試乗インプレッション

フォルクスワーゲンの新型SUV「T-Cross」にスペインで試乗、日本導入は2019年末以降

コンパクトSUV市場に投入する意欲作、ポロを喰う実力?

コンパクトSUV市場に投入する意欲作

 グローバルのラインアップを見ると「Touareg(トゥアレグ)」「Tigan(ティグアン)」「T-ROC(T-ロック)」……と、Tで始まるモデルばかりが並ぶフォルクスワーゲンのSUVの末弟に、新たな1台が加わった。その名は「T-Cross(T-クロス)」。フォルクスワーゲンが今後10年で2倍に拡大すると見ているコンパクトSUV市場に投入する意欲作に、スペインはマヨルカ島で試乗してきた。

 4108×1782×1584mm(全長×全幅×全高)というサイズは、ポロより52mm長く、31mm広く、138mm高い。車両の基本骨格は、そのポロと共通の「MQB A0」と呼ばれるモジュラーユニットで、ホイールベースは2551mmとポロより長いが、これは地上高が上がったことによるもので実質的には一緒だという。

 寸法的には全高以外は微増といったところだが、見た目はずいぶん立派。大型のラジエーターグリルと側面まで回り込んだヘッドライトユニットによる堂々とした顔つきと分厚いバンパー、ショルダーが強調されたサイドビューなど、デザインに拠るところも大きそうだが、それでもフォルクスワーゲンらしいフレンドリーさが失われていないのがいい。

スペイン マヨルカ島で試乗したのは、2018年10月に世界初公開されたフォルクスワーゲンの新型SUV「T-Cross」。ボディサイズは4108×1782×1584mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2551mmで、同社がラインアップするSUVの中で最もコンパクトな部類に入る5名乗車仕様のSUVだ

 インテリアも広々としている。着座位置は前席が497mm、後席は652mmと高く、おかげで乗員はアップライトなポジションとなるため見晴らしはよいし、空間も余さず使えている。特に140mmのスライドが可能な後席は、ボディサイズを忘れさせるほどに寛げる。荷室容量は385~455Lと、やはりポロよりも広く、しかも6:4分割の後席バックレストを折り畳んで天井まで荷物を積み込めば1281Lを飲み込む。オプションの折り畳み式助手席バックレストを選択すれば長尺物を飲み込むのも容易と、使い勝手への配慮はきめ細やかだ。

居住性や使い勝手を最大限高めるべく、後席に140mmの前後スライド機構を備えたほか、ラゲッジスペース容量は385L~455Lで、後席シートバックを倒すことで1281Lまで拡大可能

 直列3気筒1.0リッターガソリンターボエンジンはポロと共通で、95PSと115PSの2つの仕様が設定される。そのほかディーゼルエンジンも用意されるが、おそらく日本向けは7速DSGとの組み合わせが用意される115PSのガソリンユニットになるだろう。駆動方式は2WD(FF)のみで、4WDの設定はない。これについてはライバルを見渡しても同様で、日本ではほしくなる組み合わせだが、他国ではほとんど需要がないのである。

T-Crossのパワートレーンについて、ガソリンの3気筒「1.0 TSI」エンジンが70kW(95PS)または85kW(115PS)を、4気筒「1.5 TSI」エンジンが110kW(150PS)を、ディーゼルの4気筒「1.6 TDI」エンジンが70kW(95PS)をそれぞれ発生する

 一方、非常に充実しているのが運転支援システムだ。歩行者検知機能付きの衝突回避支援システム、車線逸脱警告システムなどが全車に標準装備なのは特筆すべきことだし、アダプティブ・クルーズ・コントロールや駐車アシスト機能もオプション装着できる。これだけ揃っていれば、このクラスとしては文句なしだろう。

T-クロスの日本導入は2019年末以降の予定

 実を言うと、こうしたパッケージングや装備内容には感心しつつも、事前には走りについてはさほど期待していなかった。きっとポロとそれほど違いのない、最近のフォルクスワーゲンに共通するテイストだろうと勝手に推測していたのだ。もちろん、それでも性能、そして上質感に文句のつけようはないのだが、まあ大して面白みはないかなと……。

 しかし走り出すと、それがとんでもない誤解だったと気づいた。まず乗り心地が素晴らしく優しいのだ。ポロよりも地上高が40mmも高いだけに、サスペンションはストロークが増していて、それでも安定したスタンスのおかげで硬めずに済んでいるおかげで動きはとてもしなやか。試乗車は18インチタイヤを履いていたが、思わず降りてサイズを再確認してしまったほどである。

 それだけにロールもピッチングもそれなりに感じられるのだが決して腰砕けではなく、タイヤは路面をひたひたと捉え続けるし、姿勢のコントロールは完全にドライバーの手の内にあり続ける。むしろ、この姿勢変化のおかげで挙動が掴みやすく、操るのが実に楽しいのだ。

 動力性能も不足なし。試乗はほぼ3人乗車でとなったのだが、市街地でも高速道路でもまったく痛痒を覚えることはなかった。日本仕様のポロでは車両を停止させてアイドリングストップが作動し、再度走り出す時のタイムラグが気になったが、それもほとんど意識しなかったのは制御が洗練されたのだろうか。

 静粛性も驚きのポイント。実際、エンジンをカプセル化したり、音の侵入経路となる穴を徹底的に塞ぐなど、遮音や吸音には相当配慮したという。こちらもまたクラスの水準を塗り替えるものと言っていい。

 唯一、ワインディングロードでだけは瞬発力をもっとと思ったが、それもドライブモードをSPORTに切り替えれば十分だった。そんなわけで、終始気持ちよく走りを楽しんだのである。

 ユーティリティは上々だし、装備も充実。走りは実力高く、しかも独自の愉しさを持っている。下手すると、これはポロを喰ってしまうかも……と正直思えた。10年で2倍というフォルクスワーゲンのこの市場の予測、こういう完成度の高いクルマが出てくるようなら、確かにリアリティは高い。

 しかも現地では、スマートフォンとのリンクによるパーソナルアシスタント機能として、走行履歴の管理、クルマの状態の遠隔でのチェック等々、さまざまなアプリケーションを提供する「フォルクスワーゲン コネクト」を今秋にも日本にも導入予定だという開発者からのサプライズコメントも聞くことができた。楽しみは広がるばかりである。

 T-Crossの日本導入は2019年末以降の予定だという。次はコンパクトSUVかな……と考えている人は、今から注目しておくべき1台だ。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。