インプレッション

ホンダ「NM4-01」

筆者の両サイドに立っているのは、NM4-01の開発責任者である本田技術研究所 二輪R&Dセンター三倉圭太氏(左)と、同じく開発を担当した内田聡也氏(右)

 大胆なデザインが話題となっている本田技研工業の大型バイク「NM4-01(エヌエムフォー ゼロワン)」。見かけ倒しじゃないのか……、との声もあるなか、開発陣は絶対の自信を持っているという。そこでNM4-01の実力を探るべく、クローズドコースでしっかりと試乗を行った。

 チャレンジングなデザインを試みたことは一目瞭然だ。とにかく長くて低く、そして非常にアグレッシブ。それもそのはずで、全長/全高/ホイールベースは、ホンダの大型バイク「CTX1300」(V型4気筒1300ccエンジン搭載のネオ・アメリカンクルーザータイプ)と同じ2380mm/1170mm/1645mmを誇る。全幅こそCTX1300の1170mmから810mmへと360mmも狭くなっているが、これはCTX1300がワイドハンドルを採用しているから。実際に両車を並べてみても、車体のボリュームでは決して負けていない。

「よい意味で期待を裏切る走りが堪能できます!」と豪語するのは、NM4-01を開発した三倉氏と内田氏。2人とも125ccや600ccクラスのマシンでバイクレースを戦った経験のあるレーサーであり、モーターサイクルの醍醐味である、後輪を軸にスロットルコントロールで自由自在に操れるダイナミックな走りを実現したと胸を張る。しかし、そう言われても、ビッグスクーターとも、アメリカンバイクともつかないそのデザインからは、いわゆるスポーツバイクのような俊敏な走りはイメージしにくい。

開発にあたっては、ライフスタイルに合った「+αの価値」のあるモーターサイクルとは何かを考え、「近未来」と「COOL」を「NM4シリーズ」の目指すところとしてコンセプトに定めた。「近未来」「COOL」をモーターサイクルで表現するにあたり、車両だけの格好よさだけでは物足りない。「ライダーとマシンが一体となって成立するシルエット」が重要であると考え、スタイリングは「独特なフロントマッシブとローフォルム」とした。跨って、走った時の特徴として「バイクに潜り込むようなコックピットポジション」を採用。このコックピットポジションにより、ライダーがマシンに包み込まれるような感覚を作り出し、インパネ越しに見える風景は、映画の世界に入り込んだような視界の広がりで、今まで味わったことのないような操縦フィールを体感できる。ヘッドライトとテールランプ、そしてウインカーはすべてLEDで構成する

 どんな走りを見せてくれるのか興味津々だが、その前に車両の概要から。
 搭載エンジンは1種類のみで、745ccの直列2気筒SOHC4バルブエンジンは54PS/6.9kgmを発生する。このエンジンの特徴は、モーターサイクル用でありながら常用回転数が低いことにあり、最高出力は6250rpm、最大トルクにいたっては4750rpmで発生する。この狙いは、ずばり常用域での力強さと圧倒的な低燃費性能を両立させることにある。これまでモーターサイクル用のエンジンは走行性能を主軸にした設計思想が貫かれてきたが、NM4-01が搭載する「RC70E」型は、単に最高出力を狙うのではなく、扱いやすい出力&トルクフィーリングを大切にするとともに、ホンダが4輪車用エンジン(おもにフィットに搭載されていた1.3リッター)で培ってきた燃焼技術を採用することで、“ナナハン(750ccクラスの総称)”でありながら250ccビッグスクーター並みの38.0km/L(60km/h定地燃費値)という低燃費性能を達成した。

 じつはこのエンジンには、2012年2月から順に発売されたニューミッドコンセプトシリーズ「NC700」シリーズに搭載されていた「RC61E」型と呼ばれるベースエンジンがある。直列2気筒SOHC4バルブといった形式こそRC70E型と同じだが、ボアが4.0mm小さいため排気量は669ccと76cc小さい。RC61E型が狙っていた“常用域でのフィーリングを大切にしながら低燃費性能を両立させる”というエンジン特性は、国内市場のみならず世界中で高い評価を得ていたが、各仕向地における最適なチューニングを考えた結果、今回の排気量アップが図られた。また、先のNC700シリーズのエンジンも、現在はこちらのRC70E型に換装されている。

イグニッションオンでスイープする個性的で視認性が高いデジタルメーターは、情報を的確にライダーに提供し、使い勝手に優れるデザインとした。ホンダ2輪車としては初採用の走行モードと連動した自動可変色メーターを搭載。走行モードの変化によりメーターバックライト、発光リングの色が変化し、各モードにおけるインフォメーションを分かりやすく提供して操縦フィーリングを引き立てる。走行モードの色の設定は「ニュートラル時:ホワイト」「Dモード走行時:ブルー」「Sモード走行時:ピンク」「MTモード走行時:レッド」だが、ユーザーの好みの色に固定設定することも可能。このほかに、外気温計やギヤポジションインジケーター、燃費計、時計を表示する

 トランスミッションはDCT(デュアルクラッチトランスミッション)のみの設定。2輪車用のDCTは、ホンダが世界に先駆けて2010年7月に発売した「VFR1200F DCT」(筆者の所有車)に第1世代DCTが搭載されているが、NM4-01では進化版の第2世代DCTが搭載されている。多くのモーターサイクル用ATが採用する無段変速機(ホンダではVマチックと表記)とは違い、通常のMT(マニュアルトランスミッション)のように6段の有段ギヤを装備するDCTは、その名のとおり、2つのクラッチで奇数段と偶数段のギヤを分担(1/3/5速と2/4/6速)して変速を繰り返す。変速の概念は4輪車に採用されているDCTと同じだ。

 NM4-01では1~6速まで自動変速する「ATモード/Dモード」のほか、Dモードの変速タイミングがより高回転側になる「ATモード/Sモード」、さらにはステアリング左側に配置された変速スイッチで任意のギヤ段が選べる「MTモード」が設定される。4輪車用DCTとの構造上の違いは、トランスミッション全体の小型軽量化や重量配分の最適化、さらには4輪車よりも頻繁に発生する変速に耐えうるよう強化型アクチュエーターの搭載など多岐に渡るが、いずれも2輪車の特性に合わせたものだ。

左手側スイッチには、ライト切り替え/ハザード/ホーン/ウインカーのほか、この内側にはDCTのギヤ段ダウンスイッチがある
右手側スイッチでは、キルスイッチ/ドライブセレクターボタン/スターターをレイアウト
DCTのためクラッチレバーはない。車両前方側にDCTのギヤ段アップスイッチを配置する
ブレーキレバーは手の大きさに合わせて握り幅を6段階に調整可能

これまでのモーターサイクルに対する概念を大きく変える乗り心地

 早速試乗を開始する。現在のホンダには数多くのDCT搭載車が存在するが、この第2世代のDCTは非常に賢くなったという意見を頻繁に耳にする。第1世代からはシフトスケジュールの変更、シフト時間の短縮、MTモードからATモードへの自動復帰など、複数の機能に変更が加えられたわけだが、個人的には減速度をスロットル操作で生み出せるモーターサイクル本来のフィールが強くなったという印象を強く持ち、同時に、より“MTライク”になったと好意的に解釈できた。

「速くて安楽」。これがNM4-01に抱いた走りの印象だ。まずは「速い」の部分から。直列2気筒エンジンが生みだす独特のパルスとともに、低速域からドコドコと後ろから押し出されるような加速感が心地よい。今回の試乗は安全が確保されたクローズドコースにおける開催だったので、試しにメーターを直視しながらDモードでスロットルを全開にしてみた。すると2000rpmあたりで1速のクラッチミートが完了するや猛然とダッシュを開始する。ギヤ比との関係で1速、2速は瞬時にレッドゾーンへと誘われるものの、その瞬間にDCTが本領を発揮する。奇数段からスタンバイ状態にある偶数段へと瞬時にバトンタッチされ、その繰り返しによって駆動トルク抜けを感じることなくグングン車速が伸びていく。持てる性能をフルに、そして誰もが簡単にスロットル操作だけで絞り出せるこうした達成感は、4輪車で例えるなら「フィット RS」や「スイフト スポーツ」などのコンパクトスポーツモデルが身上とする爽快感にも似ている。

 中速域ではひときわ強められたパルスを感じる走りが気持ちよい。エンジン回転数の低い領域を使うだけでなく、Dモードのままでも直近のスロットル操作に応じて現在のギヤ段を保持して走るため、無段変速モデルでは避けられない空走感がない。結果、加速、減速ともにスロットル操作でメリハリが付けられ、操っている感覚が非常に強い。これは第1世代DCTにはない第2世代ならではの特権だ。

 また、NM4-01が目指したダイナミックな走行性能はワインディング路でも光り輝く。キャスター角度は本格的なアメリカンバイク並みの33°(ホンダのアメリカンバイク「VT1300CR」「VT1300CS」と同等)と傾斜が強く、トレール量も110mmとたっぷりとしたもの。しかし、前後重量配分は50:50と理想値を保っていることから、加速旋回時もステアリング操舵力に変化が生じることはなく、車体のトレース性能も高いレベルを保ったままだ。また、ブレーキング時も後軸荷重が一気に抜けることがないため安心してフルブレーキができる。

NM4-01に搭載されている第2世代DCT。ホンダではさらにスポーツ性と快適性を兼ね備えた第3世代DCTを開発中

 続いて「安楽」。これには2つの意味がある。1つ目は低いシート高と適度な高さが保たれたステアリング位置からくる、文字通りの「安楽なライディングポジション」だ。ホンダのコンパクト原付バイク「モンキー(くまモン バージョンでも有名!)」よりも低い650mmのフロントシート高は、単なる高さだけでなく、シート幅の絞りが効いているため数値以上に低く感じられる。身長が160cm程度もあれば、シートにドカンと腰を下ろした状態で両足がべったりと地面に着くから、リターンライダーにもオススメしたい。

 2つ目は「安心という意味での安楽」。本来、タンデマー用のリアシートとして使用する座面部分を起こすと、それがそのままライダー用のバックレストとして機能する。このバックレストは前後位置を25mmごとに4段階、立てる角度を3段階に調整可能。前後位置はリアパネルとボルト4本を外して調整後に再固定する必要はあるが、とくにボルト周辺を遮るものはなく、調整作業を含めても2分ほどで終了する。車載工具で調整可能という手軽さもよい。筆者は身長170cmの標準体型だが、バックレストの前後位置を一番後ろから一段前に、角度は真ん中を選択するとライディングポジションがピタリと決まった。また、そのポジションでは前寄りに設置された可倒式のステップボード(足を置く場所)に自然と足が伸びる。

ルーズな状態から直立付近まで3段階。身長170cmの筆者は、シート位置を後ろから1段前に出し、バックレストの角度は中間位置でのポジションがしっくりときた
リアシートを持ち上げてバックレストに利用するには、シートの付け根に配置された鍵穴に鍵を差し込む必要がある。不用意に動かないよう固定するための安全策だ
調整はこのようにリアシートの座面部分を持ち上げてカバーを外し、4本のボルトを外してフリーにする。簡単な作業だが、クイックリリースとまではいかなくとも、ボルトを緩めるだけになれば利便性は飛躍的に高まるだろう

 じつはこのリラックスしたポジションこそ、NM4-01のキャラクターを語る上で非常に大切な部分だ。近未来型のコクピットポジションと低いシートに身を委ねる姿は、跨るというより乗り込むイメージ。加えて、バックレストはしっかりとライダーの腰から脊髄中央部にかけて支えてくれるため包まれ感が非常に強い。

 この印象に近いのは、かつてBMWがラインアップしていたルーフ付きのスクーター「C1(125cc/200cc)」だ。ポジションこそ通常のスクーターに近いものだったが、見た目にも、そして実際の剛性も強靭な繭のようなルーフを持ち、4輪車のようなバックレストを備えるシート(ヘッドレストもある!)、さらには4点式のシートベルトまで用意し、ライダーとの一体感を大切にしたモデルだった。C1と比べるとNM4-01はライダーとの密着度合いの点では劣るが、低いシート位置や高さのあるバックレストの存在は、これまでのモーターサイクルに対する概念を大きく変えてくれた。

“6点支持のライディングポジション”にホンダの安全に対する回答を見た

 こうした独特のライディングポジションによって、フルブレーキ操作が簡単に、そして安全確実に行えるようになった。モーターサイクルはその構造上、4輪車に比べてブレーキ操作で強い減速度を生み出すことが苦手な乗り物だが、NM4-01ではこの分野において高い完成度を手に入れた。通常、ライダーとモーターサイクルの接触点は両手両足とでん部の5点だが、NM4-01ではさらに腰から脊髄中央部にかけての広範囲がバックレストと接触するため、合計6点で密着する。これにより、前方に投げ出す両手両足とその反対に位置するバックレストでグッと身体を支えて踏ん張れるため、万が一の際、躊躇することなくフルブレーキできるのだ。また、前後両方のタイヤにABSが装備されているので、車体を直立させてさえいれば、ライダーは右手(前ブレーキ)と右足(後ブレーキ)に力を込めるだけで転倒のリスクを最小限に抑えながら安定した減速操作ができる。加えて、バックレストの形状は緩やかな“かまぼこ状”になっているため、コーナーに向かってリーンさせるライダーの上半身の動きに対して制約とならない部分もいい。

「バックレスト1つでそこまで貢献度があるのか?」と、ドライバーには信じられない世界かもしれないが、モーターサイクルは4輪車と比べて今でも減速が苦手な乗り物だ。レーサー直系のレプリカモデルである「CBR1000RR/600RR」に搭載された電子制御式コンバインドABS(世界初の2輪車用バイワイヤーブレーキ技術)を持っているホンダでさえ、これは永遠の課題。NM4-01で体感した6点支持のライディングポジションに、ホンダの安全に対する回答を垣間見た。

大型のフットレスト。足を投げ出すポジションとなるものの、設置位置が低いのでコーナーでは割と早めにバンクセンサーが接地する
ファイナルドライブはチェーン式を採用するため、押し歩き時の抵抗も少ない
ブレーキは前後ともにABSを装備。ブレーキディスクは1枚のステンレス鋼板から前後のディスクをプレスで同時に抜くことで、省資源と生産性を両立。ブレーキパッドは焼結パッドを採用。フロントは320㎜の大径ディスクに2ピストンキャリパー、リアは240㎜のディスクに大径1ピストンキャリパーを組み合わせる。また、前後ともにウェーブディスクを採用し、同径のディスクと比較して軽量化が図られ、バネ下重量を低減する
ガソリンフィラーキャップ。燃料タンク容量は11Lでレギュラーガソリン指定。テールランプとウインカーもLED方式となっている

 では、NM4-01には弱点はないのか? 車体後部にラゲッジスペースが設けられた「NM4-02」がスタンバイしているというが、現状ではなにかと荷物が増えるツーリング時の使い勝手を想定すると、残念ながら積載性に乏しい。純正アクセサリーとして小型キャリア付きのバックレストも用意されるが、このキャリアの許容積載量は3kgまで。例えば30Lクラスのリアボックス(例:GIVIのトップケース)を積載しただけでも許容量に達してしまう。また、ゆったりとしたライディングポジションながらスイングアーム式リアサスペンションを採用するため、その取り付け位置の真上に座る構図となる。これにより、路面からの大きな衝撃が直接的に身体に伝わってくる。これも惜しい。

ギヤ入れ駐車ができないため、後輪に作用するパーキングブレーキを左足の上方に配置
シート下の様子。バッテリーは重心のほぼ中央に置かれている
リアセクションではリアシート以降にはあまり荷重が掛けられない設計
近い将来発売されるという後部左右それぞれにトランクが設けられた「NM4-02」。リッドの開閉はメインキーで可能ながら、積載量としてはそれほど多くない
「NM4-02」のタンデマー用フットレスト。可倒式のNM4-01に対して、こちらはトランク一体式だ

 ホンダは今回紹介したNM4-01のほか、「ゴールドウイング」を筆頭にした水平対向6気筒エンジン搭載のメガクルーザーを3タイプ、さらには前述のV型4気筒1300ccエンジンを搭載した「CTX1300」など、大型バイクを数多くラインアップ。これに加えて、50~1000cccクラスにもまんべんなくニューモデルを取り揃えている。また、海外生産が一般的なモーターサイクルの生産体制にあって、熊本製作所をモーターサイクルのマザー工場に据えるなど、製造する上でも日本市場を大切にしているメーカーだ。これからもホンダらしい独創的で魅力あるニューモデルの登場に期待したい。

NM4-01の試乗に先立って「二輪技術フォーラム」も開催。ここでは国内2輪市場に投入されている新型車を含めたラインアップの紹介、DCTの歴史とメカニズムについての解説などが行われた
会場ではホンダが取り組んでいるITSのうち、「2輪ITS」を搭載したプロトタイプにも試乗した。これについてはいずれ報告したい

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員