試乗インプレッション
生産再開したホンダ「N-WGN」に乗って感じた軽自動車の進化
走りヨシ、乗り心地ヨシ、静粛性ヨシ。日常で大活躍しそうな1台
2020年2月25日 00:00
2019年に発表された本田技研工業「N-WGN」が、半年遅れでようやくユーザーの手に渡り始めた。電動パーキング(EPB)のサプライヤー切り替えなどで生産が停止していたためだ。言うまでもなく、Nシリーズは軽自動車でトップを走るヒット商品。ホンダとしても販売延期は歯がゆかったと思う。というわけで、改めて生産が再開されたN-WGNに試乗した。
改めて簡単に説明すると、N-WGNは最も背の高い「N-BOX」のようないわゆるスーパーハイト系ではなく、少し前まで主流だったハイト系に分類される。デザインも真四角な軽自動車の特徴を逆手に取って、シンプルなところがなんともほのぼの感があり、好ましい。
試乗車は2WD(FF)の自然吸気エンジンを搭載したN-WGN L・Honda SENSING。タイヤはブリヂストンの「ECOPIA EP150」(155/65R14)を履く。
全長×全幅×全高は3395mm×1475mm×1675mm(4WDモデルは1695mm)。スーパーハイト系ではないと言ってもやはり背が高い。実際にシートに座ってみると大きく広がるヘッドルームにびっくりする。スーパーハイト系は室内での作業や移動が楽に行なえるので子育て世代には人気があるが、そこまで広くなくていいという従来から主流のハイト系も需要がある。
N-WGNは市街地での取りまわしを重視しており、例えば断面の細いAピラーを採用して斜め前方の視界を確保し、死角を減らしている。着座位置も高いので視界は広い。ちなみにフロアとペダルの位置関係は狭く設定されているので、足が小さい女性でもかかとはフロアにつき、運転しやすい。
何かと話題になった電子パーキングブレーキ(EPB)のスイッチはダッシュボード上にあるので少し見えにくいのが難点だが、ホールドモード付で停止した際に自動的にパーキングブレーキがかかるので、ACC(全車速クルーズコントロール)同様、使い慣れると便利だ。
小物入れは大きいグローブボックスが実用的で、センターコンソールにも小さい収納がある。リアシート下には濡れた傘も置くことができるトレイもあり、前席のシートバックに設けられたスマートフォン入れも心遣いが感じられてうれしい。さらにセンターコンソールには2つのUSBポートが備わり、カーナビを装着すると1つ増えて計3つになるのも軽自動車らしい使い勝手に配慮した装備だ。
4枚のドアの開口部は上下方向にも広く、ホンダ特許のセンタータンク方式を採用した低床プラットフォームの効果もあって乗降性に優れている。頻繁な乗り降りにもストレスがないのがありがたい。後席はシートを大きくスライド可能で、後端にスライドさせるとリムジン顔負けのレッグルームを誇る。さらに後席のドアの開口部の広さは、軽自動車とは思えないほどで乗降性は抜群だ。
ドライバーズシートの着座位置は高めで、シートも大きくて体になじみやすく、ハイトアジャスターも付き視界も広いため女性に優しい。その上、ステアリングのチルトや前後30mmも動くテレスコまで付くので、ほぼ日本人の体形は網羅している感じだ。
また、ラゲッジルームはラゲッジボードを使って2段に分けることができる。限られたスペースを有効活用できるし、ラゲッジボードを取り外せば背の高い荷物も収納できる。低床プラットフォームがなせる技だ。
低中速域の豊かなトルクでシーンを選ばず活躍
改めて走らせると、低中速回転域のトルクが豊かで粘り強く走るのに驚く。エンジンの内径×行程は60.0mm×77.6mmという超ロングストロークで、強タンブルの燃焼室など、軽自動車の特性を見極めた自然吸気エンジンは強力だ。N-BOXから搭載されたものをN-WGNも受け継いでいるが、軽自動車の自然吸気エンジンの印象を大きく変えたと思う。
2WD(FF)モデルの車両重量は自然吸気エンジンで850kgあり、43kW(58PS)/65Nmの出力とトルクは数字だけ見ると十分とは思えないものの、トルクの出し方がうまい。CVTもエンジンとの相性に優れており、トルクバンドにうまく乗せている。
高速巡航でも息切れ感はなく、交通の流れに乗るには不足はない。さすがに高い速度域での追い越しではそれほどの余裕はないが十分な動力性能だ。2019年にフルモデルチェンジを行なった日産自動車/三菱自動車工業連合やスズキ、ダイハツ工業も軽自動車ならではのエンジンを投入し、軽自動車はどんどん使いやすくなり、お互い切磋琢磨しながら成長していくのが感じられて面白い。
ハンドリングにしても最近の軽自動車の安定性は驚くばかりだ。N-WGNは競合ひしめく中にあっても遜色なく、日常の足として安心してハンドルを握れるクルマに仕上がっている。切れのあるライントレース性を持つわけではなく、ソフトなサスペンションはそれなりのロール感もあるが、全体にまとまっているので安心感がある。高速道路では横風に吹かれるとさすがに少し頼りなくなるが、それも許容範囲だ。
乗り心地は市街地ではシートやサスペンションのストロークも含めて快適だが、高速になるとややピッチングのような動きが出る。リアからの突き上げが若干あるが、強い衝撃のようなものではないのでユッタリしている。高速道路でも安心して走れるが、主としている速度域は80km/hぐらいまでを得意としている。
静粛性は高く、軽自動車としては望外にロードノイズや風切り音がカットされている。ドライバーズシートに座っていると、後ろから入る音も煩わしくないのが質感を高めている大きなポイントだ。
また、N-WGNではホンダセンシングを標準装備する。踏み間違え防止機能はもちろんで、ACCも備える。高速道路ではステアリングスポークに配置されたスイッチ1つで前走車に追従するので、高速道路でのドライバーへの負担は軽減される。この装備は想像以上にありがたい。「デイズ」や「eKワゴン」でもその実用性の高さに驚いたが、N-WGNも負けず劣らず使いやすい。
トルクの小さい自然吸気エンジンの軽自動車の場合、前走車が離れた場合に追従するのにタイムラグがあるのを危惧したが、N-WGNはすぐに加速してついていく。減速も滑らかで前車について止まった際の再発進も、レジュームスイッチを押せばすぐに加速に移る。比較的強い加速が必要な時はドライバーがアクセルを踏むが、これは小型車でも同じなのでそれほど不便は感じない。便利なのは、渋滞時に知らずにたまっていた疲労が軽減されるということ。これは実感を持って言えることだ。あと安全装備で欲しいのは、斜め後方のクルマを検知するブラインドスポットモニターぐらいだ。
言うまでもなく、今や3台に1台は軽自動車が売れる時代。各社、競争も激しく、量は正義でそれなりにコストもかけられると、クルマの質も上がり、新しいアイデアも次々と取り入れることができる。もはや我慢ではなく、積極的に軽自動車を選ぶ時代に入っている。復活したN-WGNに乗って強く感じた次第だ。