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新型「カローラ」シリーズ技術説明会レポート(ドライビング/走り編)
構造面や機械的な部分を改良して性能を底上げ
2019年9月17日 13:14
トヨタ自動車は9月17日、「カローラ」(セダン)と「カローラ ツーリング」(ワゴン)をフルモデルチェンジし、同時に「カローラ スポーツ」(ハッチバック)を一部改良。新しいカローラシリーズは全国のトヨタカローラ店、トヨタモビリティ東京、ネッツトヨタ東都、ネッツトヨタ多摩で販売される。
その発売に先がけて東京 青海にあるメガウェブで、新型カローラシリーズについて報道関係者向けに事前に公開する車両説明会と技術説明ワークショップが開催された。ワークショップはいくつかのパートに分かれており、スタイリングやパッケージ、コネクティッド。ドライビングのワークショップについては関連記事で紹介しているので、本稿ではドライビングに関するワークショップの内容を取り上げたい。
ショックアブソーバーのフリクションを利用
まずはドライビングに関する内容から紹介しよう。新型カローラとカローラ ツーリングには、従来のカローラ スポーツのプラットフォームをベースに全面更新した最新のTNGA(Toyota New Global Architecture)プラットフォームが使われている。この新しいプラットフォームでポイントになるのが剛性アップと新開発のショックアブソーバーの採用だ。
新型カローラシリーズのTNGAプラットフォームはボディフレームとシャシーシステムの2つの要素によって構成されているが、このうちクルマの骨格にあたるボディフレームは、鋼板や構造を見直すことで従来のカローラと比較してねじり剛性で67%の向上となり、クラストップレベルのボディ剛性を持たせたものになっている。また、走りの性能向上に欠かせない低重心化に関してもクラストップレベルを達成。従来のカローラと比較してもマイナス31mmと大幅な変更になっていた。
次に前後のサスペンションメンバーとサスペンションを含めた新シャシーシステムだが、フロントサスペンションは信頼性と実績のあるストラット式を採用。リアはサスペンションの動きをしなやかにすることと、ロールした際のジオメトリー変化を減らして高いスタビリティを得ることを目的にして、ダブルウィッシュボーンサスペンションとしている。
新シャシーシステムで使用しているショックアブソーバーにも新しい技術が盛り込まれているので、その点も紹介しよう。
今回採用されたショックアブソーバーはボディコントロール(収まりのよさ)と乗り心地(ショックの少なさ)を両立させることを目標に開発されているが、一般的に収まりのいい特性を狙うとショックアブソーバーは「硬め」な設定になるので、路面から受けるショックは大きくなる傾向だ。
こういった特性は通常、ショックアブソーバー内にあるピストン部を通過するオイルの量を調整することで決めていくのだが、これまでのやり方では「収まりのよさ」と「乗り心地のよさ」を両立するという新シャシーシステムが目指す走りの特性は作れない。そこで目を付けたのがショックアブソーバー内で発生する摺動摩擦だった。
ショックアブソーバーの内部にはロッドを支えるベアリングブッシュと、ピストンの外周とケースの内壁の摺動面を保護するためのピストンバンドがあるが、ここで発生する摩擦は初期から一定のものなので、この特性の摩擦を利用してみたところ、従来は減衰力特性の調整で得ていた特定の抵抗を摩擦で担保できた。すると減衰力の設定で自由度が広がり、本来狙いたい部分に減衰力特性を合わせ込みやすくなることが判明したという。
そこで新型カローラシリーズのショックアブソーバーではこれらの摩擦特性を改良。そして摩擦力をより有効に使うため、コーナリング時に発生するショックアブソーバーの横力(しなり)に応じて摩擦力を高める構造としているのが特徴だ。
この構造によって走行状態ごとに摺動摩擦のレベルを変えられるため、直進している時のショックアブソーバーは摩擦が少なくスムーズに動くが、コーナリングで横力がかかると摺動摩擦のレベルが上がる。するとロッドの動きにブレーキを掛かかるので、挙動変化の度合いも低減して収まりが向上するという特性を実現した。なお、摩擦力が増えると摩擦によって動きの硬さも出るので、そのフォローとしてダンパーオイルの特性も変更してピストンが動きやすい状況を作っている。
カローラの走りを「進化」させる3つのポイント
続いては「進化し続けるカローラの走り」という題で紹介された項目。ここで取り上げられたのはドライバー目線での走りやすさについてだ。
大きく改良した内容は3つあり、1つ目が「目線の動かされにくさ」というもの。トヨタが独自に調査した結果、人間が感じるヨー・ピッチ・ロールの運動は、体で感じることよりも目で見るほうが動きに気がつく感度が高いと判明した。
また、新車開発時には走行中のクルマの動きを機械で計測しているが、その際にテストドライバーの乗り心地の評価と計測したデータで合わない部分が出ることもあった。そのため評価とデータの差分の理由を探ることになったが、そこで分かったのが、ドライバーの評価には「目線の移動量」が関わっていること。つまり、路面からの外乱によって頭部が動いて視線が移動すると、それを乗り心地のわるさや走りにくさとして感じてしまうということだった。
そこで新型カローラでは、コイルスプリングやスタビライザー、ショックアブソーバーなどの特性をそれぞれで見直し、サスペンションの動き方を自然なものとした。その結果、一般的な走行シーンにおいてのロールやピッチを人間が予測できる範囲の動きに収めることができたので、前後左右のどの向きに対しても“目線の動かされにくさ”は従来型のカローラ スポーツと比べて大幅に向上。こうして違和感を与えない乗り味が実現できたということだ。
「進化し続けるカローラの走り」で2つ目の項目は「旋回姿勢の決まりやすさ」について。これは安定したコーナリング姿勢を作るということだが、ここでキーになるのがショックアブソーバーの減衰力特性だ。
ショックアブソーバーの動きには「伸びる方向」と「縮む方向」があり、それぞれにベストな減衰力特性があるのだが、一般的に純正採用されるショックアブソーバーでは伸びと縮みを個別に設定することはないそうで、縮む方向の減衰力特性を決めて、伸びる方向はそれに追従するものとなっていた。
でも、伸びと縮みという別の動きがある以上、それぞれに最適な減衰力特性があるので、新型カローラシリーズのショックアブソーバーでは縮む方向と同時に、伸びる方向の減衰力特性も個別に最適化している。
また、前後のショックアブソーバーの動きのバランスも最適化することで、ステアリングを切ったとき、戻したときの荷重移動のバランスや反応速度をドライバーの感性に合うように調整しており、旋回中の姿勢が安定して気持ちよく走ることができるとのこと。
「進化し続けるカローラの走り」で最後となる3つ目は「ライントレースの向上」というものだ。
クルマを運転している時は、道路の曲線に合わせてステアリングを保舵することと、切り足したり戻したりする追操舵の連続となっているが、これは道路の状況によるものだけではなく、ステアリングの操舵トルクがドライバーの感性と合わないことが原因になっていることもある。
そこで新型カローラシリーズでは、操舵の軽快感を出しながらステアリング越しに感じるタイヤの手応えを向上させる新開発の電動パワーステアリングを採用して、不要な追操舵を低減させている。そのため、走行ラインのトレース性が大きく向上しているだけではなく、切り始めの応答性のよさと操舵を止めたときの収まりのよさも向上させている。
これらの機能は新型カローラ、カローラ ツーリングに合わせて作られたものだが、カローラ スポーツにも採用されるとのこと。
以上が「走り」に関するワークショップの主な内容だ。最近は電子デバイスを利用した姿勢制御や減衰力調整を行なうシステムもあるが、新型カローラシリーズではプラットフォームやサスペンション特性など、構造面や機械的な部分を改良していくことで性能を底上げしている。そして「しっかりした土台」を作った上でさらに細かいセットアップを施し、クラスを超えた上質な走りを実現しているのだ。こういう作り込みはクルマに対する信頼感につながる部分なので、新型カローラの走りに興味が出たという人も多いのではないだろうか。