【インプレッション・リポート】
アウディ「Q3」

Text by 河村康彦


 

 “SUVの本場”と言えば、それはやはりアメリカだ。

 ジリジリと上昇を続けるガソリン価格を背景に、彼の地向けのモデルでもさすがに各メーカーが燃費を気にし始めた昨今。が、それゆえにエンジンはダウンサイズされても、ボディーサイズはそれには簡単には比例をしない。全長は5mに迫り、全幅も1.9mを軽々とオーバー。そんな巨体を日常シーンでも持て余さないというのは、道路にもガレージにもそんなモデルを受け入れるインフラが整っているアメリカならでは。燃費の改善は進んでも、彼の地に住む人々はやはり「大きなクルマ」が好きなのだ。

 そんなアメリカ市場でのSUV需要が一段落したのを見計らったかのように、このところでは「そんな大きなサイズの持ち主では、毎日を気分よく過ごすことは難しい」というアメリカ以外の市場をターゲットとしたSUVが次々と現れ始めている。アウディが「初のプレミアム・コンパクトSUV」と自ら謳う、ここに紹介するブランニュー・モデル「Q3」も、まさにそんな1台だ。

“末っ子SUV”でもアウディ車らしい上質さ
 全長×全幅は4385×1830mm。「幅が1.8mを超えてどこが“コンパクト”なのか?」という意見も耳に届きそうだが、縦列駐車が基本となる欧州では、クルマの大小の感覚は「全長で決まる」のが一般的なのだ。

 Q3の全長は、兄貴分であるQ5のそれよりもちょうど25cm短い。ちなみに、全幅は70mmのマイナスなので、なるほど比べれば確かにこちらもコンパクトということにはなる。

 ちょっと“ずんぐり型”のプロポーションは、やはりQ5のそれをひと回り小振りにした印象。厚みのあるロワーボディーに、クォーターピラーにも小さなウインドウを配したいわゆる6ライト・キャビンを上乗せするという組み合わせや、軽くアーチ型を描くルーフラインなど、両車で共通のデザイン手法が、そうした印象を醸し出す。

 上辺をヘッドライトの高さに合わせた「シングルフレーム・グリル」が形作るフロントマスクや、両サイドに向けて高さを増すテールレンズが印象的なリアビューも、やはりこの両車が「立ち位置の近い兄弟」である事を端的に物語る。そんなQ3のキャビンへと乗り込むと、まずは“末っ子SUV”ながらもいかにもアウディ車らしい各部の上質さに感心させられる。

 スイッチ類や空調吹き出し口、ドアトリムなどに配されたメタルの“光モノ”が適度なアクセントとなり、機能性の高さとモダーンなイメージを見事に調和。細かく見れば、ダッシュアッパーのディスプレイの格納が手動式であるなど、コストダウンへの配慮も垣間見られるものの、そうした手法も決して「安っぽさ」に繋がっているわけではない。インテリアの見せ方の上手さは、やはりアウディ車は当代一流なのだ。

 キャビンスペースは、大人4人が十分快適に過ごせるもの。後席のレッグスペースはさほど広大とは言えないが、フロアに対して高めにセットされた前席下への足入れ性に優れるので、実際には見た目以上のゆとりが体感できる。

 ラゲッジスペースはフロアボード位置がやや高めではあるものの、後席使用時で460Lというボリュームは、こちらも実用上はまず不満のないもの。

 トランスミッション部分の張り出しが大きく、理想のドライビング・ポジションが採り辛いモデルが少なくないアウディ車の中にあって、そんな違和感を一切抱かせないのは嬉しいポイント。実は、2リッターターボの4気筒エンジン+7速DCTというこのモデルのパワーパックは、A3などと同様の横向きレイアウト。それもあって、ドライバーの足元空間がスッキリとしているのだ。

 

今、最もオススメに値するアウディ車
 今回テストドライブを行ったのは、211PSという最高出力を発する心臓を搭載するモデル。日本導入モデルはすべてターボ付きの2リッター直噴エンジンを搭載するが、チューニングの違いによってこの211PS仕様と、よりベーシックな170PSの2タイプが用意されている。

 走り始めるとまず印象に残ったのは、スタートの瞬間からの軽快な加速感と共に、静粛性の高さだった。

 最小回転半径が5.7mと大きめである点はちょっと残念だが、すでに1500rpm付近からターボ・ブーストの効いた太いトルクを発するエンジンのキャラクターもあり、走りは機敏で、かつ視界も良好。18インチという大径シューズを履くこともあってか、路面の補修跡を乗り越えるとバネ下の動きがやや重いものの、街乗りでも十分快適で、うっかりすると「SUVに乗っている」という事実を忘れそうになる。

 しかし、そんなこのモデルでさらに驚かされたのは、ワインディング・ロードへと舞台を移した時だった。

 実は、今回主にテストドライブを行ったのは、専用デザインのバンパーやスポーツシート、そして強化されたスポーツサスペンションなどから成るパッケージ・オプションを装着した「Sライン」仕様。が、それにも関わらずサスペンションの動きはしなやかで、ストローク感もたっぷり。速度が高まっても無用なボディの動きが抑制されると同時に、コーナーを少々追い込んだ程度ではアンダーステアの徴候も感じさせないそのハンドリングと乗り味のバランス感覚は、「これは全てのアウディ・ラインナップの中でもベストな1台ではないか!」と実感させられるに相応しいものであったのだ。

 最高出力を5000-6200rpmという幅広い範囲で発するエンジンは、それゆえに高回転域まで引っ張ると少々の頭打ち感を覚える場面もあった。が、そこに至るまでのパワー感は十分で、「これならば、今後に導入が予定されている170PS仕様でも十分なのではないか」と想像させるもの。もちろんタイトなターンからのフルアクセルでの立ち上がりといったシーンでも、電子制御されるハルデックス・カップリングを用いた4WDシステム採用のお陰でトラクション能力も文句ナシ。常に4輪が地についた感触が、大きな安心感を生み出してくれるのだ。

 かくして、街で乗ってヨシ、ワインディング・ロードで乗ってヨシのQ3の走りは、端的に言って「想像以上のでき栄え」だった。もちろん、アウディ随一と言えるしなやかな乗り味や、4WDモデルならではの万能性も大きな美点で、それゆえに頻繁にロングツーリングに出かけるというユーザーや雪国に住むユーザーにとっても、その適性はとても高いモデルということになるだろう。

 率直なところ、メルセデスやBMWのライバル各車と直接比較をすると、しなやかな乗り味という点で後塵を浴びるモデルが少なくないと、個人的にはそう受け取れたのがこれまでのアウディ車。

 が、そうした中にあって「ライバルを一蹴してクラストップの仕上がり!」とすんなり納得の行くこのモデルは、今、最もオススメに値するアウディ車だと断言できる。

 

モデル価格
2.0 TFSI quattro 170PS409万円
2.0 TFSI quattro 211PS479万円

 

Q3 2.0 TFSI quattro170PS211PS
全長×全幅×全高[mm]4385×1830×1615
ホイールベース[mm]2605
前/後トレッド[mm]1570/1575
重量[kg]1610
エンジン直列4気筒DOHC
2リッター直噴ターボ
ボア×ストローク[mm]82.5×92.8
圧縮比9.6
最高出力[kW(PS)/rpm]125(170)/4300-6200155(211)/5000-6200
最大トルク[Nm(kgm)/rpm]280(28.6)/1700-4200300(30.6)/1800-4900
アイドリングストップ
トランスミッション7速デュアルクラッチ(Sトロニック)
10・15モード燃費[km/L]13.8
JC08モード燃費[km/L]12.6
駆動方式4WD
ステアリング位置
前/後サスペンションマクファーソンストラット/4リンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ235/55 R17235/50 R18
定員[名]5
荷室容量[L]463

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 6月 29日