試乗インプレッション

「走る、曲がる、止まる」が格段に高まったホンダの新型「N-WGN」。自然吸気&ターボの両モデルに試乗

先進安全装備、乗降性能の進化など見どころ多数

筆者の新型「N-WGN」サマリー

・ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンで80%の軽シェア
・N-WGNの量販グレードは上位の「L・Honda SENSING」
・軽自動車ユーザーも衝突安全性能の要求値が上昇
・走る、曲がる、止まるを改めて見直したクルマづくり
・前席、後席ともシート形状や素材を新設計
・高齢者の乗降性能も高めた内外装デザイン
・優秀なCVTとの相乗効果で自然吸気でもよく走る
・シフトレンジ名称や制御にも知恵を絞って乗りやすく


軽自動車の当たり年

 2019年も軽自動車の当たり年だ。とりわけ賑わっているのが「ハイトワゴン」や「スーパーハイトワゴン」と呼ばれる背(全高)が高いモデルたちが属するカテゴリー。日産自動車/三菱自動車工業の「デイズ」「eKワゴン」やダイハツ工業「タント」は、2019年にこぞって新型を導入している。

 ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンの違いはご存じのとおり背の高さで、ハイト系よりもスーパーハイト系の全高はおおよそ100mmほど高い。よって居住空間にはさらなるゆとりが生まれるわけだ。そして今や、ハイトワゴンとスーパーハイトワゴン含めて軽自動車市場の80%程度(比率はほぼ等分で、商用を除く)が占められている。

 新型となり2代目となった「N-WGN」、販売は好調だ。ホンダ広報部によると、9月28日の時点で2万6000台の受注とのこと。従来型と同じく標準仕様とカスタム仕様を用意する新型だが、両仕様とも上位グレードの「L・Honda SENSING」が最多量販グレードだ。

ホライズンシーブルー・パール×ホワイトの2トーンカラーを採用するN-WGN「L・Honda SENSING」(2WD/自然吸気エンジン)。価格は136万4000円。ボディサイズは3395×1475×1675mm、ホイールベースは2520mm。安全運転支援システム「Honda SENSING」を全車で標準装備し、CMBS(衝突軽減ブレーキ)ではオートハイビームの採用に伴い、夜間で街灯のない道路でも横断する歩行者の検知が可能になったほか、横断する自転車もホンダ車として初めて検知可能になった。また、ACC(アダプティブクルーズコントロール)にはホンダの軽自動車として初めて渋滞追従機能を採用
N-WGNのエクステリアでは丸形LEDヘッドライトや水平なウインカーなどを用い、「親しみやすい顔」を実現。はっきりとしたキャラクターラインを用いず、おおらかな面構成によって「やらわかいけどしっかりしたフォルム」を表現した
足下は14インチスチールホイール+フルホイールキャップ(2トーンカラー専用)にブリヂストン「エコピア EP150」(155/65R14)の組み合わせ。足まわりでは全車でフロントスタビライザーを採用したほか、ダンパーに対してスプリングをオフセットさせる構造を用いることで、タイヤが上下動した時にダンパーロッドに発生する曲げ方向の力を低減する「横力キャンセルスプリング」を採用
自然吸気の直列3気筒DOHC 0.66リッター「S07B」型エンジンは最高出力43kW(58PS)/7300rpm、最大トルク65Nm(6.6kgfm)/4800rpmを発生。WLTCモード燃費は23.2km/L、燃料タンク容量は27L(4WDモデルは25L)
車内ではインパネを水平基調とし、実際のサイズ以上の広さを感じさせる形状を採用。メーターは四角と丸を組み合わせたもので、明快で分かりやすいようデザインされた。「L・Honda SENSING」ではテレスコピックチルトステアリングをはじめ、フルオート・エアコンディショナー(プラズマクラスター技術搭載)、運転席シートヒーターなどを標準装備。N-WGNのシートカラーはアイボリー
ラゲッジスペースは低床化を行ない、リアハッチの開口部を下側に拡大。2枚を組み合わせる耐荷重50kgのフロアボードを使い、背もたれを前倒ししたリアシートとのフラットフロア化や、上下2段で荷物を積み分けるといったアレンジに対応

 新型N-WGNでは、新たに機能強化を図った先進安全装備群であるホンダセンシング(詳細はこちら)を全車で標準装備しつつ、先の最多量販グレードでは運転席(4WDモデルは助手席にも)シートヒーターをおごり、UV・IRカットガラスを全面に採用することから車両価格はそれなりに高め。標準仕様で136万4000円、LEDヘッドライトと連鎖式(シーケンシャル式)ウインカーなどを追加で備えるカスタム仕様では161万7000円(価格は10%の消費税を含む)だ。

 こうしたことからも、もはや軽自動車はリーズナブルな車両価格の上からだけで選ばれるのではないことが分かる。軽自動車ユーザーに対してホンダが行なった調査では、運転のしやすさや収納力の高さといった昔から要求値が高かった項目に加えて、近年では「衝突被害軽減ブレーキ」にはじまる予防安全性能や、衝撃吸収ボディ構造や歩行者への加害性軽減を目的とした「衝突安全性能」などの要求値も2倍~4倍に高まっているという。

シャイニンググレー・メタリックカラーの「L ターボ・Honda SENSING」(2WD)は169万4000円
N-WGN カスタムではスクエア形状のヘッドライト、メッキ加飾を細かく並べたフロントアッパーグリル、流れるように点灯する「シーケンシャルターンシグナル」などを採用するとともに、ルーフ後方に「シャークフィンアンテナ」を軽自動車として初採用。「L ターボ・Honda SENSING」では9灯式フルLEDヘッドライト、15インチアルミホイール(ブラック塗装+切削)などを標準装備
直列3気筒DOHC 0.66リッター「S07B」型ターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク104Nm(10.6kgfm)/2600rpmを発生。WLTCモード燃費は22.0km/L
「L ターボ・Honda SENSING」のインテリアカラーはブラック×チタン(プライムスムース)。電子制御パーキングブレーキ&オートブレーキホールド機能、本革巻ステアリングホイール、充電用USBジャック(急速充電対応タイプ 2個付)などを標準装備。Gathers ナビゲーションシステムはオプション設定

各所が進化

 さて、こうした各種装備や高い安全技術を備える新型N-WGNの走行性能はどうなのか? 標準仕様のNAエンジン(ターボなし)と、カスタム仕様のターボエンジンの両モデルに試乗した。駆動方式はともにFF方式の前輪駆動だ。

 取材時の都合から、試乗コースの約80%程度が高速道路であったのだが、これがむしろエンジン特性の違いを体感するには好都合だった。加えて、当日は強風(吹き流しが真横に強くなびく結構な勢い)が吹き荒れていたことから、ハイトワゴンで気になる高速走行時の直進安定性についても再確認することができた。

 ちなみに、試乗したN-WGNの全高は標準仕様が1675mmでカスタム仕様が1705mm。これはカスタム仕様に専用装備として車体後部の上部にラジオなどのアンテナ類を集約した固定式の「シャークフィンアンテナ」が装備されるためで、これにより標準仕様が備える可倒式の「ショートアンテナ」よりも全高が30mm高くなるが、ボディそのものは両仕様で同一。

 まずはNAエンジンを搭載する標準仕様の「L・Honda SENSING」のステアリングを握る。乗り込んで最初にいいな、と思えたのはシートやステアリングの調整機構が幅広いことだ。新型N-WGNのセールスポイントに、ステアリングを前後方向に調整できるテレスコピック機能の追加が挙げられる。従来型の設計位置から手前と奥の両方向に15mm、合計30mm調整可能で、従来型にも装備されていたチルト機構との組み合わせで自由度が高まった。

 新型N-WGNのオーナーになった気分で運転姿勢をとるために、じっくり時間をかけて各部を調整してみたが、ここでは新たな発見があった。まず、シートが体を保持するホールド性能が格段に高まっている。前席の座面に点ではなく線で体を支えるSバネ構造を用いつつ、座面のウレタン密度を30%向上。また、シート背もたれ部分の表皮を伸び側で25%高めた。これによりお尻の面圧分布の最適化が図られ、Sバネにより段差を乗り越えた際の突き上げも減少、さらに上半身もシートとの密着性能が高まった。シートの高さ調整幅は50mmとこちらも十分な値だ。

 乗降性能も高い。運転席では乗降時にアクセルとブレーキの両ペダルとの接触がないよう配置に工夫をこらしつつ、床面とステップ部分の段差をなくし、助手席ではダッシュボードから助手席ドアノブにかけてほぼ高さが一定となるようデザインすることで、高齢者や身体の不自由な方でも手で支えながら乗り降りできるように配慮した。

 身長170cmの筆者が適正な運転姿勢をとった運転席に助手席も合わせ、そのまま後席に移動する。真っ先に体感したのは後席でも乗降性能が良好であることだ。軽自動車のボディサイズ制約ゆえにヒンジ式の後席ドアはそれほど大きくないが、後席へと乗り込む際に腰から大腿部が接触しがちなボディ側を20mm切り込ませたことで身体の出し入れがしやすくなった。

新型N-WGNの乗降性能が高いことを実感

 聞けば「関節が硬くなりやすい高齢者の乗降を想定し、段差をなくした平坦な床面とともにこだわりをもって設計した」とのこと。わずか20mmだがこの差は大きい。例えば病気による後遺症(機能障害)によって右半身が不自由であった晩年の実父は、外出の際、常にウエストポーチを付けていたのだが、乗降時にはたいがいバックルやベルトがボディに引っかかり、体のバランスを崩しかけたことも多々あった。介護する筆者からしても20mmのゆとりがあれば、転倒などの心配をせずにいられたかもしれない……。

 試乗ベースの駐車場から公道へ。微速域では早くもリンク式ブレーキペダルのコントロール性能が光った。他車との汎用部品とされることが多いブレーキペダルだが、新型N-WGNでは専用部品としてブレーキペダルを新たに設計した。リンク式の利点は踵を床面につけたまま操作できることで、これによりブレーキペダルをじんわり踏み込むだけでなく、緊急時の急制動でも確実に早く、そして深くブレーキペダルを踏み込むことができる。

 昨今の安全性能ではとかく運転支援システムのスペック(例:搭載する衝突被害軽減ブレーキが何km/hまで完全停止できるかなど)が注目されるが、実は正しい運転姿勢が誰でもとりやすく、さらにステアリングやブレーキペダルの操作性が良好であるなど、「走る、曲がる、止まる」に直結する基本的な部分の性能が何よりも大切。その上で、電子の力を借りた先進安全技術の評価はなされるべきだと筆者は考えている。

 動力性能はどうか。結論からすれば2名乗車+多少の荷物であればNAエンジンで十分! CVTを中枢とするエンジン回転マネージメントと常用域でのトルク値、そして必要に応じた加速値を生み出す変速特性によって、市街地での信号発進から中間加速、高速道路での80km/h巡航に至るまでパワー不足はほぼ感じない。加速時は3000-4000rpmあたりを常用とするものの騒がしくはなく、エンジン回転だけが先行するラバーバンドフィールもほぼ感じられずしっかりとした体感加速を伴う。

 直進安定性についても筆者は納得がいった。前述した全高の高さから吹き流しが真横になるほどの強風を受ければステアリングはとられるし、修正舵も必要になるが、その量は最小限で一発で収めることができるから不安はない。また、クルマがしっかりできているからこそ、ホンダセンシングの1機能であるLAKS(車線維持支援システム)の介入も分かりやすく、効果も高い。

 加えて、ホンダの軽スポーツ「S660」やレッドバッジ「シビック TYPE R」にも採用されている「アジャイルハンドリングシステム」も採用する。車両の特性に合わせた制御変更により、カーブをじんわり曲がる際の安心・安定感も高まった。導入技術こそ違うが、マツダ各車が採用する「G-ベクタリングコントロール」のようなスムーズな車体の動きに近づいた、と説明したら分かりやすいか……。

 そうそう、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の前走車追従機能も大幅に向上した! 2014年にホンダ「レジェンド」に初搭載された第1世代ホンダセンシングの時代からACCの追従性能には課題があると各所で指摘されてきたが、ここにきてグッと信頼度が高まった。具体的には前走車が加速する際の車間時間管理がより緻密になり、大きく前走車に離されなくなったのだ。

ターボの動力性能は当然ながら余力が大きい

 ターボエンジンはどうか? タイヤの15インチ化と電動パワーステアリングの特性が変更されたことで、操舵フィールがやや重くなり、さらに後輪サスペンションにロール剛性を高めるスタビライザーを装備(前輪スタビライザーは全車装備)することから、全体的にグッと引き締まった印象だ。とくに今回のような強風下においては、カスタム仕様ターボモデル(前輪駆動)の前後に装着されたスタビライザーが効果を発揮し、横風対応能力も高かった。

 動力性能に関しては当然ながら余力が大きい。とくに最大トルク値はNAエンジンから60%以上増加していることに加えて、その発生回転数が2600rpmと少しアクセルを踏み込み気味に、つまりはドライバーが強めに加速したいと踏み込んだ際に落ち着く回転数領域と重なるため、なおのこと力強さを実感しやすい。定員乗車時はもとより、丘陵地帯の新興住宅街に多い長く急な登坂路や、流れの速いひと桁国道のオーバーパスでも頼もしく感じられるはずだ。

 地味だが効果的だったのはシフトポジションの変化だ。従来型のLレンジを新型ではSレンジに変更。Lレンジでは要求値以上にエンジンブレーキが強く立ち上がるという意見を反映し、Sレンジではエンジンブレーキの効きを穏やかな特性に変更。ゆるやかだがダラダラと続く降坂路では車速が落ちすぎず有効だった。ちなみに、Sレンジのままブレーキ操作を行なえば、従来のLレンジ相当の強めのエンジンブレーキがかかる。地味つながりでいえば、電子制御パーキングブレーキ(EPB)やオートブレーキホールド機能の利便性も高かった。

 収納面でも定評のあるN-WGNだが新型も当然、大幅に進化した。その上で筆者が新型で特に評価したいのは走行性能の高さだ。繰り返しになるが基本骨格をしっかりと作ったことで、「走る、曲がる、止まる」といったクルマとしての基本性能が格段に高まった。さらに運転支援システムとの相性がよくなり衝突安全性能も向上した。こうなると、近々新型となると噂のコンパクトカー「フィット」への期待も大きくふくらむ!

 最後に取材時の総合燃費数値だが、車載燃費計による値ではカタログの高速道路モード(WLTC-H)値とほぼ同数のNAエンジン22.4km/L、ターボエンジン21.8km/Lであった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学