インプレッション

アウディ「A6」「A6 アバント」(2015年モデル)

 革新を旗印にプレミアムセグメントでドイツ3強の1つに確固たるポジションを築いたアウディ。日本においては、2015年に「A1」の新規エンジン投入や4ドアスポーティハッチバックの「A7」の改良などを行い、さらに今後ディーゼルエンジンの展開やEV(電気自動車)「e-tron」も投入予定。また、グローバルでは、フランクフルトモーターショーでアウディの主力モデルである「A4」のフルモデルチェンジが発表されるなど意気軒昂だ。

 さて、この記事で紹介するのはEセグメントの「A6」。メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」といった強豪がひしめく中、アウディはこのセグメントで「100」以来、独自の存在感を出している。

 現在につながるデザインの源流は、1982年にデビューした3代目のアウディ 100だろう。洗練された曲面はそれまでのアウディのイメージを一新させるほど魅力に満ちたものだった。

 100の系譜を受け継ぎながら、A6と名称を変更したのは1994年の4代目のビッグマイナーチェンジの際だ。そしてA6になってから3代目となる現在のA6が登場したのは2011年。4年目に入った2015年、A6はビッグマイナーチェンジで、アウディラインアップの中核としての存在意義を高めるべく一新された。

A6「2.0 TFSI クワトロ」のボディーサイズは4945×1875×1465mm(全長×全幅×全高)

 A6の構造上の特徴は軽量化技術だ。アウディは早くから材料置換技術に取り組んでおり、1992年デビューの「A8」でオールアルミボディーを実現させた。A6はオールアルミではなく「Audi Ultra」の軽量化技術の延長線上にあるアルミコンポジットボディを採用し、モノコックボディーの20%をアルミとしている。

 サスペンションなどもアルミ部材で構成される。また構造材ではないボンネット、フロントフェンダー、ドア、トラックリッドなどのアウターパネルをアルミとしている。アルミが全てではないが、これによってA6セダン「2.0 TSFI クワトロ」の重量は4WDでありながら1780㎏と、FRの競合車とほぼ同等か少し軽く仕上げることができている。

A6「アバント 2.0 TFSI クワトロ」のボディーサイズは4955×1875×1495mm(全長×全幅×全高)

 A6のラインアップは、ベースグレードの「1.8 TSFI」のみ駆動方式がFFとなるが、2.0リッター以上のモデルは、すべて4WDシステム「クワトロ」を搭載する。従来モデルのベースグレードとなる「2.0 TSFI」(FF)は、直列4気筒 1.8リッターターボの新エンジンを搭載する「1.8 TSFI」にポジションを譲る。メイングレードは「2.0 TSFI クワトロ」になり、本稿ではこのモデルを紹介していこう。

 この「2.0 TSFI クワトロ」に搭載される直列4気筒 2.0リッターターボエンジン「2.0 TSFI」は、従来モデルにあった「2.8 TSFI」エンジンのダウンサイジング版との位置づけになるが、自然吸気のV型6気筒 2.8リッターエンジンより馬力、トルクともに大きく上まわっている。

 スペックは、最高出力185kW(252PS)/最大トルク370Nmを発生し、特徴的なのは1600~4500rpmという幅広い回転域で最大トルクの370Nmを出すことだ。さらにアウディエンジンの硬質な回転フィールは心地よく、クルマ好きならずとも質感の高さに大きな価値を見出すことができるだろう。

「2.0 TSFI クワトロ」に搭載される直列4気筒 DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力185kW(252PS)/5000-6000rpm、最大トルク370Nm/1600-4500rpmを発生

 もちろん、出力的には十分すぎるほど余裕があり、A6に力強い走りをもたらしてくれる。これ以上の動力性能を求めるドライバーにはV型6気筒3.0リッタースーパーチャージャーエンジンの「3.0 TSFI」やハイパフォーマンスモデルの「S6」が用意されているが、試乗中、市街地から高速道路まで「2.0 TSFI」に不満を感じたことはなかったし、クルージングの豊かさ、低速での粘り強さにドライバーの負担が相当減っていることを感じた。

 トランスミッションは7速Sトロニックで、アウディが温めているデュアルクラッチ方式。6~7速は高速巡航寄りのハイギヤードに、それ以外のギヤは比較的加速重視のギヤレシオに設定されている。

 実際のドライブでも新しいA6の2.0リッターターボエンジンとの相性はよく、初期のデュアルクラッチに比べると断然スムースで、トルコンと比べてもそれほどそん色はない。デュアルクラッチが苦手なスタート時のギクシャクもまず意識することはなかった。また、多段化と出力の余裕もあり、シフトアップ/ダウン時もショックもないに等しい。正直、見直した。

 また、ドライブセレクトを「efficiencyモード」にセレクトすると、走行中にアクセルペダルから足を離すとクラッチを切って、エンジン回転からタイヤがフリーになるコースティングを実現する。この際もドライバーに意識させることはなく、通常のドライブモードでは不自然さを感じることは全くなかった。

 アイドリングストップも導入されており、「efficiencyモード」でのJC08燃費は13.6km/Lと2.0リッターターボ、しかも4WDとしてはよい燃費を出している。

 試乗車はSラインパッケージでタイヤは255/40 R19を履いていたが、乗り心地は驚くほどよく、19インチタイヤの性能向上もさることながら、サスペンションが見事に履きこなしている点も驚いた。エンジン、トランスミッションに続いて試乗して3つ目のびっくりポイントだ。

 路面のウネリの収束はもちろんだが、フロントのオーバーハングにエンジンを置くA6が苦手そうな鋭角的な凸凹も難なくいなしてしまう。セダンとアバント(ワゴン)では前後の重量配分の違いからか、セダンの方が若干しっくりくるが感覚的には誤差範囲だ。F/Rサスペンションはダブルウイッシュボーンの派生型でしなやかに動き、電動パワーステアリングの完成度と相まって、ハンドリングは実に軽快かつ安定性が高い。

 A6のサイズは実は大きい。セダンの全長は4945mm、全幅は1875mmもある。ところがこのサイズをあまり感じさせない。狭い道や駐車場など物理的に不可能なものは無理だが、ドライバー心理的には圧迫感はなく、A6は気軽に扱える雰囲気を持っている。最小回転半径は5.7mと4WDモデルとしては常識的で、決して大きすぎることはないのも有利に働いている。ハンドルは意外と切れるのだ。

 安全デバイスも実は充実している。よくできた全車速追従レーダークルーズコントロールや非常に有効で、視認しやすい後方監視モニター、レーン逸脱を警告するステアリングアシスト、etc。特に二次衝突被害を軽減するセカンダリーコリジョンブレーキはA6に全車標準装備となった。

 また、安全に大きな貢献をし、夜間のドライブで直接嬉しさを感じられるのはオプションのマトリクスLEDヘッドライトで、「A8」から採用されているが、ル・マン24時間レースの「R18」の活躍で大きな話題となった。これは19の発光ダイオードと4つのリフレクターで構成され、ハイビームで走行して死角を極力排除し、対向車等の光源を感知した場合はLEDの光源を自動的に調整して幻惑を防止することができる。

 さらにMMIナビゲーションプラスを選んだモデルでは、ルートデータからコーナーで早めに照射を変更して効果的なコーナリングライト機能を持たせる。この明るさは実に魅力的。夜間のドライブが楽しく思えてしまう。光でいえばウインカーが流れるように点灯するのも最新のトレンドで、アウディは光の使い方が上手だ。

 A6はマイナーチェンジとはいえ、モデルチェンジに匹敵する変身でぶり。更に魅力的になった。このセグメントを考えている長距離移動の多いドライバーには検討に値する1台だと思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。