インプレッション

雪上試乗で体感したホンダ「ステップワゴン Modulo X」「フリード Modulo X」の実力

雪道や凍結路で“ホンダアクセス流の足まわり”を確認

 Modulo Xは本田技研工業の純正用品メーカーであるホンダアクセスが、部品単体ではなくカタログモデルの完成車として販売しているもので、ホンダアクセスのコンプリートカーの総称となっており、「N-BOX」を皮切りに「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」と4車種のModulo Xが登場している。これまでは舗装路での試乗を通じてModulo Xの走りの目指すところを探ってきたが、今回は北海道 旭川の雪道や凍結路を走らせることでホンダアクセス流の足まわりを確認することができた。

 試乗車はステップワゴンとフリードのノーマル車とModulo X、計4台。Modulo Xのセールスポイントは多数あるが、ここでフォーカスしたいのはエアロパーツと専用チューニングされたサスペンションだ。

「ステップワゴン Modulo X」(左)と「フリード Modulo X」(右)

 サスペンション交換という言葉のイメージはサーキットでも走れる硬派な足まわりを連想するが、Modulo Xではドライバーとパッセンジャーが長距離移動した際に疲労の少ないハンドリングと乗り心地を目指している。固められたサスペンションは路面グリップの低い雪道などでは滑りやすいとの誤解もあるが、適度にチューニングされることによって逆に姿勢が安定して走りやすくなる。

 この経験はラリードライバーとしての現役時代、スノーラリー用セッティングを探ってセットを繰り返してトライしていた時、スタビライザーはソフトにする必要があったが、ほぼグラベル用のサスペンションセットと似たところに落ち着いた経験があり、ダンパーなどは減衰力は変えたものの高めのセットが走りやすかった。

 今回は当時のスパイクタイヤと違ってスタッドレスタイヤだが、最新のスタッドレスタイヤの氷上性能もかなり高い。今回は比較車のノーマルモデルとの違いをサスペンションやエアロパーツに焦点を当てるために、タイヤは最新の横浜ゴム「iceGUARD 6」に統一されている。

ステップワゴン Modulo Xのタイヤサイズは205/55 R17。試乗した全車で横浜ゴム「iceGUARD 6」を装着し、条件をそろえた

ステップワゴン Modulo Xは、ハンドリングが素直でドライビングに余裕が生まれる

 久しぶりにノーマルモデルのステップワゴンのハンドルを握る。平坦な雪上路面ではハンドリングも落ち着いており、路面からの突き上げ感も少なくてマイルド。当然ながらミニバンらしい乗り味だ。市街地の雪道は凍結路面も混じり、ブレーキなどで路面に皺もできるので意外と突き上げは大きいのだが、うまく収めている。その半面、ハンドルを取られた後のおつりを収束するのに早めの操作をしないと遅れがちになる場面もあった。

 Modulo Xではハンドルの手応えがあり、しっかりとした保舵感が好ましい。ノーマルモデルではハンドル取られがあるようなわだちなどでの走破性も向上しているので、俄然運転しやすい。さらにハンドルの応答性とそれにつながる舵の効き、そしてライントレース性が向上しているのでハンドリングも素直だ。これは荒れた路面から圧雪のようなきれいな雪上路面まで共通した印象だった。

 乗り心地では路面からの突き上げはノーマルモデルに比べると強めだが、その後の収束が優れているので相対的にしっかりした硬さになっている。不快感はない。上下収束も締め上げすぎないことで滑らかな収束を促して、こちらもよくチューニングされている。ダンパーでは伸び側を強めすぎていない感触である。

 高速道路では圧雪から凍結まで、さまざまに変わる路面が連続して現われる。しかも北海道の高速道路はペースが意外と速い。そんなクルージングでもハンドルの保舵感が保たれているので、緊張感なくハンドルに手を添えていられる。路面変化で姿勢が乱されることがあっても修正時の反応が速いので、結果的にイージードライブができた。

 高速道路を降りると、交通量は少ないものの雪で狭くなった山道に入る。路面は基本的に圧雪で、時折凍結路が顔を見せる。とくに山影などは要注意で、路面が黒ずんでいるところは凍結を疑ったほうがよい。結果的にこのような路面でもModulo Xのライントレース性の優位は変わらず、ハンドル舵角は少なくて済み、自然とペースは上がる。もちろん凍結路面では早めの減速をするのだが、ドライビングに余裕が生まれるので対処も早く行なえる。

 テストコースでは新雪で長いスラロームを行なったが、ノーマルモデルではハンドル応答性がゆったりしているために左右に切り返しているうちにフロントが徐々に滑り出して操舵量が多くなり、結果としてリアのグリップを失い始めてしまった。当然速度を落とさなければ曲がり切れない。一方のModulo Xでは舵の効きがよいのでリアも安定しており、リズミカルなスラローム走行が可能だった。

 さらにハンドル舵角一定で定常円旋回をトライすると、ノーマルモデルは円の半分もいかないうちに徐々に回転半径が大きくなる。Modulo Xでも回転半径は次第に大きくなるが、ここでも舵の効きがいいのと4輪のグリップレベルが高いので、アウト側へのふくらみは小さくて済む。

 今回の試乗では市街地、高速道路、山道、そしてテストコースを長時間、しかも条件のわるい雪やアイスバーンで走ることができ、Modulo Xが目指しているものが明快になった。それはタイヤのコーナリングフォースを引き出すこと。すなわち4つのタイヤをしっかりグリップさせることで安定性を上げ、普段の運転でのドライビングに余裕を持たせるということだ。言うまでもなく、ミニバンにとって重要なのは快適性。Modulo Xではそれをドライビングに求め、合わせて節度のある乗り心地とのバランスを取った。

試乗の合間に、Modulo開発責任者であるホンダアクセス 開発部 主任研究員 福田正剛氏とも話して細かな部分を確認

 合わせてフリードについても触れておきたい。こちらはスモールサイズのミニバンだけに、ステップワゴンよりキビキビ感を前面に出している。ノーマルモデルではあらゆる場面でバランスが取れるよう全方位でサスペンションを合わせている半面、ハンドリングなどはぼやけてしまっていた。例えばロールが大きかったり、荷重移動が鈍かったりだ。Modulo Xではもっと明快にメリハリを利かせることを優先して、軽快なハンドリングを生み出した。一方で乗り心地の面では、連続した荒れた路面でピッチングをすることもある。しかし、それを承知でスモールクラスならではの軽快感を出すことに重きを置いているようだ。

ノーマルモデル(左)と乗り比べ。Modulo Xの狙いを探る

 緩い乗り心地や軽い操舵感など、ノーマルモデルはModulo Xにない味を持っており、好ましい場面も多い。しかし、同じモデルでももう少しクルマを楽しみたいと考えるならば、理詰めのエアロパーツとセットになったModulo Xはお薦めだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。