インプレッション
スポーツカーのDNAを受け継ぐジャガーのコンパクトSUV「E-PACE」に乗った(海外試乗)
ガソリンモデル「P300」、ディーゼルモデル「D240」の2台を比較
2018年3月10日 00:00
Fペイスの弟分がデビュー
「我々の最大のライバルはポルシェである」――さすがに文書として明示はされないものの、最近、多くのジャガー開発陣の口から異口同音に聞かれるのがこのフレーズだ。そんな言葉の検証を行なうよりも、ここ数年でラインアップに加えられてきたモデルの姿を確認すれば、彼らの言わんとしていることは自ずから明らかとなる。
「911 カブリオレとボクスターの狭間を狙い撃ち」したのが、ピュアスポーツカーであるFタイプで、「カイエンとマカンの隙間に活路を見出した」のが、初のSUVであるFペイス――そんな見立てに反論できる人は、そう多くはいないはず。そう言えば、英国で開催された2代目レンジローバー スポーツの国際試乗会の場で、開発担当者が「最大のライバルはポルシェ カイエン」と言い切ったのを耳にしてちょっとビックリしたのも、まだ記憶に新しい。
そう、今やジャガーのみならず“近い親族”であるランドローバーも援軍に加え、ポルシェへの包囲網を狭めて行くというのが、昨今のジャガー・ランドローバーの戦略でもある。かくして“お金持ちの年配者のためのジェントルなサルーンメーカー”という、かつてのブランドイメージを払拭するかのごとく、改めて「我々のDNAはスポーツカーにあり」とアピールを行なうジャガーから、またもブランニュー・モデルがローンチされた。
それこそが、2017年にロンドンで大々的な発表会が開催された「E-PACE(Eペイス)」。その名称から、これが好評を博している前出Fペイスの“弟分”に当たるモデルであることは明らか。と同時に、それはピュアスポーツカーであるFタイプにオマージュを捧げる、スポーティなSUVであるともアピールされる1台なのだ。
実際、Eペイスのルックスは特徴的なヘッドライトやテールランプのグラフィック形状、ダッシュボードの造形や空調ダイヤルのデザインなどが“Fタイプと瓜2つ”と言ってもよい仕上がり。まずは見た目でジャガーらしさをタップリ演出する戦略が明確なのが、この最新のモデルでもある。
一部メディアではFペイスとのボディサイズ差を根拠として“ベイビージャガー”などという表現ももたらされてきたEペイス。なるほど、300mm以上も短縮されたその全長は、この部分を切り取って比べてみれば、確かにコンパクトであることは疑いない。一方で、兄貴分とは全幅で35mm、全高に至ってはわずかに15mmしか差がないのがそのディメンション。一見して“コロン”とした愛らしさが漂うのは、そんなサイズのバランスゆえ。と同時に、1900mmに達する幅の持ち主に“コンパクト”という表現を用いるのは、さすがに日本では違和感を伴うのもまた事実だ。
こうして、ジャガー車らしい佇まいを示しつつ、このブランド既存の各モデルとは異質な雰囲気をも醸し出すのは、そこに“スラリと長いノーズ”が存在しない点にも理由がありそう。実はEペイスの骨格は、パワーユニットを横置きとしたFFレイアウトがベース。それゆえ、相対的にキャビンが前進してノーズが短めのプロポーションに、「ジャガーらしさが希薄」と感じる人がいても不思議ではないのだ。
もっとも、そうしたことさえも「実はすでに織り込み済みなのではないか?」とも受け取れるのは、「Iペイス」のローンチも間近に控えているゆえ。ピュアEVであるこちらのデザインは、エンジンルームを備えないことからさらにノーズの短いフォルムが特徴。そんなIペイスへの橋渡し役も踏まえたのがEペイスのルックスであるとすれば、こうして矢継ぎ早に3つのモデルを提案したジャガーSUVのスタイリング戦略には、「さすが」と感服をするしかないのである。
「FFレイアウトがベース」ということもあって、Eペイスに搭載されるパワーユニットはガソリンが2種、ディーゼルが3種の、いずれも4気筒エンジンに限定。そう、これは現在のジャガー車ラインアップ中で唯一、エンジンに6以上のシリンダー数が用意されないモデルでもあるということだ。
そこに組み合わされるトランスミッションは、6速MTもしくは9速ATの2タイプ。ただし、前者は一部のディーゼル・エンジンのみとの組み合わせに留まり、シリーズを代表するトランスミッションが後者であることは明白だ。
また2WD、すなわち前輪駆動モデルも設定されるものの、これも最も出力が低いディーゼル・エンジンを搭載するMT仕様のみへの設定。ちなみに、そんなバージョンのCO2排出量は124~129g/kmと、シリーズ中で唯一の130g/km切り。つまり、このモデルはいわゆる“燃費スペシャル”と解釈することもできそうだ。
ガソリンモデルとディーゼルモデル、それぞれのフィーリングは?
そんなEペイスの国際試乗会が開催されたのは、フランス領のコルシカ島。WRC(世界ラリー選手権)の中にあっても、タイトなワインディング・ロードが連続する“ツールドコルス”のタフな舞台をイメージしながら現地へと赴いてみれば、なるほど確かにそうしたシチュエーションも数多い一方で、数kmも連続する直線路にも事欠かないことにちょっと安心(?)。加えて、交通量も極端なまでに少なく、テストドライブにはまさに格好のロケーションだった。
用意されたのは、現在のところシリーズ最強となる最高300PSを発するガソリン・モデル「P300」と、3種類用意されるディーゼル・エンジン中、トップとなる最高240PSを発する「D240」の2タイプ。ちなみに日本に導入されるディーゼル・モデルは、最高出力が180PSの「D180」で、今回は試乗車の用意がなかった最高250PSを発するガソリン・モデルの「P250」が加えられることも発表されている。
そこここにFタイプの香りが強く漂うデザインのキャビンへと乗り込んで、まずはP300からスタート。こちらもFタイプ譲りのガングリップ・タイプのセレクトレバーでDレンジを選び、軽くアクセルペダルを踏み込んでみると、前述のようにシリーズのトップパフォーマーではあるものの、加速の力感は「ほどほど」という印象だ。
アルミ製のボディを採用することで知られるジャガー車だが、実はこのモデルのボディはスチール製。その影響もあり、Fペイスより小柄ではあるものの車両重量は同等という点が、こうした印象の要因ともなっていそう。
それよりも驚かされたのは、予想を超えた静粛性の高さ。今回のテストルート上にオフロードセッションも用意されていたことから、すべての試乗車がオプションのオールシーズンタイヤを装着。それもプラスに作用してか、まずはロードノイズが極端に小さいことが印象的。加えて、エンジン透過音もしっかりと遮断されているので、「これはジャガー車の中で最も静かなのではないか?」と思える高い静粛性が感じられたのだ。
そんな静粛性とともに、ストローク感がタップリのフットワーク・テイストもまた好印象。乗り味全般は、兄貴分のFペイスに負けない上質さ、と紹介することができる。
そうした一方で、正確なステアリングがもたらすトレース性の高さや、コーナー脱出時の積極的なアクセルONで、後輪も“蹴っている”感覚が顕著なハンドリングの印象などは、「なるほど、このあたりがジャガーらしいナ」と納得のできる部分。ただし、ジャガー初を謳う9速ATは駆動力の伝達感がややルーズで、パドル操作時のレスポンスも今ひとつ。このブランドの狙いどころからすると、もう一歩のリファインを望みたい仕上がりだ。
そんなガソリン・モデルからディーゼルのD240へと乗り換えると、こちらではまず、街乗りシーンでの力強さに感心させられた。最高出力はP300の60PS落ちとなりつつも、500Nmの最大トルク値は100Nmもの上乗せ。しかも、そんな太いトルクがわずか1500rpmで発せられるので、前述のように普段使いの場面ですこぶる強力なのも、実は当然なのだ。
ガソリン・ユニットとは音質が異なるが、ボリュームは十分に抑えられているのでこちらも静粛性は優秀。「飛び切り静かなジャガー車」というフレーズは、こちらにも余裕で当てはまる。
ただし、前述のように日本への導入が決定しているのはD180とこれよりは出力が抑えられた心臓を搭載するモデル。それでも、その最大トルクは430NmとやはりP300を凌ぐので、こちらも日常シーンでの活発な走りが期待できそうだ。
駐車時を中心に1900mmという全幅に気を遣う場面はありそうだが、4400mmの全長は確かに日本の環境にもフレンドリー。それでいながら、キャビンスペースは大人4人が長時間を過ごすに十分なものである上に、日本ではおおよそ“満杯”になることなど考えられないゆとりに満ちたラゲッジスペースを備えたそのパッケージングは、もちろんユーティリティ性にも長けている。
さらに、最新モデルに相応しい装備群が用意されていると同時に、多彩なボディカラーや内外装のオプション類で“自分好みの1台”へと仕立てていく楽しみというのもジャガー車ならでは。数あるSUVの中にあってもひと際の個性が光る、英国発のニューカマーが日本の道を走り始めるのももうすぐだ。