試乗レポート

マイルドハイブリッドのボルボ「XC40 B5 AWD R-DESIGN」、一体感あふれる走りはまるでホットハッチ?

環境と安全に配慮しただけでなく、華やかさもある1台

試乗したのはXC40 B5 AWD R-DESIGN

 かねてからすべてのモデルは4気筒以下にすると宣言し、さらに環境意識の高いボルボは、まもなく日本で販売するすべてのモデルでの電動化を完了する。その手法はバッテリーのみのBEV、プラグインハイブリッドのPHEV、そして48VハイブリッドとなるMH(マイルドハイブリッド)EVの3種類。今回は中でも、もっともベーシックといえるMHEVを搭載した「XC40 B5 AWD R-DESIGN」を試乗する。

2015年に発表した小型車用プラットフォームCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)は、最初からエンジン車だけでなく、ハイブリッド、EVも想定して作られているため、Cピラーやリアゲートのエンブレムとリアバンパーの一部と、従来モデルからの内外装外の変化はほとんどない
XC40 B5 AWD R-DESIGNのボディサイズは4425×1875×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm、トレッド幅は前輪が1600mm、後輪が1625mmとなっている

 ボルボが搭載する48Vハイブリッドは、エンジンのクランクにベルトで結ばれたISGM(Integrated Starter Generator Motor)が低負荷時にエネルギーを回収。トランク下部にある0.5kwhのリチウムイオンバッテリーに充電され、それを加速時に再び使おうというものだ。モーターは最高出力10kW/3000rpm、最大トルクは40Nm/2250rpmを発生。エンジン始動時にもそれが動くことで、セルモーターのいやな唸り音を感じず、スムースにエンジンが回り始めるから快適だ。また、高速道路でのクルージング中など低負荷領域では第1と第4シリンダーを気筒休止させて2気筒になる機構も備え、燃費向上に貢献する。

メーターもぱっと見は従来モデルと同じにしか見えないが、右側のメーターのガソリン残量のうえにリチウムイオンバッテリーの残量を表示する電池の形をしたアイコンがある
ラゲージスペースの底に0.5kwhのリチウムイオンバッテリーを搭載する

 けれども環境意識が高いだけではなかった。ワインディングを走ればこれまでと変わらずの世界観。B5のターボエンジンは高回転へ向けて爽快な吹け上がりを見せるし、コーナーからの脱出加速では鋭いトルクを展開してくれるのだ。イメージとしては従来と変わらずかそれ以上のパフォーマンスなのだ。

スポーティモデルなだけあって、しっかりとホールドしてくれるシートが心地よい

 今回試乗したモデルはスポーティな“R-DESIGN”ということもあって、シートはホールド性が高く、しかも座面が滑りにくいバックスキンタイプで、旋回Gが高い時であっても身体が揺さぶられることはない。サスペンションの仕上げも程よくスポーティであり、一体感あふれる走りが面白く、ホットハッチかと思えるほどだ。

シリーズ構成はカジュアルなMOMENTUN、上質なInscription、スポーティなR-Designとなっている
タイヤは前後235/50R19サイズを履く

 ブレーキバイワイヤが採用されたブレーキシステムも、ペダルタッチに違和感なく、踏力次第で制動Gをコントロールできるところが好感触だ。環境対応をドライバーに感じさせず、走る愉しみを相変わらずの世界観で達成しているところにホッとする。パドルシフトが撤廃されたのは残念だが……。

エンジン単体は直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンで、最高出力184kW(250PS)/5400-5700rpm、最大トルク350Nm/1800-4800rpmを発生。電気モーター単体は、最高出力10kW/3000rpm、最大トルクは40Nm/2250rpmを発生。トランスミッションは電子制御式の8速ATで、電子制御AWDシステムも組み合わせられる

 見どころはそれだけじゃない。安全思想に対してもさらなる取り組みが行なわれた。それはスピードリミッターに対する考えがガラリと変化。なんとボルボ全車が180km/hリミッターを搭載したのだ。輸入車は日本車とは違って250km/hリミッターだったり、一部のモデルでは無制限だったりという状況だったが、ボルボはいち早くそこにメスを入れたことになる。

2021年モデルからR-Designには「ステアリングホイール・ヒーター」「リアシート・ヒーター」「ウォッシャー一体型フロントワイパー(ヒーター機能付)」「パワーテールゲート(ハンズフリー・オープニング/クロージング機能付)」、「ラゲッジプロテクションネット」「harman/kardonプレミアムサウンド・オーディオシステム(サブウーファー付)」「ワイヤレス・スマートフォン・チャージ」が標準装備され「パドルシフト」が非装備となった

 さらに見どころは「ケアキー」と呼ばれるスマートキーが1本付属し、そのキーはオーナーが任意でスピードリミッターを選択できるようになっているのだ。ビギナーである子供などに貸し出す際には絶対に飛ばせない対策が可能となる。

ケアキーに設定される速度上限は、メインキーを持った人が任意に変更できる

 これなら事故のリスクも軽減できるに違いない。さすがは安全をリードするボルボならではの装備といえるだろう。個人的にも将来子供が免許を取得し、公道を走り出そうという際にはこんなクルマがよいと思えた。若かりし頃、スピードの虜になった身からすれば、そのDNAを受け継ぐ子供はきっと同じ道を歩むことは想像できる。それを阻止してクローズドコースのみでスピードを愉しめるように導かねば……。そんな時、このシステムは素晴らしい。ぜひ他のメーカーも追従して欲しい。

オレンジ色のカーペットはインテリアを明るく彩ってくれる
デザインと収納をバランスさせているドア
解放感のあるグラスルーフを装備
ゆったりと広いラゲージスペースは2重底になっていて利便性も高い。ボルボ防災用バッグは価格29700円

 こうして環境と安全に配慮しただけでなく、XC40はボルボの中でコンパクトながら、それを感じさせない華やかさが相変わらず素晴らしい。オレンジ色のカーペットで彩られた世界は、ドア周りにまで続き、インテリアを明るくしてくれている。それに加えてグラスルーフも装備しているから、閉塞感を一切従わないところがマルだ。コンパクトだからチープというわけでなく、コンパクトでも十分に思わせるデザインや色彩がXC40のよさだと思う。スニーカーやジーンズのように馴染みやすいが、けれども安っぽく感じない仕上がりが随所にある。それは今回のR-DESIGNでなくても得られることは間違いない。グレード間、そして価格のヒエラルキーも撤廃してしまったかと思える感覚があるのだ。それでいて、意識せずしてしっかりと環境と安全に配慮できる。そこが新生XC40のよさだと思う。

ボルボの中ではもっともコンパクトなSUVとなるが、それでもこのしっかりとしたサイズ感
グレード価格
Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription649万円
B5 AWD R-Design589万円
B4 AWD R-Design539万円
B4 AWD Inscription539万円
B4 AWD Momentum499万円
B4 Momentum479万円
B4409万円

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一