試乗インプレッション

MT仕様のルノー「メガーヌ ルノー・スポール カップ」はウェットのサーキットをどう走る?

専用チューニング&ロールを抑えた“シャシー・スポール”の実力

3代目よりもシャシースポールとの差を大きく

 あの宿命のライバルとニュルブルクリンクでのFF量産車世界最速の座をかけてしのぎを削る「メガーヌ ルノー・スポール」は、「ニュルでのタイムは1つの結果」として、これまで2008年に8分17秒、2014年に7分54秒とタイムをつめてきたが、今後新たにタイムアタックを行なうのは、こちらをもとにしたマシンなのかもしれない。

 4世代目となったメガーヌ ルノー・スポールの標準モデルに続いて、いよいよ日本にも導入された“本命”の「カップ」は、トランスミッションを標準モデルで採用したEDCではなくMTに換装したほか、専用チューニングを施したサスペンションやトルセンLSD、大型化したフロントブレーキなど、走りに特化したアイテムが与えられている。

100台限定の「メガーヌ ルノー・スポール カップ」(450万円)。ボディサイズは4410mm×1875mm×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm。車両重量は1460kg。専用チューニングを施したサスペンションやトルセンLSDを搭載し、「メガーヌ ルノー・スポール」に対してスプリングレートをフロント23%、リア35%向上させたほか、ダンパーレートを23%、フロントアンチロールバーの剛性を7%それぞれ高めロールを抑えた
大型化したフロントブレーキを採用。前後共に専用レッドキャリパーを装備。タイヤはブリヂストン「ポテンザ S001」を装着。サイズは245/35 R19
「メガーヌ ルノー・スポール」はシルバーのブレーキキャリパーを装着する以外に見た目の違いはほとんどない
最高出力205kW(279PS)/6000rpm、最大トルク390Nm(39.8kgfm)/2400rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボエンジン「M5P」型を搭載。トランスミッションはメガーヌ ルノー・スポールで採用された6速EDCから6速MTに変更。駆動方式は2WD(FF)。JC08モード燃費は12.6km/L

 標準モデルとの内外装の見た目の違いは少ないものの、あらためて見ても印象的ないでたちだ。コクピットも大差はないが、HパターンのMTに合わせて、パーキングブレーキも電磁式ではなくハンドブレーキになっているのは、ぜひこれを駆使して走ってほしいという作り手の思いもあってだろうか。また、専用のルノー・スポール用ナパレザー/アルカンタラステアリングも付く。

メガーヌ ルノー・スポール カップのインテリアは、ベースのメガーヌ ルノー・スポールとほとんど違いはないが、ステアリングが専用ナパレザー/アルカンタラとなるほか、パーキングブレーキは手引き式を採用。シートはアルカンタラのR.S.スポーツシートを装着

 3代目のメガーヌ ルノー・スポールに比べてシャシースポールとの走りの差別化がより大きく図られていて、具体的に挙げると、スプリングレートをフロント23%、リア35%、ダンパーレートを25%、フロントアンチロールバーの剛性を7%それぞれ高めたほか、ラバーバンプストップを10mm延長、フロントブレーキを1.8kg軽量化し、高いトルク配分を実現した「トルセン タイプB」と呼ぶ専用のメカニカルLSDなどを採用しており、オーバーステア気味になるよう、リアのロールを抑えるセッティングが施されているという。

抜群のトラクション性能

袖ヶ浦フォレストレースウェイで岡本幸一郎がメガーヌ ルノー・スポール カップに試乗

 走行したのは、自身ではウェット路面の袖ヶ浦フォレストレースウェイを4周したほか、開発ドライバーの横に同乗することができたのだが、このクルマがどういう力を持っているのかはよく分かった。路面が滑りやすいのでなおのこと、それが強調して感じられたように思う。

 コースインしてアクセルを開けると、動力性能がかなりのものであることはすでに標準モデルでも確認済みだが、やはり痛快この上ない。パンチの効いた強烈な加速はインパクト満点だ。

 ギヤ比については、0-100km/h加速や最高速などを総合的に考えて設定したとのことで、袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいてはややワイドな気もしたが、もう少し大規模なサーキットになるとちょうどよいのではないかと思う。

 クイックなハンドリングも痛快そのもの。このコースにはタイトなコーナーもいくつかあるが、わずかな舵角でターンインできるのは「4コントロール」のおかげ。「マルチセンス」でスポーツを選ぶと、約60km/h前後で逆位相と同位相が切り替わるが、このコースであれば基本的には逆位相になることに加えて、強化された足まわりにより荷重移動のスピードが増して、より俊敏になった印象を受ける。なお、EDCとMTの単体での重量差は40kg足らずとのことで、それも鼻先の感覚の軽さに効いているに違いない。

 トラクション性能も相当なものだ。立ち上がりでは、ウェットで滑りやすい路面とは思えないほどグリップ感が高く、LSDが強力に効いてステアリングを切ったほうにグイグイと引っ張ってくれるので、より早いタイミングでアクセルオンにすることができる。ときおりジャダーが出るのは、それだけ内輪にも駆動力を配分しているからに違いない。また、強化されたブレーキも、よりキャパシティが高まったことをいくばくか感じさせた。

 10mm長くされたバンプストップラバーは、ロールを抑える上で効果的という。今回のコンディションでは、その恩恵がどれほどなのかは分からないが、コーナリング時には先にバンプストップラバーでロールを抑えて、そこから第2のダンパーである独自の「HCC」が作動するようになっている。

その気になれば“Fドリ”も

 最後にルノー・スポールの開発ドライバーが運転する車両に同乗することができた。このクルマの走りを仕上げたおふたりとあって、さすがにすべてを知り尽くしている様子で、コーナー進入で横を向けると、そのまま後輪駆動車のようにテールスライドを維持して“Fドリ”させてしまうのにはビックリ。こんなふうに走らせることもできるのだと感心させられた。

ルノー・スポールの開発ドライバー2人が運転する車両に同乗。それぞれ2周ずつという短い時間でも、メガーヌ ルノー・スポール カップの実力を体感できた

 これにも4コントロールが効いているらしく、グリップ走行なら逆位相(レースモードを選択すると約100km/hで切り替わる)となるところ、カウンターを当てた状態では同位相となり、安定性が増してコントロール性が高まり、よりドリフト状態を維持しやすくなるのだという。

 日常的に使えるハイパフォーマンスカーであることを念頭に置いたシャシースポールに対し、より本格的なサーキット走行をも視野に入れたシャシーカップの高いポテンシャルは、こうしてウェット路面でも十分にうかがい知ることができたのだが、ドライではさらに本領を発揮して目の覚めるような走りを味わわせてくれることに違いない。

 また、メガーヌ ルノー・スポールというと、もちろんニュルブルクリンクでのタイムアタックの今後も大いに気になるところ。執筆時点では最速の座にいるホンダの「シビック タイプR」に一矢報いることができるのか、非常に楽しみだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、キャプションの表記に一部に間違いがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸