試乗インプレッション

トヨタの新型「カローラ」「カローラ ツーリング」に乗って分かった進化の方向

変化を恐れず3ナンバー化して“優しさ”を感じさせる1台に

「先代モデルのユーザーの平均年齢は?」と開発陣に投げかけた問いに、「ワゴンのカローラ フィールダーで50代」「セダンのカローラ アクシオは60代~70代」という平均年齢の高さに驚かされたのは私だけではなかったようだ。「カローラ」といえば、生活の中で向き合いやすい5ナンバーのボディ、限られたスペースの中に実用的なスペースをバランスさせてきたモデルとして、その存在価値が受け入れられてきたワケだが、働くクルマとして活躍する商用ニーズを除いてみると、乗用車としては一般的なモデルと比較して圧倒的に年齢層が高いことになる。一定の層に響くクルマを作ることは素晴らしいことではあるが、その一方で極端に偏れば、その車種の衰退に繋がるリスクを伴うだろう。

「5ナンバーサイズ」

 これこそ、日本の狭い道路環境における「クルマづくりの良心」ではあるものの、果たして日本市場でこのクルマを実際にどれだけの人が手にするのだろうか。新型を開発するにあたって、トヨタとしてはきっと難しい議論を重ねたのだろう。12代目として登場した新型カローラは、ついに3ナンバーサイズで登場したのだ。カローラの歴史を揺るがす3ナンバー化。変化を恐れず進化したカローラは一体どんな価値をもたらしてくれるのか大いに気になるところだ。

 まずはボディに注目してみる。3ナンバー化のメリットを活かし、ワイドでダイナミックなスタイルを表現している。新世代のカローラシリーズの先陣を切ったカローラ スポーツの流れを汲むキーンルックは、左右のヘッドライトを繋ぐ。低重心設計となるTNGAのメカニズムを活かしながら、シャープで鋭い表情はこれまでのカローラとは比にならないほどスタイリッシュに生まれ変わった。ネーミングも改められ、セダンは先代のカローラ アクシオから「カローラ」へ。ワゴンはカローラ フィールダーから「カローラ ツーリング」に変わっている。どちらのボディタイプも年齢に捕らわれることなく乗りこなせそうな、スポーティなイメージに好感が持てるし、上級モデルに位置づけられた「W×B」と呼ばれるグレードは、フロントのロアグリルを艶やかなメッキで縁取り、Bi-Beam LEDヘッドライトやLEDフロントフォグランプで先進感を与え、さらにはドアミラーと17インチのアルミホイールにダークグレーメタリック塗装を施すなど、全体を引き締まったイメージに仕上げている。こうして、全体がカッコよく見える背景には3ナンバー化の恩恵も大きいのだろう。

新型「カローラ HYBRID W×B」2WDモデル(275万円)。ボディサイズは4495×1745×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm
カローラのW×Bグレードにはダークメタリック塗装のリアスポイラーがさりげなく配され、リアまわりの印象を引き締める
新型「カローラ ツーリング HYBRID W×B」2WDモデル(279万9500円)。ボディサイズは4495×1745×1460mm(全長×全幅×全高)で、全高がカローラ(セダン)よりも25mm高い。ホイールベースはカローラと共通の2640mm
W×Bグレードはダークグレーメタリック塗装/センターオーナメント付の17インチアルミホイールを装着。組み合わせるタイヤは215/45R17サイズの横浜ゴム「BluEarth-GT」

 よくよく話を伺っていくと、今回のカローラのボディは日本の道路環境に合わせて専用設計が施されたという。実際の寸法を見ると、セダンは全長4495mm(先代比+95mm)、全幅1745mm(同+50mm)、全高1435mm(同-25mm)、ホイールベースはセダンとワゴン共通で2640mm(同+40mm)。ツーリングは全長4495mm(同+85mm)、全幅1745mm(同+50mm)、全高1460mm(同-50mm)となっている。

 単純にサイズでだけで捉えると見落としがちだが、3ナンバー化によって前輪の切れ角が大きくとれるメリットも。Uターン時などで小まわり性を左右する最小回転半径は15インチタイヤ装着車で従来型と同じ5m。16インチタイヤと17インチタイヤ装着車は5.3m。上級モデルに至っては、従来以上に小まわりが効くようになったことになる。また、駐車場の狭い場所での扱いやすさが気になるところだが、そのあたりも工夫されている。ドアミラー格納時のボディの張り出しはカローラ スポーツよりも5mm幅を狭くすることで使いやすさに配慮。さらに、ドアを開いた時の断面を乗り降りしやすい設計とすることで、全幅が+50mm拡がったネガを感じさせないようにしている。開発陣が使う人たちに向けた思いやりを感じる部分だ。

日本専用に工夫をこらしたパッケージを採用する

 進化を実感するのは、これからのクルマのスタンダードを変えていくインテリアだろう。メーターやインパネまわりのデザインはカローラ スポーツと同様だが、カローラ スポーツのマイナーチェンジと今回のカローラ/カローラ ツーリングの登場を機に、トヨタとしては初めてインパネに取り付け式の7インチのディスプレイオーディオを全車に標準装備してきた(上級モデルには9インチディスプレイもオプション設定している)。

 これは、手持ちのスマートフォンと連携できるもので、SmartDeviceLinkではBluetoothやUSBケーブルで接続することで、スマホナビやLINEカーナビなどのナビアプリが使えるほか、ディスプレイオーディオ上で音楽再生などに対応。さらに、Apple CarPlayやAndroid AutoはスマホをUSBのケーブルで接続することでGoogleマップなどの地図アプリや音楽再生などと連携し、モニター上に映し出すことができる。また、車載通信機が標準装備されており、コネクティッドサービスが最初の5年間無料で利用可能(6年目以降は3630円/年、または330円/月)。また、充電用のUSB端子のほかに、シフトレバーの奥のスペースにはQi規格に対応するスマホの非接触充電機能の「おくだけ充電」もオプションで設置できる仕様もある。ドライブに必要な情報をレスポンスよく得ながら気ままにドライブを楽しんだり、困った時にそれらのネットワークを効果的に活かせることは、これからの時代の安心快適なドライブライフに貢献してくれそうだ。

カローラ、カローラ ツーリング共通となるインテリア
カローラのシート(上段)と、カローラ ツーリング(下段)のスポーツシート。シート表皮は合成皮革+レザテック
初めて標準装備となったディスプレイオーディオ。スマートフォンとUSB接続することでスマホのアプリを利用できるほか、車載通信機も標準装備されるため、オペレーターサービスを利用できたり、車外でもスマホで車両情報を確認できたりもする
万が一の事故や急病時に専門オペレーターが緊急車両の手配などを行なう「ヘルプネット」ボタンを設定
スマホをワイヤレスで充電できる「Qi」規格に対応する「おくだけ充電」もオプション設定。余談ではあるが、動いているクルマでもきちんと充電できるよう、スマホ側のコイルを探して、おくだけ充電側のコイルが動くようになっているという

 室内の広さについては全幅が広がった分、乗員の体まわりのスペースにゆとりも生まれている。セダンの場合、リアシートは基本的に固定式となるが、上級グレードのW×Bのみ6:4の分割可倒式リヤシートを標準装備。トランクスルーで長尺物を載せたい場合はW×Bを選ぶことになりそうだ。トランクルームの容積は429L。9.5インチのゴルフバックは形状によって収納できるか否か異なるが、3個ほど収まるという。車両価格としてはガソリンエンジン搭載のW×B仕様で231万円台からと少し高めにはなるが、前述したエクステリアの存在感にプラスして、シートはフィット感が心地よいスポーティなハーフレザーシートが標準装備されることを踏まえれば、見栄えと快適性の両面で充実した内容と言えそうだ。

カローラのトランク容量はVDA法で429L。W×Bグレードであれば、リアシートを倒してトランクスルーもできる
カローラ ツーリングのラゲッジ容量はVDA方式で392L。6:4分割のリアシートを倒すと最大802Lまで拡大でき、最大奥行きは1953mmとなる

セダンもツーリングも乗員が快適に過ごせる乗り味

 飛躍的に変化を遂げてみせたのは走行性能だ。TNGAのクルマづくりを採り入れて登場したカローラ スポーツは、欧州のハッチバックモデルに対抗すべく走行性能を磨きあげて生まれ変わって定評を得てきた。一方で、今回のカローラとカローラ ツーリングは低重心のプラットフォームを活かしながら、優しい乗り味を与えてくるもので、どこか懐かしい“小さなクラウン”を彷彿とさせる走りがなんとも心地いい。

ハイブリッドモデルに搭載される直列4気筒 1.8リッター「2ZR-FXE」型エンジンは、最高出力72kW(98PS)/5200rpm、最大トルク142Nm(14.5kgfm)/3600rpmを発生。2WDモデルではフロントに最高出力53kW(72PS)、最大トルク163Nm(16.6kgfm)を発生する「1NM」型モーターを1機搭載する。今回試乗した2WDのW×BグレードのWLTCモード燃費は25.6km/L
ガソリンモデルに搭載される直列4気筒 1.8リッター「2ZR-FAE」型エンジンは、最高出力103kW(140PS)/6200rpm、最大トルク170Nm(17.3kgfm)/3900rpmを発生。WLTCモード燃費は14.6km/L

 1.8リッターエンジンにモーターを組み合わせたカローラ ツーリングのHYBRID W×Bに試乗してみると、出足から滑らかにタイヤが転がり出して、一連の動きがモーターとエンジンが複雑に連携するハイブリッド車を意識させない素直でスムーズな走りを披露。装着されていたタイヤは215/45R17の横浜ゴム「BlueEarth GT」だったが、たわみが少ない17インチとは思えないほどの優しいタッチで転がったかと思えば、うねりをともなう路面からの大きい入力を上手に受け止め、タイヤを路面に沿わせながらしなやかに乗り越えてみせる。さすがに荒れた路面のザラつきは拾ってしまう傾向も見られたが、目線のブレが少ない走りは、後席に座る同乗者も「快適」と評判は上々であるし、ハンドルを握る私自身も適切な運転操作が行ないやすいと感じた。

 ただ、HYBRID W×Bのセダンで首都高速を走った時に気になったのは、車速が高まったときに縦方向の揺らぎを意識させられてしまうこと。ハンドルは落ち着いて操作できるレベルにあるものの、もう少し収まりがよくなれば一般道から高速域の幅広い領域で懐の深い走りを披露してくれるのではないかと思う。今回、ハッチバックのカローラ スポーツがマイナーチェンジを機にチューニングできる範囲で乗り味を磨いてきていたのだが、開発陣の話を聞く限り、現在のトヨタは乗り味を磨き上げることに貪欲な姿勢で取り組んできている。そうした傾向を踏まえると、今後の進化に期待したいところだ。

 前走車と車間を維持して追従走行を行なうアダプティブクルーズコントロール(ACC)の設定はハンドル上のスイッチで2、3回操作を行なえば、車線内にクルマを留める操舵支援まで設定することができる。もう1つ改良の余地を感じたのは、ハイブリッド車に装着されている液晶風のオプティトロンメーター。7インチのカラーディスプレイが装着されているが、メーター上には多くの情報が表示されているため、アダプティブクルーズコントロールの設定車速が一目で把握しづらい。分かりやすくしてくことは人がクルマと向き合う上で安全面にも直結するので、今後、クルマの機能が複雑化していくことを踏まえると、変わっていく必要がありそうだ。

鮮やかな表示のオプティトロンメーター+7.0インチTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイ。左の写真ではクルーズコントロールなどのインフォメーションは左側のタコメーター右上に表示されている
ステアリングのスイッチで表示を変えると、マルチインフォメーションディスプレイにも表示できる

 最後にセダンで1.8リッターのガソリンエンジン+CVTを搭載した「S」に試乗した。HYBRID W×Bと比べて70kgほど軽いが、走り出しや身のこなしは軽快さや素直な動きをみせる点で魅力的に思えてくる。足下には16インチのアルミホイールに205/55R16のタイヤが装着されていたが、優しい乗り味をシンプルに楽しむ仕様としては十分だと感じる。高速道路の合流でアクセルペダルを踏み込んで1.8リッターエンジンを回していくと、5000rpmを超えても上まで回ることに加えて、CVTはまるでATのようにエンジン回転を高めながらステップ制御を行ない、ドライバーの気持ちに添った伸びのいいフィーリングを楽しませてくれる。ただし、追い越しなどの踏み足しで瞬発力は期待できないが、待てば車速を伸ばしていってくれる印象だ。

ガソリンモデルのカローラにも試乗

 走行フィールにおいて、セダンとツーリングにいい意味でキャラクターの違いは感じにくく、どちらも優しい乗り味で、スポーティ性を追い求める類のクルマたちと比べると、カローラならではの魅力として受け止められるのではないかと感じた。

 カローラは1966年に登場して以来、時代のニーズを取り入れて進化してきた経緯がある。今回のモデルはカローラならではの優しい走りはアップデートされながらも、生活の中で向き合ったときの嬉しさを磨き、スマホとの連携やネットワーク化、さらには運転支援機能を充実させることでドライブライフをフォロー。安全で快適な移動を叶えてくれる魅力的な進化を遂げた。3ナンバー化したことには賛否両論あると思うが、スタイリッシュに生まれ変わったデザインは、若々しい感性を持つ60代以上のユーザーをはじめ、これまでよりも若い世代に受け入れられるモデルになっていくのではないかと期待させられた。

藤島知子

幼いころからクルマが好きで、24才で免許を取得後にRX-7を5年ローンで購入。以後、2002年より市販車のレーシングカーやミドルフォーミュラなど、さまざまなカテゴリーのワンメイクレースにシリーズ参戦した経験を持つ。走り好きの目線に女性視点を織り込んだレポートをWebメディア、自動車専門誌、女性誌を通じて執筆活動を行なう傍ら、テレビ神奈川の新車情報番組「クルマでいこう!」は出演12年目を迎える。日本自動車ジャーナリスト協会理事、2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一