試乗インプレッション
ボルボ「XC60 B5」試乗。48Vマイルドハイブリッドがもたらす静かで上品な乗り味
エンジンも90%が刷新され、第3世代のDrive-Eへ進化を遂げた
2020年6月11日 08:11
ボルボは早いタイミングから「すべての車種を電動化する」と宣言しており、2018年比で2025年までに車両から排出されるCO2を40%削減する目標を立てている。電気などのサポートを受けない内燃機関のみで動く車両を順次削減し、PHEV(プラグインハイブリッド)やBEV(バッテリー式電気自動車)も展開を急いで、ディーゼルエンジンの廃止も進めるとしている。
その電動化の柱となるのは48Vマイルドハイブリッドだ。ボルボのシステムはメルセデス・ベンツにも使われているシステムと同様、インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール(ISGM)で発電した電気をリチウムイオンバッテリーに充電し、そこからエンジン始動時などの動力のサポートを行なうのが基本構造だ。
PHEVのようにEV走行はできないが、クランクと直結するISGMシステムはエネルギーの出入のレスポンスが早く、エンジンを巧みにサポートできる。
実車を見て48Vマイルドハイブリッドだと分かるのはテールゲートに付けられたB5というバッヂだけだ。その他の外観上の違いは一切ない。こちらが将来スタンダードとなるということだ。
インテリアも僅かにメーター内に小さなバッテリーマークがあるだけだった。シフトノブはバイ・ワイヤで、プラグインハイブリッドなどと同じスウェーデンのオレフォス製クリスタルになっている(インスクリプションのみ)。
試乗車は上級グレードのインスクリプションで、エアサス装備のモデルである。装着タイヤはミシュランのLATITUDE Sport 3で235/55R19と大きなサイズだ。
シフトノブ手前にあるスタータースイッチをひねるとエンジンがスムーズに静かに掛かる。ISGMの効果を早速感じるところだが、何気なくエンジンを掛けると明確には分からない。いたって普通なのだ。しかし振動が少ないのが好ましい。ちなみにエンジンはB5から第3世代のDrive-Eになり、エンジン型式もT5のB420からD420T2-330となった。ベースはB420型でボア×ストロークも変わっていないが、ピストン、シリンダー、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ターボチャージャーなど約90%が変更されたエンジンのモデルチェンジで、本体の騒音対策も大きく進んだ。
10kW/40Nmの出力を持つISGMは、0.5kWhのリチウムイオンバッテリーから電気を供給され、ベルトによってクランクシャフトを直接駆動させる。これまでのスターターモーターに比べると大きな出力を持つモーターで始動をアシストして、燃費を向上させることができる。快適性では特にアイドルストップからの再始動でありがたみを感じる。振動も小さく、ノイズがよく抑えられているので、ブンとエンジンが掛かるのではなく、スーっと再始動できる。さらにエンジン始動時だけでなく、低速回転域までモーターがエンジンをサポートすることで、燃費はもちろん全体にエンジンがブラッシュアップされたような滑らかさを感じる。
走り始めてからISGMに注意を向けたが何も起こらない。気が付けば、確かに8速ATの変速時にもISGMがエンジン出力をサポートするなどきめ細かい制御を行なっているため、滑らかな8速ATがさらに磨きをかけられた感触はある。
クルージングでは4気筒エンジンは一定の条件下で1番と4番シリンダーの気筒休止を行ない燃費の向上に貢献する。そしてこの作動もドライバーには全く分からない間に行なわれる。メーター内には気筒休止の表示もないので拍子抜けするほど普通だ。気筒休止の条件は3000prm以下で30~160㎞/hの一定速度の場合。変速やアクセルワークなどのトルク変動があると4気筒に戻る。またドライブモードがコンフォートかエコの場合のみ気筒休止が行なわれ、他のモードでは作動しないように設定されている。
回生については付け加えると、リチウムイオンバッテリーへの充電はアクセルの僅かなオフでも行なわれる。アクセルオフ時の回生ブレーキは条件によって0.1G程度の減速Gなので、ドライバーがそれを意識することはほぼないだろう。
クルージングにはACCと車線維持機能を使ったが、バージョンアップされ車線維持が上手になった。これまでの車線維持はクルマ側から不自然に介入する場合もあったが、新型ではギクシャクせず自然な感触になった。乗り心地はエアサスペンションらしく、うねりのある路面ではフラットな姿勢を保ち快適だ。荒れた路面や段差などの通過では多少のショックがあるものの、大きなタイヤを履くわりにはショックの緩衝はうまくできている。
ブレーキは少しの動きでもエネルギーを効率よく回生できるようにバイ・ワイヤで行なっており、レスポンスも優れている。ブレーキタッチも初期の頃とは雲泥の差で、フィーリングも自然だ。バイ・ワイヤの制御進化は著しく、またコンベンショナルなシステムより軽量だ。ハンドリングは大きなSUVの性格上、機敏ではないものの素直なもので、ロール速度も自然。コーナーでのタイヤのグリップ感もしっかりしており、応答性もユッタリした中に安心感のあるものだ。決して小さくないSUVだが市街地での取り回しもしやすかった。乗り心地とのバランスを取られている感触だ。
「XC90」から始まった新世代ボルボ。シンプルだが堂々としたデザインと北欧を感じさせる清潔感のあるインテリア、優れたプラットフォームなど評価が高い。XC60はそのボルボの中でもボリュームが大きく、ユーザーの満足度も高い。しかし、さらに滑らかで上質なパワートレインを求めているドライバーにはB5は検討してほしい1台だ。静かで振動の少ないB5は長く付き合うほどよさがにじみ出るようなクルマである。
燃費は市街地ではB5の真骨頂、高速クルージングでも気筒休止などの効果でディーゼルのD4に近い値が出ているようだ。テンポよく走るにはディーゼルのD4も楽しいが、滑らかさではB5が上。価格も同じグレードならB5はD4より25万ほど安く設定され、スターティングプライスはモメンタムの634万円。インスクリプションは734万円となる。