試乗記

ボルボ「V60 Recharge Polestar Engineered」、残りわずかのポールスター エンジニアードのファイナルモデルに乗った

V60 Recharge Polestar Engineered

今後BEVに注力するボルボ最後のポールスター エンジニアード

 限定150台も残りわずかになったボルボのハイエンド・スポーツワゴン「V60 Recharge Polestar Engnieered」。ベースとなったのはV60 T8で、プラグインハイブリットの4WDだ。今後ボルボはBEV(バッテリ電気自動車)に注力していく計画で、「C40」を皮切りに続々と登場する予定となっており、ガソリン車のレーステクノロジーを注ぎ込んだPolestarとはしばらく遠ざかりそうだ。

 ボルボはV60のラインアップを整理し、T8はすでにディスコンになっており、パワフルな317PS仕様の2.0リッターの4気筒ガソリンターボはこのPolestarが最後になるだろう。エンジン出力はT6が253PSなのに対して64PS増しとなっており、V60では最高のパフォーマンスを誇る。トルクも400Nmと巨大。後輪は107kW/309Nmのモーターのみで駆動する。前輪にもモーターを持ち、こちらはエンジンのサポート用で52kW/165Nmとなっている。

 プラグインシステムとしては前輪はエンジン駆動、後輪はモーター駆動を基本として、シーンに応じてEV走行とハイブリット走行を使い分ける。センタートンネル内に置かれた駆動用の102セルを持つリチウムイオンバッテリは18.8kWhの容量があり、条件によるがEVでの航続距離は87kmに達する。

 さてボディサイズは4780×1850×1430mm(全長×全幅×全高)と大き過ぎないサイズ感が好ましい。SUVを見慣れた目には低く構えたワゴンは精悍だ。V60 Recharge Polestar Engnieeredの迫力ある専用19インチ鍛造アルミホールが際立ち、そこから覗くゴールドに塗られたブレンボの6ピストン大型キャリパーですぐにそれと分かる。サイズは8J×19。装着タイヤはコンチネンタル「プレミアムコンタクト6」の235/40R19を履く。スリークなV60の幅いっぱいに踏ん張る感じが頼もしい。

今回試乗したのは2022年9月に発売された特別限定車「V60 Recharge Polestar Engineered(ポールスター エンジニアード)」(969万円)。V60 Recharge Polestar Engineeredの販売台数は150台で、今回の導入をもってPolestarモデルの販売は終了となる。ボディサイズは4780×1850×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm
エクステリアで目を引くのは19インチの専用鍛造アルミホイールと、その奥に鎮座するブレンボ製6ピストン・フロントブレーキキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスク(フロント/371mm)
V60 Recharge Polestar Engineeredは最もパワフルなT8 AWDパワートレーンを搭載し、合算参考出力は462PS(317PS/400Nm+145PS/309Nm)を発生。電池容量18.8kWhの駆動用リチウムイオンバッテリによりEV走行換算距離(等価EVレンジ)は87kmを達成し、ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード)は15.2km/Lを実現

 ドアを開けると清潔感溢れる明るい室内が出迎えてくれる。簡潔だが品よく居心地がいい。シートはナッパレザーのスポーツシート。シートベルトはPolestarゴールドに変えられ、シフトノブはボルボの最上級モデルで使われるオレフォス製のクリスタルが使われ繊細でゴージャスな雰囲気だ。

V60 Recharge Polestar Engineeredのインテリア。オープングリッドテキスタイル/ファインナッパレザー・スポーツシート、専用ゴールドカラー・シートベルトなどを採用する

少し軽めの操舵力と応答性のしなやかさはPolestarの血統

 PHEVらしくバッテリで走り始める。高速に入ってもEVモードのままでエンジンは始動しない。バッテリを使い切る前にメインディスプレイからチャージモードを選択して、充電しながら高速道路を東に向かう。エンジンがまわり始めても滑らかな回転フィールは心地よい。ハイパワーエンジンの気持ちよさは運転の余力に反映され、快適なクルージングを楽しめる。チャージされた電気はPolestarモードを使う時のために温存しておく。

 ちなみにドライブモードは「Hybrid」「Polestar」「Pure」「Constant AWD」と選択でき、さらに電気を併用するAutoモード、設定されたバッテリ残量をキープするHoldモード、さらに充電専門のChargeモードを選択できる。

ドライブモードは「Hybrid」「Polestar」「Pure」「Constant AWD」の4種類を設定

 サスペンションでのハイライトは、スウェーデン オーリンズの調整式ショックアブソーバーを採用していることだ。オーリンズはモータースポーツには欠かせない存在で、高い減衰力機能と車種の特性に合わせたチューニングを得意としている。V60 Recharge Polestar Engnieeredに採用されているのは強化されたスプリングに合わせて手動で22段階調整できる前後のショックアブソーバーだ。調整ダイヤルはショックアブソーバーのトップに設けられたダイヤルで行ない、段数が高いほど伸び圧と同時に減衰力が上がる。

 ボルボ推奨の前後段数はスポーツ走行用に設定されており、素晴らしいコーナリングパフォーマンスを発揮する。ただ、日常では少し硬めで路面の凹凸でしなやかに足が伸びないのが玉に瑕。そこでダイヤル調整を試みた。リアはジャッキアップしないと調整ダイヤルに触れられないので断念し、フロントだけ3段階のみ戻してみた。

 その効果は高く確実に挙動の変化を感じられた。確かに標準設定よりもしっかり感は薄らぐが、個人的にはこのあたりが乗りやすい。リアの減衰力は乗り心地に大きな効果があるので、さらに自分に適した番数を選べるだろう。もう少し簡単に調整できるといいのだが。使われているバルブはDFV(デュアル・フロー・バルブ)で微小な動きにも追従性が優れ、正確な減衰力を出せるのが特徴だ。

オーリンズの調整式ショックアブソーバーを採用。調整ダイヤルはショックアブソーバーのトップに設けられたダイヤルで行なう。ストラットタワーバーも装着して性能強化を図っている

 それでもV60 Recharge Polestar Engnieeredのハンドリングは秀逸。少し軽めの操舵力と応答性としなやかな手応え感はさすがPolestarの血統だ。正確なライントレース性とハンドル切り返し時のレスポンスの早さは運転していて楽しくなる。車両姿勢も動きに無駄がなくしっかり足を踏ん張っている感じで、地を這うような安定性はラージサイズのワゴンがまるでスポーツカーのように感じられる。

 エンジンの余力もハンドリングに大きな影響を及ぼしている。アクセルのツキのよさはドライバーの意思に忠実にクルマを動かすことができ、ハンドルとアクセルの見込み操作が小さい。さらに分厚いトルクを吐き出すエンジンとアクセル初期のモーターのサポートのコンビネーションは抜群。そして内燃機の鼓動も心地よく身体に伝わって実に楽しい! すべてがリズムよく滑らかだ。

 Polestarモードを選択すると、さらにパワートレーンのレスポンスが鋭くなり力強い。この際の電気の上乗せ分はこのクルマを活気づけ、ロックアップ機構付き8速ATも低いギヤをキープする。アクセルコントロールでどのような走りにも適応してくれ、山道ならずとも郊外路をクルージングしてもその爽快さを楽しめる。

 そしてブレーキ。フロントにスリット入り大径ローターと6ピストンのブレンボ製ブレーキシステムは2050kgの重量を正確に減速させることができる。ブレーキレスポンスも素早く、そして正確。コントロール性も素晴らしい。走る、曲がる、止まるのコンビネーションはさすがPolestarならでは。こんな心地よいクルマがもうすぐ手に入らなくなるのは残念だ。

 帰り路は臨場感のあるクリアな音で知られるBowers&Wilkinsのオーディオシステムから流れる音源に満たされてリラックスして東京に向かった。良い1日だったと思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛