試乗インプレッション

ジャガー「E-PACE」とランドローバー「レンジローバー スポーツ」、異なる個性の雪上性能を体感

俊敏なハンドリングを楽しめるE-PACE、快適性が高まったレンジローバー スポーツ

雪道でも俊敏なハンドリング

 2年ぶりに開催されたジャガー・ランドローバーの雪上試乗会。会場となる白馬あたりに雪がなかったため、せっかくの機会なので距離があるのを承知の上で、奥志賀まで初日に「E-PACE」、翌日に「レンジローバー スポーツ」を駆り往復した。

 E-PACEをドライブするのは2018年秋以来のこと。あらためて眺めてもとてもスタイリッシュに目に映る。最新のジャガーらしくスポーティで、ギュッと詰まったような凝縮感もあるし、実際の価格よりも高そうに見える。インテリアの雰囲気も好みだ。クーペライクながら実用性も十分に確保されていて、荷室も広く後席も狭くるしい印象はない。大開口のパノラマサンルーフや、リアシートヒーターの設定があるのもありがたい。

本来は白馬周辺での試乗予定だったが、2月開催にも関わらず周辺路には雪がない状況。そのため奥志賀まで足を伸ばして雪上試乗した
試乗したのはガソリン仕様の「E-PACE R-DYNAMIC SE 2.0L P250」(632万円)。ボディサイズは4410×1900×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2680mm。9速ATを介して4輪を駆動する
エクステリアではダイナミックなフロントグリルやヘッドライト、ロングホイールベース&ショートオーバーハングなど、同社のスポーツカー「F-TYPE」からインスピレーションを得たデザインを採用。試乗車は19インチアロイホイールにコンチネンタルのスタッドレスタイヤ「コンチ・バイキング・コンタクト 6」(235/55 R19)を組み合わせていた
2018年12月に受注を開始した2019年モデルではAI学習機能を備え、ドライバーの好みに応じて温度設定やインフォテインメント、シート位置などを自動調整する「スマート・セッティング」、スマートフォンのアプリを車両のタッチスクリーンから操作できる「InControlアプリ」などを標準装備

 おさらいすると、機構的にはランドローバー「レンジローバー イヴォーク」とコンポーネンツを共有する。すなわちジャガーで唯一のFFベースの4WDである。ワイドバリエーションが揃えられた中から、今回ドライブしたのはスポーティ仕様の「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」だ。最後の数字は、2タイプが選べる2.0リッターガソリンターボの出力を示していて、上にはさらに高性能な「P300」がある。

「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「PT204」型エンジンは、最高出力183kW(249PS)/5500rpm、最大トルク365Nm/1300-4500rpmを発生

 以前、このクルマをドライブしたときにも印象に残ったのは、アクセルを軽く踏み増しただけでもグンとトルクが力強く立ち上がる、標準版と言いながらも力強さを分かりやすくアピールするかのようなエンジンフィールだ。今回もまず舗装路でドライブして、あらためてそれを感じた。

 半面、低回転域でのレスポンスがあまりリニアでないため、滑りやすい路面では扱いにくいのではないかと危惧していたのが、そうしたエンジン特性を承知しているからか、雪道でドライブすると、低速ではスリップに対してかなり敏感にトラクションコントロールが作動してパワーを絞るようになっている。ゆえに踏みすぎてもスリップすることはない。誰でも怖い思いをすることなく安全に走れる味付けだ。

 ただし車速がある程度乗ってしまうと、それを分かった上でアクセルを踏んでいるものと判断されてか、踏み込みに対して多少のスリップを許容するようになるので、抑え込まれてストレスを感じることもない。

 ややフロントヘビーな重量配分は、雪道では前輪に安定して荷重をかける上ではよい方向に作用しているようで、フロントでグイグイと引っ張っていく感覚とともに、E-PACEならではの俊敏なハンドリングを、こうした雪道でも味わいながら走ることができる。そこはランドローバーとの与えられたキャラクターの違いと言えそうだ。

2018年モデルの進化点を確認

 一方のレンジローバー スポーツをドライブするのは、おそらく約5年前の新車試乗会以来。ひさびさの対面だが、やはりレンジローバーの一員となると見た目もグッと高級感が増す。ドア開閉と連動して自動昇降するステップが用意されているほか、乗り降りする際に裾を汚さないようドアを閉じるとサイドシルが覆われるようになっているのもジャガーとは異なる部分で、むろんそうした使われ方を想定しているからにほかならない。

こちらはランドローバーのプレミアム・スポーツSUV「レンジローバー スポーツ」(AUTOBIOGRAPHY DYNAMIC:1238万円)。ボディサイズは4855×1985×1800mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2920mm。8速AT、フルタイム4WDシステムを採用
2018年4月に受注を開始した2018年モデルではフロントグリルやボンネット、フェンダーベント、LEDのライト類などのデザインを一新。21インチアロイホイールにはフィンランドのタイヤメーカー「nokian(ノキアン)」のスタッドレスタイヤ(285/45 R21)を組み合わせていた

 2018年モデルで内外装デザインがリフレッシュされていて、外観はもちろん、雰囲気がガラリと変ったインテリアも個人的にかなり気に入った。表示に奥行き感のあるフラッシュサーフェイスのインパネが見せる新感覚の質感は素晴らしく、しかもタッチパネルがとても使いやすい。

 シートのデザインも非常にスタイリッシュで目を見張るほど。もちろんランドローバーらしく、角度の微調整が可能なアームレストも備わる。空調の温度設定やシートベンチレーションとヒーターを1つのダイヤルで調整できるようにしたジャガーともども採用する独自の機構も、見栄えと利便性の両面でポイントが高く、ナイスアイデアだと思う。

インテリアではトリムフィニッシャーとカラーラインアップを拡充したほか、10インチの高解像度タッチスクリーン2個で構成するインフォテインメントシステム「Touch Pro Duo」、フロントウィンドウ内側に車速やカーナビの案内を表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)、パノラミックサンルーフの内側にあるブラインドをモーション操作できる「ジェスチャー・ルーフブラインド」、500mLボトル4本を収納できる「急速冷蔵機能付センターコンソールボックス」といった利便性を高める機能を採用

 まず舗装路を流してみての第一印象として、前回乗ったときよりも全体的にドライブフィールが洗練されたように感じた。3.0リッターV6スーパーチャージドエンジンの吹け上がりは、心なしかスムーズになり、静粛性も心なしか向上したようだ。足まわりも従来よりしなやかさが増して、無駄な動きを抑えながらも快適性が高まったように感じられた。

雪道で感じたメリットの数々

試乗したレンジローバー スポーツ AUTOBIOGRAPHY DYNAMICは、最高出力280kW(380PS)/6500rpm、最大トルク450Nm/3500rpmを発生するスーパーチャージャー付きV型6気筒DOHC 3.0リッターエンジンを搭載
雪上走行時においては「草地/砂利/雪プログラム」を選択

「ダイナミック」「エコ」「コンフォート」「草地/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」のモードが選択可能な独自のテレインレスポンスは、それぞれに合わせて背景の絵柄が変わるのも面白い。

「草地/砂利/雪プログラム」を選択して雪道に突入すると、ベースのトラクションが高いせいか、トラクションコントロールの作動を示すランプがなかなか点灯しない。テレインレスポンスだけでなく、むろんヒルディセントなど雪道での走破性を高めるひと通りのデバイスを搭載しており、さらには路面が非常に滑りやすいことを検知すると低トラクションでの発進性をより高めるモードに移行するかどうかまでも確認してくれる。このあたりもジャガーとの違いである。

 さらには、それなりに締まっていながらもストローク感のある足まわりは、轍や凍った硬い雪の塊、凸凹を通過しても衝撃をキャビンに伝えにくい。おかげで乗員は快適なまま雪道を移動することができる。また、2018年モデルで新たに備わったヘッド・アップ・ディスプレイは雪道でも見やすく、行く先の状況の確認がより重要となる雪道において、視線をあまり動かすことなくドライブできる点でも大きなメリットがあることをあらためて実感した。

 2018年モデルで自動車高調整機能を備えたエアサスが標準装備されたのもありがたい。車高が最大で50mm、しかもかなり素早く下がるので、雪道ではなおのこと乗り降りで重宝するシチュエーションもあるはずだ。

 雪道でも楽しく走れるジャガーと、絶大な安心感のもと快適に走れるランドローバー。同じくスポーティな中にも、それぞれの性格の違いが垣間見えて、あらためて興味深く思えた2日間であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸