インプレッション

インディアン「Scout Sixty」

インディアン「Scout Sixty」

 インディアンモーターサイクルは、米国で最も長い歴史をもつ2輪メーカーだ。アメリカンバイクといえば、日本ではハーレーダビッドソンが一般にもよく知られているが、最初のハーレーが誕生したのは1903年。対してインディアンは、1901年に米国で最初のモーターサイクルを開発、翌1902年に発売している。

 当時盛んだった2輪車による最高速競争や耐久レースで、インディアンは数々の実績を残している。1906年には米国初とされるVツインエンジンを開発し、そのパフォーマンスの高さを長きに渡って示し続けてきた。その後、第一次世界大戦を挟み、終戦後の1920年に登場したのが、それまでレースなどで高い性能を証明してきたVツインエンジンを搭載する初代「スカウト」だった。

 ところが、第2次大戦後の1953年に戦後不況により全ての生産が終了。1999年から2003年にはインディアン・モーターサイクルとして一時的に復活を果たすが、その後再び挫折を味わう。そして、改めて表舞台に登場したのは2008年頃のこと。2011年にATVやスノーモビルなどオフロードビークルの製造大手である米ポラリス・インダストリーズの傘下となり、量産を開始した。

 日本国内に進出し始めたのも2011年だ。ポラリスと協業関係にあった輸入車販売代理のホワイトハウスがインディアンの取り扱いも開始し、今やホワイトハウスの本社がある名古屋をはじめ、東京や福岡など全国11カ所に取り扱い店舗を増やしている。まだまだ国内では知名度が高いとは言えないインディアンではあるものの、その姿を見かける機会は確実に高まっているわけだ。

現代の装備でよみがえる、インディアン伝統のオートバイ

カッチリした乗り味の、ラグジュアリーなアメリカンという印象だ

 2016年のニューモデル「Scout Sixty」は、1920年に初登場した伝統ある名前「スカウト」を受け継ぐシリーズの1台。「Sixty」は排気量の「60立方インチ」(正確な排気量は61立方インチ)のことを表しており、すなわち999ccのエンジンを搭載したスカウトということになる。

モデル変速機価格
インディアン Scout Sixty5速MT1,530,000円

 アメリカンバイクはオールドスタイルを彷彿とさせるもの、というイメージがつきまとう。Scout Sixtyもその例にもれず、往年のスカウトの雰囲気を随所に残してはいるものの、しかし現代的な装備や技術をも融合させたオートバイに仕上げている。

 例えばアメリカンバイクではフレームにスチールが採用されることが多いが、Scout Sixtyはスポーツバイクでよく使われる軽量・高剛性のアルミフレーム。車両全長2311mm、ホイールベース1562mmと大柄なリッターアメリカンながら、車重は246kgに抑えられている。元々低重心で安定感の高い車体であることに加え、ABS標準装備で不意にコントロールを失ったりしないよう配慮されているため、安全マージンは大きい。

 試乗した車両には、オプションパーツとしてサイドバッグや小型タンクバッグ、純正よりもややアップ気味なハンドルバーなどが装着されていたが、大きな車体であるにもかかわらず、実際のポジションはかなりコンパクト。筆者の身長が177cmあり、たいていのオートバイでライディングポジションに不自由を感じることはないとはいえ、それでもここまで収まりよく、自然に構えられるフォワードコントロールのリッターアメリカンはそうそうない。大柄ではない男性や女性でも無理せず乗りこなせるのではないだろうか。

試乗車には多数のオプションパーツが装着されていた。こちらは大容量のサイドバッグ
チケット類やスマートフォンの収納に役立ちそうな小型のタンクバッグ
万が一の転倒時に車体を守る大型バンパー
高めにセットされたエイプハンガーハンドルバー

 エンジンVツインとはいえ水冷なので、鼓動感や排気音は少しおとなしめ。空冷エンジンのような鼓動感をたっぷり味わいたい人には少し物足りないかもしれないが、エンジンサウンドは上質で、車体の雰囲気ともあいまってラグジュアリーな気分でクルージングできる。

999ccのエンジン。各所の造形にこだわりが見られる

 実際に走らせると、アルミフレームで“しなり”が少ないためか、剛性感のあるカッチリした乗り味。これはネガではなく完全にポジティブな印象で、クイックに操れる軽快なハンドリングと、意外に深くまで倒し込めるバンク角と合わせて、よい意味でアメリカンらしくなく、スポーティな走りも十分に可能だ。

 1点だけ個人的に気になったのは、アクセルレスポンスの味付け。開度2~3%程度までのアクセル開け始めの段階で、おそらくは滑らかに加速させるため急激なスロットル操作を“ぼかす”ような制御が入っているのがよく分かる。加速時に誤ってラフに開けてしまったり、交差点を1速で右左折したりする際にこの制御はとても有効で、間違いなく安全に走らせられるだろう。ただ、微細なアクセルワークを行なおうとした際にパーシャルを作りにくく、戸惑ってしまう場合もありそうだ。

 とはいえ、このカテゴリーでは比較的軽量で、意外なほど取り回しのよさもあり、ロングツーリングはもちろん近所へのちょっとしたお出かけにも難なく乗り出せそう。もちろんスタイリングは大型アメリカンで、パーツの細部の造形にまでこだわった高級さも見て取れるから、押し出しの強さの面からも所有感は高い。

Scout Sixtyの車体左側

日沼諭史