【インプレッション・リポート】
アウディ「A6 アバント」

Text by 岡本幸一郎


 

 セダンから半年あまりのタイムラグで、「A6」の「アバント」が日本に導入された。ラインアップはセダンと共通で、車両価格はそれぞれセダン+30万円。「2.8 FSI クワトロ」が640万円、「3.0 TFSI クワトロ」が865万円となる。両グレードの価格差が225万円もあると、間を埋めるグレードがあってもいいような気もするところだが、執筆時点では本国でも中間的なエンジンの設定はないようだ。


A6ならではのたたずまい
 それにしても、少し前までが不当に低かったわけではあるものの、このところのアウディのブランドイメージの向上ぶりはたいしたものだとつくづく思う。とはいえ、日本での販売の主力はやはり「A4」以下のクラスで、A6以上の売れ行きは、本来の実力からすると、まだ十分とはいえない印象。

 そんな中で、新しくなったA6が今後どうなるのかも興味深いところだが、もともとアウディはアバントの販売比率がけっこう高いことだし、A6についても、セダンよりもアバントを待っていたという人も少なくないことと思われる。そんな人たちに対して、新しいA6アバントは待っていた甲斐があったと思わせるに十分なインパクトを持って現われた。

 見よ、このスタイリング! これまで世に出た数あるステーションワゴンの中でも、これほど初見でハッとさせられたことは数えるほどしかない。鷹をイメージしたというアグレッシブなフロントマスクに、クーペのごとき流麗なルーフライン。ディテールまで美しい造形を持つボディパネルに包まれたスタイリングは、最近のアウディらしい独特の色っぽさが凝縮されている。アウディが先鞭をつけた、LEDを駆使した光の演出も、もちろん印象的だ。

 電動のテールゲートを開けると、ラゲッジルームもこれまた期待どおりの美しさ。容量は先代比20L増の565L(通常時)。リアシートを前倒しすると最大で1680Lまで拡大可能……と言っても、実のところ数値的にはそれほど大きいわけではないのだが、絶対的な容量よりも、外側も内側も見た目のよさを追求しているのがアバントの考え方だ。

 奥行きの寸法は、リアシートを立てた状態で最大1180mm、倒して1930mmとのこと。横幅は、筆者の計測で、ホイールハウス間で約1030mm、その後方は右側がえぐられていて、広い部分で約1230mmとなっている。そうなると、一般的な9~9.5インチクラスのゴルフバッグの高さが1200mm程度なので、ゴルフバッグを常時積んでおくような使い方には適さないと言えそうだが、一方で、カーゴレールやフック、ネット、ゴムベルト、テールゲートと連動して開閉するトノカバーなど、日常の利便性を高める装備は細かく設定されている。

 さらに、リアバンパー下に足をかざすとテールゲートが自動的に開く、バーチャルペダル付きリアゲートもオプションで選ぶことができるようになった。荷物を両手で持っている際などに重宝しそうだ。

分割可倒式シートはリアゲート付近のレバーで倒せるラゲッジルーム床のタイダウンポイントはレール上を移動させて任意の位置に置ける
トノカバーはリアゲートと連動して開閉する

 

 アウディ伝統のラップアラウンドデザインにより、心地よい囲まれ感を提供してくれるインテリアは、日本刀にインスピレーションを受けたという、エッジを効かせた意匠も印象的。少し前までのアウディでは、水平直線基調で整然としているものの、単調に見えなくもなく、その殻を破れずにいる印象もあったところだが、クラフトマンシップを感じさせるたたずまいは、A4以下のモデルにはない趣もある。

 試乗車には、上質はミラノレザーを用い、細かな調整機構を持つ、オプションの「コンフォートシート」が装着されていた。同シートは適切なドライビングポジションが採りやすく、着座感も非常に良好で、長時間の移動でも疲労感の小さそうで好印象だった。

 また、セダンにはないアバントの特権として、後席の頭上まで開く大きな開口面積を持つサンルーフを選べる点も挙げられる。

 装備面では、もちろんアウディ独自のインフォテインメントシステム「MMI」も付いているし、オーディオは、ボーズの高性能システムが標準で装備されていながらも、さらに別途で高性能なバング&オルフセンのシステムが84万円という価格でオプションで選べるのも特徴的。

 安全装備についても、ヘッドアップディスプレイやナイトビジョンなどが用意されている。

オプションでバング&オルフセンのサウンドシステムを装着できる(右)
メータパネル中央のディスプレイにはオンボードコンピューターの情報のほか、カーナビやオーディオの情報なども表示できる。写真右は前方の赤外線映像を表示する「ナイトビジョン」ヘッドアップディスプレイは21万円のオプションMMIのディスプレイは格納式

 

4WDを感じさせないナチュラルな回頭性
 2グレードあるうち、試乗したのは3.0 TFSI クワトロ。下の2.8 FSI クワトロとは、ともにV6直噴エンジンで、数字こそ0.2の違いだが、スーパーチャージャーで過給するので、スペックは2.8 FSI クワトロが最高出力150kW(204PS)、最大トルク280Nm(28.6kgm)であるのに対し、3.0 TFSI クワトロは、それぞれ228kW(310PS)、最大トルク440Nm(44.9kgm)と大きく跳ね上がる。

 エンジンフィールは全域のトルクが厚く、レスポンスも素早くて扱いやすい。驚くほどパワフルというわけでもないが、それはこのあと出てくる「S6」や「RS6」でのお楽しみ、ということだろう。

 これに組み合わされる7速デュアルクラッチトランスミッション「Sトロニック」は、半クラッチの制御が滑らかで、走り出してしまえばダイレクト感もあり好印象。パドルシフトが付き、シフトダウン時のブリッピングの制御も的確に行われる。

 アイドリングストップ機構の動作もいたって素早くスムーズ。ただし、再始動直後の発進ではやや飛び出し感があるので、あまり踏みすぎないほうがいいだろう。

 フットワークの仕上がりも上々だ。40:60前後の駆動力配分を基本とするクワトロシステムにより、通常は4WDを感じさせないFR的なナチュラルな回頭性と、高い操縦安定性を併せ持っている。

 まずは、ステアリングフィールがとても上質である点が好印象。少し前のアウディ車では、反応はクイックなものの、操舵感にやや人工的な感覚が見受けられたが、それもない。適度な重さで、しっかり感もあり、切り始めの微小舵域から素直にゲインが立ち上がる。路面との接地感も高い。最近出たニューモデルの中では、もっとも理想に近い味付けだと感じている。

 標準装備される「アウディドライブセレクト」で走行モードを切り替えれば、好みで走り味を選ぶこともできる。

 今回試乗したのは19インチだが、20インチも選ぶことができる。なお、2.8 FSI クワトロの標準タイヤサイズは18インチとなる。視覚的には大径ホイール+低扁平タイヤのほうが見栄えするだろうが、乗り心地の快適性は、おそらくこちらのほうがベターだ。

新しいものを積極的に
 ボディサイズからすると駐車場事情を含め、日本の環境下においては、それなりに大柄なクルマに違いないが、操縦感覚としては、あまりその大きさを感じさせないところもいい。それにはアルミとスチールのハイブリッドボディにより、4WDながら比較的軽いことも少なからず走りのよさに寄与しているはずだ。

 近年、装備の追加等でクルマは重くなる傾向だが、革新的な技術により、その負のスパイラルからの脱却を図ったのもA6のハイライトのひとつ。

 それには材料置換が有効なのだが、アウディはいち早くそこに取り組んでおり、A6については、アルミを約20%使用したハイブリッドボディにより、従来よりも15%ほど軽量になっているという。

 直接的なライバルというと、メルセデス・ベンツEクラスワゴンや、BMW5シリーズ ツーリング、さらにはボルボV60やV70あたりも入ってくるだろうが、彼らに対してA6アバントは、より新しいものを積極的に採り入れているという印象が強い。スタイリングや走行性能はもちろんだが、そうしたアウディの姿勢に共感する人にとっても、A6アバントは魅力ある存在となるはずだ。

 あるいは、ダインサイジング志向により、このセグメントも下級モデルでは2リッター級の4気筒直噴ターボエンジンが搭載されるようになってきたが、やはり6気筒がいいという人は少なくないはず。かくいう筆者もその1人で、A6も将来的には4気筒+ハイブリッドも追加される予定があるようだが、下の2.8 FSI クワトロが属する600万円台の価格帯で6気筒エンジンを積むことは、むしろ訴求点となるようにも思う。

 しかもクワトロで、標準で付く装備も充実している。そんな何重もの価値を手に入れることができるのもポイントといえるだろう。そして、改めていうが、このスタイリングである。

 それら数々のバリューを、より昇華させたのが、3.0 TFSI クワトロだ。もちろん競合車もそれぞれに魅力的だが、メルセデス派やBMW派、あるいはボルボ派も目移りしてしまうのではないかと感じられたほど、A6アバントは魅力あふれる高級ワゴンであった。


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2012年 5月 18日