試乗記

メルセデス・ベンツの最新PHEV「GLC 350 e 4MATIC」試乗 Sクラス並みの快適さをSUVで実現

GLC 350 e 4MATIC Sports Edition Star

電気だけで118km走行可能

 メルセデス・ベンツのミッドサイズSUV「GLC」にPHEV(プラグインハイブリッド)が加わった。電気だけでの航続距離はWLTCモードで118km走行可能。PHEVとしては大型の31.2kWhのリチウムイオンバッテリを搭載する。パワートレーンはガソリンの2.0リッター直4ターボ、150kW/320Nmに100kW/440Nmのモーターを組み合わせ、システム出力は230kW/550Nmで力強く引っ張る。

 GLCはどこから見てもメルセデスSUVのテイストで溢れ、フロントグリルはスターパターンが繰り返される特徴的なもの。またメルセデスを象徴する大型のスリーポインテッドスターも新しいデザインだ。滑らかなボディはリアフェンダーにボリューム感を持たせたSUVらしいものだ。リアエンド下部はディフューザーを兼ねたシルバートリムで引き締めている。そしてCd値は0.29とSUVとしてはかなり小さな数字で、細部の処理などで空力に気を配っていることが分かる。

今回試乗したのは2023年11月にGLCのラインアップに追加されたPHEVモデル「GLC 350 e 4MATIC Sports Edition Star」(998万円)。ボディサイズは4725×1920×1635mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm
サスペンションはフロントに4リンク式、リアにマルチリンク式を採用するとともに、AIRMATICサスペンションを標準装備。伸び側と縮み側にそれぞれ可変ダンピングシステムを備え、路面状況や乗車人数などに応じて減衰力を常に最適化する

 インテリアはメルセデスSUVに共通したT型に広がったダッシュボードの上部にシルバーリング付きエアアウトレットが配置され、見やすい液晶メーターで構成される。またフェイシアなどはさすがにメルセデスと感じさせる質感の高いものだ。4725×1920×1635mm(全長×全幅×全高)の幅広ボディの室内に収まると、タップリしたクッションストロークのある大きなシートが心地よい。アイポイントが高く視界も広くて解放感があり、サイズを気にすることはあまりなかった。

インテリアではダッシュボードを上下に分けてデザイン。上部は翼のような形状に航空機エンジンのナセルを想起させる丸みをつけたやや横長の新デザインの角型エアアウトレットが配置され、スポーティさを演出。下部には大きなインテリアトリムが広がり、標準仕様でもオプション選択時でもリアルウッドインテリアトリムを採用するなど、質感の高い室内空間を演出している

乗り心地はまさに絶品

 ホイーベースは2890mmのロングホイールベースだが、リアアクスルステアを持ち最小回転半径5.1mと小型車並みの小まわりだ。60km/h以下で逆相に4.5度切れるので、駐車に限らず取りまわしが非常に容易に行なえる。それ以上の速度では最大4.5度まで同相に入り、高速走行時の急ハンドルにも高い安定性を備えている。よくできたもので走行中に違和感はほとんどない。

 動き始めてからも淡々と電気で走る。もはやBEV(バッテリ電気自動車)に等しくそのまま速度を上げてもエンジンが始動する気配はない。100kW/440Nmのモータートルクは素晴らしく力強い。もともとメルセデスの静粛性は定評があるが、電気ならなおさらだ。

直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力150kW/6100rpm、最大トルク320Nm/2000-4000rpmを発生。モーターの最高出力は100kW/2600-6800rpm、最大トルクは440Nm/0-2100rpmを発生し、システムトータルでは230kW(313PS)/550Nmとなる。WLTCモード燃費は11.9km/Lとした

 アクセルにも特徴的なインテリジェントアクセルペダルが採用される。これはモーター走行時にエンジン始動のポイントでアクセルペダルが重くなるもので、もともとメルセデスはアクスルのメリハリが効いており、最後のひと踏みが重くなるがその延長にあると思うと分かりやすい。電気に限らずだが、アクセルを踏み込むと強大な力が出る半面、電費も急速に悪化する。それを防ぐ簡単なシステムだ。

 ハイブリッドモードではさらにエンジン出力が加わり高速域の伸びが速い。しかし定速で負荷がかからない状態だとエンジンを停止して空走状態が続き、速度が落ちてくるとモーターに切り替わる。大きなバッテリを搭載しているだけに重量は2340kg(試乗車)と重さゆえの安定感がメルセデスらしい乗り味を出している。

 ブレーキは重量級らしい大きなローターがホイールの間から覗く。しかし全制動はともかく、日本市場ではブレーキを緩く踏むシーンが繰り返される。そんな場面では少し違和感が残る。メルセデスらしいストロークのあるコントロールしやすいブレーキタッチが壁感のある踏力コントロールに変わっているからだ。慣れてしまうとそれほど気にならないとはいえ、やはりメルセデスらしさをもう少し感じたい。

 乗り心地はまさに絶品。フロント:4リンク、リア:マルチリンクのエアサスペンションは伸び側と縮み側で可変調整のショックアブソーバーを持ち、常にフラットな姿勢を保ち路面の凹凸もみごとに収束させる。豊かと表現できる乗り心地は最高に心地よく、大き目の突起も包むように乗り越える。それでいてソフトなだけでなく、芯があって乗員に高い安心感が与えてくれる乗り心地だ。

 またコーナーでもロールが良く抑えれており、しかも足がよく動いて凹凸でもライントレースが乱されることはない。ピッチングに対しても然りでドライバーが自信を持って運転できるのはメルセデス伝統のサスペンション哲学があってこそだ。まさにSクラスの快適さをSUVで実現したのがGLC 350 eだ。

 SUVならではのオフロードモードもあり4輪の駆動力配分はもちろん、あらゆる路面に適合でき、ディスプレイにも傾斜角度などが標示され真面目にオフロードの走破性も考えられている。果たしてこの機能を何人のユーザーが活用するのか分からないが、使い方次第では願ってもないオールマイティなクルマに変身する。

 ADAS系も最新で側突時に乗員をドアから離れるようにエアバッグが展開して衝撃を和らげる機能が備わり、全車速追従ACCも持ち前の高速直進性に加えて高精度で非常に滑らかに走る。交通の流れの変化でも唐突感がない。すでにメルセデスではおなじみになったARナビも自然でリアリティがある。HUDも大きく見やすく視界の片隅に入ってくるので視点変化が小さくて済み、ありがたい機能だ。ディスプレイにはフロント下部がシースルーで映し出される機能があり、悪路でなくとも日常的にも便利で使いやすく大きなGLCを小さく使える。

 モーターでの航続距離は118kmで使い方次第だが、7割としても70kmは可能、行動半径35kmは実用的だ。充電はPHEVとBEVの中間らしくCHAdeMOの急速充電も使用可能で、6kWの普通充電の充電口が備わる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学