試乗インプレッション

先進の電子制御搭載のボルボ「V60 クロスカントリー」で雪上体験

今回メインで試乗したのは2019年4月にフルモデルチェンジされ、初めての冬を迎えたV60 クロスカントリー

電子制御で常に安定指向になるから安心感が高い

「S60」の登場により一連の新商品群がすべて出そろい、2019年は販売実績も好調で、グローバルでは70万台超を達成。日本でも1万8000台を大きく超えて、純輸入車ブランドではドイツ勢に次ぐ6位と健闘。そんな好調のボルボ・カー・ジャパンが初の試みとして、北海道の新千歳モーターランドで雪上試乗会を開催した。対象となったのはメディア関係者だけでなく、一般ユーザーから販売員まで、幅広いユーザーがボルボの雪上ドライブを体験した。

 今回メインでドライブした「V60 クロスカントリー」は、全高を1505mmに抑えつつも最低地上高は「XC60」と同じ210mmを確保し、悪路を含む全天候型の走行性能と優れた実用性を兼ね備えているのが美点。SUVとエステートのよさを合わせ持ったルックスは雪の中でもとても絵になる。また、通常の「V60」には機械式のAWDの設定がなく電動駆動のみのところ、ハルデックスのAWDシステムが搭載されるのも特徴だ。

2019年度は世界累計70万5452台を販売。日本のみでも1万8564台と過去最高を記録した
最低地上高は210mmで、ディパーチャーアングル22.8度、ランプラングル18.4度、アプローチアングル17度を確保
AWDシステムはハルデックス製の第5世代AOC(アクティブオンデマンドカップリング)を搭載する

 新千歳モーターランドでは、まずオーバルコースとハンドリングコースにおいて、横滑りの回避を支援しつつ車両のトラクションを向上させるESC(Electronic Stability Control)のON/OFFによる挙動の違いを確認した。オーバルでESC ONで定常円旋回を試みると、いたって安定指向の制御となり、パワーを絞りつつブレーキを個別につまんで、ステアリング操作に忠実に曲げようとすることが分かる。

 ESC OFF=スポーツモードにしても完全にESCがOFFになるわけではなく、安全確保のため最後には介入するのだが、そのタイミングが遅くなるので、このように振り回まわすこともできる。ただし、テールスライドさせても早く元どおりに戻そうという動き方をするあたりは安全最優先のボルボらしい。繊細にコントロールするとある程度はドリフト円旋回を続けることができるものの、それをずっと長く維持させるような走らせ方はヨシとしないようだ。

 なお、前後や左右に激しいGを発生させる走らせ方をすると、3段階にわたってシートベルトのプリテンショナーの締め付けがきつくなる。最強になると身動きがとれないほどタイトになり、10秒ほどそれが維持される。これにより万が一の事故の際も乗員の体へのダメージを最小限に抑えてくれる。

 林道コースは道幅が1車線分しかないタイトなコースだったが、ESCの的確な制御のおかげで不安を感じることなく安定してスイスイ走れた。

雪中の林道を模したコースでも、制御が働き狙ったラインをきれいにトレースして走れた

 また、スラロームでは、同じくESC OFF=スポーツモードを選択すると振りまわして走ることもできる。一方、ESCをONにするとターンインで舵角に見合うヨーが出るよう個別に内輪のブレーキをつまんで回頭性を高めてくれるので、こうしたミューの低い路面でも走りやすい。ただし、他社ではもっと派手にグイグイ曲げようと制御するものも見受けられるところ、あくまで穏やかに曲げるあたりもボルボらしい。

等間隔に並んでいる赤いパイロンをリズミカルにスラロームできた

「エマージェンシーブレーキ」と「オフロードモード」の恩恵

 ブレーキングではABSの巧みな制御を体感。タイヤのグリップを最大限引き出して短い距離で制動し、滑りやすい路面でもステアリングを切ると舵が利いて障害物を回避できることを確認した。

広い場所ということもあり、フルブレーキはまったく怖くない
ABS作動中でも、ステアリングを切れば、操舵が効くように介入してくれる

 さらに「エマージェンシーブレーキ」を試した。これは日本車ではまだ見受けられないが、欧州では普及が進んでいる機能で、ボルボの場合は3km/h以上で走行中にセンターコンソールある電制パーキングブレーキのスイッチを1秒以上引き上げて保持すると、フルブレーキをかけて車両を停止させる。

 公道ではなかなか試せない機能だが、ドライバーがアクセルを踏んだまま意識がなくなった状況を想定して、助手席の人が試してみると、しっかりとフルブレーキングして停止してくれた。むろんABSが作動するので途中でステアリングを操作して障害物を回避することも可能。そしてスイッチを戻すかアクセルペダルを踏み直すと、同機能は解除される。緊急事態に同乗者でも車両を停止させることができるのは、いざというときに大いに役に立つのはいうまでもない。

Pマークのレバーを引き続けることで緊急停止させることが可能

 次にオフロードおよびモーグルコースへ。ここでは、通常のV60にはな<V60 クロスカントリーにのみ設定された「オフロードモード」が活躍する。考えてみるとこれまで使ったことがないのだが、今回はまさしく真価を発揮するシチュエーションだ。

 オフロードモードは20km/h以下で作動し、低速走行での操縦性を高め未舗装路に適した特性となる。ヒルディセントコントロールもスタンバイして下り坂になると自動的に作動し、前進時は10km/h、後退時は7km/hに車速を制限。アクセルもブレーキも操作する必要がなく、ステアリングだけに集中できるので、落ち着いて安全に降坂することができた。

アクセルとブレーキはクルマにお任せなので、ステアリング操作だけに集中できるのが助かる
ヒルディセント機能が作動するとメーター内のアイコンが点灯して知らせてくれる

 登坂では先進の4WDシステムが頼りになる。T5エンジンの生み出すトルクを最大でリアに50%を配分するが、第5世代からはリアタイヤに発進時からあらかじめ80Nmのトルクをかけているので応答遅れがない。もちろん限界はあり、この日はかなり路面が滑りやすく、坂の途中で止まると再発進が難しいこともあったが、少し下がって再トライすると難なく進めた。意図したとおりに駆動力を発揮してくれるので扱いやすい。

 バンクも十分に確保されたアプローチアングルとデパーチャーアングルにより、20°程度の傾斜ならまったく問題がない。凍ると厳しいのであえてこれぐらいにとどめたというが、実力としてはもっときつい角度でも問題ないそうだ。

 モーグルコースには20cm程度の凹凸が設けられており、地上高180mm以下のものが多い並みの都会派クロスオーバーではフロアを擦ってしまうかもしれないところ、210mmを確保したV60 クロスオーバーならほぼ擦ることもなく踏破していける。ツルツルになった段差でスタックしたときに、他の走行モードからオフロードモードに切り替えただけで一発で乗り越えてた時もあった。

最大斜度20度のバンクも難なく通過できる安定した走り
一般道でこんな凸凹にはほぼ遭遇しないと思うが、滑りやすいコブもすんなりクリア

 派手なテストドライブを終え、今度は北海道の一般道でも試乗。この日は好天に恵まれたので問題なかったが、以前と異なりワイパーの払拭できる部分にレーダーとカメラが配置されたおかげで、雪でセンサーが作動しなくなることがなくなった点もありがたい進化点。また、従来型のV60 クロスカントリーは、いささか乗り心地の硬さが気になったものだが、現行型はそんなことはなく、冬道を安全に走れて、舗装路も至極快適に走れることもお伝えしておきたい。

「オフロードモード」を搭載するV60 クロスカントリーは降雪地域にはベストな1台
圧雪された幹線道路から新雪の残る裏道あで、危うさを感じることなくスイスイ走れた

 最後にレクリエーションとして参加メディア対抗の氷上カート対決が行なわれた。計測1周のみのタイムトライアルで、筆者がCar Watchの代表として参戦。コース前半では「お! 意外と速いタイムが出るかも!?」なんて内心思っていたのだけれど、最終コーナーで見事にハーフスピンを喫してタイムロスしてしまい、残念な結果に終わってしまった……無念。

暖冬とはいえカートで走るとさすがに寒かった
最終コーナーで痛恨のハーフスピン!
カートのタイヤはスパイク仕様で凍った路面でもグイグイ走る

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一