試乗インプレッション
名前だけじゃない!! 走りも大きく進化したマツダ「MAZDA2」
まるも亜希子が「デミオ」と「MAZDA2」を乗り比べ
2019年10月18日 00:00
世界に誇れるコンパクトカーを造ろう、というごくごく真っ当なようでいてとてつもなく難しい目標のもと、完成したのがマツダのエントリーグレードを担う「MAZDA2」。これまで日本では「デミオ」の名で親しまれていたモデルで、フルモデルチェンジではなく一部商品改良しての登場となった。
今回はそのうち、1.5リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 1.5」を搭載した「15S PROACTIVE S-Package(4WD)」と、1.5リッターディーゼルエンジンの「SKYACTIV-D 1.5」を搭載した「XD PROACTIVE S-Package(2WD)」の2グレードを試乗する機会を得た。今回は名称の変更が主なトピックスで、一見するとデザインを含めて大きな変更はないかと思われたのだが、実際に乗ってみてビックリ。まったく別物と言えるほどの違いが感じられた。
まずは見た目から。エクステリアデザインでは、より上質感を手にするべくフロントマスクとホイール、リアコンビランプが一新された。従来のデミオのデザインよりもワイドで躍動感もアップして見える。タイヤサイズが同じなのに、MAZDA2の方が大きく見えるのも新しいホイールデザインの狙い通りだという。
そして車内に入ってみると、以前からホワイトなどを取り入れたプレミアム感のあるインテリアに定評のあったデミオだけに、今回もその特別感、モダンな印象は健在。ブルーグレーという光の加減で豊かな表情を見せる色を基調とした空間は、とてもシックで都会的だ。ブラウン系のコーディネートもあり、どちらもその上質感は輸入車を含めてコンパクトカーのトップレベルと言えるだろう。
とりわけ、MAZDA2がこだわったのがシートだ。「人間中心」とするマツダの開発哲学を進化させて、人間が本来持っているバランス保持能力を最大限に発揮させるという新しい車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」の考え方を取り入れ、人の足の代わりになるようなクルマを目指した中で、「脊柱がS字カーブを描くように、骨盤がしっかりと立った状態」を維持できるシートは欠かせないものだという。
今回はフレームは変えていないが、内部の細かいバネ定数の変更、トーションバネやサポート材の追加、高減衰ウレタンを採用するなど中身は大きく変わっている。座ってみると、「MAZDA3」のときほどピタリとしたフィット感はないものの、ユルさの中にも背筋が自然にピッと伸びるような姿勢がつくれて、とても気持ちがいい。足を自然に伸ばした位置にペダルがあることも、踏み込みや踏み替えがしやすい高さ・角度であることも、すべて偶然の産物ではなく、開発者たちが意図したもの。路面からのフィードバックを、タイヤ、サスペンション、シートを通じてどのように乗員に伝えるのか、姿勢はどのようにあるべきなのか、を徹底的に見直した結果から導かれた新時代の運転ポジションだ。
運転席には、シートメモリー機能付6wayパワーシートが用意されたのも、ドライバーそれぞれの体格に適した運転姿勢をとるための大きな進化だと感じる。実は今回、ガソリンモデルには旧型となるデミオが比較試乗車として用意されていたのだが、その時には運転中にウインカーレバーが遠くて操作しにくいと感じていた。でもMAZDA2ではちょうどよい位置で、操作もスムーズ。不思議に思って開発者に確認すると、ステアリングまわりはなにも変えていないという。ほかに要因もないので、これは手動でシートを調整したデミオよりも、電動で無段階の調整ができるようになったMAZDA2の方が、より的確な運転姿勢が取れていたからではないか、という結論に至った。あらためて、運転姿勢が及ぼす影響を思い知らされた一件だった。
試乗もまず初めにデミオから乗ったのだが、元気がよく軽快で、多少の粗さはあるが清々しいハンドリングを持つ走りに、「ぜんぜんこれでいいけどなぁ」と思っていた。ところがその直後に同じコースでMAZDA2に乗ってみると、まず静かさがまったく違う。試乗日は風が強く、デミオの時はそれなりにゴーゴーという音が侵入してきたのだが、それが小さくなっただけでなく、路面からのロードノイズやエンジン音もかなり遮断されていることが分かった。
そして、1.5リッター直列4気筒ガソリンエンジン+6速ATというパワートレーンには何も変更がないと聞いていたのだが、アクセルペダルを踏み込むのと同時にスッと加速が得られ、とてもリニアにスッキリと伸びていく感覚は明らかに違う。デミオの時は、高速道路の追い越し加速でアクセルを踏み込んでから一拍の遅れがあってから、唐突にブーンと加速するのでややもたつく印象だったが、MAZDA2はそれがなく、素早く滑らかな挙動が得られることに感心。しかもステアリングフィールに適度な手応えが伴うので、上質感を損なわず、車両全体が1つのカタマリとなって走れている意識があった。
あとで聞いてみると、パワートレーンそのものは変わっていないが、2~3速に上がる際のショックや振動などを消し、レスポンスを高めるよう制御を改良したという。以前はレスポンスを高めるとドーンと振動が出てうまくトルクを引き出せなかったのだが、それがクリアになったことでアクセルのツキがよくなり、伸びやかな加速フィールが実現したとのことだった。
それに貢献しているのは、やはりサスペンションの変更だろう。今回、フロントには飽和ダンパーといって、段差などで入力がゆっくりな時にもジワリと減衰がきき、速い入力の時には逆に減衰が効きすぎないよう、一定に抑えるようなダンパーを採用している。リアも同じく飽和ダンパーだが、こちらはロッドの付け根に高減衰ウレタンを採用。これによって、粒状の凹凸がついたような路面による細かい振動を吸収するという。
その効果は高速道路の継ぎ目でハッキリと分かった。デミオはドスンというショックと音が出ていたのだが、MAZDA2はそれがコトン、くらいの振動になり、音はほとんど出なくなっている。カーブでの安定感や気持ちよさもアップしていて、後席の乗り心地や静粛性も好印象だ。
次に乗り換えたディーゼルモデルも、室内にいるとまったくディーゼルだとは分からないほど静かで、加速フィールも余裕たっぷり。ガソリンモデルよりもさらに、足がよく接地してしなやかに動くような印象を受けた。車外にいたり、低速で上り坂を上がるようなシーンでは室内でもディーゼルらしい音が響いてくるが、ステアリングフィールにも少し重厚感が増しているようで、走っているうちにだんだん、もっと大きなクルマを運転しているような気持ちになってくる。今回は短時間の試乗だったが、機会を見つけてもっとロングドライブをしてみたいなと思った。
きっとそれこそが、MAZDA2の大きな魅力ではないだろうか。上質感を追求するあまり、つまらないクルマになってしまうのはマツダファンは望まない。もっと乗りたい、また乗りたいと思わせるコンパクトカーに、MAZDA2はちゃんと進化していると感じた。