試乗インプレッション

即日完売の限定車に試乗!! ボルボ「S60 T8 ポールスター エンジニアード」の実力は?

新型「S60」ベースのハイパフォーマンス・コンプリートカー

ポールスターが手がけた電動ハイパフォーマンス・コンプリートカー

 2019年度のグローバルでの販売台数が6年連続で過去最高記録を更新し、2018年比9.8%増の70万5452台と創業以来初めて70万台超を達成したボルボ。中でも近年注力してきたSUVのXCシリーズがますます堅調ぶりを見せる一方で、注目すべきが電動化モデルだ。プラグインハイブリッド車の販売は2017年に比べて倍増し、2018年を22.9%も上まわる4万5933台を達成したというから驚く。

 そんなボルボが新世代商品群の締めくくりとして送り出したのが、新型「S60」をベースに開発された初のハイパフォーマンス・コンプリートカーである特別限定車「S60 T8 Polestar Engineered」だ。わずか30台のみが日本に導入され、2019年11月5日に発売するや、実は初日のうちに即座に完売してしまったのだが、そのうちの貴重な1台のステアリングを幸運にも握ることができた。

 ポールスターというのは、もともとはボルボ車を駆りレースで数々の輝かしい戦績を挙げてきたモータースポーツチームだ。やがて市販車向けのアイテムを手がけたのを機にボルボ・カーズとの関係強化が図られ、2014年にはコンプリートカーを発売。2015年にはポールスターのパフォーマンス部門がボルボ・カーズ傘下に収まった。ところが2017年6月、ポールスターはボルボから独立した高性能エレクトリックカー専門のブランドになると発表。今回の特別限定車も、その流れの延長上にある。

919万円はリーズナブル!?

 S60 T8 ポールスター エンジニアードは、もともとパワフルな「T8」のプラグインハイブリッド パワートレーンにおいて、ガソリンエンジンの制御ソフトウェアをポールスターが最適化するとともに、パフォーマンスシャシーを組み合わせたという成り立ち。ボルボでは同モデルを「ドライビング革命」と謳い、躍動感に満ちた走りを追求し、かつてないドライビングフィールを手に入れたスポーツセダンだとしている。

 日本未導入の「R-DESIGN」をベースに、ブラックを強調して専用に仕立てられた内外装も、これまでボルボ車が送り出してきたいずれの高性能モデルにもなかった凄みを感じさせる。もともと伸びやかで優雅なシルエットを持つS60だからこそ、それがより際立って目に映る。

ガソリンエンジン+モーターで4輪を駆動するプラグインハイブリッドモデルのS60 T8 Polestar Engineered(919万円)。ボディサイズは4760×1850×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm。最小回転半径は5.7m。車両重量は2030kg。WLTCモード燃費は13.6kmm/L
ボルボ車共通のトールハンマーデザインのヘッドライトはそのままに、専用フロントグリルにはポールスターの証となるエンブレムを装着
19インチの鍛造アルミホイールは5Yスポークの専用デザイン。装着するタイヤはコンチネンタル製「PremiumContact 6」で、タイヤサイズは235/40R19。フロント、リア共にゴールドのブレーキキャリパーを装着し、フロントはブレンボ製の対向6ピストンキャリパーとなる

 チャコールカラーとしたルーフライニングやメタルメッシュアルミニウムの加飾パネル、ゴールドのシートベルトが目を引くいかにもホールド性の高そうなスポーツシートなど、標準のS60が見せる北欧風のナチュラルな雰囲気とはまったく異質のインテリアも、精悍でスポーティなイメージだ。919万円という価格は一見するとS60としては割高に感じられるが、内容を知るほどリーズナブルに思えてくる。

S60 ポールスター エンジニアードのインパネ。人工皮革仕上げのテイラード・ダッシュボードやメタルメッシュアルミニウム・パネルを採用
本革/シルクメタルの専用ステアリングホイールにはパドルシフトを特別装備
シフトノブは専用の本革巻
シート表皮は専用オープングリッドテキスタイル/ナッパレザー・コンビネーション。チャコールのシートカラーとゴールドのシートベルトのコントラストが、通常モデルのスカンジナビアスタイルとは異なるスポーティさを与える

高い実力と独特の演出

 T8のツインエンジン プラグインハイブリッド パワートレーンはもちろんゼロエミッション走行も可能だが、ポールスター エンジニアードでは後輪の駆動を担うモーターをそのままに、前輪を駆動するツインチャージャー付き2.0リッターエンジンの出力が、ポールスター パフォーマンス ソフトウェアによってベース比15PS増の333PSとされ、システム出力は420PSまで引き上げられている。最大トルクはエンジンが30Nm増の430Nm、リアモーターが240Nmをそれぞれ発生し、0-100km/h加速タイムは4.3秒というから、いまどき驚くほどではないにせよ、なかなかの俊足ぶりだ。

インタークーラー付ターボチャージャー&スーパーチャージャーを備える直列4気筒DOHC 2.0リッター「B420」型エンジンに加え、フロントに「T39」型、リアに「AD2」型モーターを組み合わせる。エンジンは最高出力245kW(333PS)/6000rpm、最大トルク430Nm(43.8kgfm)/4500rpmを発生。モーターはフロント側が最高出力34kw/2500rpm、最大トルク160Nm/0-2500rpm、リア側が最高出力65kW/7000、最大トルク240Nm/0-3000rpmをそれぞれ発生する。トランスミッションには8速ATを搭載。エンジンルーム内にはポールスター エンジニアードのストラットタワーバーも装着される
助手席側フロントフェンダーに充電口を備える。リチウムイオン電池の容量は34Ah
フロント/リア・サスペンションにもポールスター エンジニアードの手が加えられるほか、強化フロント・スプリング、強化リア・リーフスプリング、さらには22段階の調整機能を備えるオーリンズ製デュアル・フロー・バルブ・ショックアブソーバーも装着

 大容量のモーターならではの蹴り出しの強さで、出足のレスポンスもよく踏み増すとエンジンが力強く吹け上がる。さらにはスロットルレスポンスの向上が図られているほか、ATもより精緻で素早く変速できるよう手が加えられている。2tを超える車両重量ながら瞬発力は抜群で、踏み込むと電気と過給機の力で伸びやかな加速を味わえる。

 加えて、“アメリカンV8”に似た独特のサウンドの演出もある。今回は公道のごく限られたエリアのみドライブしたが、その実力の片鱗は十分にうかがうことができたし、過給機や電動化技術、疑似音などいろいろなものが組み合わさって独特のドライブフィールが表現されているのも面白い。そのあたりはポールスターなればこそ、なし得たに違いない。

 19インチタイヤを履き、22段階調整式の専用のオーリンズ製DFV(デュアルフローバルブ)ショックアブソーバーをはじめ、シャシーも各部が専用に強化されているほか、ブレンボの高性能システムブレーキも与えられている。乗り味はそれなりに締め上げられて、路面の状況をダイレクトに伝えてくる。ダンパーは調整できるとして、スプリングもかなりハードな印象だが、前後とも軸重が1tを超えるクルマではそれなりに固めないと、これだけの運動性能は出せないはず。許される範囲でできるだけ硬くしたというニュアンスだ。一方、371mm径のディスクローターと6ピストンものキャリパーを備えたブレンボ製のブレーキも、向上した動力性能に合わせて十分なキャパシティを確保し、いかにも懐の深そうなフィーリングだ。

 冒頭でお伝えしたとおり、T8 ポールスター エンジニアードのS60はあっという間に完売したが、2020年の夏ごろを目処に「XC60」と「V60」のポールスター エンジニアードともに追加販売される見込みとのこと。この特別なボルボに興味のある人は、ぜひ次の機会を逃すことのないように。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛