インプレッション

アウディ「Q7」(2016年フルモデルチェンジ)

最大300kgの軽量化に成功

 アウディのSUVラインアップの頂点に立つのが「Q7」。初代Q7を見た時はそそり立つような巨大さに圧倒された。しかし約10年の年月が流れ、このカテゴリーにも多くのモデルが登場したこともあって、Q7にそれほど巨大なサイズ感は持たなくなった。

 そしてフルモデルチェンジされたQ7のボディサイズは5070×1970×1735mm(全長×全幅×全高)。先代と比べ全長で15mm短くなり、全幅も15mm狭くなったこと、それに何よりもスリムなデザインになったことで感覚的にもシャープになった。

 Q7最大のハイライトは軽量化にある。先代Q7の3.0リッタースーパーチャージャーでは2300kgあった重量が、新型の最軽量モデルで2000kgまで軽量化され、新しいプラットフォームで効率的な軽量化と安全性、そして剛性がもたらされた。キャビンの主要骨格に熱間成型鋼板の構造材を使い、フロント/リアエンド、キャビンに鍛造アルミや押し出し材を使用し、さらにドア、ボンネット、リアハッチ、フロントフェンダーなどをアルミ化し、大幅な軽量化を図った。

 ちなみにV型6気筒DOHC 3.0リッター直噴スーパーチャージャーを搭載する「3.0 TSFI」(標準サスペンション)で2080㎏、直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボを搭載する「2.0 TSFI」(標準サスペンション)では2000kgちょうどに仕上がっている。少し前にデビューしたボルボ「XC90」も期せずしてベースエンジンを2.0リッター過給としており、車重も2060㎏~2080㎏でほぼ同等だ。ただ、PHEV(プラグインハイブリッド)の「T8 Twin Engine AWD Inscription」はバッテリーとモーターがある分、2320㎏となる。

撮影車は標準サスペンションを装着する「Q7 2.0 TFSI クワトロ」で、5070×1970×1735mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2995mm。車両重量は2000kg。エクステリアでは新デザインのシングルフレームグリルが与えられたほか、アルミ調のリアディフューザーなどを装着。価格は804万円
オプション設定となる10Yスポークデザインの20インチアルミホイールを装備

 先代Q7のイメージを残しつつ、直線基調になったエクステリアはスリムで、インテリアはセンターコンソール、ディスプレイを分離した水平基調のレイアウトになり、スッキリすると同時に広がり感のあるデザインで、アウディらしい精密な質感に磨きがかかっている。

 また、アウディの繋がる技術「アウディコネクト」は期待どおりに進化して、使い勝手も向上している。アウディ得意のMMI(マルチメディアインターフェイス)も視線の移動を最小限に、そして直観的に行なえるよう大型のタッチパッドが配され、慣れるとなかなか使いやすい。

ブラックを基調にしたインテリア。撮影車はオプションの「7シーターパッケージ」により3列シートの7名乗車仕様となっている
3列シート仕様のラゲッジ容量は770L~1955L。ラゲッジ横のスイッチで後席を折り畳むことができる

トルク特性が素直な2.0リッターターボ

 試乗車は「Q7 2.0 TFSI クワトロ」で2.0リッターターボ(252PS/370Nm)+8速ATの組み合わせ。いわゆるベースグレードでオプションのアダプティブエアサスペンションは装備されていない。ただし7シーターパッケージ、20インチタイヤ、マトリクスLEDヘッドライトを装備する。

 車高調整が可能なエアサスを試せなかったのは残念だが、エアサスとセットになっているオールホイールステアリングは特設コースにおけるデモ走行で試すことができた。オールホイールステアリング、つまり4輪操舵である。4輪操舵は日本発の技術だったが、今や日本では一部車種で使われているだけで、欧州メーカーの方が採用に積極的だ。

 Q7の場合、発進してすぐ後輪が逆相に5度まで切れるので、ホイールベース2995mmの大型SUVとしては最小回転半径は5.3mと小回りが効く。ちなみに「Q5」が5.4mだからひとクラス小さいSUVよりも小さく回ることができる。オールホイールステアリングのない仕様では5.7mだが、わずか40cmとは言えその差は大きい。速度が上がると、次第に逆相に切れる角度は少なくなり、ハイスピードでは同相に3度まで切ることで姿勢安定性を高めている。

 2.0リッターターボエンジンのトルク特性は素直なもの。回転の上昇に従って徐々にトルクが出てくるタイプで乗りやすい。中速回転域はトルクフルで、クルマの質感に不足のないパフォーマンスだ。もしスポーツカーのような加速力を想像するなら期待外れだが、日常的には十分なトルク感だと思う。また、3000rpm付近では結構元気がよいので山路でも余裕で走れる。また8速ATのメリットも大きく、各ギヤの守備範囲が小さくて済み、常にトルクバンドに乗せられるのでエンジン回転も抑えることができる。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力185kW(252PS)/5000-6000rpm、最大トルク370Nm/1600-4500rpmを発生。タンク容量は75Lで、JC08モード燃費は12.6km/L

 ドライブモードは「エフィシエント」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「カスタム」などが選択できる。コンベンショナルサスの試乗車ではアクセルのゲイン、トランスミッションの変速点、ステアリング操舵力、エアコンなどが変えられる。通常はオートでオールマイティだ。これに加えてエアサス仕様では車高、サスペンションの硬さも変えられる。

 どのメーカーも最新のプラットフォームはステアリングの正確性が向上する例が少なくないが、Q7も例外ではない。LLサイズのボディながらステアリングの正確性と機敏性、そして安定性が優れており、先代Q7に比べてクルマのサイズを感じない。もちろん物理的な寸法はどうにもならないが、それほど広くない道でもリラックスしてドライブできる。高剛性ボディ、そしてアジリティはこのような何気ない日常でも十分に恩恵を感じられる。

 そして静粛性だが、エンジンの硬質な回転フィールは振動が少なく、アウディらしいところ。遮音材も要所に効率よく配され、エンジン回転が上昇した時でもキャビンに煩わしい音が伝えられない。また、ロードノイズもよく抑えられており、SUVにありがちなDピラーを伝わって入ってくるラゲッジルームの共鳴音も最小限だ。

 乗り心地では多少硬い場面はあるものの、285/45 R20のサイズから考えるとよくこなされていると言ってもよいだろう。なにしろ3m近いホイールベースなので、ピッチングを感じることはほとんどない。高速ではよくできたACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)で安全で快適なクルージングを楽しめる。よくできたLLクラスSUVだと断言できる。

 試乗車は3列目シートも持っていたが、こちらは緊急シートプラスぐらいのイメージ。シートバックが立っており、かつクッションもそれほど厚くないのでリラックスできるかと言えばそうでもないが、ヘッドクリアランス、レッグスペースも必要なだけは確保されているので、いざとなったら3列目に大人2人を座らせることも可能だ。このシートは電動で収納することも起こすこともでき、利便性は高い。アクセスも2列目シートがダブルフォールディングで畳めるので乗降性もわるくない。

3列目に座ったところ。ヘッドクリアランス、レッグスペースは必要なだけは確保されている。2列目シートはダブルフォールディング仕様で乗降性を高めている

 注目の価格は804万円からになる。アウディ、メルセデス・ベンツ、BMW、ボルボ、レクサス(トヨタ自動車)、そして噂に上がるジャガー「F-PACE」など、プレミアムブランドのLクラスSUVの市場は当分活況を呈しそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学