試乗レポート
メルセデス・ベンツ新型「GLC」、多くのユーザーの期待を裏切らない仕上がり
2023年5月5日 09:00
GLCが初のフルモデルチェンジ
メルセデス・ベンツのミドルクラスSUVである「GLC」が初のフルモデルチェンジを受けた。2015年に発表されグローバルで260万台を販売するメルセデスにとって重要なモデルだ。
新型は従来デザインを踏襲しながらより伸びやかなエクステリアと、リアルウッドと縦型ディスプレイを中心としたインテリアを持ち上質な仕上がりだ。ボディサイズは従来型と比較すると全長4720mm(+50mm)×全幅1890mm(+0mm)×全高1640mm(-5mm)でほぼ同じだが、ホイールベースは2875mmから15mm伸びた2890mmとロングホイールベースになった。心配される小回り性はCクラス同様にオプションのドライバーズパッケージにリア・アクスルステアリングが含まれており、この場合の最小回転半径は5.1mと小型車並みになる。
多くのバリエーションが揃っていたGLCだが、新型では「GLC 220 d 4MATIC」のみの1グレード。搭載エンジンは信頼性の高い「OM654M」型の4気筒2.0リッターディーゼルターボにマイルドハイブリッドのISG仕様だけになる。試乗車はAMGラインパッケージにドライバーズパッケージ、ガラスサンルーフ、AMGレザーエクスクルッシブパッケージなど194万円分を備えた1000円万円超えだったが、素の価格は820万円になる。
メルセデスらしい豊かなドライブフィールを味わえる
Aピラーの太いがっちりとした骨組みのGLCに乗り込むと、明るく広い車内が広がり。アイポイントの高いドライビングポジションで視界が開ける。内装も縦縞の入った凝ったウッドを配しており、メルセデスらしい華やかさとクラシックな雰囲気に包まれる。
イグニッションを入れるとディーゼルとは思えないほど静かに始動する。A 220 dでも感心した静粛性はさらに磨きがかかっている。振動、静粛性共によく抑えられてGLらしい高級感に満たされる。
試しに情報の多いOFFROADモードを出してみる。前後/横角度、方位、速度、ハンズオフサイン、ロードサインをバランスよく映し出し判別しやすい。実際にドライブモードをOFFROADにして荒野を移動するチャンスはあまりなさそうだが、オフローダーらしい装備だ。
走り出すとすぐにCクラスの兄弟であることが分かる。舗装路で見かける斜目に入った路面段差を乗り越えた時にアシが柔らかく包み込むように通過する。しかし、大きな段差の乗り越えでは腰の強いダンピングをみせ、GLCらしくしっかりストロークする感触が好ましい。またノイズはキャビンでの共鳴音が小さく、音は適度に伝わるが音圧変化の小さい落ち着いた車内だ。タイヤのロードノイズもピーク音が抑えられていることがGLCの質感の高さを物語る。
GLCの搭載エンジンはOM654Mで48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせを意味している。実はエンジン本体も進化しており、燃料噴射圧は従来の2500barから2700barに上がり、さらに燃料の正確な噴射ができるようになった。
またボアは82mmで変わらないが、ストロークは2mm長くなった94.3mm。排気量は42ccアップの1992ccになっている。さらにピストン上部にナトリウムが封入され冷却効率を高めている。これにより最大出力は2kW/40Nm向上して197kW/440Nmに上がり、広い回転域で出力がある。内燃機関もたゆまない進化を続ける。
48VマイルドハイブリッドはISG(スタータージェネレーター)で17kW/205Nmの出力を持ち、ディーゼルエンジンをサポートする。エンジンの改良とISG効果でWLTC燃費は従来の15.1km/Lから18.0km/Lと19%の改善になった。
エンジンに爆発的な加速力はないが、十分にパワフルで実用に撤したディーゼルの粘り強さと低回転から続くトルクの分厚さがあり、メルセデスらしい豊かなドライブフィールを味わえる。高速クルージングはオフロード走行と並んでディーゼルのもう1つの得意科目。低回転でユルユルまわるディーゼルはまさに最適。SUVにもふさわしい。ちなみにWLTCの高速モードでは20.1km/Lとなっており、走り方によっては手の届く数値だ。
トルクの点ではアクセルを強く踏み込むと2t近い重量を力強く引っ張っていく。これなら登坂でも不足はなさそうだ。なお4MATICの前後トルク配分はトラクション重視の45:55。GLCはオフロードでは硬派なのだ。
前述のようにHUDには多くの情報を視界の邪魔にならないように投影し、情報を確実にとらえることができる。コックピット・ディスプレイは12.3インチ、縦長のセンターディスプレイは11.4インチで、両画面に必要な情報を直観的に呼び出せる。さすがは高速移動の国で産まれたクルマ。移動中でもミスのない操作を絶対としているだけのことはある。
ADAS系もアップデートしており、全車速ACCを入れた時でもレーンキープで自車位置のキープが巧みだ。従来はハンドル保持している判定をハンドル内のトルクセンサーで行なっていたが、新型では静電センサーに代わり、穏やかな注意喚起ができるようになった。
ハンドリングはメルセデスらしく滑らかな中に手応え感のあるものだ。このフィーリングはすべてのメルセデスに流れているもので、それだけでも安心できて長い付き合いができそうな気がしてくる。コーナーではロールは大きめだが、ロール速度が緩やかなので安定感が高い。機敏ではないが正確だ。またエアサス仕様ではダイナミックモードで15mm低くなり安定感はさらに高まる。
圧巻は最小回転半径。2890mmのホイールベースにもかかわらず、オプションのリアステアリングを装備した試乗車は予想以上にクルリとUターンでき驚いた。ホイールベース2875mmの従来型は5.6mだったから、逆位相に4.5度切れる利便性は圧倒的だ。また後退時の操作でも、不自然な動きがないことも安心できる。
ARナビも目的地を設定しておけば、カメラ映像の中にナビ表示がされ間違いが起こらない。すべてが運転に集中させるべく作られており、メルセデスの筋の通った姿勢に深い感銘を受ける。
オフロードモードを選択すると速度に制限があるが、オプションのエアサスでは最大15mm車高が上がり路面との干渉を大幅に低減できる。もう1つ、ボンネット下がシースルーでディスプレイ上に表示できるカメラマジックもあって市街地でも何かと役に立つ。
GLCは魅力を増したフルモデルチェンジで、しかも王道のディーゼルから登場することで、待っていた多くのユーザーの期待を裏切らないだろう。