試乗記
日産が本気で作った車中泊モデル「NV200バネットマイルーム」初体験 実際に1泊して居心地を試してみた
2025年4月1日 12:08
- 464万3100円(2WD/FF)
- 496万7600円(4WD)
オートキャンプや車中泊などといった「クルマの車内で過ごす時間を楽しむレジャー」はブームとなり、大勢の人がこうした遊びを体験したことで「クルマを使う趣味」の1つとしては定着した感もある。
特に最近は海外からの旅行者が増えたことから、著名な観光地は混雑し宿泊施設の予約も取りにくい状況になっており、そういった面からもオートキャンプや車中泊など「クルマ旅」の人気を支える要因になっているようだ。
さて、今回試したのは、日産自動車が発売する「NV200 VANETTE MYROOM(NV200 バネットマイルーム)」だ。
このクルマは商用バンのNV200バネットをベースに「くつろぎの空間」をテーマにしたインテリアなど特別装備が盛り込まれた特装車。従来のクルマが燃費や走りのよさなどなど走行面から見たクルマの特徴を前面に出していたのに対して、NV200バネットマイルームは「駐まった状態」での車内での居心地のよさに重点を置いているのがポイント。
それゆえ車検証上の乗車定員は5名であるが、シートアレンジを通常の走行時レイアウトからマイルーム仕様のインテリアに展開した際は、大人1人、もしくは2人での利用を想定したゆったり空間になるというユニークな設定。マイルームというネーミングがシックリくる作りなのである。
なお、利用人数的には軽商用バンをベースにした軽キャンパーと同じだが「部屋」となるカーゴスペースの横幅は軽商用バンより大きいので、1人での利用はもちろんのこと、2人で使っても窮屈に感じることはないだろう。
さて、そんなNV200バネットマイルームだが、自身でも車中泊をする筆者としては以前からに興味津々であった。筆者はホンダの軽商用車「N-VAN」に乗っていて、こちらも使い勝手はいいのだけど、たまに車中泊で使うスペースがもう少し広ければと感じることもある。そうしたことからNV200バネットマイルームを実際に使用してみたいと思っていたところ、試乗車を借りられたので今回、NV200バネットマイルームでの車中泊を体験してみることにした。
基本仕様について
NV200バネットマイルームのベースであるNV200バネットは、2009年から発売されている商用バンのロングセラーモデル。搭載されているエンジンはHR16DE型のDOHC水冷4気筒で排気量は1.6リッター。最高出力は85kW(113PS)/5600rpm。最大トルクは150Nm/4000rpmというもの。燃料はレギュラーガソリンで燃料タンク容量は55L。
駆動方式はFFと4WDがあり、トランスミッションはFFがエストロニックCVTで、4WDはフルレンジ電子制御4速AT。サスペンションはFF、4WDともフロントはストラット式で、リアはFFがリーフリジッド式、4WDはマルチリンク式となる。
そしてボディサイズは全長4400mm、全幅1695mmと、同じく日産の商用バンのキャラバンと比べるとコンパクトな部類なので、アウトドアフィールドにありがちな道幅が狭い道路で運転しやすいのも特徴。
また、オートキャンプ場やRVパークでは、サイトの縦の長さが6~8mほどに設定されることが多いが、バンボディの場合、バックドアを開けて装備を展開することあって、そのときにクルマの全長が長いとサイトの前後スペースの余裕がなくなりサイトの使い勝手がよくない感じになることもある。そんな視点からNV200バネットマイルームの全長4400mmのサイズはサイトを選ばないものとも言えるので、ソロや2人での利用であればこのサイズがちょうどいいだろう。
乗ってみた印象としては約1.5tの車重にエンジンパワーは113PSなので体感的にはターボエンジンの軽自動車と同等。一般道での加速感に不満はないが、高速道路の合流等はアクセルを多く踏み込む必要がある。だけどパワー不足を感じるのはそんなシーンだけで、速度にのってしまえば快適。約80km/hで走行したときのエンジン回転数は2000rpmを少し下まわる程度と低く、エンジンの騒音も気にならない。追い越しをかけるときは3000rpm~4000rpmというトルクが太い回転域を使うので、スルスルと加速してくれる感じだ。ただ、巡航が楽な特性だけに「インテリジェントクルーズコントロールがあればなぁ」とNV200バネット自体の世代の古さを残念に感じてしまう面もあった。
次に乗り心地。NV200バネットはFFと4WDでリアサスが違っていてFFがリーフ、4WDがマルチリンクサスペンション。そのため乗り心地は4WDのほうがよく、実際、4WDだった試乗車は高速道路の継ぎ目を通過する際、フロントは軽い突き上げがあってもリアはスムーズに越えてくれた。
それに対してリーフスプリングは、構造上「ゴツゴツ感」が出やすいが、マイルーム仕様はメインリーフスプリングの下にリーフスプリングをもう1枚追加することでメインリーフがたわんだ際の動きを適正化し、バネ特性を滑らかな非線形特性になるような変更がされた「コンフォートサスペンション」を採用。さらに底付きした場合の衝撃をやわらげるゴムも追加していて、リーフ式としては乗り心地が向上しているという。
そうしたことからNV200バネットマイルームは商用車ベースながらもFF、4WDともに乗り心地は乗用車としてに乗るにあたっても許容できるのものと言えるだろう。
運転席まわりについて
NV200バネットマイルームは2列目以降のスペースを大きくカスタマイズしているが、前席はベースのNV200バネットと同じ。そして商用車ゆえに飾り気はないが、2009年から働くクルマとして活躍しているだけに、「操作性がいい」「ものを置きやすい」という面に不満はない。
そんな運転席まわりで印象に残ったのはシート位置の高さ。キャンピングカーや車中泊仕様車に多いキャラバンやハイエースは運転席の下にエンジンがあることから運転席、助手席の位置が高く乗り降りがちょっと大変だったりする。極端に言えばよじ登ったり飛び降りたりという感じだ。
対してNV200バネット(マイルームも)はエンジンが前席より前にあるのでシートの位置はミニバン並みだし、フロアには大型のステップも設けてあるので乗り降りが容易なのだ。
NV200マイルームのようなクルマは対象とする年齢層が広いし、観光地に行くのであれば立ち寄り地ごとに乗り降りする機会もあるだろう。それだけに乗り降りしやすいと言う部分は重要なポイントと捉えたほうがいいだろう。
マイルームの「部屋」をチェック
NV200マイルームの特徴はなんといってもセカンドシート以降のスペースにある。多くのキャンピングカーでは、ベッド展開できる汎用タイプのセカンドシートを使用していることが多いが(表皮はそれぞれで設定)、NV200バネットマイルームに採用されているセカンドシート「2in1シート」は日産のオリジナルである。
特徴はシートの表面と裏面で硬さが異なるクッションパットを使用しているところで、走行中のモードである「ドライブモード」では背もたれと座面側にしっかり感のある硬めのクッションパッドが来るようになっているため長い時間、同じ乗車姿勢で座っていても身体が痛くなりにくい。
そしてシート表皮は日産ノートのシートに使われていたヘリンボーン柄。デザイナーが「マイルームのインテリアイメージに合う」ということから採用したという。
対して座面と背面を裏返して使うリビングモード。こちらは柔らかなクッションパッドの面になるのでソファ的なフカフカした座り心地となる。また、座面の長さがあるので楽な姿勢で浅く腰掛け、足をだらーんと伸ばすような座りかたも可能。
そして前後にスライドできるテーブルを手前に引き寄せれば、なにか作業したり食事やお茶を飲んだりするのにちょうどいい居場所になる。座りかたや気分によっては手前にテーブルがないほうがいいと感じる場面もあるが、そんなときはテーブルを奥へスライドさせることで自分の前にスペースができるところも居心地のよさに貢献しているポイントだ。
次にベッドモード。セカンドシートの背もたれと座面がフラットになるようにセットし、シートをスライドさせて平置きベッドとつなげることでベッドモードに変更できる。ベッド長は1840mm、ヘッド幅が1200mmとソロなら十分、余裕はないが大人が2人で並んで寝ることも可能だ。
ベッドの上から天井までの距離は955mmとなるが、この高さだと腰を曲げてもベッド上で立ち上がって着替えなど行なうのはやや厳しい。そこで着替えはベッド上に座って行なうようになると思うが、前後の幅が十分あるので座った状態や寝転んだ状態でも着替えのために手足を広げたり、身体をひねったりすることは問題なくできた。
ちなみにソロでの利用であればセカンドシートの片側だけベッドモードにして、もう片側をリビングモードのままにしておけば、そこでフロアに立てるし、フロアからの室内高は1285mmなので、やや屈めば立って着替えることも十分可能だ。
RVパークで1泊してみた
利用したのは千葉県君津市黄和田畑920にある「RVパーク七里川(しちりがわ)」で、このサイトは一部を除き山肌に沿って段になっているので、バックドア側を敷地の後方に向けて駐めると、室内でくつろぎながら景色が楽しめるというマイルームの特性を存分に生かせるサイトなのだ。
筆者はCar Watchの僚誌トラベルWatchで毎月RVパーク訪問記事を担当させてもらっているので、いちおう車中泊はやり慣れているほうだと思う。
さて、車中泊といってもRVパークは車外で調理やたき火ができるところが多く、行くときはそうした施設を選んでいるので持ち物には屋外で使うテーブルやイス、たき火台などもある。また、外で火を使えるのでカセットガスコンロやキャンプ用のクッカーといった簡単な調理道具も持っていっているが、積み込みや現地での展開、撤収にあまり手間をかけたくないので荷物は絞っている傾向。
それらの装備をNV200バネットマイルームに積んでみると、平置きベッドを外した状態の荷室に無理せずに収まった。
実際は車中泊道具のほかにカメラバッグ、三脚、ストロボ用三脚、電気ケトルなど小物もあり、さらに時期的に暖かいか寒いかも予想しにくかったので、冬用のシュラフや厚手の衣類など余計な荷物もあったが、それでもセカンドシートに置ける範囲に収まった。
現地について荷物を降ろしたあとは寝床の準備だが、ここで地味に面倒なのが「窓の目隠し」だ。普段は吸盤やマグネットで留めるシェードを使うのだが、すべての窓に貼っていくのは手間である。それに対してNV200バネットマイルームはカーテンが装備されているので(ディーラーオプション)目隠し作業が非常に楽。
しかもカーテン同士の合わせ目は、プリーツの「山」を重ねてホックで留めるようになっているのでカーテンの合わせ目にすき間ができない。シェードを使う目隠しの際、すき間ができることが多く、それがちょっとストレスと感じるが、このカーテンは準備が楽なだけでなくキレイに閉められるところがかなり好印象だった。
車中泊のときは室内にそれなりに荷物が広がるし、日が暮れたあとは外でゴソゴソしにくいので、室内レイアウトは日のあるうちに決めて、その後はあまりいじりたくない。
NV200バネットマイルームは室内で過ごすときのモードとして「リビングモード」と「ベッドモード」の2つがあって、これらは室内にいる状態でもモード変更ができるのだけど、今回はソロということでセカンドシートの片側だけベッドモードにして、もう片方はリビングモードとした。
これだと寝るまでリビングモードで持参したコミックを読んだりPCをいじったりしたあと、眠くなったらすぐに横になれるし、起きたときも身体をちょっとずらすだけでイスに座れるのがいい。
また、リビングモードであれば車体のフロアに立てるので、立ち上がって着替えられる。車内で「立てるかどうか」は車中泊においてけっこう重要なポイントなのでこの使い方は多いにアリだと感じた。
車中泊のときの食事は車内で食べてもいいし、車外のテーブルでもいい。土地のものを食べたい場合は、クルマで目当てのお店まで行って食事を楽しみ、その後、宿泊地まで戻ってくる方法もある。NV200バネットマイルームはリビングモードにしてもベッドモードにしても、運転席は運転ができる状態をキープできるので、宿泊地で準備を終えたあと、食事や入浴にクルマで出かけることも容易だ。
今回は車外のテーブルで食事をしてあとは車内で過ごしてみたが、半分リビング、半分ベッドモードの居心地が最高だった。車内照明の明るさは本を読むのにも十分なもので、しかもランタンなど簡易的な光源を置いたときのような眩しさが一切ない。車中泊ではランタン等の照明を車内照明として使うことも多いと思うが、やはり天井から照らす照明は明るいだけでなく眩しかったり、照らしムラがあったりなどの「明かりのストレス」がないことも分かった。
さて、1泊した感想だ。RVパーク七里川は千葉の山の中にあって、千葉には「キョン」という大型の動物がいるので、車外に出るとそれらしき動物の鳴き声が山に響いていたが車内に入ると聞こえない。また、サイト内の小さい池にはカエルがいて、外にいるとゲコゲコと賑やかだがそれもほぼ聞こえないレベルの遮音性。このへんはN-VANとハッキリ違うところだった。
そしてベッドの印象だが、2in1シートはベッド面のクッションが硬め、平置きベッドも同じような硬さなので寝心地はしっかり。寝転んだときに身体の沈み込みは少なく感じたが、車中泊を何度かしていくと「マットの硬さ」は迷うのはありがちなことだと思う。
NV200バネットマイルームの「比較的硬め」のベッドモードの寝心地は筆者的に問題なく、ふつうに寝ることができ、朝起きたときに身体のどこかが痛いこともなかった。でも、人によってはもっとクッションが効いていたほうが好みということもあるので、寝てみてシックリこない場合はマットを追加で敷くなど自分なりのアレンジを加えてみるといいと思う。
どんなに居心地がよくても、車中泊は特殊な環境であることは確か。緊張や不慣れさなどで睡眠の質は低下しやすいだけに「寝心地」を少しでもよくする工夫は大切である。
ちなみに寝るのに問題なかったと書いたが、1点だけ気になったところがあった。それが「枕」だ。クッションパッドがしっかり目なぶん、寝転んだときのベッドへの身体の沈み込みが少ないので、いつもの車中泊用で使っていた枕だと高さが足りない感じになった。枕の高さが合うかは寝付きにけっこう影響があると思うので、そこは多少気になった部分だった。ということから筆者の場合、このベッドに寝るなら「枕」はある程度の高さがあったほうが寝やすくなるのだろう。










































































