試乗レポート

ボルボ、プラグインハイブリッドになった「XC40」に速攻試乗「XC40 リチャージ プラグイン ハイブリット T5 インスクリプション」

新世代プラットフォームにより前後重量配分もよく、ハンドリング特性もよい

今回試乗した「XC40 Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription」

 XC40は日本、欧州でCOTYを獲得したボルボの人気車種だ。ボルボの中ではコンパクトに属して、全長こそ4425㎜と短いが、全幅1875㎜、全高1660㎜と日本にあっては意外と大きい。また、XC40は北欧デザインらしい新鮮さの中にもカジュアルなのが特徴。日本デビュー以来2年を経過しているが、今でもフレッシュで人気が高い。ボルボ・ジャパンにとっても重要なモデルである。

フロントビュー
リアビュー

 ボルボは全モデルを電動化する最初のプレミアムブランドとなると明言しているが、意味するところは48Vマイルドハイブリットを中心に、プラグインハイブリット、そしてBEV(バッテリー電気自動車)を幅広く展開し、ICE(内燃エンジン)だけで走るボルボ車をラインアップから落とす予定だ。すでにディーゼルから徐々にラインアップから外されつつある。

ボルボは2040年までに排出したCO2を相殺してゼロにする「クライメイト・ニュートラル」を目指している
プラグイン挿入口は助手席側のフェンダーに配置
電池残量はメーター内の下のほうに表示されている

 その最初の一歩はプラグインハイブリット。XC90、XC60でまずは後輪をモーターで駆動するツインエンジンとしてスタートしている。今回紹介するXC40はボルボでは初めてのFFのプラグインハイブリットになる。

 ちなみにXC40のプラグインハイブリットを機にボルボはネーミングを変更して「リチャージ」が付けられるようになる。文字どおり充電機能を備えたモデルを指しており、2021年内までには発表される予定の「XC40 Pure electric」はボルボ最初のBEVになる予定だ。

新(画像はイメージ。実際はT5 RECHARGEのエンブレム)
今回試乗した車両はエンブレムが従来の「Inscription(インスクリプション)」のままだったが、今後は「RECHARGE(リチャージ)」へと変更される

 さて、XC40のプラットフォームは2015年に発表されたボルボにとってコンパクトサイズに対応するCMA(Compact Modular Architecture)だ。新世代のプラットフォームを自任するだけあって、高剛性、合理性を併せ持ち、本格的な電動化に向けて準備されたもの。

新世代プラットフォームCMA

 XC40の走りや剛性の高さについてはすでに多くが語られているが、今回のリチャージでは重量94kg、10.9kWhのリチウムイオンバッテリーをセンター部分に縦置きにして、搭載している。将来のBEVでもこれをベースにした搭載方法が取られるだろう。

 プラットフォームの特徴としてはフロアアンダーにバッテリー搭載スペースを持っているので他のXC40と同じく、最低地上高は210㎜を確保している。

 リチャージのために開発された新エンジンはボア×ストローク、82㎜×93.2㎜のロングストロークの3気筒ターボ。最高出力は132kW(180PS)/5800rpm、最大トルク265Nm(27.0kgfm)/1500-3000rpmを出しており、エンジンだけでも十分に速そうだ。

ハイブリッドシステム
ハイブリッドシステム構成
バッテリー詳細

 電動モーターはダイレクトにトランスミッションにマウントされ、60kW/160Nmの出力を持つ。そのトランスミッションは7速のデュアルクラッチで、他のXC40がトルコンの8速を使うのに対してガラリと変えている。ハイブリットシステムとの相性で選ばれたようだ。

内装は従来どおりのカジュアル志向

シートは本革で、車内は全体的に高級感が漂う

 さて、前置きが長くなった。ちょっと高い位置にあるドライバーシートに座ると、いつものカジュアルなXC40にホッとする。シフトノブはスウェーデンのガラス工芸で有名なオレフォス製クリスタルシフトノブになっており、シートも本革仕様だ。

 センターディスプレイの画面を変えるとエネルギーモニターが現れ、今のエネルギーの流れが分かる。またドライブモードも同じくセンターディスプレイに表示され、Hybrid、Individual、Pure、Power、Offroadの5つのモードから選べる。

クリスタルシフトノブはオレフォス製
センターディスプレイ

 一番使われるのであろうHybridモードを選んで、セレクターを引くとDレンジに入るがクリック感がないので、メーターディスプレイを見てDレンジをセレクトしたかを確認する。慣れないとちょっと分かり難いかもしれない。

 アクセルを踏みだすと3気筒エンジンの鼓動を感じられるかと思ったが、タップリ充電されてのスタートだったのでEV出力のみのスタートだった。粛々と起点であるエリアを後にする。

 電気モーターで走るクルマのスタートはいつも滑らかで感動するがXC40も例外ではない。タイヤはピレリP ZEROで235/50R19という大きなタイヤを履くが、プラグインハイブリッドは重量が重いためか、以前乗ったXC40より滑らかな走り出しでガツンとしたところは感じない。初期モデルよりも19インチタイヤとのマッチングがよくなっていることに感心した。

19インチホイールにはピレリP ZEROタイヤが装着される

路面のよい市街地では舐めるように走る

 急加速が必要な場面もなく、街中をしずしずと走りそのまま高速に入るが、相変わらずエンジンはかからない。穏やかなアクセルワークをしているとかなりの距離をEV走行で走る。また回生も小まめに行なっており、バッテリーの消耗量は少ない。ボルボのアナウンスでは走り方にもよるがEVでの走行距離は約41Kmと言われるので、その辺をチョロチョロと走ってる限りはモーターだけで事足りてしまう。

 充電にかかる時間はバッテリー残が15%の状態から80%まで入れるのに200Vの普通充電で2.5時間~3時間とされるので、家や移動先に充電設備があればかなり電気だけで走れることになる。

 ついでに述べるとPureモードでは基本的にEV走行になり、最高135km/hまで出せると言われる。EVの加速がレスポンスのよいのはよく知られているが、XC40ではモーター出力がそれほど大きくないこととバッテリーの消耗を抑えるために穏やかなアクセルレスポンスに制御されているため、不用意にアクセルを踏んでも飛び出すようなことはない。

 またモニターを見ているとアクセルの微妙なオフに対して電気を回収しており、エネルギーをセーブするために運転の仕方にも注意がむく。エアコンもセーブモードに入り、効きが弱くなる。

 Hybridモードでは、幅広い運転領域でEV走行を行なっているのが分かる。それでもアクセルを強く踏んでみるとようやく3気筒エンジンの回転フィールに出会うことができた。遮音と振動対策がしっかり行なわれており、エンジンが始動しても振動はあまり伝わってこない。

 3気筒エンジンは1軸のバランスシャフトを持って振動を打ち消しているが、エンジンマウントのできのよさも大きく貢献しているようだ。気を付けていると僅かに伝わる振動と独特の排気音は3気筒エンジンであることを感じさせるが、振動や静粛性は優れている。

直列3気筒1.5リッターガソリンターボエンジン+電動モーター。最高出力132kW(180PS)/5800rpm。最大トルク265Nm(27.0kgfm)/1500-3000rpm。WLTCモード燃費は14.0km/L

 高速に入ってすぐに渋滞が始まったが、ブレーキの微妙なコントロールは存外、神経を使い、効き始めるポイントの幅が欲しいところだ。ただし渋滞前にセットしていたパイロットアシストをフルに使って、適度な車間を保ちながら追従するとストレスはほとんどない。加速ではちょっとアクセルを足してやればスムーズに前車についていく。

 ちなみに先進安全技術ではXC40リチャージ プラグインハイブリットから新City Safetyになっており、衝突回避、被害軽減ブレーキ、対向車対応機能など、大きく安全機能が向上している。どれもボルボらしい安全機能でボルボ=安全と言うイメージに相応しい。個人的にはブラインドスポットモニターにステアリング・アシスト機能が付いていることが嬉しい。

 渋滞から抜け出した時に追い越し加速を行なってみた。エンジンとモーターの総出力262PSはXC40リチャージ プラグインハイブリットの重いボディを引っ張るには十分だった。

もちろんクルージングには余裕十分

 郊外ではどっしりした安定感のある走りでロールも小さい。ちなみに前後重量配分は60:40と並みのFFよりはるか重量配分は優れている。重いバッテリーをセンタートンネルに配置していることや、12Vバッテリーもトランク内に配置して、重量改善を図っている。ハンドリングがよいのも納得である。

 郊外路の乗り心地ではロードノイズもよくカットされ、大きなギャップに入った時以外はショックも少ない。微速度時の回生やアクセルのツキなどはもう少し滑らかさが欲しいが、概ね快適だ。

ラゲージスペースの下にも若干の収納スペースがあるが、バッテリーを搭載しているためやや複雑な形状となっている

 Powerモードにすると、エンジンとモーターのコンビネーションが俄然、積極的になり、変速プログラムもDynamicモードに入って低いギヤをキープするようになる。通常はあまり使うチャンスはないが、このモードではアクセルの反応もシャープになって、素早く反応してクイと前に出る。またステアリングも重めになるので、高速でもさらにドッシリとした印象になる。

 ちなみに変速をマニュアル操作するにはシフトノブを引きBレンジに入れ(回生が強くなる)左右に移動させるとマニュアル変速ができる。左に倒すとシフトダウン、右に倒すとシフトアップだ。さらにもう1回引くとDレンジに戻るが、この操作もメーター内のディスプレイを見ないとちょっと分かりにくい。またメーター内に申し訳程度に表示されるバッテリーマークも見過ごしがちだ。要は普通に走って欲しいということだろう。

 アクセルレスポンスやブレーキの立ち上がり、ハンドルの重さ、あるいは変速スケジュールなど自在に組み合わせて、自分に合ったXC40に仕上げるindividualもあるので、それぞれの変化が大きいモードを持つXC40リチャージ プラグインハイブリッドでは実用価値が大きくなりそうだ。

 ちなみにOffroadモードは20㎞/h以下で機能し、トラクションをジワリとかけたり、ヒルディセント機能が使用可能。最低地上高210㎜のXC40はオフロードでの機動性が高いことが予測される。

 またChargeモードではバッテリー残量が80%になるまでエンジンから充電し、その後は自動的にHoldモードに切り替わる。そのHoldモードは市街地でのEV走行に備えて電池残量を保持するモードだ。このように走り方を変えていろいろとドライブパターンを組み立てることもできる。

乗り心地もよく、使い勝手もよい車内

 インテリアに目をやるとXC40の小物入れは日本の軽自動車を研究したのではないかと思われるほど、行き届いているが、センターコンソールのダストボックスはバッテリーのために廃止され、パーセルシェルフ下のアンダーボックスも大幅に制限されているものの、大きなドアポケットなどは使いやすい。

 XC40は2021年モデルイヤーからベースはすべて48Vマイルドハイブリッドになり、XC40の後にB4、B5が付けられる。これからデリバリーされるXC40はすべて2021年モデルになる。ほぼ受注生産のB4は409万円、B4モメンタムが479万円、そのAWDでは20万高の499万円になる。このあたりが主力になるのかもしれないが、プラグインハイブリッド以外のトップグレード、B5AWD R-Designは589万円のプライスタッグが付く。

 それに対してXC40リチャージ プラグインハイブリットT5インスクリプションの価格は649万円。この中にはレザーシートや前後シートヒーター、パンロマサンルーフ、harman/kardonのプレミアムサウンドなどが標準装備となる。プラグインハイブリッドは補助金や減税幅が大きく、約44万円補助されるのでB5AWDとの差はぐんと縮まり約16万円差になる。カジュアルなXC40としてはかなりの高価格帯に入ることに変わりはないが、新しいパワーユニットや充実した装備はやはり魅力には違いない。

XC40の今後のラインアップ

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一