試乗記

「メルセデスAMG C 63 S E パフォーマンス」試乗 最高出力680PS&最大トルク1020Nmは笑えるほどに強烈だった

「メルセデスAMG C 63 S E パフォーマンス」に試乗する機会を得た

 AMG C 63と言えば、後輪駆動モデルとしては最もコンパクトなCクラスのボディに大排気量V8ユニットを押し込んだ、メルセデスで最もとがったスポーツセダンだった(ワゴンもあったが)。

 しかし最新世代ではその伝統が2023年に、大胆に塗り替えられた。今回試乗した「C 63 S E PERFORMANCE」のパワーユニットは、直列4気筒ターボをベースにしたPHEV(プラグインハイブリッド)だ。

標準のCクラスから全長を80mm、ホイールベースを10mm拡大。ボディサイズは4835×1900×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm、最小回転半径は5.9mとなったメルセデスAMG C 63 S E PERFORMANCE。車両重量は2160kg(パノラミックスライディングルーフなしは2130kg)、車両価格は1697万円
63S専用デザインのAMGエクステリアを装備。オプションでカーボンエクステリアパッケージも用意されている
20インチの鍛造AMGアルミホイールには、ミシュランタイヤの「パイロットスポーツ」を装着。サイズは前265/35R20、後275/35R20。AMGレッドブレーキキャリパーは標準装備
80mmワイドなフロントフェンダーやエアアウトレットを配したボンネット、ハイグロスクロームの縦ルーバーを備えたAMG専用フロントグリルを採用。ヘッドライトはウルトラハイビーム搭載のDIGITALライトとアダプティブハイビームアシスト・プラスを標準装備
エンジンルーム内の熱を排出するボンネットダクトを完備
テールランプもLEDタイプを採用
台形のデュアルテールパイプ(マフラー)は左右2本ずつの4本出し
リアバンパー中央下部は床下の空気を後方へと導くディフューザーを内蔵
充電ポートはボディ左側後方に配置されている。6.1kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、EV走行距離は15km
試乗車の内装はブラック(グレーステッチ)だが、ほかにチタニウムグレーパール/ブラック(レッドステッチ)も用意される。AMGカーボンパッケージを選択するとAMGカーボンファイバーインテリアトラムが装備される
AMGハイパフォーマンスパッケージを追加すると運転席と助手席はAMGパフォーマンスシートとなる
パノラミックスライディングルーフはオプション設定
ナッパレザーを採用したAMGパフォーマンスステアリングを標準装備。12.3インチの大型コクピットディスプレイを搭載する
縦型11.9インチディスプレイは、6度ほどドライバー側に傾けられている
ラゲッジスペース容量はVDA方式で280L
後席を倒せば長尺荷物も積み込める

 2023年の発表当時、筆者もこれには「とうとう来たか」と思った。当時メルセデスは2030年初頭までに完全EV化を宣言しており(現在はこれを半ば撤回して軌道修正中)、その波がC 63にも押し寄せてくるのは必然だったからだ。

 とはいえ頭では分かっていても、C 63が直列4気筒モデルになることには、いちクルマ好きとして最初は少しばかり抵抗があった。

 確かにそのルーツをさかのぼれば、190Eのエボリューションシリーズは自然吸気の直列4気筒エンジンを搭載したが、あれはモータースポーツのホモロゲーションを獲得するためだった。

 その後メルセデス傘下となったAMGは、Cクラスをベースに初のAMGモデルとして「C 36」を誕生させ、1997年に「C 43」で初めてV型8気筒エンジンを搭載。そして2007年、これを自然吸気の6.3リッターへと押し上げた初代「C 63」をデビューさせた。そして環境性能を踏まえた4.0リッターV8ツインターボ化はあったものの、C 63は世界累計4万台を超えるベストセラーとなり、およそ17年もの間、V型8気筒の歴史が続いたのだ。

 こうした長い歴史を塗り替えるために、AMG社はまずその直列4気筒ターボを愚直に磨き上げた。熟練したマイスターが組み上げるM139ユニットの出力は実に476PS/545Nmまで高められた。これは最強の直列4気筒ターボと謳われるA45(421PS/500Nm)のパワー&トルクを、はるかに超えた数値だ。

搭載する直列4気筒2.0リッターターボガソリンエンジンは、最高出力350kW(476PS)/6750rpm、最大トルク545Nm/5250-5500rpm、ハイブリッドモジュールの最高出力は150kW(204PS)/4500-8500rpm、最大トルク320Nm/500-4500rpmを発生。WLTCモード燃費は10.2km/L
F1由来の技術を採用したエレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーを搭載。排気側タービンと吸気側コンプレッサーの中間にある軸に厚さ約4cmの電気モーターが直結され、モーターが電子制御でターボチャージャーの軸を直接駆動し、コンプレッサーホイールを加速させることで、アイドリングから全エンジン回転域にわたってレスポンスの速さが大きく改善されたという

 さらにリアアクスルには、2段変速機を備えた高出力モーター(定格出力109PS/スクランブル時は最大10秒間204PSを発揮)が組み合わされた。これによってAMG C 63 Sは、歴代最高となる680PSのシステム最高出力と1020Nmものシステム最大トルクを得た。

 0-100km/hが3.4秒という加速は、トルクの立ち上がりが笑えるほどに強烈だ。またパーシャルスロットルでも、アクセルの追従性はすこぶる柔軟性に富んでいて、欲しいときにパワーが簡単に引き出せる。

 そこには電動アシストモーター付きターボという、超絶リニアなレスポンスが効いている。また、ダウンシフト時には狙った回転でピタッ! と止まるのタコメーターの針の動きが、このクルマのキャラクターを表している。

AMGダイナミックセレクトには、「Electric(電動)」「Comfort(コンフォート)」「Battery Hold(バッテリホールド)」「Sport」「Sport+」「Race」「Slippery(滑りやすい)」「Individual」の8つのモードを搭載
コクピットディスプレイは、ジェントル、スポーティ、クラシック、スーパースポーツと4つのスタイルが選択可能
加えて、ナビゲーション、アシスタンス、サービスと、3種類のモードを利用できる
HAD(ヘッドアップディスプレイ)も完備

 カーブも恐ろしく曲がる。車重は先代の1520kgから2160kgまで膨れ上がったが、直列4気筒化と電動化で前後重量配分はほぼ均等となり、さらには後輪操舵がグイグイとノーズを入れていく。

 かつトラクションは徹底的に管理される。極端に言えばカーブの途中でアクセルを無造作に踏み込んでも、4MOTION+のトルクスプリットと電子制御式LSD、そしてモーターもトルクを制御して、最適なグリップを引き出してくれる。かつ段階的な制御を可能とするESCが、影ながらその挙動を監視している。

 その走りはまるで、ゲームのようだ。

 これまでリアタイヤのグリップと相談しながら、V8エンジンのトルクと格闘していた時代は、あっけなく終わった。

4MOTION+のトルクスプリットと電子制御式LSD、モーターのトルク制御により最適なグリップで走らせてくれる

 一方でこのイージーさが、かつてC 63というスポーツセダンに抱いていた畏敬の念までをも取り去ってしまった気はする。

 そういう意味で言うと、この新世代パワーユニットがもたらすエンタメ感満点のパフォーマンスは、よりライトでカジュアルな使い方が似合うステーションワゴンやSUVモデルの方がマッチすると思う。

速度に応じて前輪と逆方向に後輪が切れ、駐車時やUターンの際の取り回しやすさや、思いのままの俊敏なコーナリングを実現するリア・アクスルステアリングも搭載している

 WLTCモード15kmというEV走行航続距離からも分かるとおり、6.1kWhのバッテリ容量ではピュアEVのようには走れない。またこの容量でプラグインにしているのも、ちょっと不思議だ。

 コンフォートモードを選べば積極的にモーターで走ろうとしてくれるし、たとえエンジンが始動してもこの直列4気筒ターボには、いい意味でV8ほどの暑苦しさがない。むしろ普段遣いでは極めて効率よくパワーを引き出してくれる高性能な直列4気筒ターボエンジンと、パワフルなモーターの組み合わせを、さらりと贅沢に楽しめばよい。

 ステーションワゴンはその積載量を考えてだろうか足まわりが少し硬く、ボディ剛性が劣る分だけ乗り心地もややとがってしまうが、SUVボディであればその重さとストローク量の多さから、よりシットリとした乗り味が得られる。ついついパワーユニット論で熱くなりがちなセダンよりも、この2つの方が直列4気筒ターボ・ハイブリッドおよび、4MATIC+との相性はいい気がする。

アクセルを踏めばいつでも欲しいパワーを発生するし、トルクの立ち上がりは笑えるほどに強烈だ

 荒唐無稽な話だがセダンボディには、F1由来(AMG ONE由来でもいい)のV6ツインターボを、2.0リッターにして搭載したら夢があったかもしれない。現実的なところだとBMWとかぶってしまうが、既存の3.0リッター直列6気筒ターボ「M256系」のマイルドハイブリッドでダウンサイジングしてほしかった。

 ポルシェがケイマン/ボクスターに水平対向6気筒を復活させざるを得なかったほど、メルセデスにはコアなファンがいなかったのだろか? 話を戻せばV型8気筒は最もハイエンドなAMG GTで楽しんでください、そしてより日常性(つまりは距離を走る)が高いC 63シリーズでは、直列4気筒ターボを中心に据えたプラグインハイブリッドが現状の最適解ですよ、というのがAMGの答えだろう。

「メルセデスAMG C 63 S E パフォーマンス」は、エンタメ感満点のパフォーマンスだった
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:安田 剛