死角を生み出してしまうレンジローバー「イヴォーク」などとは正反対の好印象。

 レギュレーションで定められた左前輪付近の死角部分の映像は、ルームミラーに内蔵されたモニターで確認可能ゆえ、後付け感一杯のフェンダーミラーが外観を損ねるような事にはなっていない。画面が小さいのが難点だが、このルームミラー内モニターにはバックカメラが写した後方の映像も表示が可能だ。

 

 前席同様、ややアップライトな姿勢で座ることになるリアシートは、フロントシート下への“足入れ性”が非常に優れていて、見た目以上のレッグスペースが得られるのが嬉しいポイント。もちろん、頭上を含め各方向にもしっかり余裕が採られ、大人4人での長時間乗車にも抵抗はなさそうだ。

 一方、そんなインテリア各部の質感はチープさこそ伴わないものの、「ちょっと素っ気無く、上質感は物足りないかな」という印象。見やすいメーターに高い位置に置かれたカーナビのモニター、温度と風量調整がダイヤル式とされた操作しやすい空調コントロール系など機能性には富んでいるが、ゴージャス感は少々希薄。もっとも、205万円からという価格設定を知れば、余り欲張ったことを言うのは気の毒にも思えるが……。

 ラゲッジスペースは広く、日本の日常シーンを考えると「少々もったいない」とも思えるほど。ただし、CX-5というモデルが欧米市場をも含めた新たな国際戦略車であることを思えば、こちらも「この程度は不可欠なボリューム」という評価になりそうだ。

ドライバーの意思でコントロールできるi-stop
 約1.5トンの重量に、2リッターのレギュラー・ガソリン仕様エンジンの組み合わせ――そう考えると、「まずまずよく走ってくれるじゃない!」というのが20Sの4WD仕様でスタートをした際の最初の走りの印象だ。

 決して飛び抜けて強力な加速というわけではないが、かと言って日常シーンで不足を感じたり、たびたびアクセルペダルを床まで踏み込む必要に迫られたりするわけでもない。2000~2500rpm付近でトルクがフッと上乗せされる感覚は、例の「4-2-1排気系」がもたらす効用か。

 変速感は明確だが、その際のショックは気にならないタイトな伝達フィールが味わえるATや、際立って静かとは言えないものの音質が気にならない排気音も、動力性能に好印象をプラスする要因となっていそうだ。

 「i-stop」を謳うアイドリング停止機構は「ドライバーの意思ひとつでその作動/非作動をコントロールしやすい」のが、ライバル・メーカーのアイテムに対する大きな特徴だ。具体的には、そのメカは静止後にブレーキペダル踏力を増すことで初めて作動(アイドリング停止)し、その操作を行わなければ車速がゼロになっても作動はしないのだ。

 燃費の削減に視点を合わせるならば、他社の一部のモデルに採用例があるように、むしろ「停車前からエンジンは止めてしまう」のが得策だろう。しかし、一時停止後に即再加速といったシーンでは、そうした制御は大きな違和感を伴うのも事実。リアルワールドでの燃費削減効果を考えても、個人的にはこのマツダ方式のような「ドライバーの意思ひとつでコントロール可能」というものに軍配を上げたくなる。

 ちなみに、その採用の有無や再始動に要する時間の長短ばかりに話題が集中しがちなアイドリング・ストップメカだが、当然ながら渋滞や信号待ちが少ない走行パターンではそのメリットは大幅に失われてしまうし、専用バッテリーの交換時には、通常よりも大きな支出を余技なくされるという明確なデメリットも存在する。本来やるべきは、まずアイドリング時の燃料消費量を抑えること。その検証抜きにしてこうしたアイテムの採用を強いるのでは、ちょっとばかりの“本末転倒感”が漂ってしまう……。

4WDが本命?
 20Sのフットワーク・テイストは、まずはフリクションを感じさせないしなやかな乗り味がなかなかの好印象だった。一方で、ワインディング・セッションでは1.7m超という高い全高から予想をして以上に自在なハンドリング素直なロールの感覚、そして、“電動式”を忘れさせるやはり自然なステアリング・フィールなどが心地よい。

 ルックス上は足下がやや心許なくも見える17インチのシューズを履くが、少なくとも「公道上をちょっと飛ばし気味に走る」程度であれば、そのポテンシャルに不足を感じるシーンはまず無いと報告できる。ボディのしっかり感が高いのも、もちろんスカイアクティブ技術の効果だろう。

 そんな4WDモデルから、同じ「20S」のFWD仕様へと乗り換えると、意外にもそのフットワーク・テイストが明確に異なることに驚いた。それも、残念ながらよい方向にではない。むしろ、「これは4WD仕様の方が“本命”でしょう」という印象を抱かされることになったのだ。

 4WD仕様では、車両キャラクターに対してやや重めと感じられたステアリング・フィールが、同じタイヤを履きつつやや軽めであった点には好感が持てた。しかし、比べると全般にサスペンションのストローク感に乏しく、路面凹凸を拾っての揺すられ感も強く、さらにステアリング中立付近での落ちつき感に少々欠ける印象があったのは残念だ。

 後に担当技術者に確認をすると、フットワークのセッティングは4WD仕様を基準に行ったという。そんな開発のプロセスも、あるいはこうした印象に影響を及ぼしていたのかも知れない。

ディーゼルは強力かつ個性的
 乗り換えたディーゼル・モデルは前述のようにFWD仕様。車両重量は1530kgだから、先のガソリン・モデルの4WD仕様とほぼ同等。すなわち、エンジンが発する出力差が、ほぼそのまま加速感の違いとして受け取れる理屈になる。

 事実、こちらのモデルが発する加速の力感は、比べなければ「不満ナシ」と感じたガソリン・モデルのそれを圧倒するものだった。アクセルペダルにわずかに力を込めると、もはやそうした操作に先んじるかの勢いで図太いトルクが湧き出る感覚。ひとたび走り始めればそんなゆとりのトルクゆえに自動変速の頻度も断然少なく、また同程度の加速シーンであれば、こちらのATは常に1段高いギアを選択してスルスル走行、と、そんな感覚が常にある。

 420Nmと、自然吸気のガソリン・エンジンであれば4リッター級に相当する最大トルク値を、わずかに2000rpmという回転数で発してしまうのだから、そうした印象も実は当然といえば当然。加えて、低圧縮比化が実現された事でレブリミットがディーゼル・エンジンとしては異例に高いのも特徴。実際に5000rpmを越えるゾーンまでパワー感が持続するのだから、動力性能面では総じてこちらの方が遥かに強力、かつ個性が強いのだ。

 ちなみに、そんなディーゼル・エンジンに対して、今でも「ノイズが心配」という人もいるかも知れない。そんな懸念に対する回答は、「音質はガソリン・エンジンと異なるものの、ボリュームはキャビン内ではほぼ同等と感じられる」というものだ。さらに、クルージング中のエンジン回転数はガソリン・モデルよりも低くなるので、むしろそうしたシーンではこちらの方が静粛性に長けて感じられるほど。ただし、車外音はやはりガソリン・モデルよりも多少目立つ傾向。こちらにもi-stopが採用されるが、早朝の住宅街からの最初のスタートシーンなどでは、「まだ気になる」という声もあがるかも知れない。

 ところで、そんなCX-5のガソリンとディーゼル・モデル間には相当の価格の差が与えられているが、例えガソリン・モデル同士でもここまで動力性能に差を生み出す心臓を搭載すれば、「現状の両エンジン車程度の値段の差があっても当然であるはず」というのが、自身の率直な感想だ。すなわち、これほどまでに動力性能があるモデル同士の価格は、単純に横比較はできないということだ。「走りがよいのだから高くても当然」と、ディーゼル・モデルの値づけの裏側には、そんな声なき声が聞こえて来る。

 そんなディーゼル・モデルは19インチ・シューズを履いていたが、これがなかなか印象のよい走りのテイストを味わわせてくれた。

 確かに、路面凹凸を拾っての“当たり”の印象は少々かたい。しかし、それを除けば揺すられ感はむしろガソリンのFWD仕様よりもマイルドだし、良路をクルージング中の“真円のタイヤが転がる感触”もより心地よい。ハンドリングの感覚も単にグリップレベルが上がったというのではなく、よりスッキリと自然なコーナリングの感覚を味わわせてくれる点に好感が持てた。

 それでも、快適性面を考慮すると「恐らく(現状では存在しない)18インチの設定がベストだったのでは……」と思わせる部分も残るが、しかし見栄えとのバランスを考えればやはり「17インチより魅力的」と思わせるのがこちら19インチ・モデルだ。

納得の燃費
 ところで、テストドライブ全行程を当方がステアリングを握った結果に得られた燃費のデータは、ボードコンピューターにはガソリン4WDモデルが12km/L、ディーゼルFWDモデルが14km/Lと表示された。両車の走行距離はそれぞれ130kmほどと近かったものの、走行経路は同じではないし所要時間も多少異なったもの。いわゆる“エコラン”は一切意識していないし、撮影のために止むを得ずのアイドリング状態も伴った。テストドライブゆえ、時にエンジン回転をレッドラインまで引っ張るようなシーンも含んでのものだ。

 ガソリン・モデルのデータは、ひと昔前のSUVの常識からすれば「夢のよう」と納得する人が多そうである一方、ディーゼル・モデルについては「ガソリン・モデルとあまり変わらないじゃないか」という受け取り方をする人も出てきそうだ。

 が、先に述べたように両者では動力性能が大きく異なる。このディーゼル・モデルの走りのパフォーマンスをガソリン・エンジンで実現しようとすれば、それはどう考えても10km/Lのラインを大きく割り込むのは避けられないだろう。

 もちろん、断定した意見を述べるためにはさらなる精査が必要ではあるが、個人的にはCX-5の実燃費データは「走りとのバランス上、十分納得できるもの」という印象だ。

 そんなこのCX-5のデビューを筆頭に、“スカイアクティブ全搭載”の第2弾は次期アテンザとなるはず。「SUVなど自分の好みの“圏外”」という人にとっては、こちらこそが真に気になるマツダのニューモデルであるかも知れない。


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2012年 5月 11日