試乗レポート

メルセデス・ベンツ新型「GLC」、多くのユーザーの期待を裏切らない仕上がり

「GLC 220 d 4MATIC」に試乗

GLCが初のフルモデルチェンジ

 メルセデス・ベンツのミドルクラスSUVである「GLC」が初のフルモデルチェンジを受けた。2015年に発表されグローバルで260万台を販売するメルセデスにとって重要なモデルだ。

 新型は従来デザインを踏襲しながらより伸びやかなエクステリアと、リアルウッドと縦型ディスプレイを中心としたインテリアを持ち上質な仕上がりだ。ボディサイズは従来型と比較すると全長4720mm(+50mm)×全幅1890mm(+0mm)×全高1640mm(-5mm)でほぼ同じだが、ホイールベースは2875mmから15mm伸びた2890mmとロングホイールベースになった。心配される小回り性はCクラス同様にオプションのドライバーズパッケージにリア・アクスルステアリングが含まれており、この場合の最小回転半径は5.1mと小型車並みになる。

 多くのバリエーションが揃っていたGLCだが、新型では「GLC 220 d 4MATIC」のみの1グレード。搭載エンジンは信頼性の高い「OM654M」型の4気筒2.0リッターディーゼルターボにマイルドハイブリッドのISG仕様だけになる。試乗車はAMGラインパッケージにドライバーズパッケージ、ガラスサンルーフ、AMGレザーエクスクルッシブパッケージなど194万円分を備えた1000円万円超えだったが、素の価格は820万円になる。

今回試乗したのは3月に予約注文受付を開始したミドルサイズSUVの新型「GLC」(820万円)。ボディサイズは4720×1890×1640mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm。全幅は先代モデルと同じ1890mmのまま、ホイールベースを15mm、全長を50mm伸長し、伸びやかでスポーティなシルエットを実現した
写真のAMGライン仕様では斬新なスターパターングリルを採用し、立体的に配されたスリーポインテッドスターが先進的な表情を生み出しつつ、大胆な開口部を備えたアグレッシブなフロントバンパーとともに精悍なフロントマスクを形成。また、フロントグリルと連続したスリムなヘッドライトや、より精悍さを増した最新デザインのフロントバンパーがワイド感を強調し、圧倒的な存在感と独特なプロポーションとした。また、リアデザインは力強く張り出したフェンダーと水平基調のリアバンパー、ツーピース構造で内部に立体感があるスリムな新型リアコンビネーションランプによって、リアエンドをよりワイドでシャープに見せるデザインを採用している

メルセデスらしい豊かなドライブフィールを味わえる

 Aピラーの太いがっちりとした骨組みのGLCに乗り込むと、明るく広い車内が広がり。アイポイントの高いドライビングポジションで視界が開ける。内装も縦縞の入った凝ったウッドを配しており、メルセデスらしい華やかさとクラシックな雰囲気に包まれる。

 イグニッションを入れるとディーゼルとは思えないほど静かに始動する。A 220 dでも感心した静粛性はさらに磨きがかかっている。振動、静粛性共によく抑えられてGLらしい高級感に満たされる。

 試しに情報の多いOFFROADモードを出してみる。前後/横角度、方位、速度、ハンズオフサイン、ロードサインをバランスよく映し出し判別しやすい。実際にドライブモードをOFFROADにして荒野を移動するチャンスはあまりなさそうだが、オフローダーらしい装備だ。

ダッシュボードは上下2つに分割され、上部は翼のような形状に、航空機エンジンのナセルを思わせる丸みをつけたやや横長の新デザインの「角型エアアウトレット」でスポーティさを演出。また、ダイナミックなドライビング特性、サポートの精度を高めた安全運転支援システム、縦型の大型メディアディスプレイを搭載。このメディアディスプレイにはMBUX(Mercedes Benz User Experience)全体の中から、走行に合わせて変化するコンテンツをユーザーのために取り出し、関連するサービスとともにMBUX情報アーキテクチャーに表示する「ゼロレイヤーデザイン」が採用され、直感的な操作設定を可能としている
雪道や悪路での走破性を高める「OFFROAD」モードを搭載
新開発のオフロードスクリーンも備え、コクピットディスプレイには車両の傾き、路面の勾配、標高、経度緯度、コンパスのほか、車速、エンジン回転数が表示される。これに加えてメディアディスプレイには周辺地形におけるGLCの現在の姿勢やフロントホイールの操舵角、(リア・アクスルステアリングを装備している場合は)リアホイールの操舵方向などが表示可能

 走り出すとすぐにCクラスの兄弟であることが分かる。舗装路で見かける斜目に入った路面段差を乗り越えた時にアシが柔らかく包み込むように通過する。しかし、大きな段差の乗り越えでは腰の強いダンピングをみせ、GLCらしくしっかりストロークする感触が好ましい。またノイズはキャビンでの共鳴音が小さく、音は適度に伝わるが音圧変化の小さい落ち着いた車内だ。タイヤのロードノイズもピーク音が抑えられていることがGLCの質感の高さを物語る。

 GLCの搭載エンジンはOM654Mで48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせを意味している。実はエンジン本体も進化しており、燃料噴射圧は従来の2500barから2700barに上がり、さらに燃料の正確な噴射ができるようになった。

 またボアは82mmで変わらないが、ストロークは2mm長くなった94.3mm。排気量は42ccアップの1992ccになっている。さらにピストン上部にナトリウムが封入され冷却効率を高めている。これにより最大出力は2kW/40Nm向上して197kW/440Nmに上がり、広い回転域で出力がある。内燃機関もたゆまない進化を続ける。

 48VマイルドハイブリッドはISG(スタータージェネレーター)で17kW/205Nmの出力を持ち、ディーゼルエンジンをサポートする。エンジンの改良とISG効果でWLTC燃費は従来の15.1km/Lから18.0km/Lと19%の改善になった。

エンジンは最高出力145kW(197PS)/3600rpm、最大トルク440Nm/1800-2800rpmを発生する直列4気筒2.0リッタークリーンディーゼルターボ「OM654M」型を搭載。新型クランクシャフトの採用によってストロークを94.3mm、排気量を1992ccまで拡大(先代モデルはストローク92.3mm、排気量1950cc)。トランスミッションは「9G-TRONICオートマチックトランスミッション」を組み合わせる

 エンジンに爆発的な加速力はないが、十分にパワフルで実用に撤したディーゼルの粘り強さと低回転から続くトルクの分厚さがあり、メルセデスらしい豊かなドライブフィールを味わえる。高速クルージングはオフロード走行と並んでディーゼルのもう1つの得意科目。低回転でユルユルまわるディーゼルはまさに最適。SUVにもふさわしい。ちなみにWLTCの高速モードでは20.1km/Lとなっており、走り方によっては手の届く数値だ。

 トルクの点ではアクセルを強く踏み込むと2t近い重量を力強く引っ張っていく。これなら登坂でも不足はなさそうだ。なお4MATICの前後トルク配分はトラクション重視の45:55。GLCはオフロードでは硬派なのだ。

 前述のようにHUDには多くの情報を視界の邪魔にならないように投影し、情報を確実にとらえることができる。コックピット・ディスプレイは12.3インチ、縦長のセンターディスプレイは11.4インチで、両画面に必要な情報を直観的に呼び出せる。さすがは高速移動の国で産まれたクルマ。移動中でもミスのない操作を絶対としているだけのことはある。

 ADAS系もアップデートしており、全車速ACCを入れた時でもレーンキープで自車位置のキープが巧みだ。従来はハンドル保持している判定をハンドル内のトルクセンサーで行なっていたが、新型では静電センサーに代わり、穏やかな注意喚起ができるようになった。

 ハンドリングはメルセデスらしく滑らかな中に手応え感のあるものだ。このフィーリングはすべてのメルセデスに流れているもので、それだけでも安心できて長い付き合いができそうな気がしてくる。コーナーではロールは大きめだが、ロール速度が緩やかなので安定感が高い。機敏ではないが正確だ。またエアサス仕様ではダイナミックモードで15mm低くなり安定感はさらに高まる。

 圧巻は最小回転半径。2890mmのホイールベースにもかかわらず、オプションのリアステアリングを装備した試乗車は予想以上にクルリとUターンでき驚いた。ホイールベース2875mmの従来型は5.6mだったから、逆位相に4.5度切れる利便性は圧倒的だ。また後退時の操作でも、不自然な動きがないことも安心できる。

 ARナビも目的地を設定しておけば、カメラ映像の中にナビ表示がされ間違いが起こらない。すべてが運転に集中させるべく作られており、メルセデスの筋の通った姿勢に深い感銘を受ける。

 オフロードモードを選択すると速度に制限があるが、オプションのエアサスでは最大15mm車高が上がり路面との干渉を大幅に低減できる。もう1つ、ボンネット下がシースルーでディスプレイ上に表示できるカメラマジックもあって市街地でも何かと役に立つ。

メディアディスプレイにクルマのフロント部分下方の路面の映像を映し出す「トランスペアレントボンネット」は、OFFROADモードにすると使用できる

 GLCは魅力を増したフルモデルチェンジで、しかも王道のディーゼルから登場することで、待っていた多くのユーザーの期待を裏切らないだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一