試乗レポート

ボルボ「V60 T8 ポールスター エンジニアード」 重さを感じず低く這うような走りに感嘆

 ブラックにペイントアウトされた「V60 T8 Polestar Engineered(ポールスター エンジニアード)」はそれだけでも凄味がある。ポリッシュド&黒の19インチ鍛造アルミホイールから覗くブレンボのゴールドカラーのブレーキキャリパーがそれに輪をかける。

 ポールスター エンジニアードについて簡単なレクチャーを受けてからコクピットに乗り込む。シートはR-Designと同じ形状のバケットタイプだが、メリハリが効いたアクセントが加えられ、体がスッとシートになじむ。ポールスター エンジニアード専用のゴールドカラーのシートベルトが特徴だ。

プラグインハイブリッドモデルとなる「V60 T8 ポールスター エンジニアード」(919万円)。ボディサイズは4760×1850×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm。最小回転半径は5.7m
ポリッシュド/ブラックとなる専用デザインの19インチ 5Yスポーク 鍛造アルミホイールを装着。タイヤは235/40R19サイズのコンチネンタル「PremiumContact 6」。ゴールドのブレーキキャリパーが目を引くブレーキシステムも専用で、フロントはブレンボ製6ピストン・フロントブレーキキャリパーとスリット入りベンチレーテッドディスク(371mm)となる
助手席側フロントフェンダーに充電口を配置。搭載するリチウムイオン電池の容量は34Ah
通常モデルではシルバーとなるウィンドウモールはブラックに変更
エンドパイプはブラッククローム仕上げの専用品
V60 ポールスター エンジニアードのインパネ
シートはオープングリッドテキスタイル/レザー・コンビネーション。ゴールドカラーのシートベルトが目を引く

 T8 ポールスター エンジニアードはリチャージド・プラグインハイブリットの4WDで、フロントはスーパーチャージャー&ターボチャージャーで過給された2.0リッター245kW/430Nmエンジンで駆動し、リアは65kW/240Nmの電気モーターで駆動する。標準のT6のリチャージド・プラグインハイブリットのエンジン出力は186kWだから大幅な出力アップだ。また、T8では233kWなので、さらに12kWのパワーアップが図られている。

ポールスター エンジニアードのストラットタワーバーを装着するエンジンルーム。インタークーラー付ターボチャージャー&スーパーチャージャーを備え、最高出力245kW(333PS)/6000rpm、最大トルク430Nm(43.8kgfm)/4500rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンを搭載。組み合わせるモーターはフロント側が最高出力34kw/2500rpm、最大トルク160Nm/0-2500rpm、リア側が最高出力65kW/7000rpm、最大トルク240Nm/0-3000rpmというスペック。トランスミッションには8速ATを採用する

 主なドライブモードは、主としてモーターで走行する「Pure」、他の60シリーズではPowerに相当する「Polestar Engineered」、そして常時4輪駆動となる「Constant AWD」とあるが、今回はT8 ポールスター エンジニアードのパフォーマンスを確認したくて、Polestar Engineeredを選択してドライブした。

 このモードはモーターのみの走行はせず、2つのパワーユニットのすべてを出しきる。具体的にはアクセルレスポンス、ステアリング操舵力、トランスミッションのレスポンスとギヤの選択。ESCをスポーツモードに変更。さらに場面によって後輪のモーターによる駆動力を積極的に活用することで、素直なステア特性を目指している。またアイドリングストップ機能もOFFになる。

ドライブモードは常時4輪駆動の「Constant AWD」、モーター走行が主となる「Pure」、エンジンとモーターを使い分ける「Hybrid」、好みに応じた設定ができる「Individual」のほか、専用モードの「Polestar Engineered」が用意される
シフトノブまわりにエンジンスイッチやドライブモード切り替えスイッチを配置

 サスペンションはフロントのコイルバネ、リアの樹脂製の横リーフバネが固められ、ショックアブソーバーの減衰力、さらに強化スタビライザーがポールスター専用となっている。ショックアブソーバーはオーリンズで特徴的なバルブ機構を持った22段階減衰力調整式単筒が装着されており、フロントを6段階目、リアを9段階目にするセッティングがスポーツドライビングに推奨されている。締め込んだ1番目がもっとも硬くなる構造だ。フロントはショックアブソーバーのトップに調整ネジがあるので簡単にできるが、リアはショックアブソーバー下側サイドに調整ネジがあるので手が入りにくい。まず調整をフロント:6、リア:9で走り始める。

減衰力が22段階で手動調整できるオーリンズのデュアル・フロー・バルブ・ショックアブソーバーを採用

絶妙のハンドリング&軽快なパワートレーン

 起点となったホテルのエントランスからはモーター走行で静かに出てその後ドライブモードを変えたが、エンジンは滑らかに回り低速トルクもタップリして走りやすい。とにかくアクセルのツキがよく、ルーツ型スーパーチャージャーとターボのコンビネーションに加えて電動モーターのアシストもあって、アクセルの動きに滑らかに反応してスーと加速していく。ギクシャクしたところは少しもなく上質感のあるパワートレーンだ。

 エキゾーストノートも心地よい音で、いかにもPHEVらしい新しいスポーツワゴンを感じさせる。

 エンジンへの好感度はワインディングロードでも変わらない。どこからでもアクセルを踏めばシャープなレスポンスでグンと前に出ていき、軽やかに伸びていく。2050kgの重量があるものの、その重さは全く感じられない。

 ブレーキはフロントに大きなブレンボの6ピストンを装着して、強力なストッピングパワーを備えている。ブレーキフィールもタッチがよく、踏力でのコントロール性に優れている。反復して使ってもタッチは少しも変わらなかった。ブレーキキャリパーだけでなくブレーキラインも強化されているので、さらにダイレクト感が向上している。

 一方、乗り心地でも発見があった。グッと固められたサスペンションは路面の凹凸を忠実に拾ってゴツゴツ感があるが、リアシートに座った編集部員からは突き上げ感がなく快適とのコメントが返ってきた。確かにシートサポートもよさそうで、コーナーでも左右に揺さぶられていない。路面からのダイレクト感はバネの硬さからきているようだが、リアショックアブソーバーの減衰力は巧みに上下動を収束させて、硬いサスペンションセッティングの割には乗り心地がよい。山道を走り回っても後席に座っている編集部の頭の位置がそれほど動いていない。

 そしてハンドリングは絶妙! 装着タイヤはコンチネンタル「PremiumContact 6」でサイズは前後ともに235/40R19。ステアリング応答性と舵の効きのバランスが素晴らしくまったく不安感はない。低く這うように走り抜ける姿勢はスポーツモデルのツボを押さえておりポールスター エンジニアードのチューニングの妙に感嘆する。

 タイトなS字コーナーも腕のわずかな動きに素直に反応して、スッスッと左右に軽い身のこなしで駆け抜ける。オン・ザ・レール感覚である。

 コーナーではリアの駆動力が少し大きくなるようで、ライントレース性が高く、長いコーナーでもステアリング舵角一定でクリアできる。さらにコーナーのRがきつくなって切り増しする場面でも、タイヤの接地形状が急激に変わる感触はなく、高い追従性を見せる。

 前後重量配分は70kgのモーターを後輪の上に積んでいる関係で56:44になっており、結果的に優れたハンドリングをもたらしている。

 オーリンズの減衰力、フロント:6、リア:9のセッティングはドンピシャリで、普段の走行でもT8 ポールスター エンジニアードのオーナーなら十分に納得してステアリングを握っていられそうだ。結局このセットを満喫したところで時間切れ。調整ネジを動かすことはできなかったが、このオーリンズはかなり幅広く減衰力が変えられる。コンフォートでの推奨はフロント:12/リア:15、さらにハードセッティングはフロント:2/リア:6が推奨される。

 天気のよい山道のドライブは爽快な気分にさせてもらった。まさに新しい時代のスポーツワゴン。キビキビした走りは突出していた。この隙のないポールスター エンジニアードだが、前回のS60 ポールスター エンジニアードでは20台だけの導入だったこともあり、発売即完売となってしまった。

 今回はS60が15台、V60が20台、XC60が35台と数を増やしている。それでもこの台数なので数日で完売してしまった。

 ちなみにV60/S60 T8 ポールスター エンジニアードはオプションなしで919万円の設定となっており、XC60は1024万となる。

 また、V60/S60はディーラーオプションで20インチタイヤも揃えており、こちらのタイヤはピレリ「P ZERO」になる予定だ。

 希少価値だけでなく、ちょっと気になる存在だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一