試乗インプレッション
間もなく日本導入。フォルクスワーゲンの新型コンパクトSUV「T-Cross」にドイツで乗った
アウトバーンでも180km/h巡航が苦もなく行なえる3気筒1.0リッターターボの実力
2019年10月17日 07:00
筆者の新型「T-Cross」サマリー
・フォルクスワーゲンのSUVシリーズで最小モデル
・直列3気筒1.0リッターターボで前輪駆動モデル
・スマートなSUVイメージがあるもののオンロード向き
・その実体はコンパクトハッチ「ポロ」の発展版
・MQBプラットフォームによるゆとりの走行性能
・パワートレーンはしっかり使い切るイメージ
・小ぶりなシートながら正しい着座姿勢
・後席も安楽でラゲッジルームは大きめ
「T-Cross」は進化形SUV
世界的に人気を博しているSUVだが、ここにきて差別化が続く。先ごろ、フォルクスワーゲンから日本に導入されることがアナウンスされたSUV「T-Cross」もその1台。T-Crossの特徴を端的に表現するなら、進化形SUV。より正確に記するなら、ハッチバックモデルである同社「ポロ」の美点を伸ばした発展版であると筆者は捉えた。
T-Crossは大らかな見た目とは裏腹に、乗り味は(バキバキに硬いわけではなく)シャキッとしていて俊敏で、取材地ドイツにおけるアウトバーンの速度無制限区間でも背の高さを感じさせない優れた走行安定性を実感できた。
生誕の地でT-Crossに試乗し、改めてSUVとは何かを考えさせられた。少し大きなタイヤを履き、最低地上高と車高がやや高くとられ、アウトドアシーンをイメージさせるタフな外観を組み合わせる……。多かれ少なかれ、シティユースに的を絞ったSUVはこの路線が定着している。
T-Crossはどうか? 前部にアンダーカバーを思わせるデザイン処理を施し、ボディ下端にはホイールアーチに至るまで樹脂モールで覆うなど、一見するとセオリー通りのシティユースSUVに思えるものの、タフなアウトドアシーンを匂わすところがほとんどない。さらりと着こなせそうな気軽さがある。さらにベースとなったポロの美点、たとえば兄貴分の「ゴルフ」と基本骨格であるMQBプラットフォームを共有したことによる不安のない走行性能は、既存のシティユースSUVよりも信頼度が高い。
一般道100km、アウトバーン350kmの計450km試乗
試乗したのは、ドイツ・ライプツィヒ市内から郊外を経由してフォルクスワーゲンのツヴィッカウ工場までの一般道100kmと、ツヴィッカウ工場からベルリン市内へ向かうアウトバーン350kmの計450kmほど。道中は常に大人3名で移動し、ラゲッジルームには人数分のスーツケース+αを収納した。
搭載エンジンは直列3気筒1.0リッター直噴ターボ。115PS/5500rpm、200Nm/2000-3500rpmのエンジンパワーは7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)を介して前輪を駆動する。日本へ導入されるのは、この1.0リッターターボ(115PS)の2WD(FF)モデルのみだ。
市街地では早めにシフトアップを繰り返すDSGにより、巡航時はおおよそ1500rpm程度で走る。日本に導入されているポロも、市街地では同じように早めのシフトアップ&低回転域を常用するが、T-Crossはパワー&トルクともに最大値だけでなく常用域も力強くなっているため、ポロから100kg弱(筆者の推察)ほど車両重量は増えているのだろうが、それによるマイナス面を一切感じない。
アイドリングストップ機構には、ポロと同じく独特の間がある。ただ、これは本国ドイツの信号機が赤色→黄&赤色の2色同時点灯→青色へとワンクッション挟んで変わるタイミングに合わせたもので、黄&赤色の点灯時点(約1秒)の間にブレーキペダルを放してアクセルペダルをゆっくり踏み込んでいくと、ちょうど青色に変わったところでエンジン再始動&発進加速がスムーズに行なえる。日本の信号機では、対向する信号機の色を見計らってブレーキペダルを放すと再始動のタイミングが合うようだ。
郊外路では60~80km/hの制限速度に合わせて加減速を繰り返す。場所によってアップダウンが激しく路面もところどころ荒れていて、きつめのカーブが連続する区間も多かった。ここでは減衰特性に優れたサスペンションに助けられ、路面の凹凸もスッといなしつつ、カーブでは外側にしっかりと荷重をのせながら控えめなロール量で通過する。後席でも試乗したが、前席同様にシート座面こそ小ぶりであるものの背もたれ部分を含めて面圧分布が筆者(身長170cm)にも適正で、アップライトな姿勢ながらも体をしっかりゆだねられた。
アウトバーンでも走行性能に不満なし。もっとも、限られた排気量とパワー&トルクなので余裕たっぷりというわけにはいかないが、3名+人数分のスーツケース+αでも速度無制限区間では難なく180km/h巡航を行なえた。細かく見ていくと、エンジンパワーは4800rpmを超えたあたりから下降線を描くものの、素早いシフトチェンジ操作と適切なギヤ比で振り分けられた7速DSGがそれを手助けする。
80km/h規制区間から制限が解除されて加速する際は、状況により3速ないし4速あたりまでキックダウン、もしくはマニュアルシフト操作でダウンシフトさせることで、アクセル操作に対してイメージ通りのタイミングで加速力を高めることも可能だった。
巡航中の静粛性は高い。150km/hを過ぎたあたりから風切り音が大きくなり始めるが、日本の一部高速道路で許されている上限速度120km/h以下では間違いなく静か。一方、エンジン音は賑やかだ。4000rpmあたりから音量も大きくなり、その割に加速力が伴わなくなってくるシーンも見受けられるから、エンジンが精一杯頑張っている感は否めない。また、80km/h~100km/h程度と日本でも多用する加速シーンでは、ちょうど変速タイミングと重なって加速力が弱いと感じられる場面もあった。
とはいえ、小排気量の1.0リッターターボで180km/h巡航が苦もなく行なえて、その際の車体安定性はかなり高い。この点は素直にすばらしい。アダプティブクルーズコントロールとレーンアシストの作動もスムーズだから、精神的なゆとりも増える。
燃費数値は、約450kmにわたる試乗を終えた段階で6.5L/100km(約15.38km/L)だった。一般道路区間だけでの計測では5.5L/100km(約18.18km/L)であったことを考えると、やはりアウトバーンでは高めの負荷がエンジンにかかっていたことが分かる。
フォルクスワーゲンは世界市場でSUVラインアップを拡充している。「トゥアレグ」を筆頭に、「アトラス」や「テラモント」など市場ごとに専用モデルを投入してきた。この先はBEV(電気自動車)の「ID.3」のシリーズ派生車種として「ID.CROSS」の登場も公表されている。
そうしたなか、2019年末までに日本へと導入されるT-Crossは、飽和状態になりつつある国内コンパクトSUV市場に対して、ゴルフやポロ譲りのMQBプラットフォームによるゆとりのある走行性能と、ゴルフ(380L)やポロ(351L)よりも大きなラゲッジルーム(T-Crossは455L)など高い実用性で立ち向かう。