試乗インプレッション

ボルボ「XC60」の走りを北海道の雪道で再確認

運動性能とコンフォート性能を見事にバランス

 東京から北海道 函館まで、ボルボのSUVのエントリーモデル「XC40」でロングドライブを行なってきた。その模様は関連記事「ボルボ『XC40』はカジュアルな内外装と軽快な走りを持つ“10点満点”のコンパクトSUV」をご覧いただきたいが、ベーシックグレードに近いにも関わらず満足感が高いその質感や走り味は、ボルボのよさがとことん伝わってくるものだった。函館から最終目的地となる千歳までさらにドライブを進めるが、パートナーはXC40の兄貴分である「XC60 T5 AWD INSCRIPTION」に乗り換えることになった。世界的に見れば最も売れ線のこのクルマは、果たしてどんな世界を見せてくれるのかが楽しみだ。

 インテリアカラーと同色とした質感高いスマートキーを受け取り駐車場に行けば、これまで乗ってきたXC40とは違うドッシリとした存在感でXC60は出迎えてくれた。昨日までとは明らかに違うひとまわり大きいサイズ感は、同じ駐車場にいてもかなり大きく感じる。さらに大きいSUVのトップグレードである「XC90」と比べてしまえばもちろん小さいのだが、ボディサイズが4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)となれば、これでも十分だと思わせてくれる大きさがある。カメラマンの機材や僕と編集者の荷物を余裕を持って収納できるラゲッジスペース、そしてインテリアのユッタリとしたスペースはXC40とは違っている。千歳までのロングドライブも、これなら快適に過ごせそうだ。

筆者と「XC60」。試乗当日の北海道 道南~道央は天候の変化が激しく、舞い散る雪が少なくなったタイミングを見計らって撮影を開始しても、少し経つとちょっとした吹雪のような状態になったり。これは比較的穏やかな状況で撮影できた1枚
XC60 T5 AWD INSCRIPTIONのボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2865mm。標準仕様の車両重量は1830kgだが、試乗車はエアサスやサンルーフを備えて+50kgの1880kg
ボディカラーは「デニムブルーメタリック」
標準仕様の10スポークアルミホイールに235/55 R19サイズのタイヤを装着。メーカーオプションの「電子制御式4輪エアサスペンション」は「ドライビングモード選択式FOUR-C アクティブパフォーマンスシャシー」とセットで30万円高
車両周辺の状況をセンサーやカメラで認識し、自動ブレーキやステアリングサポートによって危機回避、衝突被害軽減を行なう「IntelliSafe(インテリセーフ)」を全車で標準装備
リアハッチに「T5」「AWD」「INSCRIPTIONのバッヂを装着する

 ドライバーズシートに収まれば、ホールド感をきちんと得られるシートが心地いい。さらに、このシートにはシートヒーターからマッサージ機能まで備えられているのだ。極寒の地でシート表皮は冷たく、身体も前日からのロングドライブで疲れ切っている状況では、これはとにかくありがたい。早速その機能をフルに作動させてドライブをスタートする。

 走ればわれわれをソフトに包み込む感覚に優れている。インテリアの質感の高さはリラックスできる空間に仕上がっているし、オプション装着されているエアサスペンションも氷で凹凸ある路面であったとしてもしなやかに受け止めてくれる。おかげで、ソファでくつろぎながらTVでも見ているような優雅な感覚でドライブすることができる。XC40とは違うプラットフォームを採用し、フロント・ダブルウイッシュボーン、リア・マルチリンクのサスペンションを奢っているところも、こんな乗り味を実現してくれるのかもしれない。いずれにせよ、キビキビとしたXC40とはまったく異なる乗り味を展開してくれたのだ。

インテリアカラーは「ブロンド/チャコール」。インパネ中央の9インチ センターディスプレイは全車標準装備
本革巻ステアリングの表皮もインテリアカラーとコーディネートした色遣いとなる
12.3インチ デジタル液晶ドライバー・ディスプレイを採用
エンジンスタートとドライブモードセレクトの操作はどちらもダイヤル式
8速ATはシフトセレクターの前後操作でマニュアル変速が可能
全車のリアシートが電動可倒式バックレストとなっており、試乗車はオプション装着するエアサスを利用してリア側の車高を変化させ、荷物の乗せ降ろしを楽にする機能も備えている

運動性能とコンフォート性能のバランスはかなり絶妙

 けれども、それだけでは当然終わらない。パネルスイッチで走行モードを変更すれば、T5エンジンは低速から力強く、その気になれば豪快な加速を示してくれるし、エアサスペンションも見事に引き締められ、ボディとドライバーの一体感を与えてくれる。さらに4WDが路面をシッカリと捉え、無駄なく加速を展開させるのだ。ただし、それらが過剰すぎることはないところがXC60らしさかもしれない。スポーツ過ぎるわけでもなく、コンフォート過ぎるわけでもない。程よいさじ加減であらゆる路面を走ってくれるところが心地いい。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「B420」型は最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1500-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.6km/L

 今回はニセコや支笏湖あたりのワインディングロードを抜け、千歳まで走破するというルートを辿ったが、そこはアイス路面も点在する過酷な状況だった。だが、そのいずれも意識することなく、リラックスしながら走れたところに価値がある。そんな感覚はリアシートに座っていても同様だった。足下スペースもきちんと備え、足を組むことも可能にする余裕のある造りは、当然だが弟分よりも優雅な感覚だった。パノラマ・ガラス・サンルーフが与えてくれる圧迫感のなさも快適だ。

 ボルボは先述したとおり、XC60の上にXC90をラインアップしているが、そちらはさらに優雅さが際立つし、乗り味もユッタリしていることは間違いない。だが、XC60で改めてロングドライブをしてみると、このクルマのちょうどいい塩梅はかなり絶妙だとも感じた。運動性能とコンフォート性能を見事にバランスさせ、さらに使いやすいサイズで納めた仕上がりは、日本の道でも扱いやすい。さらにはカジュアルすぎず、フォーマルすぎない世界観もまた好感触だ。家族とレジャーで使うもよし、ビジネスで使うにも遊び過ぎているわけではないルックスもまた。世界的に売れ線となるには、きちんとした理由があるのだと、改めて感じるロングドライブだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛