試乗インプレッション

ボルボ「XC60 B5」試乗。48Vマイルドハイブリッドがもたらす静かで上品な乗り味

エンジンも90%が刷新され、第3世代のDrive-Eへ進化を遂げた

 ボルボは早いタイミングから「すべての車種を電動化する」と宣言しており、2018年比で2025年までに車両から排出されるCO2を40%削減する目標を立てている。電気などのサポートを受けない内燃機関のみで動く車両を順次削減し、PHEV(プラグインハイブリッド)やBEV(バッテリー式電気自動車)も展開を急いで、ディーゼルエンジンの廃止も進めるとしている。

 その電動化の柱となるのは48Vマイルドハイブリッドだ。ボルボのシステムはメルセデス・ベンツにも使われているシステムと同様、インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール(ISGM)で発電した電気をリチウムイオンバッテリーに充電し、そこからエンジン始動時などの動力のサポートを行なうのが基本構造だ。

 PHEVのようにEV走行はできないが、クランクと直結するISGMシステムはエネルギーの出入のレスポンスが早く、エンジンを巧みにサポートできる。

ボルボでは2018年に53tだったCO2排出量を、2025年には32tにまで削減させる目標を掲げている
48Vマイルドハイブリッドの構造
48Vマイルドハイブリッドの主な新機構

 実車を見て48Vマイルドハイブリッドだと分かるのはテールゲートに付けられたB5というバッヂだけだ。その他の外観上の違いは一切ない。こちらが将来スタンダードとなるということだ。

 インテリアも僅かにメーター内に小さなバッテリーマークがあるだけだった。シフトノブはバイ・ワイヤで、プラグインハイブリッドなどと同じスウェーデンのオレフォス製クリスタルになっている(インスクリプションのみ)。

リアゲート右サイドに48Vマイルドハイブリッドの証である「B5」のエンブレムが備わる
メーター内の電池マークもマイルドハイブリッドならではのアイコン
インスクリプションのみシフトノブにスウェーデンのオレフォス製クリスタルとなる
ボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、車両重量1890kg(試乗車はチルトアップ機構付電動パノラマ・ガラス・サンルーフ装着車のため1920kg)、最低地上高215mm、ホイールベース2865mm
装着タイヤはミシュラン LATITUDE Sport 3。サイズは235/55R19

 試乗車は上級グレードのインスクリプションで、エアサス装備のモデルである。装着タイヤはミシュランのLATITUDE Sport 3で235/55R19と大きなサイズだ。

 シフトノブ手前にあるスタータースイッチをひねるとエンジンがスムーズに静かに掛かる。ISGMの効果を早速感じるところだが、何気なくエンジンを掛けると明確には分からない。いたって普通なのだ。しかし振動が少ないのが好ましい。ちなみにエンジンはB5から第3世代のDrive-Eになり、エンジン型式もT5のB420からD420T2-330となった。ベースはB420型でボア×ストロークも変わっていないが、ピストン、シリンダー、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、ターボチャージャーなど約90%が変更されたエンジンのモデルチェンジで、本体の騒音対策も大きく進んだ。

水冷直列4気筒DOHC16バルブ1968cc、インタークーラー付ターボチャージャー搭載ガソリンエンジンは、最高出力184kW(250PS)/5400-5700rpm。最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1800-4800rpm。電気モーター単体では最高出力10kW/3000rpm、最大トルク40Nm/2250rpm
48Vマイルドハイブリッドの作動
ISGMの効果と利点(1)
ISGMの効果と利点(2)
CDA
新型エンジンのアップデートポイント
エンジンスペック

 10kW/40Nmの出力を持つISGMは、0.5kWhのリチウムイオンバッテリーから電気を供給され、ベルトによってクランクシャフトを直接駆動させる。これまでのスターターモーターに比べると大きな出力を持つモーターで始動をアシストして、燃費を向上させることができる。快適性では特にアイドルストップからの再始動でありがたみを感じる。振動も小さく、ノイズがよく抑えられているので、ブンとエンジンが掛かるのではなく、スーっと再始動できる。さらにエンジン始動時だけでなく、低速回転域までモーターがエンジンをサポートすることで、燃費はもちろん全体にエンジンがブラッシュアップされたような滑らかさを感じる。

 走り始めてからISGMに注意を向けたが何も起こらない。気が付けば、確かに8速ATの変速時にもISGMがエンジン出力をサポートするなどきめ細かい制御を行なっているため、滑らかな8速ATがさらに磨きをかけられた感触はある。

 クルージングでは4気筒エンジンは一定の条件下で1番と4番シリンダーの気筒休止を行ない燃費の向上に貢献する。そしてこの作動もドライバーには全く分からない間に行なわれる。メーター内には気筒休止の表示もないので拍子抜けするほど普通だ。気筒休止の条件は3000prm以下で30~160㎞/hの一定速度の場合。変速やアクセルワークなどのトルク変動があると4気筒に戻る。またドライブモードがコンフォートかエコの場合のみ気筒休止が行なわれ、他のモードでは作動しないように設定されている。

 回生については付け加えると、リチウムイオンバッテリーへの充電はアクセルの僅かなオフでも行なわれる。アクセルオフ時の回生ブレーキは条件によって0.1G程度の減速Gなので、ドライバーがそれを意識することはほぼないだろう。

 クルージングにはACCと車線維持機能を使ったが、バージョンアップされ車線維持が上手になった。これまでの車線維持はクルマ側から不自然に介入する場合もあったが、新型ではギクシャクせず自然な感触になった。乗り心地はエアサスペンションらしく、うねりのある路面ではフラットな姿勢を保ち快適だ。荒れた路面や段差などの通過では多少のショックがあるものの、大きなタイヤを履くわりにはショックの緩衝はうまくできている。

 ブレーキは少しの動きでもエネルギーを効率よく回生できるようにバイ・ワイヤで行なっており、レスポンスも優れている。ブレーキタッチも初期の頃とは雲泥の差で、フィーリングも自然だ。バイ・ワイヤの制御進化は著しく、またコンベンショナルなシステムより軽量だ。ハンドリングは大きなSUVの性格上、機敏ではないものの素直なもので、ロール速度も自然。コーナーでのタイヤのグリップ感もしっかりしており、応答性もユッタリした中に安心感のあるものだ。決して小さくないSUVだが市街地での取り回しもしやすかった。乗り心地とのバランスを取られている感触だ。

見た目は従来のXC60と変わらないが、ブレーキ・バイ・ワイヤ、シフト・バイ・ワイヤ、8速AT制御の最適化など、細かいブラッシュアップが行なわれている
シートはパーフォレーテッド・ファインナッパレザーを採用(写真はアンバー/チャコール)。安全装備も、セーフティヘッドレスト、デュアルモード・エアバッグ(運転席/助手席)、頭部側面衝撃吸収エアバッグ、後部衝撃吸収リクライニング機構付フロントシート、3点式イナーシャリールシートベルト、助手席エアバッグ・カットオフスイッチ、プリテンショナー付シートベルトなどが備わる
メーカーオプションのチルトアップ機構付電動パノラマ・ガラス・サンルーフは21万円。外気温が25℃になるとサンシェードが自動的に閉まる機構付き。また、駐車後にリモコンで外から閉めることも可能

「XC90」から始まった新世代ボルボ。シンプルだが堂々としたデザインと北欧を感じさせる清潔感のあるインテリア、優れたプラットフォームなど評価が高い。XC60はそのボルボの中でもボリュームが大きく、ユーザーの満足度も高い。しかし、さらに滑らかで上質なパワートレインを求めているドライバーにはB5は検討してほしい1台だ。静かで振動の少ないB5は長く付き合うほどよさがにじみ出るようなクルマである。

 燃費は市街地ではB5の真骨頂、高速クルージングでも気筒休止などの効果でディーゼルのD4に近い値が出ているようだ。テンポよく走るにはディーゼルのD4も楽しいが、滑らかさではB5が上。価格も同じグレードならB5はD4より25万ほど安く設定され、スターティングプライスはモメンタムの634万円。インスクリプションは734万円となる。

XC60のラインアップ

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一